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Web解析ツールの実践的活用指南 第8回 PDCAサイクルをうまく回す組織に変わるために必要なこと

2024.5.18 SAT

【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて
アクセス解析ソフトにもう挫折しない!
Web解析ツールの実践的活用指南


全日空システム企画(株)  安西 敬介
文=
安西 敬介 全日空システム企画(株)
ANAのWebサイトのマーケティング・分析支援を行う



第8回
PDCAサイクルをうまく回す組織に
変わるために必要なこと


アクセス解析はツールを使いこなすだけではなく、組織としてどう取り組んでいくかも重要になってくる。今回は自分がかかわってきた組織をもとに、どういった組織として取り組んでいくのがよいかを考えていきたい。


PDCAサイクルを回すために

サイトを運営していくにあたって、何かの施策を実行したり、修正を行うことが一度で終了するということはまずない。テストを繰り返しながらPlan Do Check Actionといフェーズをを繰り返していくことで、サイトが最適化されてくる。

しかし、実際にPDCAサイクルを回そうと意気込んでも、結局は1回だけ回して終了してしまったりする場合が多い。これは「仕組み」として取り入れられていないからであり「習慣化」できていないことによるところが大きいだろう。

サイトを運営しているとキャンペーンや新しい商品などの目先の対応に追われ、どうしても中長期的な目線を失いがちである。企業のサイトに対するお客様の期待に応えるためには担当者としては、しようがない部分ではあるだろう。

しかし、そうしたことではいつまでたってもサイトの運営はできても、サイトが成長することはないだろう。よりよいサイトに成長させるためには中長期的な視点も必要になってくる。


会議体の導入

PDCAサイクルに対応し会議体を組み込んでしまうことも、「仕組み」づくりのひとつの方法であろう。ある一定の期間の中で、Plan、Checkのそれぞれに対応するような定例会議を設けてしまうのである。

ただし、こういった会議は定期的に集まることが目的になり、目的を失ってしまうことも多々ある。必ず、その会議の目的を明確化したうえで、会議自体がただの報告会にならないようにすることがポイントとなってくる。

細かい部分でいえば、こういった会議の中で担当が参加することに苦痛を感じるようにするのではなく、小さくても成功体験を感じさせ、意欲的に会議へ参加するというモチベーション管理も重要になってくる。

複数のセクションやグループで運営しているような場合は、会議の中での報告書のフォーマットを用意してしまうのもひとつので方法である【1】。こうすることで、報告のばらつきを防ぐことができるようになる。会議の当初はこういったフォーマットを用意することで、会議自体の運営がしやすくなってくる。
【1】会議フォーマット例 KGI/KPI
【1】会議フォーマット例 KGI/KPI


また、内容についてもだれでも確認できるようなものはできるだけ省き、それぞれのセクションや担当者で実施したトピックをうまく吸い上げられるようにしたほうがより活発的な議論へと発達するだろう。


テスト実施の習慣化

以前の記事でも取り上げたが、サイト最適化を実施していくうえで、テストを行っていくことは非常に重要である。しかし、実際はテストを実施することが慣れないために、テストを実施せずに改修を行っただけで終了させてしまう場合も多いだろう。

ほかのリアルな媒体に比べて、Webはテストの実施がもっともしやすい媒体である。これを見逃すのは非常にもったいないことであり、ぜひ実施していただきたい。

テストは、PDCAサイクルの、なかでもPlanで考えたものをCheckしていくためには非常に重要なフェーズであり、これを行っていないということは、Planで立てた「仮説」が「確信」である場合だけである(それでも評価は必要)。

最近ではLPOツールと呼ばれる、ランディングページを最適化するための補助となるソリューションもいくつか発表されている。また、テストの実施については無料で多変量解析テストまで行えるものも存在する。こういったものをうまく活用し、テストを行うという習慣をつけていくことが、よりよいサイト運営につながってくるだろう。


何の数字を追うのか?

KGI/KPIの設定については以前にも述べたとおり、サイトを運営していくためには非常に重要な指標のひとつだろう。しかし、KGI/KPIだけを参照していると、やはり目先のことだけが気になり、中長期的な視点を失いがちになってしまう。

デパートの運営について考えてみよう。デパートは大小さまざまな店舗で成り立っている。これら店舗は1日、1週間、1カ月での売り上げ目標を持ち、それに向けた販売活動を行っている。しかし、デパートにはフロアや全体を通してみる責任者も存在している。彼らはデパート全体の訪問客の流動や客層、フロアの移動などに目を向けている。

サイトも同じことが言えるだろう。売り上げを上げるための施策もあれば、再訪問率を高めるようなサイトのづくりに注目する必要もある。こういった部分は、KGI/KPIばかりを追っていると、ついつい見失いがちの部分である。訪問客がどういったフェーズで来ていて、サイト全体を俯瞰した場合にどこに問題があるのか、セクションで分けた場合にサイト全体を流動させることができているのか、こういった部分を見るようにすることもよいだろう。

私がかかわっていたサイトでは、グループとしてサイト全体を俯瞰するチームを設け、KGI/KPIを確認していくグループとは別に、サイト全体を監視しているようにしていた。こういったグループを組織としてつくっていくこともひとつの方法だ。


ツールを利用する

最近のツールは指標となる数字を集計するだけではなく、さまざまな面でビジネスをサポートするツールも多く出てきている。よく実装されている機能として大きいのは以下のふたつの機能であろう。

・ダッシュボード機能
・レポート送信機能


ダッシュボード機能とは、ログインした際にログインIDなどにひもづいた指標をあらかじめ設定しておくことで、表示をしてくれるものである。「これは確認した、あれを確認し忘れていた……」などとメニューでひとつずつ追っていては、大きいサイトになればなるほど確認がたいへんになってきてしまうだろう。ダッシュボード機能を利用し、最低限確認をすべきものを表示できるようにすることで、忘れることなく確認すべき指標を見ていくことができるだろう。

また、レポート送信機能とは指標と期間を指定することで、定期的に指定したメールにレポートを送信する機能である。慣れないうちはアクセス解析ツールへのログインを忘れてしまうこともままにある。こうした機能を利用することで、ログインに忘れることなくレポートを確認することができるようなってくる。

また、ログインまでする必要がないが、前日の数値ぐらいは上司に報告……ということもあるだろう。こういったツールをうまく利用することで、報告忘れがなくなるようになるかもしれない。

最近ではアラート機能をもっているツールもある。これは、ある閾値を設定しておき、数値がそれ以上になった場合などにアラートメールを出すものである。こういったものをうまく利用すれば、何かで急にアクセスアップがあったときなども、すぐに対応をすることが可能になるだろう。


組織の大きさによる対応

アクセス解析は徐々に認知がされ活用されてはじめてきているものの、まだ、企業の中で積極的に利用されているとは言えないだろう。ネックとなってくるのが、アクセス解析に対して組織をどのように対応していくかである。

アクセス解析を行ううえである程度Webのシステムやつくりに対しても理解をしている必要がある。さらに、そのうえで自社のビジネスに直結した判断を行うことが必要になってくる。

ひとつの方法としてコンサルティング会社に併せて見てもらうというところになるだろう。しかし、ビジネスの判断を行うごとにコンサルティング会社にお願いするわけにはいかない。早い判断ができることもWebでのビジネスには重要だからだ。

やはり、最適なのは自社内に専門部隊を持ち、ビジネスを推進するうえでコアメンバーとすることだろう。これによって、アクセス解析を中心に据えたサイトの運営を行うことができるようになる。ただし、大企業になればなるほど社員の異動は多くなる。そのため大企業の場合は、専門部隊をグループ会社にもつなどすることで、より迅速な動きにも対応しやすくなる。

また、中小企業になってしまうと、Web担当者が1人で行っているということも少なくない。当初は仕方がない部分もあるだろう。こういった場合は、いくつか兼任していることを上司が認識し、その中で、サイトの成長に合わせて役割を分割していくことが求められてくるだろう。


まとめ

ひとつの企業がひとつ以上のサイトを運営していることが当たり前になってきた。今まではサイトがないからとりあえず立ち上げるということが多かったであろう。しかし、立ち上げたあとは運営が待っている。運営もけっして楽なわけではない。アクセス解析ツールはさまざまなことを教えてくれるものの、ある程度Webの知識がないと使いこなせないツールでもある。

今後、Webガバナンスについてはさまざまな議論をされていくことになるだろう。そんな中で私の考えが少しでも役に立てば幸いである。


本記事は『Web STRATEGY』2008年11-12 vol.18からの転載です


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