今回は、青年コミック誌『ビッグコミックスペリオール』で連載中の『劇光仮面 第1集/山口貴由』(小学館)の使用フォントについて、ブックデザインを手がけた岡下陽平[Inazuma Onsen]さんに取材。印象的で大胆なタイトル文字などの制作過程に迫ります。
*本記事はデザイン構成において重要な「フォント」の選定プロセスや加工方法を、プロの実例から紐解いてデザイン制作に役立てる連載です。
ベーシックな書体を加工して内に秘めた狂気を漂わす
30歳目前でアルバイト生活の実相寺二矢は、彼が大学時代に入っていた特撮美術研究会(特美研)の主催者・切通アキノリの死をきっかけに、かつての仲間らと再会するが……。『シグルイ』や『覚悟のススメ』などで知られる鬼才が、現代を舞台に、特撮への憧れや、それに関わる人々の姿を描いて新境地を開いた作品『劇光仮面 第1集/山口貴由』。
表紙カバーでは、何気ない日常の中にも不穏さが垣間見える作品世界が、斜めに横切るよう大胆に配置されたタイトルロゴや、特撮スーツを肩に羽織った主人公のイラストなどで表現されている。デザイナーの岡下さんによれば「物語を読み進めながら感じた『静かではあるが内に秘められた狂気』のようなものを出したいと思いました。そこで表紙カバーでは、奇をてらうのではなく、ベーシックな中に良い意味で違和感や緊張感を抱いてもらえるような表現を心がけました」とのことだ。
Font.01「筑紫明朝 H」
オーソドックスな明朝体を加工して不穏な感じに
メインタイトル「劇光仮面」部分は、金属活字の懐かしさを持ちながら新しさも感じさせる端正な明朝体「筑紫明朝 H」(フォントワークス)がベースに。作品の舞台である現代や、“何者でもない”と自認する主人公の普通っぽさを意識して、モダンでオーソドックスな明朝体が選択された。
岡下さんによれば「ベーシックな書体に長体をかけて違和感を出したり、ウロコなどのエレメントをシャープに加工して緊張感を強めたりしながら、内に秘めた狂気を漂わせました。さらに、作中のテーマである特撮から連想して、形状の一部を武器(刃物)のようなカタチにしています。ちなみに、日本語は左横書きなのでタイトル文字の配置も左から右に進む方が自然なのですが、ここではイラストとしっくりくるよう右上から左下に配置しています。結果的に、その方が違和感を強調できてよかったと思います」とのことだ。
Font.02「リュウミン EH-KL」
タイトルとは異なる明朝体で変化をつける
著者名部分は、金属活字「森川龍文堂明朝体」をベースに開発された伝統ある明朝体「リュウミン EH-KL」(モリサワ)に。その端正でオーソドックスなデザインが表紙カバーのコンセプトに合っていたため選択された
岡下さんによれば「メインタイトルとは変化をつけたかったので、別の明朝体を選びました。タイトル文字のようにエレメントの形を変えたりはしていませんが、全体のバランスを考慮して長体をかけています」とのことだ。
Font.03「ITC Bodoni Seventy-Two Bold」
流麗で緊張感のあるセリフ体を選択
タイトルや著者名の欧文部分は、太い縦画と細い横画のコントラストや流麗なフォルムが印象的な欧文書体「ITC Bodoni Seventy-Two Bold」(ITC)に。美しさと緊張感を併せ持ち、表紙のデザインコンセプトにマッチしていたため選択された。和文のタイトルや著者名部分の文字と変化をつけるため、あえて斜体をかけて差別化されている。
制作者プロフィール
- 岡下陽平
- デザイナー
- 2011年にデザイン事務所「Inazuma Onsen」を設立。ブックデザインを中心に活動。
2022.06.30 Thu