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最新アート&デザイン情報

2023.10.22 Sun

書体プロジェクトから伝統食の再生デザインも

和田彩花さんがレポート!香港デザインの今を感じるイベント「DesignInspire In Motion 2023 Tokyo Exhibition」

取材・文:小森さちこ、編集部 写真:森本絢 Sponsored by 香港貿易発展局

香港のデザイン・アート・ファッションを展示する「DesignInspire In Motion 2023 Tokyo Exhibition」が、東京のRAND表参道にて、2023年10月20日(金)〜29日(日)の10日間開催される。こちらは、2017年に香港で開催された人気アートイベントの日本版。そこで、アート評などを発信する和田彩花さんが会場をレポート。香港の芸術に触れるひとときを過ごしました。

撮影もOK!香港のデザインシーンを体感できるイベント

東洋と西洋の文化が融合した国際都市・香港で、2017年に開催された「DesignInspire In Motion」。「Design Through Heritage(デザインの源流を探る)」をテーマに、香港のみならず世界でも活躍するアーティストたちの作品を展示。香港文化に根ざしたイベントは、世代や性別、国籍なども問わず、たくさんの人々に楽しまれ大きな反響があった。

Studio RYTE(スタジオ・ライト)の作品「Triplex Stool」を撮影する和田さん。作品を撮影する楽しみもあり、香港でアート巡りしている気分に

そんな香港のデザインシーンを間近に体感できる「DesignInspire In Motion」が巡回。日本では、RAND表参道を舞台に、個性豊かなクリエイター、アーティスト、総勢17名の作品を楽しむことができる。RAND表参道が会場として選ばれたのは、「くつろげる空間でよりリラックスして香港のアートに触れてほしい。表参道ヒルズなどアートな空気が漂う場所のある、共通した都市アートを体験してほしい」という主催者の思いから。展示は「香港の街並み」「産業の再形成」「伝統と未来の工芸」の3つのストーリーで構成され、エディトリアルデザインから、ネオンサイン、洋服までさまざまな作品が登場。入場は無料で、作品はすべて撮影OK。気軽に立ち寄れるのが嬉しい。

数年前に仕事で香港を訪れたという和田さん。その時は滞在時間も短く観光はほとんどできなかったそう。「香港は“少し前にみた近未来”というイメージがあるんです。“今”見える近未来ではなく、“少し前の”というのがポイントです。今日はそんな香港のアートや文化に触れられるのが楽しみです」

作品には体験型のものも。Fan Lok Yi(ファン・ローク・イー)の「Rediscovering the Sandpit」は、遊び場がテーマ。研究資料を見たり、自分の洞察や物語を付け加えたりして、楽しむことができる
和田さんは最高の遊び場としてツリーハウスを描きました
Sampson Wong(サンプソン・ウォン)の「Urban Strollology」では、SPACE、MESSAGEなどのカテゴリからポストカードを選び、Instagramでシェアする試みも

テーマである「Design Through Heritage」は、文字のまま解釈すると堅いイメージの「ヘリテージ=遺産」が思い浮かぶ。けれどそれらは、限られた土地で、歴史上多くの異文化と交わり、深く熟成されてきた唯一無二のもの。現代の香港の建築家やデザイナー、アーティストなど、さまざまなクリエイターたちのインスピレーションの源となっている。

香港の芸術を日本にいながら堪能できる、10日間だけの貴重な機会。“デザインから見る香港の今”を体感してみてください。和田さんのレポートもぜひ参考に!

Chapter 1: Cityscape of Hong Kong-香港の街並み-
書体のプロジェクトも!香港の景観から生まれた作品

夜に浮かぶネオンサイン、100万ドルの夜景……、フォトジェニックな観光地としても人気の高い香港。その景観とそこでの体験は、わたしたちが思う以上にクリエイターにとって大きなインスピレーション源となっている。このチャプターでは、「原寸大のネオンサインの展示や建築物や公共広場の模型のなど、香港の街並みの切り取った展示からは、リアルな街の息遣いを感じてほしい」と香港の担当キュレーター。

和田さんが気になったのは、香港を拠点にソーシャル・ランドスケープ(社会的風景)をコンセプトに活動している建築スタジオ・Eureka(エウレカ)の「"Reimagine our Community"」。会場にはだまし絵にも似たようなビル建築の一部を模型とパネルで展示している。

和田 香港文化の建物にはどんな特徴がありますか? 滑り台のようなスロープがあって、とてもおもしろいですね。

キュレーター これは幼稚園として作られた建物なんです。香港は高低差のある地域が多いので、そういった土地の特徴を建物・建築に取り込んでいます。香港映画で見るような、入り組んでいる建物はいわゆる、インフォーマルなものですが、文化的にも特徴のある部分になっていますね。日本では見ないと思うのですが、香港にはインフォーマルな建て方をした建築物がまだまだ"遺産"としてたくさん残っていて、そういったところで映画の撮影が行われたりしています。

和田 インフォーマルな建物や不法占拠されたところに住む人たちって、すごく個性的な人が多かったりするじゃないですか。アーティストがそこでアート活動しちゃうとか……。その場所での独特な文化はあるのでしょうか?

キュレーター あくまでインフォーマルとしてですが、ありますね(笑)。都市としての“ネクスト香港スペシャル”が構築されていると思います。

和田 なるほど。香港の方から見て、日本の現代の建築をどう思いますか?

キュレーター 日本も香港もどちらの建築家、アーティスト、デザイナーたちも、歴史的な文化体系を取り込んでインスピレーション化し、新しい建物に反映させているのではないかと思います。

「Zansyu」は、ネオンサイン、店の看板、名刺など、香港で1940年代以降、幅広く使用されている伝統的な書体「香港北塊」に着想を得た、文化調査及び書体デザインプロジェクト
文字がズラッと並ぶポスターはインパクト大!

続いて注目したのが、香港の書体デザイナー、グラフィックデザイナー、そしてミュージシャンとしても活動しているAdonian Chan(アドニアン・チャン)の作品「Zansyu(真書)」。「永」という光るネオンサインが一際目を引く。

和田 光る文字ということは、やはり夜に外食する文化が香港では定番なのですか?

キュレーター はい。香港では夜に沢山の人が出歩く習慣があります。日本と違う点は、香港は23〜24時ごろでもお店がどこも開いているんです。夜を歩く文化は日本よりも充実していると言えますね。

和田 香港はとても漢字のネオン看板が多いですよね。香港は国際的な都市で英語が使われることが非常に多いですが、漢字を残していくという意味においても貴重なものですか? 概念の変化などがあるのでしょうか?

キュレーター 香港で非常に有名なワンタンヌードルのお店でも、ネオン看板を漢字で構成していますし、その文化が深く根付いているので、まだまだ漢字という文字を非常によく使います。Adonian Chanは、そういった文化を現在のモダン的なかたち、フォーマットで、漢字をいかに残していくかということ考え、都市のネオンサインであるとか、中国文字であることを強調した作品を作っています。ネオン看板に関しては、約10年前、不幸にも大きなネオン看板が通行人の上へ落下する事故があり、法が改正され、多くの看板が撤去されました。今は、ミュージアムや展示会などでコレクションしてネオン看板のある香港文化を維持(保存)しています。

和田 ネオン看板がない今は、どんなもので表示を出しているのですか?

キュレーター LED看板や通常のプラスチックの看板へのプリントなどに置き換わっているイメージですね。

Chapter 2: (Re)Industrialisation-産業の再形成-
塩魚、ネオン看板……。工業都市だった香港を再考する

今では華やかな観光都市のイメージがある香港は、かつて工業都市だった。チャプター2では、アーティストたちが、執筆、コミュニティ形成、プロセスの再構築を通して、産業形成における自分たちの役割を再考した5組の作品が並ぶ。注目してほしいのは「伝統食や自然素材……、かつての香港で日常的に使われていた遺産をデザインを通しアップサイクルしている点」とキュレーター。香港における産業の過去、現在、未来をどのように表現したのかチェックしたい。

10月26(木)には、17時〜、18時〜の2回、Kay Chan Wan Kiによる、塩魚でオリジナル蜂蜜酒(ミード)を作るワークショップが開催される ※公式サイトより事前の申し込みが必要

魚が吊るされたオブジェに思わず目が留まる「Re:vive : Salted Fish(設計再生 : 塩魚)」の展示。サステナビリティデザインの専門家、Kay Chan Wan Ki(ケイ・チャン・ワン・キー)の作品で、都市の発展とともに食事の選択肢が多様化する中、忘れさられてゆく香港の伝統食「塩魚(しおうお)」の再考過程や、新たな調理法などの楽しみ方が提案されている。

和田 この塩魚を使った文化は、この活動によってポピュラーになりましたか?

キュレーター 香港の伝統的な食べ物である塩魚は、日常的なものなのですが、若者たちが手にする機会が少なくなっています。ですので、食べ物の文化を伝えるための彼女たちの活動がさらにいろいろなところで展開されるといいと思っています。

和田 (塩魚のエッセンスを取り込み作られた蜂蜜酒。展示では実際にその香りを嗅いでみることができ、キューレーターに促されるまま嗅いでみると……)うわぁ、甘い香りがする!

キュレーター (ニッコリして)そうでしょう? ローカルハニーが使われているので、最初は甘く、後味に塩味が残るんです。第1ロットは香港で即完売だったんですよ! 第2ロットは現在制作中なんです。

和田 日本でも、干物はもうあんまり食べなくなっていて……。一人暮らしだと余計に難しいですよね。魚を焼いて食べるってすごくハードルが高いから、そういうものをデザインを通していろいろな人に広めて、再評価されて、自分たちで食文化を見直すのって素晴らしいなと思いますよね。

1960〜70年代は、紙に書かれた漢字が紙のまま看板として使用されていたが、それらが減少していく代わりに台頭したのが光る漢字のネオンサイン。80年代になるとネオンサインは量産。全盛を迎え、香港の代表的なシンボルとなっていった
ブラックライトを当てることで、夜のネオン看板のイメージが想像できる

Studio Nous(スタジオ・ヌース)の「Radiant Eateries: Hong Kong」「Restaurant Neon Sign Drawings」は、1950〜1970年代にかけてのネオンサインの作品を鑑賞し、再評価するためのガイドが目的の作品。

キュレーター Studio Nousは、建築法の改定で都市の美観や安全性の面から撤去されていくあまたのネオン看板のデータを、"昼"と"夜"の2冊にブック化し、香港の独特の文化保存しようと活動しています。昼間の表情と夜のライトアップされた時の違いを体感・体験して欲しいと考え、わざと展示場所を暗くしています。ネオン看板のデータがステッカーのように並んだ展示ですが、印刷の際に4つの蛍光インクを加えているので、UVライトを当てると発光している雰囲気を楽しんでもらえると思います。

和田 だからここだけ暗いのですね!

キュレーター はい。訪れたらぜひブラックライトを当てて、楽しんでみてほしいですね。また今回のシリーズは、すべて飯店(レストラン)のネオンサインです。

和田 香港では、レストラン以外でもネオン看板は使っていますか?

キュレーター 今回の展示はレストランだけですが、実際にはホテルやいわゆる雀荘にも使われていますよ。

迫力のある、Kinyan Lam(キンヤン・ラム)の「Fabricraft」。伝統的な染色技術とパターン裁断の研究を通じて、伝統工芸と包装デザインのハイブリット化を追求している。

和田 漢方の植物の色を出して染めているとのことですが、香港では普段でも漢方を使っていますか?

キュレーター 香港では健康のために服用してます。ですので、素材や染め物の原料として漢方を使うことはあまりないんです。この作品は、中国南方の少数民族であるトン族の文化を取り入れて作られています。漢方を染料として使い、トン族によって作られた伝統的な布地をハンマーで叩くことで光沢を出しています。20代半ばの若いデザイナーなのですが、染料などの技術を学んで服に落とし込んでいる活用している。大学の卒業制作です。漢方もそうですが、自然素材を使った染料を使ってものを作る、といういろんな取り組みをしています。

和田 服飾作業は、環境に負荷をかけると聞いたことがあるので、植物由来のもので、元々あるそういった伝統的な手法を使いながらというのは、なお素晴らしいですよね。もっともっとこういう手法を使っていきたいですよね。

キュレーター 香港のクリエイターやデザイナーは天然素材、環境に対する意識がかなり高くて、あちらに飾られている椅子(Studio RYTEの作品)も天然素材で作られているんですよ。

和田 それは本当に素晴らしいですね!

Chapter 3: Traditional and Future Crafts-伝統と未来の工芸-
小鳥を愛でる家具など、伝統文化に新たな解釈をプラス

ラストのチャプター3は、伝統工芸がテーマに。代々受け継がれてきた香港の伝統工芸=香港の遺産からインスピレーションを得て、作品を生み出している。「古き良き時代という伝統を、今っぽいデザインに落とし込んでいるというのが焦点です」とキュレーター。6組のクリエイターの作品は、手の込んだものばかりで作品の細部までじっくり鑑賞したい。

賑わう場所に使用されるネオン看板は、青地にオレンジや、黄色地に赤など、色鮮やかな独特の配色。ネオンのチューブの中に化学物質を入れ発色させるため、なんでも好きな色を出せる訳ではなく、ある程度の色の種類は決まっているのだそう

香港のイメージとして強いネオンサイン。先ほども紹介したように、2010年に新しい建築規制が施行されたことで、看板のほとんどが違法建築物として見なされ、街から次々に消えてしまっている。@streetsignhk(@ストリートサインhk)は、そんなネオンサインを回収、保存、復元している。

和田 これは街にある看板ではなくて、作家さんがオリジナルでデザインされたものなのですか?

キュレーター 元々使われていた古いネオンサインのパーツを使って、新しいネオンサインを作る。アップサイクルですね。昔はたくさんのネオンサインを作る工場があったのですが、製造数の減少や製作者の高齢化などで、今はたったの2軒になってしまいました。ですので、文化として残すために、デザイナー自身がネオン管を加工する技術を工場から学び、看板としてだけではなく、アート、デザインとして展開・制作もしています。

カリグラフィーのようなフォントは好きなようにデザインできますが、ネオンサインは管を曲げなければ作れないので、技術的にはどうしても字体は限られてきます。なので、鹿や鶏などの特別な型は作成がとても難しく、技術的にも本当に手が込んでいるものなのですよ。

和田さんの興味を引いたのは、Dylan Kwok(ディラン・クォック)の「Bird-twiddling Lifestyle: console table No.2」。こちらは小鳥を愛でるためのコンソールテーブルです。

和田 こちらは実際に鳥かごの職人さんから学んで作ったそうですね。

キュレーター 中国の伝統で、鳥を飼い家やお店に飾り、鳥の鳴き声を聴きながら飲茶を楽しむという余暇の過ごし方があります。20世紀初頭から、特に中国の南部、広東省の広州や広東省に近いエリアでは特にこういう文化が盛んでした。しかし、鳥インフルエンザを境にこういうスタイルは廃れてしまったのです。

和田 日本でも鳥を飼うという習慣はわりとありますよね。私も飼っていましたが、余暇を楽しむための文化とは知らなかったです。この素材は竹ですか?

キュレーター 竹ですね。

和田 日本の鳥籠は金属やプラスチックが多くて……。自然素材の竹で作られているのはとても魅力的ですよね。

さいごに

和田 デザインを通して知らなかった香港の文化を知ることができ、それがとても楽しく魅力的でした!

キュレーター 香港のクリエイターやデザイナーの作品をある程度まとめて、東京という場所で展示をするのは今回が初めてなので、そう言われるととても嬉しいです。より若い世代のクリエイターやデザイナーが香港の文化や伝統、工芸といったものを、いわゆる遺産、財産として引き継ぎ、また次の世代へ引き渡していってもらいたいなという思いで、今回このようなキュレーションとなりました。

和田 このまま引き継いでいってほしいですね。それに、同じアジア圏なのに日本と香港では文化がまったく違う。そもそも違うということを全然わかっていませんでした。今の若い人たちも年齢に関係なく、お互いの文化を知ってほしいです。このイベントは知るきっかけにもなりますね。

作品ひとつひとつから、香港の文化を深堀りできるのも魅力的なイベント。会期は10月29日(日)までなので、香港気分を味わいに、秋のアートなお出かけに、ぜひ足を運んでみてください。SNSへの投稿で1人1杯ドリンク無料サービスも!

DesignInspire In Motion 2023 Tokyo Exhibition

期間:2023年10月20日(金)〜10月29日(日)
開催時間:10:00〜19:00
開催場所:RAND表参道
住所:東京都渋谷区神宮前4-24-3
アクセス:東京メトロ副都心線「明治神宮前駅」5番出口より徒歩5分
公式サイト:https://japanese.hktdc.com/ja/promotion/DesignInspireinMotionPromotion
主催:香港貿易発展局
オフィシャルパートナー:Blue Marble

取材をした人

和田彩花
アイドル
1994年8月1日生まれ。2009年4月アイドルグループ、スマイレージ(のちにアンジュルムに改名)の初期メンバーに選出、リーダーに就任。2019年にアンジュルム、Hello! Projectを卒業後。アイドル活動を続けるかたわら、大学院でも学んだ美術にも強い関心を寄せる。特技は美術について話すこと。特に好きな画家は、エドゥアール・マネ。得意な美術の分野は、西洋近代絵画や現代美術、仏像。
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