プロダクトデザイナーは語りたい! 〜小木曽槙一のライフハック「デザインのしゃべり場」〜
自身の給与額の理由や業界トレンドを研究してみよう!
誰もが気になる給与のお話。デザイン業界における「お金」と「価値」について思案してみる
こんにちはこんばんは、@kgsiことこぎそです。「プロダクトデザイナーは語りたい! 〜小木曽槙一のライフハック『デザインのしゃべり場』〜 」の3回目です。
突然ですが、昨今、初任給を大幅に引き上げる企業が増えていますよね。例えば、IT大手サイバーエージェントも23年春から、初任給を従来の34万円から42万円に引き上げているようです。採用における企業間の競争力を高めるため、良い人材を確保するための施策として、給与レンジの底上げをしていく会社が増えており、そしてそれはデザイナーも例外ではありません。
そこで今回は、みんな大好き「お金」の話について掘り下げて語ってみようと思います。
そもそも給与は能力に比例している?
まず最初に言及したいのは「そもそも給与は能力に比例したり依存するのか?」という話です。 「Figma」を操作できれば給与があがるのか? エンジニアリングや企画、マネジメントができれば給与はあがるのか? 個人の保有するスキルや生産能力の高さが給与に一定影響を与えることは間違いないですが、それがすべてなのでしょうか。
結論、一定以上のスキルは必要ですが、それ以上は業界や市場、企業規模に大きく影響を受けます。市場規模が大きく成長の見込める業界で仕事をしていれば給与水準が高いし、レッドオーシャンで市場の成長規模が見込めないサービスの場合は当然給与は低いです。
このあたりの話を突き詰めると経済学の話になってしまうので、あまり詳しく述べすぎないようにしますが、詳しくは参考にした書籍などを参照してください。 ちなみに、大阪大学大学院 経済学研究科教授の佐々木 勝氏は著書にて次のように述べています。
「Ⅰ はじめに」の3段落目、P4の22行目と30行目から抜粋
(中略)しかし、賃金は個人が持っている生産能力だけで決まるものではない。労働市場の環境にも大きく依存する。市場参加者(求人企業と労働者)が無数にいる場合と、労働者は無数にいるが採用する企業数が少ない場合では、同じ生産能力を有する労働者でも賃金は異なる。
(中略)賃金は「市場」の力を通じて決定され、各企業は市場で決められた賃金を与件として採用人数を決定する。反対に、市場にいる企業が少ない場合、企業の規模は大きく、その採用戦略は市場全体の労働需要、そして賃金に影響を与えることができる。
引用:賃金はどのように決まるのか - 佐々木 勝氏(大阪大学大学院経済学研究科教授)
上述で業界や市場に影響を受けると述べましたが、売上や利益を作る力はそれとは別に比例します。例えば「Figma」でデザインを作ることはできても、それを持って売上に繋げられるようなビジネススキルを持っている人のほうが給与が高いのは容易に想像がつくのではないでしょうか。 なお、従業員あたりの売上については以下の記事などを参照してみると良いでしょう。
「日米SaaS企業のデータから見る「従業員あたりの売上」はいくらが適正か? 」
※ALL STAR SASS BLOGより
デザイナーの給与水準とその事例
ここから先は実際の数字を参考にしつつ、プロダクトに関わるデザイナーの給与水準がどの程度かを紹介します。なお、職業は「プロダクトデザイナー(またはデジタルプロダクトデザイナー)」で調査したかったのですが、検索ボリュームが多くないため、調査対象をボリュームが比較的多い「UI/UXデザイナー」で検索しています。
<国内の場合>
国内の統計調査で正確にプロダクトに関わるデザイナーの給与を算出しているリソースがないため、各サービスから暫定して紹介します。まず、世界No.1の求人検索エンジンであるIndeedでは、日本の「UI/UXデザイナー」の平均給与は年収600万(月収506,600円)と算出しています。
次に「OpenSalary」を見てみましょう。OpenSalaryはキャリアの意思決定に必要な情報を提供するWebサイトで、主にソフトウェアエンジニアの給与情報を検索できます。数は少ないですが、デザイナーの登録もされています。
このサービスの傾向として、比較的規模の大きい企業が登録されていますが、デザイナーの給与として登録されている情報の平均と中央値を算出した結果、平均年収は850万円、中央値は842万円となっています。
ちなみに、別の参考値として「Webデザイナー」の給与についても取り上げておきます。 厚生労働省が運営する職業情報提供サイトである「jobtag(じょぶたぐ)」では「Webデザイナー」の情報を公式に取り扱っています。
このサイトによれば、「Webデザイナー」の平均年収は480.6万円とされています。一概に比較できませんが、プロダクトに関わる職業よりもやや低めに設定されていることは間違いないでしょう。
<海外の場合>
海外にも目を向けてみましょう。海外はデザイナーの給与情報も比較的多いです。当記事ではインドのデザイン学校である Indian Institute of Art and Design (IIAD) の創設者によって設立された教育機関「AND Academy」が公表しているデータを紹介します。
以下は各国の「UIデザイナー」「UXデザイナー」の給与を現地通貨と円で紹介しています。
2023年のUIおよびUXデザイナーの給与ガイドによれば、一般的にUXデザイナーの方がUIデザイナーよりも高い給与を得ています。
また、経験レベルに応じて給与が異なり、シニアレベルのUXデザイナーはジュニアおよびミッドレベルのUXデザイナーよりも高い給与をもらっています。海外と日本の給与差については各国の物価、インフレ率や為替の強さにもよるため、一概に海外のほうがもらっているとは言い切れませんが、2023年10月現在においては円安が激しいため、給与差は歴然なものとなっています。
国 | 役職 | 給与 (現地通貨) | 給与 (円) |
---|---|---|---|
オーストラリア | UIデザイナー | $113,410 | ¥10,733,396 |
UXデザイナー | $110,000 | ¥10,382,400 | |
ブラジル | UIデザイナー | R$52,752 | ¥1,569,906 |
UXデザイナー | R$55,804 | ¥1,661,764 | |
カナダ | UIデザイナー | $66,121 | ¥9,904,568 |
UXデザイナー | $104,099 | ¥15,579,606 | |
中国 | UIデザイナー | ¥146,520 | ¥3,057,866 |
UXデザイナー | ¥301,921 | ¥6,303,079 | |
フランス | UIデザイナー | €44,517 | ¥7,059,255 |
UXデザイナー | €63,942 | ¥10,134,559 | |
ドイツ | UIデザイナー | €52,000 | ¥8,242,260 |
UXデザイナー | €53,964 | ¥8,556,238 | |
インド | UIデザイナー | ₹8,00,000 | ¥1,440,000 |
UXデザイナー | ₹9,00,000 | ¥1,620,000 | |
南アフリカ | UIデザイナー | R480,000 | ¥3,787,200 |
UXデザイナー | R540,004 | ¥4,259,732 | |
イギリス | UIデザイナー | £51,690 | ¥9,332,019 |
UXデザイナー | £50,000 | ¥9,025,500 | |
アメリカ | UIデザイナー | $97,703 | ¥14,637,792 |
UXデザイナー | $103,136 | ¥15,447,054 |
- 参照元: The Ultimate UI UX Designer Salary Guide for 2023
- 円への換算は1ユーロ:158.505円 1ポンド:180.51円 1人民元:20.88円 1ルピー:1.80円 1ランド: 7.89円 1レアル:29.77円 1豪ドル:94.69円 1ドル:149.84円で実施(2023年10月現在のレート)
業界トレンドとデザイナーの給与構造の最適化
一概にこれをしたら給与を上げられる...と言いにくいのがこの世の常ですが、一つ言えるのはWebに関係する業界は絶えず進化しており、これらのトレンドを把握し適応することで、有利な立場を得る...ということです。
一昔前はWebに関わるデザイナーは「Webデザイナー」と大きなカテゴリで括られていましたが、現在は「プロダクトデザイナー」「UXデザイナー」「UIデザイナー」「デザインエンジニア」「UXリサーチャー」など..、現在では細分化され、求められるスキルやアウトプットが大きく変わっています。 デザイナーに限定されませんが、より多くの価値を生み出し、給与に反映するにはこれらの潮流を読み、学習しつつキャリアを重ねる必要があります。
また、テクノロジーの進歩と各種ツールや技術を研鑽することはもちろんですが、ビジネスの成果に直接貢献できるデザイナーは、有利な立場を得る可能性が高くなります。
我々は何を生み出しているかを問うてみる
結論というほどの話ではありませんが、そもそもビジネスにおいては「デザイン」は投資先の一つでしかありません。社会人としてデザイナーとして活動している以上、どれだけ事業や会社に貢献しているのか、事業に価値、インパクトを与えているかを意識しなければならない...そう思ってこのテーマで記事を書いてみました。
事業と価値を見つめ直す際に、自身の給与やお金を意識するのはとても重要なことだと思います。今後のキャリアやスキルを棚卸しする際に、振り返って自身の給与額の理由や業界を研究してみるとよいでしょう。
2023.10.27 Fri