第2回 失敗しないモバイルプロジェクトの立ち上げ方 - モバイルマーケティング実践Hacks | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第2回 失敗しないモバイルプロジェクトの立ち上げ方 - モバイルマーケティング実践Hacks

2024.5.12 SUN

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ケータイコンテンツの企画・制作から、ビジネス活用まで
モバイルマーケティング実践Hacks

右)吉田悟美一 (株)イオス 代表取締役社長 url. www.e-o-s.net/ ケータイショッピングモール「ブランドマニア」運営企画・文=中谷健一(写真左)
トリムタブJAPAN(有)代表取締役
モバイルマーケティングコンサルタント
url.www.trimtab.jp/

企画・文=吉田悟美一(写真右)
(株)イオス代表取締役社長
モバイルサイトプラットフォーム『Rockbird』開発・提供。
「ケータイ小説がウケる理由」(毎日コミュニケーションズ新書)
url.www.e-o-s.net/



第2回
失敗しないモバイルプロジェクトの立ち上げ方


モバイルマーケティングの新しい取り組みがメディアなどで華やかに紹介されいる。しかし一方ではモバイルの取り組みから撤退している企業も少なくないという。いったい何が起こっているのだろうか? ともすると意外ともいえるこの事実から「モバイルマーケティング」の真の成功法則が見えてくる。


■■■
前回の記事でも簡単に紹介したが、興味深い調査データがある。企業のモバイルWebサイトの開設率だ。2006年現在では「開設している」と「準備中」とを合わせて約2割。この数字だけ見せられてもちょっとピンと来ないが、2005年の調査から約8ポイントも落としているとなると、意外な感じがしないだろうか【1】。

【1】モバイルウェブサイトの開設状況2005年~2006年(出典:インプレスR&D/モバイルコンテンツフォーラム2006-2007)
【1】モバイルウェブサイトの開設状況2005年~2006年(出典:インプレスR&D/モバイルコンテンツフォーラム2006-2007)


「モバイルサイト開設している企業は、ずっと増えているんじゃないの?」

と。この連載記事を読むような賢明なあなたならきっと、企業のモバイル活用はこれまで伸びてきたし、これからも大きく伸びていくものだと期待しているに違いない。筆者だってそうだ。ところがこのデータを見る限り、ここ数年の実態は必ずしもそうでないことがわかる。参入してはみたものの、モバイルからの撤退を決めた企業が少なくないのだ(調査の注釈によると、大手企業のサイト開設率はほぼ変わらなかったとされる。中小企業で顕著だったようだ)。

しかし筆者は悲観的に感じているわけではない。ピカピカとスポットライトを浴びる場所があれば、そのかたわらには陰ができるもの。むしろその陰ができる仕組みを学んで、先行企業のわだちを踏まないようにすればいい。それは立派なモバイルマーケティングHacksだ。


ASPを効果的に活用する

これまでモバイルサイト構築のASPは期間限定のキャンペーンサイトで使われるケースが多かったが、機能アップやラインアップの多様化によって常設サイトや大型のサイトでも活用ができるようになってきた。自社データベースと連動させるなど特殊な情報処理をさせるのでなければ、まずASP導入の検討をオススメしたい。ASPと自社開発システムとを組み合わせてサービスを提供しても、デザインのテイストさえ一貫していればツギハギであることがわからない(ブラウザにURLが常時表示されないため)。ウラ技的な使い方だが、確実にコストを下げられる。

モバイルサイト構築ASPの例

Rockbird
(株)イオス www.rockbird.jp/
10月にリリースされたASP。直感的な操作でリッチなサイト構築を可能にする。ページやパーツごとに細かく編集権限を設定できる公開管理機能と低価格が特徴

Mobile MK
(株)ダブルクリック www.mobilemk.net/
サイト構築、アンケートサイト構築、キャンペーン参加者の管理、空メールやQRコードの発行、メールの送信、データ解析などモバイルマーケティングに必要な機能一式が揃う高パフォーマンスASP



Q1→
これからの企業のモバイルマーケティング、モバイルサイトは
どういう方向を目指せばよいのか?


A1←
中長期的な視野でサイトやサービスを設計することが重要。
販売促進・期間限定サイトから、常設&ブランディングのメディア戦略に舵を切れ


ROIが悪化しユーザーに飽きられる企業のモバイルサイト
撤退の原因を調べたわけではないが、原因の筆頭はROIの問題だろう【2】。開発や運用のコストが肥大化するのに、見合う結果が得られないという課題はモバイルサイト開設1~2年目の企業が抱える共通課題だ。そこでその先の可能性を信じられるかが大きなハードルになる。

【2】モバイルのROIの落とし穴







【2】モバイルのROIの落とし穴


モバイルはビジネス環境もインフラも比較的短期間に変化する。それに合わせてビジネスモデルやシステムも変化させるのが望ましいのだが、ちょっと甘い見通しで進めると、たちまち「維持コストは拡大するのに収入は減少する」という最悪シナリオに陥ってしまう。お恥ずかしい話だが、筆者も過去にこの苦い経験をしているのでよくわかるのだ。

特にここ数年はモバイルでもブロードバンド環境が整い、そのメリットを享受できるブラウザやソフトウエアが端末に搭載され始めている。表現の多様化やユーザビリティの向上という観点からはグッドニュースだが、運営側が対応するにはコストや新しいノウハウも必要になる。一応対応しておこう、などとやっているとすぐ痛い目を見る。

またモバイルWebにユーザーが抱く期待と、運営企業の意識とのギャップがROIを悪化させていることも指摘しておきたい。企業はコストをできるだけ抑えるためにPCサイトのダウンサイズ版、または限定機能版としてモバイルを利用したがる。一方のユーザーは、好きなときにアクセスできるモバイルから、もっといろんな情報を得て利用したいと望んでいる。

「(企業サイトは)簡単な情報しかなくて役に立たない」
「キャンペーンが終わったらサイトがなくなっていたのでがっかりした」

このようなユーザーコメントをよく聞くのだが、企業のモバイルへの取り組み姿勢を批判しているように聞こえる。中途半端な取り組み姿勢を見透かしているのだ。落胆したユーザーは、さっと逃げてしまうのでサイト利用アンケートなどから拾いにくいため、気づくのに時間がかかるというのもタチが悪い。集客コストの無駄遣いはボディブローのように効いてくる。

ケータイの高速&定額化でコンテンツが進化する環境が整う
脅すような話からスタートしてしまって恐縮だが、全体として企業のモバイル活用の環境や条件は大きく改善されている。落とし穴の大きさはずいぶん小さくなっているし、回避の方法もたくさん出てきた。なによりも大手企業がこぞってモバイルでの大型キャンペーンを仕掛けて大成功を収めた2007年、もはやモバイルでのマーケティング効果に疑いをもつフェーズではなくなったと言えるだろう。むしろ従来PCのWebマーケティングではリーチできなかった層に訴求できる新しいWebメディアとして評価されている【3】。

【3】モバイルサイトの利用者をエリア別分布で見てみると、人口分布に酷似している。PCサイト利用者が大都市圏に偏重した人口構成になっているのと比較される(2006 BrandMania会員データより)



【3】モバイルサイトの利用者をエリア別分布で見てみると、人口分布に酷似している。PCサイト利用者が大都市圏に偏重した人口構成になっているのと比較される(2006 BrandMania会員データより)


最大の環境改善は、通信インフラの高速・定額化だ。定額プラン加入者が急増し、2008年3月には3,800万契約になると見込まれている(市場の約40%)。PCインターネットの普及に定額ブロードバンドサービスが果たした役割を考えると期待は大きく膨らむ。実際に2006年以降、モバイルWeb利用者数はこれまでに見られなかった伸びを示す予測がされており、すでに本格的な普及期に入っているのだろう【4】。

【4】モバイルインターネット成長年表。PCの2005年から2006年にかけての伸びとほぼ同じ急伸がモバイルでも2006年から2007年にかけて生じると予測されている(参考:総務省 平成18年通信利用動向調査)
【4】モバイルインターネット成長年表。PCの2005年から2006年にかけての伸びとほぼ同じ急伸がモバイルでも2006年から2007年にかけて生じると予測されている(参考:総務省 平成18年通信利用動向調査)


インフラ問題は、利用者だけでなく、実はモバイルマーケティング全体の発展のボトルネックにもなってきた。データのサイズが大きくなるとアクセス時間やパケット代が膨らむ。そこで提供するコンテンツが物足りないと承知で、見せる内容をシンプルにすることがあった。巡り巡って、Webデザイナーたちがモバイル制作を敬遠する遠因になっていたようにも思う。おかげでPCのWebで見られたようなサイト構築の一大ブームがモバイルWebの世界にいまだに出現していないのだ。

しかしインフラの呪縛からの解放により、WVGAやFlash Lite 3などの新機能もマーケティングに存分に生かされるようになるだろう。フリー動画やケータイ版RSSの本格化も期待できる。まさに、環境は熟した、といえる。

場当たり的なキャンペーンはNG
ブランディングに活用せよ

この環境下で企業モバイルサイトはどんな方向を目指すのがよいだろうか?

第一にシステムやサービスの設計には段階的な成長を前提に中長期的な視野が必要だ。変化の激しいモバイルの世界では5年間使い続けられるようなシステムはあり得ない。1、2年ごとのシステムの増改築や乗り換えを織り込んだ事業戦略が必要になる。ASPの活用は外せない要素となるだろう。

場当たり的なキャンペーン活用がもたらすROIへの悪影響を考慮すると、モバイルのブランディング活用も考える時期だ。「ブランド常設サイト」としての顧客囲い込みに実はモバイルの特性が発揮されるのだ。常設サイトは外部からのリンクも張られやすくなり、中長期的なトラフィックの安定化も期待できる。手始めに「いつでもどこでも見られる商品カタログ/マニュアル」から始めてみるのはどうだろうか。

マクドナルドのケータイ会員は4年で500万人を集めた。100万人までは3年半を費やしているが、今年に入り2~4カ月という短期間で100万人ずつ会員が増えたという。特に18歳以下の急増ぶりが目立ち、中高生世代の5人に1人が会員の計算になるそうだ。中心となるコンテンツはクーポンだが、栄養分析コンテンツを掲載することで商品に対する安心感の提供に成功している。まさにブランディングの施策なのだ。モバイルの販促サイトとして集客しながら、実は継続的なブランディングに貢献するという良い事例だ。


Mobile Marketing Hacks
ASPを部分活用する




Mobile Marketing Hacks
コンテンツはプッシュ型と同様にプル型のシカケも活用する




Mobile Marketing Hacks
短期で「結果が出ない」とあきらめない。中長期計画での「常設サイト」を目指す




Q2→
モバイルマーケティングの実現にはどんな社内体制を構築すればいいのか?

A2←
既存事業のスタッフを参加させ、顧客にいちばん近い窓口をつくる意識をもって構築する。
目標の計測やパートナー選びも重要


倍々ゲームで伸びているかのようなイメージの記事に踊らされるな!
「わが社もそろそろモバイルマーケティングに取り組もう、とトップが言い出したので、検討をスタートさせました」

という話を最近よく耳にする。トップが本気で取り組むのなら大歓迎だが、思いつき半分の取り組みで成功するほど甘くはない。これでは「モバイルからの撤退」は時間の問題になるだろう。

モバイルの利用者は飽きっぽく、サイトの浮沈の激しさはPCのWebの比ではないといわれている。実はノウハウをもっているはずの老舗のモバイル専業企業ですら翻弄されているのが実情だ。リピート集客ができなくて困っているとか、サイトを見に来るお客はいるが商品が売れていないとか、思ったほど広告が集まらないなどと頭を抱える運営者は少なくない。メディアで話題にされたサイトが、あとでひっそりと閉鎖されていたりもする。

ところがこのごろは、モバイル関連の新サービス発表や展示イベントがよくマスメディアで紹介されるようになった。新聞やニュースサイトには華々しい記事が掲載され、また、リサーチ会社や広告代理店が発表する強気の市場予測もあり、まるで市場全体が倍々ゲームで伸びているかのような印象を与えている。まったく大きなお世話なのだが、このタイミングにトップダウンでのプロジェクトをスタートさせたと聞くと、「御社のトップは、メディアの記事に踊らされていませんか?」と危惧してしまうのだ。

メディアが喧伝するモバイルマーケティングの可能性が虚像だというのではない。どれだけ本気で取り組むか、どういう体制でモバイルプロジェクトを進めるつもりか、ということだ。

あるプロジェクトから、いくつの問題点が見えるかを考える
ここでひとつ具体的なケースを例に考えてみてみよう。次のような状況と体制のもと、モバイルマーケティング検討プロジェクトが社内に発足したとする。あなたはこのプロジェクトに問題をいくつ発見できるだろうか?

・会社初のモバイルへの取り組み

・経営トップが参入に熱意をもっている

・新規事業開発担当にプロジェクト推進を一任。彼らが新規事業プランを策定

・モバイルのコンテンツプロバイダとして実績のある企業にトップが相談。シテムの構築と運用作業を委託予定

・早期(1年以内)の単月黒字化を期待している


わりと「ありがち」なケースである。ここでもっとも注目すべき問題はトップの熱意が空回りしているのではないか、という点だ。

まずスタッフのキャスティングの問題が心配になる。モバイルマーケティングにはPCのWebマーケティングのような「成功の定石」がまだない。手探りの運用が基本だ。そこでの勝負に本業の競争優位性を持ち込めなければ、ひしめくライバルを相手に丸腰で戦うことになる。既存事業へのモバイル導入による活性化だとか、既存事業のナレッジや顧客資産をベースにした新事業プランなど、本業周辺から検討を始めるのが安全かつ賢明だ。トップは新規事業開発担当にプロジェクトを丸投げするのではなく、既存事業のマーケティングチームにもプロジェクト参加を要請すべきだろう。既存事業の経営指標をモバイルの導入前後で比較することで、効果も自動的に「見える化」されるというメリットもある。

ふたつ目はプロジェクト担当者のモチベーションの問題。「社長に言われたからやっているが、実はケータイWebなんか使ったことがなく、自分にはよくわからない」などとうそぶく人を担当に据えてはいけない。モバイルサイトは企業からすれば小さなWebメディアにすぎないかもしれないが、顧客からすればもっとも身近にある「企業との窓口」である。いわば顧客フロントなのだ。たとえば全社からモバイル活用のビジネスプランを公募して、年齢や役職の区別なく優秀なプランの発案者をプロジェクトリーダーに任用してはどうか。特に若い人はモバイルとの親和性も、関心も高い。積極的なプロジェクトへの関与が期待できる。

3つ目の問題はシステムベンダーとの付き合い方だ。先のQ&Aでも紹介したように、モバイルはマーケティング戦略を定めていても、改造や増築が前提となる。まして戦略が定まらないうちにシステム投資を先行させるのは、危険きわまりない。本例の場合、トップがモバイルに詳しい人をあてがうつもりで、モバイル専門の企業に話を持っていったとも想像できるが、モバイルコンテンツのプロはあくまでコンテンツ制作のプロでしかないと考えるべきだろう。

サイトはつくって終わりではない。運用のフェーズでは既存事業のマーケティングと連動した仮説・実行・検証を行わなくてはならないし、業務と連動したサイト運用ができるかできないかがパフォーマンスを大きく左右する。本業のマーケティングについての理解が不可欠であり、場合によっては他社ASPの導入という結論も受け入れなくてはならない。マーケティングとモバイルに明るいソリューション企業やコンサルの導入も考慮すべきだろう。

これらネガティブリストを裏返せば、モバイルマーケティングを導入する体制のポイントが浮かび上がってくる。


Mobile Marketing Hacks
既存事業の強みや資産を活用可能な担当を検討チームに参加させる




Mobile Marketing Hacks
既存事業の経営指標をモバイルの導入前後で比較できる領域から始める



Mobile Marketing Hacks
モバイルに明るい人材をプロジェクトに任用する。社内公募の活用も考える




Mobile Marketing Hacks
システム導入にはモバイルだけでなくマーケティングにも明るい会社を選ぶ




モバイル導入プロジェクトの成功例

(株)キャリアデザインセンターの「女の転職@typeケータイ版」は、女性向けの転職情報ケータイサイトとして2007年3月にサービスインした。PC版の「女の転職@type」に掲載される求人情報をモバイルからも検索できるだけでなく、レジュメ(履歴書)の作成、応募、そのあとの企業との連絡など一連の転職活動をモバイル端末で完結させることができる。オープンから半年でWeb経由での求人応募の実に2割がモバイル経由になっているという。

2006年夏にPC版編集長の清水利恵氏がリーダーとなり「PCサイトでできないことの補完」という目的のもとにプロジェクトはスタートした。もともと女性とモバイルとの親和性に着目し、開設の必要性を思い描いていたところに社長から早期の参入を促された。

サービス開始当初は「モバイルからの応募書類は、PC版と比較して浅薄になるのではないか?」と心配する声もあったそうだが杞憂に終わり、むしろ自己PR欄の記入がよく書けているという発見があった。応募数のアップや応募者の年齢層拡大などの目標を確認できたという。

2007年7月からはメールマガジンの発行をスタートさせ、応募件数増につなげている。PC版と比較してクリック率が高く、今後もっとモバイル版の利用者を拡大していく予定だという。既存サービスにモバイルを活用することで結果を出した好例といえるだろう。

「女の転職@typeケータイ版」(woman.type.jp/)「女の転職@typeケータイ版」(woman.type.jp/


本記事は『Web STRATEGY』2007年11-12 vol.12からの転載です
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