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物語のある、ニューフェイスな文房具

2021.03.05 Fri

15番目の物語

伊東屋が作る、端正な表情のデスクトップステイショナリー「DESKTOP STATIONERY」

取材・文:沼田佳乃 撮影:YUKO CHIBA

明治37年創業の「伊東屋」から2020年6月にデビューした「DESKTOP STATIONERY」です。タモ材を使ったプロダクトが端正で、モジュール式で自分好みにレイアウトできるのも魅力。自分仕様のデスクトップ用品があれば、仕事へのモチベーションも上がりそう。

組み合わせて美しく使う、モジュール方式の机上用品

世界中の厳選した文具を扱う創業117年の文房具専門店「伊東屋」が、5年もの歳月をかけて生み出した「DESKTOP STATIONERY」。“デスクに高質感をもたらす”をコンセプトに、端正で美しい机上用品を追求。モジュール式で遊び心がありつつ、モダンですっきりとしたデザインが印象的。万年筆などを立てられる「ペンスタンド」や、A4クリアホルダーが収納できるサイズの「レタートレー」、インク吸い取り機「ロッキングブロッター」など6アイテムをラインナップしています。

デスク環境や仕事の所作に“高質感”をプラスしてくれる

伊東屋オリジナルプロダクトの製品開発を一手に引き受ける、伊東屋研究所のプロダクトデザインチームの橋本陽夫さんと三谷悠さんにお話を伺いました。

──ブランドの成り立ちを教えてください。

三谷 きっかけは、「机上用品が欲しい」というバイヤーからのリクエストです。机上用品はペン立てやレタートレーなどを組み合わせていくものですが、贈り物にちょうどいいものがなくて。牛革を使った高価なもの、樹脂でできた事務用品のような見た目のものはあるのですが、もっとモダンで“現代的なデスク”にあうものを伊東屋で作りたいという声でした。

──ターゲットはどのような方々なのでしょう?

三谷 ひとつのイメージとして私たちが共有したのは、“士業”の方。医師、弁護士、建築士、のようなお仕事ですね。仕事環境にゆったりした机があって、最も仕事のしやすいデスク環境がシステマチックに作られている。デジタルも使いこなすけれど、それに置き換えられないものがあるから文房具も使い、考えながらクリエーションする。そういう方々をイメージし、ベーシックで長く使えるもの、現代的なデスクにあう机上用品を考えました。

──では、コンセプトも教えてください。

三谷 「デスクに高質感を生み出すもの」ですね。机上用品なので、仕事道具を整えてくれるのはもちろんですが、家具によって部屋の空気感がガラッと変わるように、仕事環境に置かれることで端正な空気感が生まれるものでありたい。伊東屋は企業ミッションとして「クリエイティブな時をより美しく心地よく」を掲げています。このシリーズも、なにかをクリエイションする方々にとって、環境、所作などに高質感をもたらすものでありたいです。

いつの時代にもあう、タイムレスなデザインに

──オリジナルプロダクトは100%インハウスでデザインしていると聞いています。その理由は?

橋本 うーん、タイムレスにしたいからですかね。活躍されているデザイナーの方は個性がおもしろいから組みたいわけです。ところが、我々としてはできる限りデザインのテンションを一定にしたい。ハイテンションなのは伊東屋らしくないし、かといって低すぎるのも遊び心がなくて伊東屋らしくない。さじ加減が微妙なところを狙っているんです。それをコントロールしようとすると自分たちでやらないとうまくできない。そういうことでインハウスにしています。

──「DESKTOP STATIONERY」の制作でこだわった点はなんですか?

三谷 ひとつは、良質な素材でつくることです。ベーシックで長く使えるものを考えたときに、質のいい木を使ったシンプルな構造がいいなと。具体的には、少ない面構成で作られるものです。モジュール式やスタッキングすることも当初から考えていました。

──マテリアルを“木材”にしたのはなぜでしょうか?

橋本 高質感を生み出せる素材ということで候補に上がったのが、革、木、セラミックなどでした。セラミックは実際に人工大理石で試作もしたのですが、なかなか精度が上がらなかった。革は木ほど耐用年数が長くなく、使っていくと劣化していってしまう。エイジングともいいますが、伊東屋のオリジナルに関してはエイジングを売りにしていません。このようなデスクトップステイショナリーは相当使い込みますよね。もしかしたら、お子さんに引き継がれるかもしれない。そういうことを考えていったときに残るのは、精度がよく耐久性もある木だったのです。

──木材の中でも“タモ材”を選んだ理由は?

三谷 均一な木材だったからです。枝や節があまりなく、木目がすっきりしている。部位による違いはあっても1本1本の個体差は非常に少ないんです。頑丈なのもよかった。野球のバッドや伊東屋の什器に使われているくらいですから。あとは色味がナチュラルだったから。ウォールナットなど暗い色味だと重厚感やクラシカルな印象になりますが、今回はモダンな机上用品をつくりたかったので、明るい色目のタモがあっていたんです。

橋本さん:均一性を求めたのは仕上がりがバラついてほしくなかったから。木工品ですが、インダストリアルとして仕上げており、工芸品にはしたくなかった。なので、木といえどもばらつきの少ないものがよかったんです。

──異素材をミックスしている点もモダンでいいですね。

三谷 本当は木材だけで作りたかったのですが、無垢特有の難しさがあって。レタートレーのように一辺が空いた構造だと木材がすごく暴れてしまう。最初は問題がなくても、木は生きているので湿度が残っていると使っているうちに乾燥し、変形してしまうんです。これをどうするかがいちばん悩みましたね。

──どのように克服されたのでしょうか?

三谷 タモに造詣の深い木工屋さんに出会えたおかげですね。10年くらい乾燥させたタモを持っていて、それを提供いただけた。あとは、アルミと組み合わせてスリムだけど頑丈な作りにすることで乗り越えました。

橋本 同じ木でも、合板やMDF(中密度繊維板)を使えば簡単に回避できるんです。世の中のプロダクトはそれを使ったものが多い。けれど、斜めにカットする端面までも美しく木目がでるように、無垢材を使用したかった。だから、同じ無垢もメタルを使えないかと。メタルって木と比べると熱膨張係数が低く、木とくらべたらぜんぜん違う。それを真ん中に噛ませることでズレの波及を抑えられる。

塗装をクリアにしたのも素材本来の色じゃないと傷ついたときにアルミの地肌が見えてしまうから。端正で美しいまま、長く使っていただきたいので。どれも必然でした。

──全部で6アイテムありますが、特にこだわったものを教えてください。

三谷 あえて文房具を使いたい人が机上用品を揃えるだろうという観点、伊東屋では万年筆に力を入れていることから、途中で追加したのが「ロッキングブロッター」です。

「ブロッター」は、インク吸い取り器のこと。吸水性が高い紙をセットし、万年筆で書いた文字の上にのせると余分なインクを吸い取ってくれる。そんなにメジャーではなく、種類も少ないですが、市場のものをリサーチしたところ接触面のサイズが大き過ぎたり、小さかったり、動かしにくいものが多くて。最終的に行き着いたのが、転がしたときにどのポイントにきても力が垂直に加わり、最も軽い力で転がせる構造です。小さいけれど全面たっぷり使える設計にしています。

また、どんな人が使っているかSNSで調べたところ、多くの方がお皿の上などにのせていました。そこで、ブロッターを浮くようにしまうことができるケースも作りました。

組み合わせを紹介したリーフレット
組み合わせを紹介したリーフレット

──ケースも無垢で贅沢感がありますね。ほかにはありますか?

三谷 イテムにフォーカスした話ではないですが、モジュールセッティングにしたことでしょうか。机上用品なので、使う人によって需要が少しずつ変わるだろうと。例えば、A4サイズの書類をたくさんのせたい人もいれば、ペンをたくさん入れたい、ゆったりした机に横一列に並べたい。あるいはコンパクトに並べたいとか……。どう組み合わせても美しく整うように設計しました。ペンスタンドの高さがレタートレーとツールトレーの高さにぴったりあうとか、ペンスタンドの長い方の辺がプロッターのケースとメモトレーを並べた長さとあうようになっています。

橋本 メモトレーの前がすっと空いているのも苦労しましたね。ものによっては手前に少し段が付いていて最後の1枚が引っかかってとれないデザインもある。わざと落ちないように段をつけているものもあるけれど、紙がグシャとなってしまうのは嫌ですよね。段差を付けた方が4辺を閉められて製品を頑丈にできるのですが、段を作らずストレートに前にだすことにこだわった。最後の1枚までスッと出せる所作が美しいと思っています。

伊東屋の哲学として、国内外問わず本当にいいものを届ける

──タイムレスであることを大切にされていますが、今っぽさ、トレンドをどう捉えていますか?

橋本 “タイムレスなものを提供し続ける”というのが、伊東屋として、100年仕事をいただいてきた理由だと思うし、この先100年以上続けるために意識しなければいけない。タイムレスであれば、いつの世の中にも認められるものになる。

トレンドについてはマーケティング部などから情報が入ってくるけれど、それを見ながらやはりどこかファッド(極めて短いライフサイクルのこと)なんじゃないかと。

我々はメーカーじゃないから工場を持っていない。工場があれば稼働率を上げるために作り続けなくてはいけないこともある。けれど、伊東屋の場合はそういったことが幸いないので。伊東屋だけで売るとロットが小さく少し割高にはなりますが、そこは納得いただけるよう品質重視でがんばりたい。

それに、我々は文房具をコストではないと考えている。自分への投資、気分を上げる投資のような考えでお買い求めいただきたいし、それに応えられるものを作りたい。

──今回のアイテムは北関東の職人さんが作られていると聞きましたが、メイドインジャパンもこだわりですか?

橋本 いや、国産にこだわっているわけではないですね。腕のある方が、すごくいいものをつくる場合には適正な対価をお出しする。それをワールドワイドにやっているつもり。日本で作っているからいいわけじゃなく、職人さんがいい。スイス人でもイタリア人でも本当にいいものを作る人から買う。伊東屋では、直輸入といって、輸入商社に頼らずバイヤーが海外の色々なショーへ行き、直接仕入れることにも力をいれています。昔から伊東屋は外国のものが多いイメージがありますよね。

──それでは最後に、今後、追求していきたいことを教えてください。

橋本 「タイムレスなもの」というのはぶれずに、いいものを見あった価格で世界中から届ける。それが今後目指すところですね。

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