ケータイコンテンツの企画・制作から、ビジネス活用まで
モバイルマーケティング実践Hacks
企画・文=中谷健一(写真左)
トリムタブJAPAN(有)代表取締役
モバイルマーケティングコンサルタント
url.www.trimtab.jp/
企画・文=吉田悟美一(写真右)
(株)イオス代表取締役社長
モバイルサイトプラットフォーム『Rockbird』開発・提供。
「ケータイ小説がウケる理由」(毎日コミュニケーションズ新書)
url.www.e-o-s.net/
第6回
古い? いや、新しい!
サイトの成績を左右する
「ケータイ版メールマーケティング」
今回はケータイマーケティングで今もっとも効果的な戦術ツールのHacksを紹介したい。メールマガジンについてのHacksである。「何を今さら?」「メルマガなんて今どき読まれないのでは?」PC-Webでのマーケティングを知る人たちがあきれるのも無理はない。そちら側の世界ではもう語り尽くされ、やれることはやり尽くされている手法だ。しかしケータイでは、とくにECサイトや販促サイトにおいては、PCと比較にならないほど重要なツールとして、あらためて活用方法が見直されている。実は配信の仕掛け方も閲読の常識も違うのだが、灯台もと暗し。ケータイで結果を出すのならメールマガジンは無視できない存在なのだ。
▼▲ケータイのメールマーケティングがPCと決定的に違う理由▲▼
ECサイトでは売り上げは
メルマガ次第で5倍になる
モバイルWebのマーケティング活用について日々さまざまなアイデアが交わされている。まるで無限のバリエーションがあるように思えるが、ケータイの優位性(24時間365日生活者の30cm以内)を生かすという視点に立てば、大きくふたつの活用タイプに分類される。即時アクションの装置としての活用と、中長期的な対話導線としての活用だ。
カタログにQRコードを印刷してほしい商品をすぐに買えるようにする、フェリカタッチからキャンペーンに参加させる、というのは前者の例。ケータイ用メールマガジンを配信してリピート購入を促す、というのが後者の例になる。
たとえばモバイルEC。どちらの方法を取ってもよさそうなのだが、成功しているのは後者の戦略を取るサイトに限定されている。運営者たちの話によれば、検索エンジンからサイト来訪し、即商品購入という(PC-Webでは当たり前の)利用は少数で、およそ売り上げの5割、サイトによっては7~8割がメールマガジン経由だという。
ケータイではメールマガジン活用が大事だと言われるが、活用方法次第で売り上げが5倍も変わる、と聞けば穏やかではいられない。そこにケータイマーケティングのHacksがあると言っていいだろう。
ケータイのメルマガは
どれくらい読まれているのか?
そもそもケータイのメールマガジンはどれくらい読まれているのだろうか?
『ケータイ白書2008』(07年10月の調査:【1】)によると43.1%が「購読している」と回答している。また、別のケータイリサーチでは(08年3月の調査:【2】~【5】)86.1%が「登録したことがある」と回答している。
【1】ユーザー属性を一般的なメディア利用属性に合わせて調整した調査。モバイルのメルマガ購読経験者は半数以下となっている
【2】モバイルでのアンケート調査では9割近くがメルマガの利用経験と回答
【3】4割以上のメルマガを見ている、としたユーザーが3分の2を占める。モバイルメールサービスマガジンの閲覧率は一様に高い
【4】読まないメルマガの条件。迷惑メールではなくても、迷惑メール風のメルマガは読まれないことがわかる
【5】良くも悪くも、メルマガは送信者名でフィルタされてしまう。中長期的なブランディングが大切である理由がここにもある
後者の調査では「どれくらいの割合でメルマガを見るか」という調査もあり、25.6%が「ほぼすべて読む」と回答している。PC用メールマガジンの平均的な開封率が数%と言われることを考えると、この数字はおおよそ10倍高い。
一方で、ひとりのユーザーが購読するケータイメールマガジンの数はさほど多くなく、購読に慎重な様子もうかがえる。興味のなくなったメールマガジンは比較的こまめに購読解除されるようだ。着信時に鳴動する煩わしさが影響していると思われる。購読/解除がほぼ健全に機能するため、購読者数が減少すればすぐ対応策を打つことができる。PCメールマガジンの多くが、開封率を下げながらも永久に購読数を増やし続けるのとは対照的である。
メールマガジンが
ケータイで機能し続ける理由
PC-Webでもかつてはメルマガが爆発的な効果を生んでいた。しかし迷惑メールの激増で「メルマガ=迷惑メール」と認識されるようになると効果は激減。SEOなど検索エンジン活用手法が台頭し、どちらかといえば今は時代遅れのマーケティング手段となってしまった。しかしケータイではキャリアの積極的な取り組みによって迷惑メール配信がほぼ駆逐されており、ユーザーとメルマガとの信頼関係が死んでいない。
また、着信時に鳴動するため、ユーザーのほとんどが着信後すぐにメールをチェックする。これが高い開封率のベースをつくっている。PCの数倍~10倍の開封率によって、コンバージョン率が同じでも結果は大きく変わってくる。数時間後のタイムセールのお知らせが機能するのもこのリアルタイム性のおかげだ。しかしこれらはあくまでケータイがもともと持っている優位性であって、Hacksとは言い難い。
ポイントは「メルマガと連動したランディングページ」と「ユーザー視点のコンテンツ制作」だ。
メルマガで興味を喚起して
ランディングページでクロージング
ケータイにおけるメルマガは「キャッチ」の役割がメインだ。ユーザーの興味を引きそうな話題をちょっとだけ露出して、「続きはリンクをクリック」と持ち込み、詳細はサイトで説明するのが正解だ。言葉遣いや興味をあおる方法や週刊誌の中づり広告や芸能ニュースサイトの見出しが参考になる。より多くの人にアピールするためには、いろんな商品をいろんな切り口で、それぞれ「ちょっとだけ見せる」。自然と1通のメルマガには複数のリンクがぶら下がることになる。
ケータイではHTMLメール(デコメ)のメルマガが主流になってきているが、画像によるアピールに加えて、たくさんのリンクを仕込んでもスッキリ見えるというメリットがある。
メールのリンク先はサイトトップページではなく話題の続きが読めるページ。こういうページをランディング(着地)ページという。興味関心が高まっているユーザーを離脱させず、そのままクロージング(申し込み)までもっていく。この手法はECサイトだけでなく、広く一般的に活用できる手法だ。
何よりも大切なのが
ユーザーが再訪したくなる姿勢
あなたはケータイメルマガを購読しているだろうか? よほど信頼のおけるサイトでないと購読申し込みはしにくいものである。逆読みすれば、ケータイメルマガ読者はある程度ロイヤルティの高い顧客だといえる。読者は、サイトから特別扱いされればうれしいし、ぞんざいに扱われればへこむ。
「皆さん」と呼びかけるよりは「あなた」または「○○さん」としたほうが受けがいいし、「この情報は、先月ご利用いただいた○○さんに、ほかの方より先行してお知らせしています」といった限定情報は喜んでもらえる。メルマガ読者やVIP顧客の特別扱いはどんどん実践すべきだ。そうそう毎週特別企画を立てられないというなら、ほんのひと言、管理人の内緒話やぜひ顧客に教えてあげたいと思った話を教えるだけでもいい。
ケータイメールはほかのどんなメディアよりも親近性を感じさせる効果がある。この特徴を積極的に活用する。
メールを通じたコミュニケーションで「得した」「いい気持ちになった」「このメルマガは来週も絶対見よう」と読者が感じるようになると、活性化しはじめる。毎週1回の配信スパンなら、3カ月程度で開封率やコンバージョン率が見違えて改善されるはずだ。
あまりに思いのままメルマガ読者が反応するので「お客さんを転がしている気分になる」とか「神様になったみたい」と言い出す管理者もいるほど。ケータイのメルマガを味方にすれば、ケータイマーケティングでの成功は難しくない。
Mobile Marketing Hacks
・ケータイメルマガを「キャッチ」として活用し、連動するランディングページでアクションに導く
・ケータイメルマガではユーザー視点に立って満足度を高めるコンテンツを提供する。ほかのユーザーにとは違う「特別扱い」がポイント
企業のMobile Marketing Hacksケーススタディ
担当者が直接サイト制作できる
紙資料と連動するケータイサイト
登場企業
学校法人 大原学園
http://www.o-hara.ac.jp/(PC)
http://o-hara.jp/(ケータイ)
大原学園 広報営業本部
(右)小澤 恵利子 氏
(左)林田 朋子 氏
ケータイを活用する企業の実例の中から成功のための「Hacks」を紹介する。第1回目は、モバイルCMSをフル活用している大原学園の事例だ。
若者層への訴求と
ブランド体験の提供
「資格の大原」として専門学校や社会人向け資格講座を数多く運営する大原学園では2006年からケータイサイトをマーケティングに利用している【1】。
【1】トップページは高校生から社会人までだれもが利用できるように編集されている。『大原クエスト』や『CMソングの着うた』など、ケータイらしいコンテンツはクリックを誘う。しかし、ただ遊ばせて終わるわけではないところがポイント
専門学校部門は高校生を対象とした年1回の募集。一方の社会人講座部門は大学生や社会人を対象として募集は通年で行われている。部門によってマーケティングのターゲットとライフサイクルは異なるが、資格取得という大きな目標をもつ若者が興味をもって資料請求や説明会・相談会に参加し(第一のゴール)、最終的な入学申し込みをする(最終ゴール)というプロセスは同じだ【2】。ケータイ導入以前、第一のゴールへの誘導はパンフレットやチラシなどの紙媒体に大きく依存していたという。
【2】大原学園のマーケティングフロー
「ターゲットとなる若い層の方々に、楽しく、見やすい情報提供の場をつくって興味をもってもらおうと最初は社会人講座部門でサイト運用をスタートしました。チラシ【3】のQRコードから『大原クエスト』というゲームに誘導しました」(小澤氏)
【3】社会人講座用のチラシ。夜間限定の「よるの資料請求」コーナーなど、ユニークなサイト企画をかわいらしいチラシで表現。キャンペーン期間中はRPGゲームをクリアした人にTシャツプレゼントもしていた
『大原クエスト』とは、王国の未来のためにユーザーが勇者・オオハラとなって資格を取得する、というストーリーのRPGゲームだ【4】。静的ページで構成された簡易型RPGだが、懐かしい雰囲気のゲームキャラクターやGIFアニメがムードを盛り上げてくれる。ゲーム中盤からはユーザーが興味ある資格分野を選択して、簡単な腕試しテストとなる。
【4】オリジナルキャラクターまでデザインしたという「大原クエスト」。RPGのテイストの物語展開と資格問題に、思わずハマってしまう
「チラシだけでなく、資料請求をしてくれた方へのごあいさつ状にもQRコードを入れてご案内しています」(小澤氏)
RPGをケータイサイトのキラーコンテンツと位置づけ、講座に興味をもってくれた人に一度体験させるという導線をつくっている。「こういうの、いいな」と感じたユーザーには“フォームによる資料請求”と“メルマガ購読”というエンディングを用意している。
「ゲームの途中でメール登録するという仕組みを導入していることもあってか、メルマガの購読数は右肩上がりに伸びています。現在、簿記・公務員・旅行管理者のメールマガジンを配信し、隔週で問題を出題しています。メールで出題して、正解はケータイサイトで、というスタイルになっています」(小澤氏)
すぐに資料請求に至らなかったユーザーにもメルマガを通じて継続的なマーケティング導線を確保している点は、ケータイ活用の好例だ。
期待が寄せられる
高校生へのケータイ効果
専門学校部門(専門課程)が高校生を対象としたマーケティングにケータイを導入したのは昨年1月から。高校生にとっては「進路」としての学校の検討になるため、授業内容の説明はもっぱらパンフレットが利用される。そこでケータイは資料請求やパンフレットと連動したイベント告知や参加申し込みのなどのツールとして活用されている。
「○月○日からオープンキャンパスが始まります、AO入試が始まります、といった告知や申し込みのツールとして利用しています。
ケータイの特徴はほかのメディアに比べてレスポンスが速いところ。メールでお問い合せをいただいた際には、スピーディーにやり取りができるので、直接話すのと同じぐらい早く親密になります。また、ケータイサイトへ連動させることで、来校促進にもつながります。
『大原クエスト』は高校生にも人気のコンテンツになりうるのではないかと、内容の検討を予定しています」(林田氏)
09年春の入学でその成果が明らかになるといい、期待が寄せられている。
だれでも利用できるCMSが
ケータイ成功のポイント
大原学園のケータイサイトは、サイト構築もメール配信もすべてASPで構築されているのが特徴だ。また、とにかくページ数が多い。トップページからたどれるページのほか、チラシと連動したランディングページも数多くある。きめ細かなサイト運営を実現するための成功ポイントは何だったのだろうか。
「ケータイはPC以上に情報更新の速さが大事だと考え、サイト構築ASPを選択する際、『だれもが使えて、更新できる』というポイントにこだわって十数社の製品を比較して選びました。現在、ケータイサイトについては、約20名の担当者がそれぞれ直接サイト更新をしています」
大原学園はユビキタスビジネステクノロジー社の「MS2」を導入。約20のIDを活用してサイト運用している。きめ細かなコンテンツ運用には導入後のワークフローの設計も含めた検討が必要だ。
「また、システム導入時当初は、メール配信には絵文字が必須、と考えて絵文字に強いASPを導入しましたが実際に運用してみてそれほど重要ではないことがわかりました。メール配信のシステムは見直しをして、もっと利用しやすく、廉価なものに変更する予定です」(以上、小澤氏)
きめ細かなシステム見直しができるようにASP導入している点も成功ポイントと言えるだろう。
企業のMobile Marketing Hacks
・キラーコンテンツを使ったマーケティングの基本導線の構築
・チラシからのランディングページ活用
・「模擬問題」メールマガジンの活用
・担当者が直接サイト運営
本記事は『Web STRATEGY』2008年11-12 vol.18からの転載です
モバイルマーケティング実践Hacks
企画・文=中谷健一(写真左)
トリムタブJAPAN(有)代表取締役
モバイルマーケティングコンサルタント
url.www.trimtab.jp/
企画・文=吉田悟美一(写真右)
(株)イオス代表取締役社長
モバイルサイトプラットフォーム『Rockbird』開発・提供。
「ケータイ小説がウケる理由」(毎日コミュニケーションズ新書)
url.www.e-o-s.net/
第6回
古い? いや、新しい!
サイトの成績を左右する
「ケータイ版メールマーケティング」
今回はケータイマーケティングで今もっとも効果的な戦術ツールのHacksを紹介したい。メールマガジンについてのHacksである。「何を今さら?」「メルマガなんて今どき読まれないのでは?」PC-Webでのマーケティングを知る人たちがあきれるのも無理はない。そちら側の世界ではもう語り尽くされ、やれることはやり尽くされている手法だ。しかしケータイでは、とくにECサイトや販促サイトにおいては、PCと比較にならないほど重要なツールとして、あらためて活用方法が見直されている。実は配信の仕掛け方も閲読の常識も違うのだが、灯台もと暗し。ケータイで結果を出すのならメールマガジンは無視できない存在なのだ。
▼▲ケータイのメールマーケティングがPCと決定的に違う理由▲▼
ECサイトでは売り上げは
メルマガ次第で5倍になる
モバイルWebのマーケティング活用について日々さまざまなアイデアが交わされている。まるで無限のバリエーションがあるように思えるが、ケータイの優位性(24時間365日生活者の30cm以内)を生かすという視点に立てば、大きくふたつの活用タイプに分類される。即時アクションの装置としての活用と、中長期的な対話導線としての活用だ。
カタログにQRコードを印刷してほしい商品をすぐに買えるようにする、フェリカタッチからキャンペーンに参加させる、というのは前者の例。ケータイ用メールマガジンを配信してリピート購入を促す、というのが後者の例になる。
たとえばモバイルEC。どちらの方法を取ってもよさそうなのだが、成功しているのは後者の戦略を取るサイトに限定されている。運営者たちの話によれば、検索エンジンからサイト来訪し、即商品購入という(PC-Webでは当たり前の)利用は少数で、およそ売り上げの5割、サイトによっては7~8割がメールマガジン経由だという。
ケータイではメールマガジン活用が大事だと言われるが、活用方法次第で売り上げが5倍も変わる、と聞けば穏やかではいられない。そこにケータイマーケティングのHacksがあると言っていいだろう。
ケータイのメルマガは
どれくらい読まれているのか?
そもそもケータイのメールマガジンはどれくらい読まれているのだろうか?
『ケータイ白書2008』(07年10月の調査:【1】)によると43.1%が「購読している」と回答している。また、別のケータイリサーチでは(08年3月の調査:【2】~【5】)86.1%が「登録したことがある」と回答している。
【1】ユーザー属性を一般的なメディア利用属性に合わせて調整した調査。モバイルのメルマガ購読経験者は半数以下となっている
【2】モバイルでのアンケート調査では9割近くがメルマガの利用経験と回答
【3】4割以上のメルマガを見ている、としたユーザーが3分の2を占める。モバイルメールサービスマガジンの閲覧率は一様に高い
【4】読まないメルマガの条件。迷惑メールではなくても、迷惑メール風のメルマガは読まれないことがわかる
【5】良くも悪くも、メルマガは送信者名でフィルタされてしまう。中長期的なブランディングが大切である理由がここにもある
後者の調査では「どれくらいの割合でメルマガを見るか」という調査もあり、25.6%が「ほぼすべて読む」と回答している。PC用メールマガジンの平均的な開封率が数%と言われることを考えると、この数字はおおよそ10倍高い。
一方で、ひとりのユーザーが購読するケータイメールマガジンの数はさほど多くなく、購読に慎重な様子もうかがえる。興味のなくなったメールマガジンは比較的こまめに購読解除されるようだ。着信時に鳴動する煩わしさが影響していると思われる。購読/解除がほぼ健全に機能するため、購読者数が減少すればすぐ対応策を打つことができる。PCメールマガジンの多くが、開封率を下げながらも永久に購読数を増やし続けるのとは対照的である。
メールマガジンが
ケータイで機能し続ける理由
PC-Webでもかつてはメルマガが爆発的な効果を生んでいた。しかし迷惑メールの激増で「メルマガ=迷惑メール」と認識されるようになると効果は激減。SEOなど検索エンジン活用手法が台頭し、どちらかといえば今は時代遅れのマーケティング手段となってしまった。しかしケータイではキャリアの積極的な取り組みによって迷惑メール配信がほぼ駆逐されており、ユーザーとメルマガとの信頼関係が死んでいない。
また、着信時に鳴動するため、ユーザーのほとんどが着信後すぐにメールをチェックする。これが高い開封率のベースをつくっている。PCの数倍~10倍の開封率によって、コンバージョン率が同じでも結果は大きく変わってくる。数時間後のタイムセールのお知らせが機能するのもこのリアルタイム性のおかげだ。しかしこれらはあくまでケータイがもともと持っている優位性であって、Hacksとは言い難い。
ポイントは「メルマガと連動したランディングページ」と「ユーザー視点のコンテンツ制作」だ。
メルマガで興味を喚起して
ランディングページでクロージング
ケータイにおけるメルマガは「キャッチ」の役割がメインだ。ユーザーの興味を引きそうな話題をちょっとだけ露出して、「続きはリンクをクリック」と持ち込み、詳細はサイトで説明するのが正解だ。言葉遣いや興味をあおる方法や週刊誌の中づり広告や芸能ニュースサイトの見出しが参考になる。より多くの人にアピールするためには、いろんな商品をいろんな切り口で、それぞれ「ちょっとだけ見せる」。自然と1通のメルマガには複数のリンクがぶら下がることになる。
ケータイではHTMLメール(デコメ)のメルマガが主流になってきているが、画像によるアピールに加えて、たくさんのリンクを仕込んでもスッキリ見えるというメリットがある。
メールのリンク先はサイトトップページではなく話題の続きが読めるページ。こういうページをランディング(着地)ページという。興味関心が高まっているユーザーを離脱させず、そのままクロージング(申し込み)までもっていく。この手法はECサイトだけでなく、広く一般的に活用できる手法だ。
何よりも大切なのが
ユーザーが再訪したくなる姿勢
あなたはケータイメルマガを購読しているだろうか? よほど信頼のおけるサイトでないと購読申し込みはしにくいものである。逆読みすれば、ケータイメルマガ読者はある程度ロイヤルティの高い顧客だといえる。読者は、サイトから特別扱いされればうれしいし、ぞんざいに扱われればへこむ。
「皆さん」と呼びかけるよりは「あなた」または「○○さん」としたほうが受けがいいし、「この情報は、先月ご利用いただいた○○さんに、ほかの方より先行してお知らせしています」といった限定情報は喜んでもらえる。メルマガ読者やVIP顧客の特別扱いはどんどん実践すべきだ。そうそう毎週特別企画を立てられないというなら、ほんのひと言、管理人の内緒話やぜひ顧客に教えてあげたいと思った話を教えるだけでもいい。
ケータイメールはほかのどんなメディアよりも親近性を感じさせる効果がある。この特徴を積極的に活用する。
メールを通じたコミュニケーションで「得した」「いい気持ちになった」「このメルマガは来週も絶対見よう」と読者が感じるようになると、活性化しはじめる。毎週1回の配信スパンなら、3カ月程度で開封率やコンバージョン率が見違えて改善されるはずだ。
あまりに思いのままメルマガ読者が反応するので「お客さんを転がしている気分になる」とか「神様になったみたい」と言い出す管理者もいるほど。ケータイのメルマガを味方にすれば、ケータイマーケティングでの成功は難しくない。
Mobile Marketing Hacks
・ケータイメルマガを「キャッチ」として活用し、連動するランディングページでアクションに導く
・ケータイメルマガではユーザー視点に立って満足度を高めるコンテンツを提供する。ほかのユーザーにとは違う「特別扱い」がポイント
企業のMobile Marketing Hacksケーススタディ
担当者が直接サイト制作できる
紙資料と連動するケータイサイト
登場企業
学校法人 大原学園
http://www.o-hara.ac.jp/(PC)
http://o-hara.jp/(ケータイ)
大原学園 広報営業本部
(右)小澤 恵利子 氏
(左)林田 朋子 氏
ケータイを活用する企業の実例の中から成功のための「Hacks」を紹介する。第1回目は、モバイルCMSをフル活用している大原学園の事例だ。
若者層への訴求と
ブランド体験の提供
「資格の大原」として専門学校や社会人向け資格講座を数多く運営する大原学園では2006年からケータイサイトをマーケティングに利用している【1】。
【1】トップページは高校生から社会人までだれもが利用できるように編集されている。『大原クエスト』や『CMソングの着うた』など、ケータイらしいコンテンツはクリックを誘う。しかし、ただ遊ばせて終わるわけではないところがポイント
専門学校部門は高校生を対象とした年1回の募集。一方の社会人講座部門は大学生や社会人を対象として募集は通年で行われている。部門によってマーケティングのターゲットとライフサイクルは異なるが、資格取得という大きな目標をもつ若者が興味をもって資料請求や説明会・相談会に参加し(第一のゴール)、最終的な入学申し込みをする(最終ゴール)というプロセスは同じだ【2】。ケータイ導入以前、第一のゴールへの誘導はパンフレットやチラシなどの紙媒体に大きく依存していたという。
【2】大原学園のマーケティングフロー
「ターゲットとなる若い層の方々に、楽しく、見やすい情報提供の場をつくって興味をもってもらおうと最初は社会人講座部門でサイト運用をスタートしました。チラシ【3】のQRコードから『大原クエスト』というゲームに誘導しました」(小澤氏)
【3】社会人講座用のチラシ。夜間限定の「よるの資料請求」コーナーなど、ユニークなサイト企画をかわいらしいチラシで表現。キャンペーン期間中はRPGゲームをクリアした人にTシャツプレゼントもしていた
『大原クエスト』とは、王国の未来のためにユーザーが勇者・オオハラとなって資格を取得する、というストーリーのRPGゲームだ【4】。静的ページで構成された簡易型RPGだが、懐かしい雰囲気のゲームキャラクターやGIFアニメがムードを盛り上げてくれる。ゲーム中盤からはユーザーが興味ある資格分野を選択して、簡単な腕試しテストとなる。
【4】オリジナルキャラクターまでデザインしたという「大原クエスト」。RPGのテイストの物語展開と資格問題に、思わずハマってしまう
「チラシだけでなく、資料請求をしてくれた方へのごあいさつ状にもQRコードを入れてご案内しています」(小澤氏)
RPGをケータイサイトのキラーコンテンツと位置づけ、講座に興味をもってくれた人に一度体験させるという導線をつくっている。「こういうの、いいな」と感じたユーザーには“フォームによる資料請求”と“メルマガ購読”というエンディングを用意している。
「ゲームの途中でメール登録するという仕組みを導入していることもあってか、メルマガの購読数は右肩上がりに伸びています。現在、簿記・公務員・旅行管理者のメールマガジンを配信し、隔週で問題を出題しています。メールで出題して、正解はケータイサイトで、というスタイルになっています」(小澤氏)
すぐに資料請求に至らなかったユーザーにもメルマガを通じて継続的なマーケティング導線を確保している点は、ケータイ活用の好例だ。
期待が寄せられる
高校生へのケータイ効果
専門学校部門(専門課程)が高校生を対象としたマーケティングにケータイを導入したのは昨年1月から。高校生にとっては「進路」としての学校の検討になるため、授業内容の説明はもっぱらパンフレットが利用される。そこでケータイは資料請求やパンフレットと連動したイベント告知や参加申し込みのなどのツールとして活用されている。
「○月○日からオープンキャンパスが始まります、AO入試が始まります、といった告知や申し込みのツールとして利用しています。
ケータイの特徴はほかのメディアに比べてレスポンスが速いところ。メールでお問い合せをいただいた際には、スピーディーにやり取りができるので、直接話すのと同じぐらい早く親密になります。また、ケータイサイトへ連動させることで、来校促進にもつながります。
『大原クエスト』は高校生にも人気のコンテンツになりうるのではないかと、内容の検討を予定しています」(林田氏)
09年春の入学でその成果が明らかになるといい、期待が寄せられている。
だれでも利用できるCMSが
ケータイ成功のポイント
大原学園のケータイサイトは、サイト構築もメール配信もすべてASPで構築されているのが特徴だ。また、とにかくページ数が多い。トップページからたどれるページのほか、チラシと連動したランディングページも数多くある。きめ細かなサイト運営を実現するための成功ポイントは何だったのだろうか。
「ケータイはPC以上に情報更新の速さが大事だと考え、サイト構築ASPを選択する際、『だれもが使えて、更新できる』というポイントにこだわって十数社の製品を比較して選びました。現在、ケータイサイトについては、約20名の担当者がそれぞれ直接サイト更新をしています」
大原学園はユビキタスビジネステクノロジー社の「MS2」を導入。約20のIDを活用してサイト運用している。きめ細かなコンテンツ運用には導入後のワークフローの設計も含めた検討が必要だ。
「また、システム導入時当初は、メール配信には絵文字が必須、と考えて絵文字に強いASPを導入しましたが実際に運用してみてそれほど重要ではないことがわかりました。メール配信のシステムは見直しをして、もっと利用しやすく、廉価なものに変更する予定です」(以上、小澤氏)
きめ細かなシステム見直しができるようにASP導入している点も成功ポイントと言えるだろう。
企業のMobile Marketing Hacks
・キラーコンテンツを使ったマーケティングの基本導線の構築
・チラシからのランディングページ活用
・「模擬問題」メールマガジンの活用
・担当者が直接サイト運営
本記事は『Web STRATEGY』2008年11-12 vol.18からの転載です