アクセス解析ソフトにもう挫折しない!
Web解析ツールの実践的活用指南
文= 安西 敬介 全日空システム企画(株)
ANAのWebサイトのマーケティング・分析支援を行う
第2回
緻密などんぶり勘定で目標を設定することが成功のヒケツ!
Web解析ツールは過去の実績を追うためだけではなく、目標を設定したり対策個所を設定することも可能である。それには緻密などんぶり勘定がポイントになってくる。
■目標を立てるためのWeb解析ツール
前回はWeb解析ツールの数字を見るための基本的な4つのポイントを見ていった。これら4つのポイントはWeb解析ツールを使って過去を分析するのに利用する方法だ。今回はWeb解析ツールを使って未来を見ていく方法を見ていきたい。
Webサイトは来訪をしてもらわないと、その後の効果は出ない。来訪の第一歩として広告の出向などがあるが、果たしてどの程度の期間にどの程度の集客をすればよいのであろうか?
今回はWeb解析ツールを利用した数値を利用しつつ、大まかな目標を立てていくということで、「緻密などんぶり勘定」をキーワードにWeb解析ツールの活用方法を見ていきたい。
解析するポイントを絞り込む
大規模なサイトになると数万ページ単位で運用されている場合も少なくない。そんな場合、すべてのポイントを押さえていくと、人手がいくらあっても足りなくなってくる。そこで、見るポイントを絞り込んでいきながら「緻密などんぶり勘定」を行ううえでの変数を揃えていく。
サイトにもよるが基本的には「流入」「直帰率」「コンバージョンプロセス」「コンバージョン」がおもなポイントとなってくる【1】。もちろん、より詳細を見ていくことも可能だが、あまり細かく見すぎると、利用方法が限定されてしまい、結局利用価値が低くなってしまう。ある程度、大ざっぱに、しかし緻密に計算をしてくことで使い勝手の高いものが見えてくる。
【1】おもな解析ポイント
※1 ページビュー。ページが参照された回数
※2 ユニークユーザー数を指す
解析を始めるための基本の数値をつくる
実際に絞り込んだポイントの数値は「昨日の数値」などを利用しても意味がない。ある程度、蓄積したうえでデータの傾向を見ていくとよいだろう。
まずは直近1カ月程度の数値を取得して平均を出す。最初はそれを利用しながら、おかしい部分があれば微調整をしていけばよい。ただし、自分で勝手に数値を変更してはならない。そうすると、あとで施策の計測をした場合につじつまが合わなくなってきてしまう可能性があるからだ。
必ず、何らかの数値をつくる場合はWeb解析ツールから求められた数値を利用する。そうすることで、その後のPDCAサイクル(Plan→Do→Check→Act)を回す場合にも混乱が起きにくい。
値を整理して式を組み立てる
実際に目標を立てるにあたり、4つのポイントの値を組み合わせて利用する。もう少し細かい値を変数として必要とする場合もあるが、まずは掛け算をしていくだけでよいだろう【2】。
【2】流入から達成までのユーザー数の推移
ここでは前回も例に挙げたダミーのECサイト「Sakulife」を例に組み立てを見ていきたい。
「Sakulife」の1日当たりのサイト全体の訪問者数は5,000人であった。直帰率については20%である。また、コンバージョンプロセスの入り口となるページには日に400人が訪れている。そして、1日の購入件数(コンバージョン)は320件である。
それぞれを割合で計算すると、直帰せずにサイトを回遊した人数は来訪者数全体の80%となる。つまり、4,000人がサイトを回遊していることになる。また、4,000人のうちコンバージョンプロセスの入り口まで来ている方が10%だ。コンバージョンプロセスに入った方のうち80%がコンバージョンを達成したことになる。これを式で表すとこうだ。
コンバージョン達成人数=
流入人数×80%×10%×80%
これで「緻密などんぶり勘定」を行うための式の完成である。これを利用すればどれだけの流入があれば、どのくらいのコンバージョンを達成するかの大まかな計算ができるようになる。
■緻密などんぶり勘定式を活用する
全体流入をアップさせる
「Sakulife」では1日の目標を500人にすることを課せられた。この場合、式を利用して逆算をすると1日に7,800名を流入させる必要があることがわかってくる。もともとは1日5,000名の流入なので、流入だけの対策をすると考えた場合、2,800名ほど増やす必要がある。つまり、この2,800名が目標となるわけだ【3】。
【3】流入から達成までのユーザー数の推移を全体的にアップさせる。この場合コストが結構かかる
あとはこの2,800名をどのように増やしていくかを考えていく。バナーを出稿するのであれば、1日どのくらいのインプレッション(※3)とCTR(※4)のサイトに出稿すればよいのであろうか。
※3 広告が表示された回数
※4 Click Through Rateの略で、広告が表示された回数に対する、
クリックされた割合のこと
サイトの運営はタダではない。費用対効果を考えることも重要となってくる。2,800名の上乗せを広告出稿だけで賄おうと考えた場合、仮にCTRが約1%のサイトに出稿するのであれば、280,000インプレッションを1日で必要とするサイトに出稿する必要がある。
1インプレッションが1円であれば1日当たり280,000円かかる。これを獲得人数で割ると、1人のコンバージョンを獲得するのに875円かかっていることになる。
内部フローを調整する
内部フローを調整していくことで、流入をそれほど増やさなくても最終目標を達成する方法も考えられる。サイト内を回遊したユーザーがコンバージョンプロセスに流れるようにすることで、大幅な全体流入を増やさなくてもよくなる【4】。
【4】全体の流入量を増やさずに、比較的外部広告のコストを抑えることができる。
「Sakulife」の場合、回遊>コンバージョンプロセスは10%であったが、サイト内のリンクや構造などを見直した結果3%上昇させることができたとしよう。式を修正し計算し直すと、1日当たりの目標に対し約6,000名が必要となり、現状の1,000名プラスで足りることになる。
先ほどと同じ単価のインプレッションで考えた場合、1人当たり312円になる。こうすることで、広告費にかかる費用を抑えることも可能となってくる。
まとめ
今回は単純な計算をして、ある程度の目標値をとらえられるようにした。実際には、自社のサイトの内容と広告を出稿するサイトの内容に違いがある場合など、単純に広告からの流入量を増やしただけでは足りない場合も十分に考えられる。そのあたりは自社の式を調整しながら使ってもらいたい。
Webサイトの運営ではPDCAサイクルを回すことが重要だ。Webサイトをオープンしたときから完璧なサイトなどあり得ない。きちんと目標を設定し、その施策の評価をして次につなげていくことが、より良いWebサイトを構築するポイントとなる。今回の「緻密などんぶり勘定」もPDCAサイクルを回すための手法のひとつとして利用するとよいだろう。
本記事は『Web STRATEGY』2007年9-10 vol.11からの転載です
Web解析ツールの実践的活用指南
文= 安西 敬介 全日空システム企画(株)
ANAのWebサイトのマーケティング・分析支援を行う
第2回
緻密などんぶり勘定で目標を設定することが成功のヒケツ!
Web解析ツールは過去の実績を追うためだけではなく、目標を設定したり対策個所を設定することも可能である。それには緻密などんぶり勘定がポイントになってくる。
■目標を立てるためのWeb解析ツール
前回はWeb解析ツールの数字を見るための基本的な4つのポイントを見ていった。これら4つのポイントはWeb解析ツールを使って過去を分析するのに利用する方法だ。今回はWeb解析ツールを使って未来を見ていく方法を見ていきたい。
Webサイトは来訪をしてもらわないと、その後の効果は出ない。来訪の第一歩として広告の出向などがあるが、果たしてどの程度の期間にどの程度の集客をすればよいのであろうか?
今回はWeb解析ツールを利用した数値を利用しつつ、大まかな目標を立てていくということで、「緻密などんぶり勘定」をキーワードにWeb解析ツールの活用方法を見ていきたい。
解析するポイントを絞り込む
大規模なサイトになると数万ページ単位で運用されている場合も少なくない。そんな場合、すべてのポイントを押さえていくと、人手がいくらあっても足りなくなってくる。そこで、見るポイントを絞り込んでいきながら「緻密などんぶり勘定」を行ううえでの変数を揃えていく。
サイトにもよるが基本的には「流入」「直帰率」「コンバージョンプロセス」「コンバージョン」がおもなポイントとなってくる【1】。もちろん、より詳細を見ていくことも可能だが、あまり細かく見すぎると、利用方法が限定されてしまい、結局利用価値が低くなってしまう。ある程度、大ざっぱに、しかし緻密に計算をしてくことで使い勝手の高いものが見えてくる。
【1】おもな解析ポイント
※1 ページビュー。ページが参照された回数
※2 ユニークユーザー数を指す
解析を始めるための基本の数値をつくる
実際に絞り込んだポイントの数値は「昨日の数値」などを利用しても意味がない。ある程度、蓄積したうえでデータの傾向を見ていくとよいだろう。
まずは直近1カ月程度の数値を取得して平均を出す。最初はそれを利用しながら、おかしい部分があれば微調整をしていけばよい。ただし、自分で勝手に数値を変更してはならない。そうすると、あとで施策の計測をした場合につじつまが合わなくなってきてしまう可能性があるからだ。
必ず、何らかの数値をつくる場合はWeb解析ツールから求められた数値を利用する。そうすることで、その後のPDCAサイクル(Plan→Do→Check→Act)を回す場合にも混乱が起きにくい。
値を整理して式を組み立てる
実際に目標を立てるにあたり、4つのポイントの値を組み合わせて利用する。もう少し細かい値を変数として必要とする場合もあるが、まずは掛け算をしていくだけでよいだろう【2】。
【2】流入から達成までのユーザー数の推移
ここでは前回も例に挙げたダミーのECサイト「Sakulife」を例に組み立てを見ていきたい。
「Sakulife」の1日当たりのサイト全体の訪問者数は5,000人であった。直帰率については20%である。また、コンバージョンプロセスの入り口となるページには日に400人が訪れている。そして、1日の購入件数(コンバージョン)は320件である。
それぞれを割合で計算すると、直帰せずにサイトを回遊した人数は来訪者数全体の80%となる。つまり、4,000人がサイトを回遊していることになる。また、4,000人のうちコンバージョンプロセスの入り口まで来ている方が10%だ。コンバージョンプロセスに入った方のうち80%がコンバージョンを達成したことになる。これを式で表すとこうだ。
コンバージョン達成人数=
流入人数×80%×10%×80%
これで「緻密などんぶり勘定」を行うための式の完成である。これを利用すればどれだけの流入があれば、どのくらいのコンバージョンを達成するかの大まかな計算ができるようになる。
■緻密などんぶり勘定式を活用する
全体流入をアップさせる
「Sakulife」では1日の目標を500人にすることを課せられた。この場合、式を利用して逆算をすると1日に7,800名を流入させる必要があることがわかってくる。もともとは1日5,000名の流入なので、流入だけの対策をすると考えた場合、2,800名ほど増やす必要がある。つまり、この2,800名が目標となるわけだ【3】。
【3】流入から達成までのユーザー数の推移を全体的にアップさせる。この場合コストが結構かかる
あとはこの2,800名をどのように増やしていくかを考えていく。バナーを出稿するのであれば、1日どのくらいのインプレッション(※3)とCTR(※4)のサイトに出稿すればよいのであろうか。
※3 広告が表示された回数
※4 Click Through Rateの略で、広告が表示された回数に対する、
クリックされた割合のこと
サイトの運営はタダではない。費用対効果を考えることも重要となってくる。2,800名の上乗せを広告出稿だけで賄おうと考えた場合、仮にCTRが約1%のサイトに出稿するのであれば、280,000インプレッションを1日で必要とするサイトに出稿する必要がある。
1インプレッションが1円であれば1日当たり280,000円かかる。これを獲得人数で割ると、1人のコンバージョンを獲得するのに875円かかっていることになる。
内部フローを調整する
内部フローを調整していくことで、流入をそれほど増やさなくても最終目標を達成する方法も考えられる。サイト内を回遊したユーザーがコンバージョンプロセスに流れるようにすることで、大幅な全体流入を増やさなくてもよくなる【4】。
【4】全体の流入量を増やさずに、比較的外部広告のコストを抑えることができる。
「Sakulife」の場合、回遊>コンバージョンプロセスは10%であったが、サイト内のリンクや構造などを見直した結果3%上昇させることができたとしよう。式を修正し計算し直すと、1日当たりの目標に対し約6,000名が必要となり、現状の1,000名プラスで足りることになる。
先ほどと同じ単価のインプレッションで考えた場合、1人当たり312円になる。こうすることで、広告費にかかる費用を抑えることも可能となってくる。
まとめ
今回は単純な計算をして、ある程度の目標値をとらえられるようにした。実際には、自社のサイトの内容と広告を出稿するサイトの内容に違いがある場合など、単純に広告からの流入量を増やしただけでは足りない場合も十分に考えられる。そのあたりは自社の式を調整しながら使ってもらいたい。
Webサイトの運営ではPDCAサイクルを回すことが重要だ。Webサイトをオープンしたときから完璧なサイトなどあり得ない。きちんと目標を設定し、その施策の評価をして次につなげていくことが、より良いWebサイトを構築するポイントとなる。今回の「緻密などんぶり勘定」もPDCAサイクルを回すための手法のひとつとして利用するとよいだろう。
本記事は『Web STRATEGY』2007年9-10 vol.11からの転載です