第7回 「オフライン動線の最適化」してますか? - モバイルマーケティング実践Hacks | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第7回 「オフライン動線の最適化」してますか? - モバイルマーケティング実践Hacks

2024.5.12 SUN

【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて
ケータイコンテンツの企画・制作から、ビジネス活用まで
モバイルマーケティング実践Hacks

右)吉田悟美一 (株)イオス 代表取締役社長 url. www.e-o-s.net/ ケータイショッピングモール「ブランドマニア」運営企画・文=中谷健一(写真左)
トリムタブJAPAN(有)代表取締役
モバイルマーケティングコンサルタント
url.www.trimtab.jp/

企画・文=吉田悟美一(写真右)
(株)イオス代表取締役社長
モバイルサイトプラットフォーム『Rockbird』開発・提供。
「ケータイ小説がウケる理由」(毎日コミュニケーションズ新書)
url.www.e-o-s.net/



第7回
リアルとの連動が大事とはいうけれど・・・・・・
「オフライン動線の最適化」してますか?


ケータイサイトをマーケティングに活用する企業が増えている。特に飲食やアパレル販売などを中心に小売業の店頭でQRコードやフェリカを使った取り組みをよく目にするようになった。しかし、なかには「ケータイサイトはあまり効果を感じられない」という企業や担当者もいるようだ。そんなときはユーザーの利用データを順を追って確認すればボトルネックが見えてくる、というのがWebの世界のセオリー。ところがケータイの場合、ブラックボックスとなっている領域がある。オフライン、つまりサイト以外でのユーザー動線だ。今回はこの「オフラインのユーザー動線」にスポットを当て、その「最適化」を考えてみたい。


▼▲「集客」と「コンバージョン」。注意が必要なふたつの「オフライン動線」▲▼

飲食店の「事件」に見る
ケータイが抱えるボトルネック


まずは筆者が実際に目にした小さな事件を紹介しよう。

ケータイサイトをアピールする飲食店での出来事。テーブルの上にはQRコード入りのPOPがあり「空メールで会員登録して完了画面を見せると飲み物1杯プレゼント」とうたっている。

隣の席にいた中年の女性が店員に尋ねた。ケータイはよくわからなくて、と操作手順を聞きながら操作。「自動的にメールが届きますので」と店員は接客へ回った。ところがしばらくすると、女性はそわそわし、店員を呼び止めた。
「メールの返信、来ないんだけど?」
「そうですか。少し時間がかかっているのかもしれませんね」
「そうなの?」
ところがその後もケータイは沈黙したまま。とうとう食事を終えてしまいそうだ。店員に対して、怒り口調になった。
「メール、届かないわよ」
「そ、そうですか? おかしいですね。ちょっと、詳しい者に聞いてきます」
「これ、どうなってるの!」
結局メールは届かなかったようだ。店員の計らいで飲み物は提供されたけれど。

おそらく女性のケータイには迷惑メール設定がされていたのだ。しかし店員が適切に判断・案内できなかったばかりに反感を買ってしまった。顧客サービスのためにつくられたサイトが原因でクレームになるとは本末転倒もいいところである。終業時、店員は「ケータイが導入されてから接客時のめんどうが増えた。しかも時々故障してるじゃないか」と言うだろう。二者の話を聞いた経営者が「ケータイサイトは問題が多い」と判断しても不思議ではない。

しかし本当の問題はサイトそのものではなく、店舗内でのユーザー対応を想定・設計しなかったところにある。オフライン(サイトの外)での動線やユーザビリティの悪さが原因ともいえる。ケータイサイトが普及して店舗での活用が増えている現在、Webとリアルとを横断するユーザビリティ設計についてはケアが必要だ。そうとは気づかずに広告費の垂れ流しになるケースもあり得る。

リアル店舗で応用できる
「エントリーフォーム最適化」


EFO(Entry Form Optimization=エントリーフォーム最適化)という言葉を耳にしたことがあるだろうか。エントリーフォームに流入し、(つまり「申し込み」のボタンを押した)ユーザーがフォーム入力ページの途中で離脱・脱落しないようにする取り組みのことだ。EFOが話題にされるのは、その改善効果の高さにある。たとえば広告費1,000万円をかけて2,000人がエントリーフォームに流入し、50%が離脱する(1,000人が登録)という場合【1】、1人当たり獲得単価=CPAは1万円。これを改善して離脱率を40%にできれば登録数は1,200人、CPAは8,333円だ。離脱率10%の改善がCPAを17%引き下げ、コンバージョン数を20%も引き上げる効果となる。

EFO(Entry Form Optimization=エントリーフォーム最適化)はレバレッジによる飛躍的な効果改善が期待できる。同じ効果を広告改善で実現するのは難しい
【1】EFO(Entry Form Optimization=エントリーフォーム最適化)はレバレッジによる飛躍的な効果改善が期待できる。同じ効果を広告改善で実現するのは難しい


EFOはWebマーケティングの概念だが、Webとリアルとを横断するケータイではネット広告からサイトへ、サイトからリアル店舗へとユーザーを誘導するケースが少なくない。店頭にケータイを持って来訪するユーザーのための動線を整理したり、対応マニュアルを整備するなどの「最適化」によって離脱率を改善することで投資効果を大きく高められる可能性がある。

また、飲食店での出来事の例で挙げたように、どこでもだれでもが持って歩くケータイの場合はサイト来訪についても「リアルとサイトの連動」を考慮したユーザー動線最適化を考える必要がある。1カ月平均3万人の来店のある店舗があるとして、その5%を新規にサイト誘導できるとすれば月1,500人の送客となる。ケータイサイトを設置している店舗の多くがショップカードやPOPにQRコードを印刷する程度のプロモーションしかしていないが、改善可能な余地は大いにあるだろう。

ケータイサイト運営では一定のロイヤルティを持ったファンユーザーを1万人程度獲得できるかどうかが勝負の分かれ目といわれる。1万人全員をオンラインで集客できる投資体力のある企業となれば限られるが、リアル店舗などオフラインからの集客ならばQRコードの準備と「お客さまへの声掛け」という習慣だけで相当数を見込むことができる。

オフラインの動線最適化には
「マニュアル」と「ツール」が大切


オフラインの動線最適化は、図【2】にあるように「リアルからサイトへの誘導」と「サイトからリアルへの誘導」のふたつのフェーズがあるが、いずれの場合も重要なのが「マニュアル化」と「ツールの整備」である。

「リアルからサイトへ」には自社アセットの活用、QRコード利用が低コスト高効果。「サイトからリアルへ」では店舗でのランディング方法をサイトで詳しく説明し、不安をなくすことが第一優先
【2】「リアルからサイトへ」には自社アセットの活用、QRコード利用が低コスト高効果。「サイトからリアルへ」では店舗でのランディング方法をサイトで詳しく説明し、不安をなくすことが第一優先


マニュアルはサイト運営チームと店舗チームの情報共有のツールとしても大切だ。サイトの運営はベンダー企業や企業のごく数名で行われるケースがほとんどだが、リアルな店舗のスタッフは数百人、数千人の規模になることもある。またアルバイト人材の出入りが激しいケースもある。サイトの動線や主要な画面遷移などをまとめてドキュメントにする。「よくあるトラブルと対処法」などはリアルタイムで更新しながらFAQコンテンツとしてサイト上に公開するという方法もある。

ツール次第で送客数が変わるのが「リアルからサイトへの誘導」。QRコードや空メール、フェリカ端末などのツールが必須だ。もっとも、設置しておけばよいというものではない。店舗で声をかける、POPとして目立たせる、クイズやゲームで楽しませる、ケータイを通じてお客さまにサプライズを提供する……など、ツールを使ってどのようにサイトへ導入させるか、演出アイデアも含めた最適化を考えたい。

「サイトからリアルへの誘導」のシーンではユーザーを識別するレベルによって必要なツールやオペレーションが大きく異なる。単にケータイクーポンを発行するだけならサイト構築ツールで対応可能だが、それ以上のことを望むならプロに相談したほうがいいだろう。

ケータイでの効果アップは
サイトの改善だけでは望めない


『ケータイ白書2009』によれば2007年から2008年にかけて、ケータイサイトの効果を実感する企業の割合が9ポイントも落ちているという【3】。

ケータイサイトが「効果がある」と感じている企業は昨年調査と比較して9ポイント低下している
【3】ケータイサイトが「効果がある」と感じている企業は昨年調査と比較して9ポイント低下している


ケータイはWebでありながら、使う場所を選ばない。だからこそ利用価値があるのだ。そのためPCのWebではほとんど無視してよかった「オフライン」がケータイでは動線として大きな領域を占めるようになった。今回は誌面の都合で紹介できなかったが、チェックすべき項目は30項目足らず。ひと手間かけてユーザー動線を最適化して、ケータイの効果をぜひ実感してほしいものだ。


Mobile Marketing Hacks
オフラインでのユーザー動線最適化

・サイトとリアルとを横断するユーザー動線整理、ユーザビリティ向上を図る
・「リアルからサイトへ」と「サイトからリアルへ」のフェイズを分けて最適化を考える
・「マニュアル」と「ツール」の整備が重要





企業のMobile Marketing Hacksケーススタディ
商品パッケージのQRコードを
エンゲージメントの起点にする


登場企業
カルビー株式会社
http://www.calbee.co.jp/(PC)
http://m.calbee.jp/(ケータイ)


カルビー株式会社
CRMグループ
二宮かおる 氏

ケータイを活用する企業の実例の中から成功のための「Hacks」を紹介する。第2回目は、ケータイを顧客接点にうまく活用しているカルビーの事例だ。



年間10億袋出荷のパッケージが
ファン顧客とのメディアになる


カルビーでは2006年の8月からケータイサイトの運用を始め、商品パッケージに印刷したQRコードからサイトに集客して効果を挙げている【1】。販促キャンペーンの参加窓口として商品パッケージにQRコードを印刷するのは食品や飲料のマーケティングでは珍しいことではないが、単なる販促用途の活用ではないところに特徴がある。

ケータイの企業サイトトップ。新商品のお知らせ、各製品ブランドサイトへのリンクが並ぶ。商品ごとのキャラクターが親しみを演出する
【1】ケータイの企業サイトトップ。新商品のお知らせ、各製品ブランドサイトへのリンクが並ぶ。商品ごとのキャラクターが親しみを演出する


「じゃがいも丸ごと!プロフィール」というコーナーでは製品パッケージの製造年月日と工場記号で原料のじゃがいもの生産地や生産者名を知ることができる(希望しない生産者については個人名非表示のケースもある)。どの工場でつくられ、だれが生産した原料が使われているかという情報は、商品をぐっと身近にすると同時に、一貫して商品管理されているという安心感を提供してくれる。この情報サービスはPCサイトからも利用できるが、ケータイからのアクセスのほうが約10倍多いという。パッケージのQRコードを手元の携帯電話で撮影して利用しているシーンが想像できる【2】【3】【4】。

製品パッケージのQRコード。このポテトチップスのパッケージには、キャンペーン用のものと「じゃがいも丸ごと!プロフィール」用のふたつのQRコードが印刷されていた(写真のキャンペーンは12月22日で終了。また、ポテトチップスは11月17日より規格が変更となっている)
【2】製品パッケージのQRコード。このポテトチップスのパッケージには、キャンペーン用のものと「じゃがいも丸ごと!プロフィール」用のふたつのQRコードが印刷されていた(写真のキャンペーンは12月22日で終了。また、ポテトチップスは11月17日より規格が変更となっている)

「じゃがいも丸ごと!プロフィール」コーナーはこちらから
【3】「じゃがいも丸ごと!プロフィール」コーナーはこちらから

パッケージに刻印された製造年月日と工場を表す記号を入力すると、生産者の名前が表示される
【4】パッケージに刻印された製造年月日と工場を表す記号を入力すると、生産者の名前が表示される


カルビーが1年間に出荷するパッケージの数は約10億袋。CRMグループのリーダー・二宮かおる氏は「QRコードの印刷されたパッケージは、それ自体がメディアになっている」と指摘する。自社製品からの誘導だから集客コストは無料。しかも「商品購入してくれたお客さまであり、サイト閲覧する積極性を持っている」という条件をクリアした層だけが集まってくる。カルビーは『真のお客様本位』を経営理念として掲げ、商品ロイヤルティの高い顧客とのコミュニケーションを大切にするという方針を打ち出しているが、「QRコードが印刷されたパッケージ」はその層に対するリーチメディアとして見事に機能していると言えるだろう。

そういう視点に立ってあらためてカルビーのケータイサイトを見直すと、販促キャンペーンコンテンツの隣に生産者情報検索サービスや商品ブランドストーリーの紹介、顧客の声を聞くコーナー【5】などの非販促コンテンツが肩を並べていることに気づく。利用者に会員登録を促すなど、製品/企業のファンとの対話機能を充実させているのもなるほどと納得させられる。これら一貫した取り組みは企業ブランド強化につながっていることだろう。

サイトを通じてお客さまの声を拾うだけでなく、寄せられた声をもとにどう対応をしたかを紹介するコーナーが充実している。顧客は自分の声が製品づくりに生かされていることを実感できる。「真のお客さま本位」を感じさせるコンテンツだ
【5】サイトを通じてお客さまの声を拾うだけでなく、寄せられた声をもとにどう対応をしたかを紹介するコーナーが充実している。顧客は自分の声が製品づくりに生かされていることを実感できる。「真のお客さま本位」を感じさせるコンテンツだ


近年、企業と顧客とが信頼関係で結ばれることを「エンゲージメント」と呼び、一種のはやり言葉となっている。「ケータイはエンゲージメント・メディアである」とも言われる。カルビーの事例はまさに「ケータイを通じたエンゲージメント」の好例だ。

アンケート調査ASP活用により
対話コストとクオリティの向上を実現


カルビーでは市場調査でもケータイサイトを積極的に活用している。新製品を地域限定販売して市場反応を調査する場合、従来はパッケージに料金受取人払いのハガキを貼付してアンケート協力を促していた。

「製品パッケージにハガキを貼り付けるのは手作業。またハガキの付いた商品を流通させるには関係者の皆さんに説明してご協力を得る必要がありました。アンケート回収の郵便料金はもちろん、データ集計コストもかかりました。

アンケートフォームをケータイサイト上に設置し、パッケージのQRコードから誘導するようになって、調査はずいぶん楽になりました」(二宮氏)

現在、アンケート調査に利用しているのはプログラミングファスト社(progfast.jp/)のASP「WebSurvey(ウェブサーベイ)」。質問項目を所定のスプレッドシート上で作成してASPサイトに登録するだけで、瞬時にデータベースと回答フォーム(PC版/ケータイ版)が生成される。アンケート設計から調査サイトの立ち上げまでが、驚くほどの短時間で実現できた。自動生成される集計データもわかりやすく、ほとんど二次加工の必要がないという。

「このシステムを調査に利用するようになって、より多くのお客さまに調査ご協力いただけるようになりました。しかも結果のデータを迅速にマーケティング担当に渡すことができます」(二宮氏)

製品パッケージに印刷されたQRコードからアンケートサイトに導入するため、お客さま入力による商品のまちがいを防げる。実際に購入してくれたお客さまだけが調査サイトに来訪するというメリットもある。省力化とコストダウンとスピードアップ、さらには回答品質の向上まで実現できたことになる。

ケータイ活用を実現する
組織横断の取り組み体制


ブランドサイトと企業サイトのポジション分担、販促・ブランディング・顧客コミュニケーション・市場調査の「一挙四得」ともいえる、カルビーの取り組みは理想的なケータイ活用のモデルケースといえる。しかもこれらすべてをASPベースで構築し、開発コストを抑えている。

なるほど、とは思ってもこのようなサイトを実現するのは容易ではない。製品パッケージ面の活用、販促や調査プランとサイトとの連携、顧客からの問い合わせのフィードバックといった取り組みには、関係部署が対等の立場で協力できる体制が必要になる。しかし一般的に企業のサイト構築/運営プロジェクトは製品や販促のチームを「主」とすれば「従」のポジションにあることが多い。そもそも「対等」の関係に立つことが難しい。

カルビーはどのようにしてこのハードルを乗り越えたのだろうか? 第一のポイントはWebやケータイサイトをCRM(お客さま窓口)グループが統括しているという点だ。デジタルメディアをもっとも顧客に近いメディアとしてとらえ、「お客さまにとってどうあるべきか」を中心に企画・運営がなされている。第二のポイントは全社を挙げて「顧客満足の向上」が徹底されていること。その実現が各部署の利益になるという価値観が共有されているのである。結果として顧客フロント機能の充実したサイトプロジェクトができあがった。

ケータイメディアはユーザーとつねに一緒にあるメディアだ。それゆえ表面的な注意喚起のケータイマーケティングは飽きられてしまう。企業としての取り組み姿勢、顧客に対する姿勢そのものが成功の要素たり得るのだ。


企業のMobile Marketing Hacks
-カルビーのHacks-

・自社製品パッケージをメディアとしたケータイサイトへ集客
・商品/企業ロイヤルティを醸成させるコンテンツの提供
・調査でのモバイルASP活用
・部署横断の取り組み体制の構築




本記事は『Web STRATEGY』2009年1-2 vol.19からの転載です
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