第9回 ケータイメールのノウハウに学ぶ正しい「サイト接客」の方法 - モバイルマーケティング実践Hacks | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第9回 ケータイメールのノウハウに学ぶ正しい「サイト接客」の方法 - モバイルマーケティング実践Hacks

2024.5.12 SUN

【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて
ケータイコンテンツの企画・制作から、ビジネス活用まで
モバイルマーケティング実践Hacks

企画・文=中谷健一
トリムタブJAPAN(有)代表取締役
モバイルマーケティングコンサルタント
url.www.trimtab.jp/



第9回
ケータイメールのノウハウに学ぶ正しい「サイト接客」の方法


本連載では再三「ケータイマーケティングではメールマガジンの使い方が大切」と書いてきた。たとえばケータイ物販サイトでは、実に4~8割がメルマガ経由でサイト来訪した顧客からの売り上げともいわれるほど。この春、『携帯メルマガで売上を3倍伸ばす方法』という書籍が出版された。そこで紹介されている戦略・戦術は、実戦的でとてもユニークだ。今回は、この本の内容をベースに、ケータイで成功する「接客・ユーザー対応」について紹介したい。


▼▲ケータイメルマガの中に「接客」のコツがある▲▼

ケータイ施策の必須項目
「ケータイメルマガ」配信


最近、ケータイサイトの活性化をしたいという企業の相談をいくつか受ける機会があった。とても意外だったのだが、ケータイメルマガの配信をしていないという。仕事上、さまざまなケータイサイト運営者の話を聞いているが、メルマガはサイトの活性化や収益化に欠かせないエンジンである。勝手サイトはもちろん、有料サイトもメルマガ配信をしていないのなら、まず始めるべきだ。ケータイサイトに安定的に人を誘導するもっとも確実な手段を使わない手はない。

3月に『携帯メルマガで売上を3倍伸ばす方法』(以下、『携帯メルマガ』)という書籍が刊行された【1】。著者の井上久子さんは、アパレル企業のケータイ通販サイトの運営にコンサルタントとして携わり、短期間に劇的な売り上げアップを実現させたという実績をもつ(その実績がタイトルになっている)。同書には、メルマガの基本から応用までの実践ノウハウが網羅されており、モバイルサイトを運営している方にはぜひご一読をお勧めする。筆者は同書を読んで、井上さんと共同セミナーを開催させていただくほどである【2】。今回は、『携帯メルマガ』の内容を下敷きに、成功サイトが意識的に実施している「ユーザー接客」の方法を考察したい。

『携帯メルマガで売上を3倍伸ばす方法』井上久子著(毎日コミュニケーションズ 刊)









【1】『携帯メルマガで売上を3倍伸ばす方法』
井上久子著(毎日コミュニケーションズ 刊)


4/22に「『成功法則』から構築するモバイル戦略セミナー」というテーマで、筆者と井上氏との共同セミナーが開催された(www.trimtab.jp/seminar/)
【2】4/22に「『成功法則』から構築するモバイル戦略セミナー」というテーマで、筆者と井上氏との共同セミナーが開催された(www.trimtab.jp/seminar/


なぜケータイ施策では
メルマガがそれほど重要なのか?


『携帯メルマガ』の著者・井上さんが、通販サイト運営に参加して最初にテコ入れしたのが、メルマガのコンテンツだったという。「会員集客ではなかった」というところがポイントだ。

もともとサイトにはメルマガ会員が一定数いたのだが、アクション率が低かった。そこでメルマガとランディングページのコンテンツを改善するという、地道ながら効果的な方法を選択した。コツコツと毎週メルマガを書きながら、手応えを感じるまで3カ月ほどかかったという。そして6カ月目を迎えるころ、売上金額は約3倍になっていた。会員数アップではなく、会員とのコミュニケーション最適化によって劇的な売り上げアップを果たした。メルマガがケータイ会員にとってどれだけ大きな影響力をもつかを物語る事例だ。ほかのサイトでも有効な手法なのだろうか?

「ケータイのメールはPCのメールと比較すると、とてもプライベートな存在。信頼のないサイトはアクセスしてもらえません。だからこそケータイのビジネスでは、ユーザーとの信頼関係がとても重要になります。そしてその信頼関係の構築に、メルマガが重要な役割を果たすのです」と、井上さんは説く。

PCとは決定的に違う
ユーザー心理の敷居の高さ


そもそもケータイメルマガの申し込み自体、ユーザーにはハードルの高いアクションだ。信頼できるかどうかわからないような運営者にはケータイのメールアドレスを教えたくない。逆にいえば、メルマガ購読にいたる時点で、ユーザーは一定以上の信頼を置いているということになる。その関係をステップに、定期的にメルマガを配信して関係を深めることができる。

このユーザー心理の敷居の高さは、PCのメルマガ購読と決定的に違う点だろう。この関係性を生かすコミュニケーションスキルの有無が、ケータイサイトの成否を決める。実際、成功を収めているサイトには、必ずといっていいほどユーザーへの「接客」に独自のルールがある。

「信頼関係」×「適切な接客」が
ゆっくりと大きなリターンをつくる


ユーザーへの「接客」方法を、この本の中では「おもてなし」と表現している。本を読み進めていくと、メルマガ制作の手引書の体裁を取りながら、実はケータイというメディアを使った「おもてなしのルール」について、多くのスペースが割かれ、語られていることに気づかされる。たとえばこんなくだりがある。

「『売りたい』意識が強まってしまうと、どうしてもお客様は逃げ腰になってしまいます。お客様の日常にすっと入っていって『あ、これいい!』と思ってもらえるのが一番だと思います」(P118)。これはメルマガのノウハウというより、ずばり「おもてなしのルール」である。

著者は通販サイトのリニューアルに際して、メルマガのコンテンツに目をつけた。新しいメルマガがそれまでのメルマガとどう変わったのか?「おもてなしのルール」が変わったのだ。従来のメディアでの「編集方針」と似ている。人気雑誌には人気雑誌の編集方針があるように、ケータイを通じたコミュニケーションにも成功ルールがある【3】。この本はそれを教えてくれる一冊なのだ。

ケータイメルマガ成功のプロセス
【3】ケータイメルマガ成功のプロセス


ケータイメルマガを購読するのに、ユーザーはある種の覚悟を決めなくてはならないというのは、ケータイがそれだけ持ち主に接近した存在だからだ。その近さを逆手に取って、定期的に「おもてなし」を仕掛け、信頼関係を深める。ある程度の時間はかかるが、一度構築された信頼の関係は大きなリターンをもたらしてくれる。「売上3倍」はその証拠の数字だ。メルマガやサイトを通じて具体的にどのように「おもてなし」をすればいいのか? どんな「おもてなしのルール」があるのか? ……それについてはぜひ書籍をご覧になっていただきたい。

「ケータイだからできること」と
「ケータイでもできること」


メルマガを起点にしたユーザーへの「おもてなし」の提供は、ユーザーとの距離が近いケータイだからこそ価値のある戦略といえる。こういう戦術の引き出しが増えれば、ケータイマーケティングはもっと活性化していくだろう。

一方で、キャンペーンエントリーのように、ハガキでもWebでもケータイでもできる、という案件もある。ケータイをマーケティングに利用するとき、この「ケータイだからこそ」と「ケータイでも」の違いをはっきりと意識しておくことが大切だ。

蛇足ながら「ケータイは今ごろメルマガが大事だとか言ってるの? PCのメルマガのブームは過ぎてるけど」といった指摘が上司や周囲から入るかもしれない。PCのメルマガとケータイのメルマガは同じ「メルマガ」でも、スィートスポットがまったく違う。おのずと戦術や戦略も異なる。あとからきたケータイマーケティングは、先行するWebマーケティング経験者の先入観によって、ときにゆがめられることがあることを申し上げておきたい。恐るるべからず。目の前の真実を信じよう。


Mobile Marketing Hacks
ケータイでの「おもてなし」

・ケータイマーケティングの活性化ではメルマガを積極活用する
・メルマガはユーザーを定期的に「おもてなし」して信頼を獲得するために利用する
・信頼獲得のための「おもてなしのルール」と「おもてなしの方法」を定める
・信頼獲得には一定の時間がかかるが、戻ってくるリターンも大きい





企業のMobile Marketing Hacksケーススタディ
ブランディングと顧客戦略に
ケータイを活用するコスメ


登場企業
ボビイ ブラウン
bobbibrown.jp/

エスティ ローダー株式会社
ボビイ ブラウン事業部 事業部長
向井 透 氏

ケータイを活用する企業の実例の中から成功のための「Hacks」を紹介するコーナー。第4回目は、ブランディングと店舗集客、そして顧客戦略にケータイを積極活用するNY発コスメブランド「ボビイ ブラウン」の事例だ。

取材・文=中谷健一(トリムタブジャパン)
取材協力=IMJモバイル



「レッスン」を提供する
コスメブランドの顧客戦略


「ボビイ ブラウン」はNYで生まれたコスメブランドだ。メイクアップアーティストのボビイ・ブラウン氏が提唱する“Be who you are”(ありのままの自分でいること)というフィロソフィのもと、スキンケアからカラーまでの製品をラインアップする。日本には89年に上陸し、百貨店内に31店舗を展開。今年3月26日に国内初の路面店がオープンした。

「お客さまが、ご自身のメイクアップアーティストとなって製品を使えるよう、メイクレッスンをしてさしあげる」(向井氏)というコンセプトのもと、店舗を「スタジオ」、販売スタッフを「メイクアップアーティスト」と呼び、“スタジオでのメイクレッスン”というスタイルをとった接客が特徴だ。レッスン(店舗イベント)の参加は有償だが、同額の製品が提供されるという、ユニークなシステムとなっている(事実上、レッスン費は無料になる)。

同社の顧客戦略は、接客フェイズ──Recruit(新規獲得)、Return(再訪)、Retension(リテンション)と分類され「3R」と呼ばれている──と、コンタクトポイント(店舗、メディア)を通じて、「いかに特徴化ができるか」「“ボビイ ブラウンらしさ”があるか」が、ポイントになるという。広告出稿をせずブランドに興味・関心を持つ顧客向けのコミュニケーションやイベントに注力し、国内の出店数を絞り込んでいるのも「特徴化」戦略の表れだ。

一方で、この戦略が認知の広がりのボトルネックにもなっている。

「雑誌の記事で取り上げてもらう機会はあるものの、そういった露出による認知拡大には限界があります。特徴化を図りながら、メディア露出を少しずつ広げていきたいと考えています」(向井氏)

「らしさ」を保ちながら集客
ケータイを戦略的に活用


昨年3月、ボビイ ブラウンの将来のメディア戦略構築のためにテスト的なキャンペーンを実施した。

「さまざまなキャンペーンツールについて、どのような表現ができるのか、どのチャネルからの来訪者が多いのかといったことを数値評価しようという試みでした。雑誌、Web、ケータイなど全方位のキャンペーンを実施。ケータイはASPを利用してキャンペーン用サイトを作成し、検証に臨みました。結果、ブランドとのコミュニケーションを深めるツールであると判断したのです」(向井氏)

そこからリニューアルプロジェクトがスタートした。IMJモバイル社がパートナーとなって、テストキャンペーンからわずか4カ月後の7月に新サイトが立ち上がった【1】。トップページにFlash画像を配置し、店舗でのイベント情報、Flashによるメイクレッスン、メイクアップアーティストの紹介コラムなどを楽しむことができる【2】【3】。

ケータイサイトのトップページ。女性モデル画像とFlashを利用したメニュー。ブランドの“らしさ”を表現しているとして、社内でも評価が高いという。グローバルのオンラインミーティングで紹介され、海外の拠点からも多数の問い合わせがあったという






【1】ケータイサイトのトップページ。女性モデル画像とFlashを利用したメニュー。ブランドの“らしさ”を表現しているとして、社内でも評価が高いという。グローバルのオンラインミーティングで紹介され、海外の拠点からも多数の問い合わせがあったという


メイクアップアーティストの紹介コーナーでは、アーティストからの一言アドバイスなども見ることができる
【2】メイクアップアーティストの紹介コーナーでは、アーティストからの一言アドバイスなども見ることができる

スタジオ(店舗)紹介ページ。複数のブースが並ぶ百貨店の化粧品売り場で顧客が迷わないようにと、スタジオの写真は大きなサイズで紹介されている
【3】スタジオ(店舗)紹介ページ。複数のブースが並ぶ百貨店の化粧品売り場で顧客が迷わないようにと、スタジオの写真は大きなサイズで紹介されている


「第一段階の目標は“ボビイ ブラウンらしいサイトをつくる”ことでした。ベースとしてクオリティの高いサイトでありながら、アーティストのメッセージ、イベント情報など、つねにユーザーに関心を持って見ていただくことのできるコンテンツをそろえられたのは、Tips(役立つ情報)を多くもつボビイ ブラウンだからこそ、と思います。」(向井氏)

リニューアルによる効果はすぐに表れた。サイト来訪者・メール会員登録者の数がそれまでの数倍に跳ね上がったという。

「リニューアル後、ケータイサイトを見てスタジオイベントに参加した、というお客さまからのフィードバックが聞かれるようになりました。PCサイト経由では見られなかった現象です。ケータイは店舗誘導に効果があります。今後“より多くのお客さまに知っていただく”ことを第二段階の目標として置き、施策を企画しています」(向井氏)

3月26日に表参道にオープンした国内初の路面店では、事前にケータイサイトの会員登録をしてから来店するとサンプル製品をプレゼントするという、リアル連動型のキャンペーンを実施した【4】。ケータイサイト活用戦略は第二段階へとステップアップしたのだ。

3月26日に東京・表参道にオープンしたファッションビル「AO」に開店した、国内初の路面店。事前にケータイサイトで会員登録して来店した先着1,500名に、サンプル品をプレゼントするキャンペーンを展開した
【4】3月26日に東京・表参道にオープンしたファッションビル「AO」に開店した、国内初の路面店。事前にケータイサイトで会員登録して来店した先着1,500名に、サンプル品をプレゼントするキャンペーンを展開した


店舗中心の顧客戦略が
ケータイ活用にも効果的


ボビイ ブラウンのサイトプロデュースを担当するIMJモバイル社と共同して、今後もいくつかのケータイ施策を予定しているとしながらも、「店頭を中心にお客さまと直接コミュニケーションしていくのが、われわれのビジネスのあり方だと考えています。ただケータイにはケータイ上での“ボビイ ブラウンらしいアプローチ”があります。お客さまのニーズを確かめながら進めていきたいと思います」(向井氏)と、店舗中心の顧客戦略を掲げる。逆にこのブレのなさが施策の焦点を絞り込み、結果的にケータイ活用にプラスに働いているように感じられた。


企業のMobile Marketing Hacks
店舗でのケータイ活用のHacks

・ケータイのリッチ表現やコミュニケーション能力は、ブランディングや顧客戦略のツールとして活用可能なレベルにある
・リアル店舗への動員力を活用し、集客のツールとして活用可能
・役に立つノウハウ情報を持つ企業はコンテンツとして提供可能
・ケータイサイトは対顧客だけでなく、対従業員のコミュニケーションツールとしても利用価値がある




本記事は『Web STRATEGY』2009年5-6 vol.21からの転載です


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