
「iPhone──“ソフトバンクショック”後の
ドコモの2つの対応は正しかったか?」
2008年6月16日
TEXT:大谷和利
(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)
6月4日(水)、ソフトバンクモバイル(以下、ソフトバンク)が、日本でのiPhoneキャリアとして、アップル社との契約締結に至ったという発表を行った。
実際のところアップル社からは、その週ならばどの時点で発表してもよいと言われていたようだ。しかし、ソフトバンク側は他の新製品発表日であった3日(火)ではなく、あえて4日に短い声明を出した。発表が簡潔な事実関係に留まったことにも、アップル社の意向が働いたと伝えられている。
ソフトバンクのプレスリリースのタイミングと内容の制限に関しては、翌週、米国時間の9日にサンフランシスコで行われた同社のWWDC(世界開発者会議)のキーノートスピーチにメディアの注目を集めるための広報戦略の一環だったと考えられる。
ソフトバンクが独占契約者なのかは今も明らかではないが、逆に言えば、同社にとってもNTTドコモ(以下、ドコモ)の動向は気になっていたはず。ドコモも、アップル社と交渉していることは周知の事実であり、WWDCの発表時に、日本のキャリアが1社だけなのか、それとも2社あるのかでは、インパクトが違うからだ。
穿った見方をすると、ソフトバンクとしても、3日に発表せずに周囲を油断させ、4日に電撃告知すれば、週末も入ることから、5、6日の2日ではドコモが交渉の詰めには入れないと踏んだのではないかと思う。
さて、情報を小出しにすることでメディアの関心を継続させ、関連記事を何度も掲載させるのはアップル社の得意とするところだ。そして、メディア側としてもアップル関係の話題は読者の注目度も高いので、波状的に記事を組み立てられるのはありがたく、お互いに持ちつ持たれつという状態にある。
そんななか、企業としてのメディア対策の不備が目立ったのが日本最大手の携帯電話キャリアであるドコモだ。
ドコモは、ソフトバンクがアップル社と契約したという情報を受けて、まず広報がメディアの取材に対してコメントを出したが、その主旨は次のようなものだった。
「弊社も期待していただけに、残念な結果だ。弊社でも導入できるように検討していきたい」。
この言い回しは『ドコモが出した条件をアップル社が飲んでくれるものと「期待していた」』というように聞こえるが、これではいかにも「アップル社にお伺いを立てている」というニュアンスになり、力関係ではアップル社のほうが上という印象を与えてしまう。
実際にそうだとしても、あくまでもビジネス交渉の結果であるならば、ドコモの広報は以下のようなコメントを出すべきであった。
「アップル社は判断を誤った。他のiPhone導入国と同じく、日本最大手の我が社と契約することこそが、iPhoneを成功に導く、最良の選択肢だ。まだ交渉の余地はある」。
もしも、ドコモとアップル社の立場が逆で、アップル社の広報が先のようなコメントを出したとしたら、おそらくスティーブ・ジョブズは即刻担当者を解雇したことだろう。
もうひとつ問題だったのは、日テレニュース24に直撃取材されたドコモの中村雅夫社長のコメントだ。自社がiPhoneを扱う可能性がないことを力なく語った後で、記者からiPhone(3Gではない初期モデル)を持たされた氏は、「(iPhoneは)若干重いですね、やはり」、「今日本のは軽いですからね、ものすごく」と感想を述べた。
ところが、たとえば最新のFOMA 906シリーズ8機種のうち、4機種はiPhone 3G(133g)と重量が同じかあるいは超えており、初代モデル(135g)との比較でも3機種が同様の結果となる。しかも、iPhoneは、それらすべての機種の中で最大となる3.5インチLCDを搭載し、公称の連続通話時間もFOMA 906シリーズで公表されている3機種との比較で1.3~1.5倍確保されているのだ。
中村社長は、急な取材を受け、何か自社に有利な印象を残そうとして、うっかり思ったことを発言してしまったのだとは思うが、やはり企業を代表する者のコメントとして、これは適切とは言えなかったのではないか。
こうしたディテールの積み重ねがドコモの現状を招いたというのは大げさとしても、見方を変えれば、これらのコメントのコントロールも企業の危機管理のひとつである。ドコモは、今回のことを心に留めておくべきだろう。

[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/)アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodを作った男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』(アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)。



