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物語のある、ニューフェイスな文房具

2021.02.03 Wed

14番目の物語

和紙の素材感を大切にミニマルなデザインを。今の暮らしに寄り添う「WACCA」

取材・文:沼田佳乃 撮影:YUKO CHIBA

日本の伝統工芸である“和紙”を現代人の暮らしにあわせて提案する「WACCA」。オリジナルを中心とする和紙製品は、近年、海外の紙マニアからも注目のブランドに。透け感が美しかったり、手漉きのラフな風合いだったり、存在感のある和紙に胸が高鳴ります。

グラフィックデザイナーが手がけるモダンな和紙ブランド

襖紙ぽち袋 ゴールド&ピンク 3枚入
襖紙ぽち袋 ゴールド&ピンク 3枚入

あるグラフィックデザイナーが、「日本らしいデザインに関わりたい」という思いからたどり着いたのは日本工芸のひとつ“和紙”。工房でパルプが紙に変わるさまや、職人たちの仕事ぶりに魅了され、その奥深い世界の虜になって生まれたのが「WACCA」です。商品化のモットーは「デザインしないこと」。和紙そのもののマテリアル感を大事にしたアイテムはどれも表情豊か。書道半紙をはじめ、封筒や便箋、ポストカードなど、さまざまなアイテムがラインナップしています。

「折形礼法」を学び、和紙の魅力を感じて……

柳しぼり染便箋セット20枚+5枚入 ピンク
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現代人の暮らしに合う和紙ブランドの誕生ストーリーとは?WACCA JAPANの取締役兼デザイナーの森崎真弓さんにお話を伺いました。

──まず初めに「WACCA」の名前の由来を教えてください。

森崎 ブランドの名前は、 “わっか”の“輪”からきています。和紙の世界は、問屋さん経由の流通が一般的なため、実際どのように和紙が使われているかを知らないとおっしゃる職人さんが多くて。「WACCA」が作り手と使い手をつなぐ役割をしたいという思いで名付けました。

──ブランドを立ち上げた経緯はなんだったのでしょうか?

森崎 もともとフリーランスのグラフィックデザイナーとして活動していたのですが、2004年に出産してしばらくお休みしていたんです。それを機に、兼ねてから興味のあった日本のデザインに特化しようと、「のし袋」や「ご祝儀袋」の歴史を勉強できる「折形礼法」を学びだして。鎌倉・室町時代の武家礼法がルーツで、武士がモノを贈るときのマナーのようなものなのですが、そこで和紙と出会ったんです。産地に足を運ぶうちに、その面白さにどんどんはまりました。ただ、作り立ての和紙はすごく素敵なのに、お土産屋さんで見る和紙の商品には全然ピンとこない。そこに違和感を覚え、「自分が本当に欲しいと思える和紙製品を提案したい」という考えから起業をしました。

──どのようなコンセプトで、ターゲットは……?

森崎 「現代ライフスタイルに寄り添う」がコンセプトです。わかりにくい伝統産業の世界を噛み砕いて伝えたい。かつ、今の暮らしに取り入れるヒントを提案していきたい。ターゲットは、一般の方はもちろんですが、特にクリエイターの方々ですね。私たちだけでは和紙の魅力を広めるのに限界があるので、企業と繋がっているクリエイターや印刷会社などにヒントとなる情報を発信をする「和紙のコーディネーター的な役目になれたら」と思っています。

──今は均一化よりも個性が求められる時代ですね。BtoBの和紙の需要も高まっているのでは?

森崎 それはすごく感じます。起業当初は和紙の不安定さに苦労して。洋紙と同じように提案すると、納品物とサンプルが違っているなど、品質が洋紙よりも安定していないことが多く、大きなロットで納めるのが難しい。ところが、SDGsのこともあり、ここ1年間くらいで「ロスを最小限に、意味のあるものを伝えたい」という企業が増えました。均一でないことがプラスの語り口になる。例えば、「染め色和紙」は次のロットで同じ色を出すのがとても難しいのですが、「新しいロットが入荷しました」という一期一会な感じを喜んでもらえる。そういうことに価値が生まれてきたのを実感します。

──戸越にあるスタジオショップにはどのような方がいらっしゃいますか?

森崎 店舗といっても住宅街にある事務所を私がいるときだけ開けているんです。実物を見たいという一般の方や、新型コロナウイルスが流行する前は、インスタを見た海外の方も多かったですね。しかも、嬉しいことに同業であるデザイナーの方が多い。カリグラファーだったり、ウェディングのツールに関連する仕事をされていたりとか……。紙媒体に関わる方にとって日本ってすごく魅力的みたいで。いろいろお店を巡る中にうちを入れてくれていて、お客様も私より紙に詳しかったりする。紙マニアって世界中にいるんですね。来る人来る人同じテンションで「ここにあるもの全部欲しい」って熱狂されています(笑)。

──外国に住む方々とって、素材感を大切にした「WACCA」の和紙はアートのよう感じられるのかもしれませんね。商品デザインはどなたが担当されているのでしょうか?

森崎 「WACCA」で販売しているステーショナリーに関しては、企画からデザイン、管理までを私が担当しています。

デザインをしないことで、和紙のよさを最大限に

Washi-nary×WACCA Washi Letter Set
Washi-nary×WACCA Washi Letter Set

──デザインで心がけていることはなんでしょうか?

森崎 逆説的ですが、「デザインしないこと」です。「なんて素敵なマテリアル!」というのが和紙の最初の印象だったので。空気感とか、柔らかさとか、神聖なものに触れている感じとか、原料の木に触れているような感覚とか……。洋紙にはないような凹凸のある紙であったり、現代でも古さを感じさせない古典柄が今も残っていたり。伝統工芸品でもあり素材でもある。しかもそれらがアーティストの作品でなく、職人さんが製造しているところに“無限の可能性”を感じたんです。

同時に、産地に行かないと手に入らない和紙がまだまだたくさんあることも面白いなと思って。お店に並んでいる和紙は、レトロな干支の絵柄や草木の模様ばかりとか、郵便ハガキの文字・枠が付いていなかったらよかったのにとか。だから、もともとある世界をなるべくいじらず、「調整する」ことで見え方を変えたい。マテリアルの素晴らしさを伝えるのが私の役割だと思っています。

──仕入先はどのように探し、選んでいますか?

森崎 アプローチの仕方はバラバラで。今でこそ、和紙の生産者自らがSNSで発信しているところも増えましたが、会社を立ち上げた当時は見学させてくれる工房を一軒一軒巡りました。近場だと、埼玉県の「小川和紙」や山梨県の「西嶋和紙」。あとは岐阜県の「美濃和紙」、福井県の「越前和紙」、山陰や四国の産地も尋ねました。産地ごとの特徴もありますが、それ以上に製紙所ごとの個性が豊かなので、個々の職人さんとできるだけ丁寧に対話するように心がけています。

──商品のラベルに産地を載せていますね。これもこだわりですか?

森崎 はい。産地や作り手に光を当てたいのもあるし、“産地がわかる野菜”のように作り手が見える売り方をすることで、買い手の選択肢を増やせるかなと思っています。

──たくさんの和紙アイテムがありますが、その中でも思い入れのあるアイテムを教えてください。

森崎 2020年に発売したレターセット「Washi-nary × WACCA」はそのひとつです。うちは小さい会社なので大量に在庫が持てず、かたや製紙会社はデザインができない。ならば一緒にやろうと始まったプロジェクトです。

コロナの影響で受注がするなど、和紙産業にも少なからず影響があったのですが、美濃和紙の「丸重製紙」さんが「空いている機械で新しい紙を作った」と持ちかけてくれて。それが自社のストック和紙を原料に戻してリバーシブルの紙にする試みでした。2層の紙自体は珍しくないですが、その微妙な色合いと100%リサイクルであることがいいなと思って。実は、和紙って繊維質を残して炊き上げるので、再利用しても強度が落ちにくいんです。普段から頭出しの分などの捨て紙を原料に戻すことは当たり前。ただ、あえてデッドストックを活かすという発想がユニークで。バージンパルプより手間はかかりますが、環境負荷を考えれば意味がある。この価値を活かした製品を作りたいと思いました。

──デザインでは、どんな工夫をされたのでしょうか?

森崎 試し書きをするとにじみが少なかったので、便箋にしようと。ただ、見た目のインパクトに欠けていて……。実際に書いてみると繊維を拾うので和紙らしい感覚を味わえるのですが、一見和紙っぽくみえない。雰囲気を出すために、丸重製紙さんの麻入り和紙の帯を封筒に巻いてみました。今は画面上でモノを伝えることが圧倒的に多いので、パッと見で和紙らしさを感じてもらえるための小さな演出にこだわりました。

WASHI PAPER SAMPLE SET No.3 和紙サンプルセット
WASHI PAPER SAMPLE SET No.3 和紙サンプルセット

──どこまでやるかの葛藤ですね。「WACCA」らしさが強くでているのは「WASHI PAPER SAMPLE SET」などでしょうか?素材そのままな感じが……。

森崎 これはデザインというか、定番の和紙を寄せ集めただけのお試しセットなのですが(笑)。でも、実はこれでブランドの認知度が上がったんですよ。それまでは、一般の人たちがなにを欲しているのかわからなくて。あるとき、帳のようにセットすることで、印刷受注に繋がればという軽い気持ちで販売してみたら、ネットショップでものすごく売れたんです。海外の人が「WACCA」に注目してくれたきっかけもこれ。なかでも1番人気が耳付きの生成りっぽい名刺紙。ラフなモノですが、素材感のあるものが求められているということの気付きでしたね。

和紙の存在感を活かし、想いもプラスできるようなものを

──今後はどのようなことを手がけていきたいですか?

森崎 今まで通り、職人さんが作ったものをベストな形にして伝えることはやり続けたい。同時に、紙に触れる文化を絶やさないために、使い手を増やす仕掛けもしたいです。

メッセージを伝えるだけならデジタルの方が早いし便利ですが、コロナの影響もありモノを送る機会は増えました。商品を送る=想いも送っていると思うので、小さなタグみたいなものなど、そこにプラスするなにかをできれば。和紙ってすごく存在感があるので、それを強みにしたツールを考えたい。

あとは、和紙からの目線のステーショナリーも考え中です。文字が下手だから手紙を書かないという方も多いですが、自分と向き合うアイテムなら上手い下手は関係ない。紙と墨と机で自分と向き合う時間のような。いい紙に触れ、いい墨に触れ、ヨガを習いにいくような感覚で日本の伝統文化に触れる習慣がつくれたら素敵だなと考えています。

──最後に、和紙と相性のいい筆記用具はありますか?

森崎 そのご質問、いつも返答に悩むんです(笑)。和紙は繊維質があるので、引っかかりやダマになる感じはありますが、世間一般で思われているほど筆記用具を選ばない。水性ボールペンであっても滲まない和紙もたくさんあるし。私は万年筆で書くことが多いですね。インクによっても違いますが、だいたい書けるし、むしろインクの出方も楽しんでほしい。和紙は高くて試し書きできないという声は多いので、いつか各筆記具メーカーさんと一緒に見本帖を作りたいですね(笑)。

読込中...

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