第8回 ケータイ通販は「オフライン動線の最適化」でリピート利用をアップできる - モバイルマーケティング実践Hacks | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第8回 ケータイ通販は「オフライン動線の最適化」でリピート利用をアップできる - モバイルマーケティング実践Hacks

2024.5.11 SAT

【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて
ケータイコンテンツの企画・制作から、ビジネス活用まで
モバイルマーケティング実践Hacks

右)吉田悟美一 (株)イオス 代表取締役社長 url. www.e-o-s.net/ ケータイショッピングモール「ブランドマニア」運営企画・文=中谷健一(写真左)
トリムタブJAPAN(有)代表取締役
モバイルマーケティングコンサルタント
url.www.trimtab.jp/

企画・文=吉田悟美一(写真右)
(株)イオス代表取締役社長
モバイルサイトプラットフォーム『Rockbird』開発・提供。
「ケータイ小説がウケる理由」(毎日コミュニケーションズ新書)
url.www.e-o-s.net/



第8回
ケータイ通販は「オフライン動線の最適化」
でリピート利用をアップできる


店舗などのリアルなシーンを想定したケータイの施策は、サイトの外でのユーザー動線、つまり「オフライン動線」の最適化も重要だ、という話題を前回紹介した。今回はその続編。店舗を持たないケータイ通販事業者でも「オフライン動線の最適化」がメリットをもたらす、というお話を紹介したい。リピーター顧客づくりに有効であるだけでなく、ブルーオーシャン戦略とも符号する。経済情勢が厳しい現在、それらがどれだけメリットを与えるかはあえて語るまでもないだろう。「ちょっとしたケア」の積み重ねが大きな成果となるのだ。


▼▲ケータイ通販の「オフライン動線最適化」を考える▲▼

ケータイ通販サイトにおける
オフライン動線の最適化とは?


ケータイ通販市場は規模を拡大し続けている【1】。しかし『ケータイ白書2009』のデータを見る限り、市場拡大の一方で利用経験者の数は減少している【2】。ブームは一服、利用層がヘビーユーザー化しているのだろう。

ケータイ通販の市場規模(出典:モバイルコンテンツフォーラム「モバイルコンテンツ関連の市場規模」)
【1】ケータイ通販の市場規模(出典:モバイルコンテンツフォーラム「モバイルコンテンツ関連の市場規模」)

【2】ショッピング利用率の推移(出典:impress R&D/MCF2008-2009『ケータイ白書2009』)
【2】ショッピング利用率の推移(出典:impress R&D/MCF2008-2009『ケータイ白書2009』)


ケータイ通販事業者の顧客施策としては、サイトのユーザビリティ改善やメールマガジンが挙げられる。これらが効果的なのはまちがいない。特にメルマガは各社とも売り上げへの貢献度が高く、40~80%がメルマガ経由の売り上げといわれる。しかし、各社が実施しているということはそれだけ戦術が高度化しているということでもある。目の肥えたユーザーを相手に新規顧客開拓をし、他社と同じ武器を使って売り上げを拡大するのは容易ではない。そこで「オフライン動線」が差別化要因として浮かび上がってくる。

ケータイ通販の「オフラインの動線」とは、注文した荷物が顧客の手元に届き、箱を開け、商品を手にし、利用し、リピート購入するまでの動線のことだ。

オフラインでしかできない
サービスの最適化がある


顧客に荷物が届けられてから商品を利用するまでの間に、いったい何ができるだろうか? サイトのようにユーザーの手を引くような誘導は不可能だ。しかし「顧客の満足度を上げる」という視点で、時間軸に沿って利用プロセスとそのインサイト(気持ち)を検証すれば、さまざまな問題点が見えてくるはずだ。これらを改善してサイトへの再来訪やサービスの再利用を促すことができれば、「オフライン動線の最適化」ができたことになる。その効果指標となるのが「リピート利用」だ。

下の各シーンで「利用者が困ること・気になること」「利用者を快適にするための改善施策」を考えてみよう。

シーン1 荷物が届いたとき
シーン2 荷開けしたとき
シーン3 商品確認したとき
シーン4 商品の利用後


それぞれ「最適化」の模範解答があるわけではない。たとえば食品とアパレルでは商品に対するユーザーのとらえ方が異なるし、商品が同じでも返品ポリシーは各社で異なる。企業ごと・取扱商品ごとに施策案は変化するのだ。さらに最適解にたどり着くためには、施策実施コストと獲得メリットの検証も欠かせない。

とはいえ、最適化施策の具体的な例が見えないとイメージが難しいと思うので、ここでは筆者が見聞きした事例をいくつか紹介しよう。


▼▲オフライン動線の最適化が「戦いのない勝利」へと導く▲▼

シーン1の例
「荷姿の最適化」

あるアパレル通販サイトでは、商品配送の段ボールを白色にして透明粘着テープと特注柄付き粘着テープで梱包。顧客の手元に届いたとき「プレゼント」のように見えるよう仕立てた。大受けし、箱を捨てずに収集して部屋に積み上げて楽しむ人まで出現したという。ケータイ通販に特化した事例ではないが、ちょっとした工夫が顧客を喜ばせリピート利用を活性化するという好例だ。

シーン2の例
「サンクスレターの最適化」

ケータイ通販利用者はケータイ利用をいとわない。そこでサンクスレター(商品に同梱する印刷物)にQRコードを印刷し、「商品●万円以上お買い上げの会員様に感謝を込めて、特別セールサイトを立ち上げました。一般会員の皆様にもご案内していない、超スペシャルサイトです」と、誘導。顧客はVIPのような特別扱い気分を楽しみながらお買い物をした。顧客満足度アップとアップセルを同時に実現した事例だ。

シーン3の例
「姿勢説明の最適化」
「顧客窓口動線の最適化」


例をふたつ紹介したい。

まずは変わりダネの「姿勢説明の最適化」。商品を保護するためのクッション材について、資源の無駄遣い、じゃま、廃棄方法がわからない、と不満に感じている顧客は少なくないらしい。そこで「なぜこのクッション材を使っているのか」、「廃棄の方法」といった企業姿勢や配慮をアピール、QRコードから説明サイトへ誘導する方法を取った。企業ブランディングにつながる施策だ。

もうひとつは「顧客窓口の最適化」。返品や不良品交換対応など、カスタマーセンターに問い合わせの多い事柄をQ&AサイトにまとめてQRコードで誘導。ていねいな説明ページは顧客にとっても安心材料になり、企業側は電話やメールなどで個別に説明対応する時間を短縮することができた。

シーン4の例
「利用感想収集の最適化」

これはぜひお勧めしたい施策だ。商品やサービスの利用感想を収集する専用アンケートサイトを用意し、商品送付時にQRコードによる感想投稿手順を書いた小さなチラシを同梱する。ケータイメールを打つのと同じようにメッセージ入力するためだろう、意外に高い確率で、かなり密度の高い本音コメントが集まる(感想投稿者に抽選でプレゼント提供をすると伝えれば回収率はさらに高まる)。

同じことを購入者へのメール送信で代替することもできるが、頻繁に利用するリピート客にはしつこい印象を与えかねない。チラシというオフラインの施策ゆえの気軽さがポイントだ。顧客からのフィードバックはサービスのPDCAサイクル循環を高速化する貴重な財産であり、顧客満足度アップの材料でもある。得られるリターンは計り知れない。

ブルーオーシャン創造と
顧客ロイヤルティアップを両立


サービスのプロセスや要素を個別に分解し、顧客視点からそれぞれの価値を検証するという手法は、実は『ブルーオーシャン戦略』で紹介されている価値曲線の作成手順と同じだ【3】。現状の価値曲線を自社と競合社について作成したのち、

価値曲線の例
【3】価値曲線の例


(1)標準より高めるべき要素は何か
(2)標準より減らすべき要素はないか
(3)だれも提供していない、創造すべき要素とは何か
(4)常識となっている要素のうち取り除くべき要素は何か


という4つの質問によって(すべてを満たす必要はない)、ユニークな価値曲線をつくることができたとき「ブルーオーシャン」を創造することができるとされる。今回紹介した事例の要素は(1)か(3)に対応する取り組みといえるだろう。

ケータイ通販のオフライン動線最適化は、ブルーオーシャンの創造と顧客ロイヤルティ向上を両立させる、いいとこ取りの顧客戦略といえる。大いに取り組む価値があると思うのだが、いかがだろうか。


Mobile Marketing Hacks
ケータイ通販のオフライン動線最適化

・商品到着後のユーザー動線に沿って、利用顧客の満足度をアップする施策を考える
・リピート利用の増加とそれによる財務改善が効果指標
・顧客ロイヤルティアップと同時にブルーオーシャン戦略になる




企業のMobile Marketing Hacksケーススタディ
急成長のケータイコミック市場
プロデュース企業に聞く、その可能性


登場企業
株式会社暁印刷
www.via-hd.co.jp/akatsukiprinting/


株式会社暁印刷
デジタル事業部 部長
田口修吾 氏

モバイルを活用する企業の実例から成功のための「Hacks」を紹介する。第3回目は、市場の成長著しいケータイコミックのプロデュース企業にマーケティング利用の可能性をうかがった。

取材・文=中谷健一(トリムタブジャパン)



ケータイ電子コミック市場が
ここまで急成長した理由


ケータイ用電子コミック市場がケタ違いの成長を続けている。03年度に0.5億円だった市場は毎年倍以上のペースで伸び続け、07年は283億円になった【1】。

2003年から2007年までの平均成長率は200%を超える。驚異的な成長市場だ(出典:電子書籍ビジネス調査報告書)
【1】2003年から2007年までの平均成長率は200%を超える。驚異的な成長市場だ(出典:電子書籍ビジネス調査報告書)


コンテンツビジネスの花形的存在だった音楽・画像系ダウンロード市場がここ数年頭打ちとなり、閉塞感が漂い始めていた中、電子コミック市場の躍進は業界内外の話題をさらっている。出版社やメディア企業など新しいプレーヤーの参入やキャリアのバックアップなどもあり、この市場拡大は今後も続きそうだ。

この急成長の背景と、モバイルマーケティングでの応用の可能性について、電子書籍市場の立ち上げ当初からビジネスプロデュースに携わってきた(株) 暁印刷の田口氏にうかがった。同社は全国で外食サービスを展開する(株)ヴィア・ホールディングス傘下でコンテンツ・プロデュース・カンパニーを目指す印刷会社で、コミックの制作や電子化(オーサリング)、流通エージェント機能を提供する業界屈指の電子出版企業だ。

「ケータイ電子コミックは2004年ごろから急拡大しました。背景は3G端末の普及でダウンロードが容易になったこと。さらにデジタルコンテンツ市場を拡大しようという官民の取り組みの波に乗ったこと。そして著者→版元→取次→コンテンツプロバイダ→読者というコンテンツ流通の仕組みが整備されたこと【2】。現在、大手取次会社が3社あり、そこを通じて約500の販売サイトにコンテンツが提供されています。書店の数が減少する中、コミックを購入できる場所がリアルな場からネット書店へ、ケータイ電子書籍へと移っているというのも追い風でしょう」(田口氏)

コミック流通の仕組み。作品を流通させる「取次」といわれる企業が生まれ、コンテンツ販売が大きく加速した
【2】コミック流通の仕組み。作品を流通させる「取次」といわれる企業が生まれ、コンテンツ販売が大きく加速した


『ケータイ白書2009』によれば、電子書籍(電子コミック)の利用経験者は2008年で22.7%となっている。着うたの54.3%やゲームの39.5%など、ほかの娯楽系コンテンツと比較してもまだまだ伸びしろがあるといえそうだ。このブームを報じるマスメディアなどでは、「BL」=ボーイズラブ(男性同性愛)や「TL」=ティーンズラブ(10代の恋愛)と呼ばれる独特のアダルト系コンテンツが女性ユーザーの人気を集めている、と話題になった【3】。

コンテンツ例。デジタルコンテンツ販売ではアダルト系コンテンツが人気。09年2月からは業界内で過度な表現の規制や未成年者へのフィルタリングの動きも始まっている
【3】コンテンツ例。デジタルコンテンツ販売ではアダルト系コンテンツが人気。09年2月からは業界内で過度な表現の規制や未成年者へのフィルタリングの動きも始まっている


「確かに立ち上がり当初はBL系のコンテンツが多く、女性読者が多かった。しかし最近は男性読者も増えました。構成比はサイトによってかなり差がありますが、登録会員の数をならせば、女性6男性4くらいでしょうか。しかし購入金額は男女半々くらい。女性は毎月の定額料金内で利用するのに対して、男性は追加購入する人が多いんです。最近は最初から男性ターゲットというコンテンツが増えています」(田口氏)

開拓すべき読者は男性だけではない。これまでの中心読者は「ふだんコミックを読まない層」であり、「熱心なコミックファン層」が残っているという。

「コミックとは無関係だった企業が版元(電子出版社)として新規参入していますが、まだ(新規参入の)余地はあります」(田口氏)

すでに出版されたコミックの電子ファイル化がほぼ一巡し、今後は書き下ろし作品が増えていくと指摘する。雑誌とケータイでは人気作品の傾向が異なるため、人気作家とリレーションをもたない新規参入企業にとってもチャンスといえる。また、コミックは国内市場だけでなく海外に対してビジネスを仕掛けられるコンテンツでもある。世界的な第3世代携帯端末の普及期というタイミングにあって、世界市場を見据えたコンテンツの囲い込みや新しいビジネスの開拓がすでに台湾、韓国、中国、香港を中心に始まっているという。

モバイルマーケティングに
電子コミックは有効なのか?


生活者にケータイ電子コミックの利用習慣が広がれば、企業のマーケティングでも積極的に使われるようになるだろう。

「よく企業の商品開発秘話がコミックになってPCや会社パンフレットに載っていますね。目で見る説明書としてコミックは優れています。ケータイ電子コミックでも同様の取り組みが始まっています。もちろん、アダルト系ではありません。ひまつぶしとして読んでもらいながら、企業や商品の理解を深めてもらえる優れたコンテンツだと思います。また、これまで公式サイトに限定されていたコミックビューアソフトが、今後は勝手サイトでも利用できるようになるという背景もあり、もっと伸びていくでしょう」(田口氏)

電子コミックをデジタルノベルティとして活用することもできそうだ。

「調整が必要ですが、人気作家とタイアップして、人気コミック作品の『特別番外編』を描いてもらうというのも不可能ではありません。物語の中に企業の商品を登場させる(プロダクトプレイスメント)など、いろいろな可能性があります。ケータイサイトでしか読めない作品となれば、ファン読者をサイトに誘導する効果も期待できますし、デジタルノベルティとしての話題性も大きいと思います」(田口氏)

暁印刷のようなプロデュース会社が、作家や版元との連絡・交渉などのエージェント業務もこなすという。作家へのアプローチから作品の企画、電子ファイル化から配信サイトの構築まで任せられる体制が整っており、マーケティング活用のための舞台装置は準備完了の状態だ【4】。ケータイ電子コミックがマーケティングのシーンでも大きな広がりを見せていくにちがいない。

電子コミックオーサリングの風景。約50名が1ファイル約80コマ、1.5MBの電子ファイルを月刊約5,000ファイル制作するという
【4】電子コミックオーサリングの風景。約50名が1ファイル約80コマ、1.5MBの電子ファイルを月刊約5,000ファイル制作するという


企業のMobile Marketing Hacks
ケータイ電子コミック活用のHacks

・デジタルコンテンツ販売の新規事業としてのポテンシャルがある
・「見せる説明書」としてオリジナルコミックを制作し活用可能
・人気コミック作家とのタイアップも不可能ではない
・作品プロデュースを請け負うエージェント企業を活用するとよい




本記事は『Web STRATEGY』2009年3-4 vol.20からの転載です
twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在