第5回 コミュニケーションのアンテナとしてケータイサイトを活用するには - モバイルマーケティング実践Hacks | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第5回 コミュニケーションのアンテナとしてケータイサイトを活用するには - モバイルマーケティング実践Hacks

2024.5.11 SAT

【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて
ケータイコンテンツの企画・制作から、ビジネス活用まで
モバイルマーケティング実践Hacks

右)吉田悟美一 (株)イオス 代表取締役社長 url. www.e-o-s.net/ ケータイショッピングモール「ブランドマニア」運営企画・文=中谷健一(写真左)
トリムタブJAPAN(有)代表取締役
モバイルマーケティングコンサルタント
url.www.trimtab.jp/

企画・文=吉田悟美一(写真右)
(株)イオス代表取締役社長
モバイルサイトプラットフォーム『Rockbird』開発・提供。
「ケータイ小説がウケる理由」(毎日コミュニケーションズ新書)
url.www.e-o-s.net/



第5回
コミュニケーションのアンテナとして
ケータイサイトを活用するには

今回は「ユーザーと企業との対話窓口」としてのモバイル活用Hacksを紹介したい。
「Webを通じたユーザーとの対話」と聞くと、ついカスタマーサービスや企業ブログなどを思い浮かべてしまうかもしれない。しかしケータイの場合、特別な対話場所を設置しなくてもいろいろなコメントが集まってくると多くのサイト管理者が口をそろえる。昨年話題となったケータイ小説のブームの中でも、人気作品には「読者との対話」があったと言われている。モバイルマーケティング市場が、ケータイ独特の特長を生かすことで伸びていくとするなら、サイト利用者から発信される「上り」の情報収集・活用は、企業がケータイサイトを設置する本命理由になっていくと思われる。


Q1→
ユーザーとの対話よりも売り上げを上げることが大事ではないか?
そもそも、ユーザーの声に耳を傾けて何か利益になるのだろうか?


A1←
ユーザーとの対話が売り上げをつくることもある。また対話によってユーザーの信頼を獲得したサイトは中長期的なリターンが大きい。

ケータイサイトにはロイヤリティを高める効果がある?
ユーザーとの対話用のサイト、というとカスタマーセンター窓口やブログ、あるいはSNSなどが思い浮かぶかもしれない【1】。

【1】企業がユーザーと対話する方法のバリエーション
【1】企業がユーザーと対話する方法のバリエーション


しかし、特別な対話の場を用意しなくてもケータイサイトはなぜかユーザーからの声が集まりやすいと、多くのサイト運営経験者が指摘する。特別な呼びかけをしているわけでもないのに運営者アドレスに感想コメントが寄せられたり、プレゼント応募時の自由コメント欄に利用感想やメッセージが延々とつづられるなどのケースが多いという。人気サイトでは特に顕著で、雑誌やミニコミ、PCサイトなど、ほかのメディアと比較してみても突出している。

この現象について直接裏づけとなるような調査データは残念ながら見つからない。だが、国際大学のPhilip Sugai教授らは、ケータイサイトの利用者はPCと比較して特定のサイト利用に偏る傾向があり、サイトへのロイヤリティを高めやすいとする研究成果を発表している*。

サイトに寄せられるコメント数の多さは、ロイヤリティの証明ともいえる。

* Differences in consumer loyalty and willingness to pay for service attributes across digital channels:
the case of Japanese digital content market Donghun Kim / Philip Sugai
(portal.acm.org/citation.cfm?id=1280990)

ケータイを活用してレバレッジ・コミュニケーション
ケータイをマーケティングに活用をするのであれば、このユニークな特徴を利用しないのはもったいない。そこで、「ユーザーとの対話メディア」としての活用をお勧めしたいのである。

卑近なたとえ話になってしまって恐縮なのだが、人と人とのお付き合いの距離を縮めるためにお酒を利用するのと似ているのではないかと思う。お酒は相互の緊張を解き、舌の滑りをよくする働きがある。それによって本音のコミュニケーションを引き出し、信頼や関係性を向上させるための時間・プロセスを短縮することができる。同じようにケータイWebにはユーザーのロイヤリティを高め、しゃべり上戸(コメント上戸)にする力があるのだ。この働きを活用して企業とユーザーとのコミュニケーションにレバレッジをかけられる、というわけである【2】。

【2】ケータイサイトによる対話は、信頼関係を向上させるための時間やプロセスを短縮させる
【2】ケータイサイトによる対話は、信頼関係を向上させるための時間やプロセスを短縮させる


ある女性向けのケータイECサイトでは、一方的な格安商品情報のお知らせ中心だったメールマガジンとサイトの内容をリニューアルし、購読会員とのコミュニケーション構築に軸足を置いたコンテンツにシフトさせた。結果、リニューアルから3カ月で売り上げを約3倍に伸ばしたという。「告知→販売」のプロセスを「対話→販売」に変更【3】。まず最初に対話によってユーザーロイヤリティを獲得し、次いで売り上げアップへと導くことができたという例だ。ユーザーとの対話コンテンツから導かれる商品販売サイトがあれば、売り上げへの貢献も大きいのである。

【3】ユーザーに対するコミュニケーションのプロセスを変更する
【3】ユーザーに対するコミュニケーションのプロセスを変更する


企業がユーザーとの対話コストを支払っている例は枚挙にいとまがない。企業ブランディング費、商品広告・宣伝費、EC商品のセールスライティング、カスタマーセンター、また調査開発部門のユーザー調査などもそうだ。これらはいずれもケータイを活用することで、コストダウンできる余地があるのではなかろうか。

寄せられたユーザーの声には、企画や商品で応えるのが基本
サイトでユーザーの声をどう集め、それらをどう処理し、それにどのように対処するのがよいか、実践ノウハウを紹介しよう。

まずは集め方だ【4】。「ケータイサイトはユーザーからの声が集まりやすい」と紹介したが、何もしないで待つよりは網を張っておいたほうがはるかに効率的である。

【4】ケータイサイトへのユーザーの声の集め方の方針例
【4】ケータイサイトへのユーザーの声の集め方の方針例


サイトの編集方針としてユーザーとの対話重視姿勢を明確にするだけで、ユーザーの対応も変わってくる。

ユーザーとのコミュニケーションを重視する方向に切り替えて売り上げを伸ばしたECサイトの例では、メルマガやサイト上でショップ店員の名前を明らかにし、どういうこだわりをもっているかなどキャラクターを前面に押し出すところからスタートした。サイトに寄せられるユーザーの声をメールやサイト内で紹介するのも効果がある。

SNSやマイページ日記のシステムが導入できれば活用したい。ユーザーが自由にコメントを書くための場所を提供するため、ユーザーに書きグセをつけられるし、意見聴取の専用コミュニティを設置することで書き込みの心理的抵抗感を低くする効果がある。ただしユーザー参加型コンテンツの仕組みを導入する場合は、一定数以上の参加者がいないと「閑散としている」印象をつくってしまうので、集客施策とセットで考えよう。

次に、集まった声をどうするか【5】。基本的にユーザーからの声を対応担当者だけのものにしないことが重要だ。ユーザーコメントの処理は製品開発作業なのである。

【5】集められたユーザーの声の整理方針例
【5】集められたユーザーの声の整理方針例


ユーザーの声をまとめる担当には、たくさんのユーザーコメントの中から本質的な問題やニーズが何なのかを読み取る課題抽出能力や仮説設定能力が問われる。サイト開発者や商品・サービス開発者が兼任し、集まったコメントが開発の「ネタ」として生かされればすばらしい発展を遂げるようになるだろう。

集まった声にどう対応していけばよいか【6】。そもそも寄せられた声に対する回答がなければ「対話」にならない。

【6】集められた声への対応方針例
【6】集められた声への対応方針例


しかし、サイトから寄せられた声に対してひとつひとつ個別に応えられるだけのスタッフを擁する企業は少ないだろう。基本的にはサイト内の企画や商品・サービスの改善を通じて応えるのが望ましい。

ユーザーの声が尊重され、サイトや製品・サービスづくりに生かされることがユーザーのロイヤリティをいっそう高め、より積極的な情報フィードバックが寄せられるようになる。この対話スパイラルがサイトや商品・サービスを強化するのだ。


Mobile Marketing Hacks
・ユーザーのロイヤリティ獲得
・ユーザーの声の収集にケータイを活用する
・ユーザーの声をサイトや商品の開発に活用する体制をつくる
・声に対してはサイトの企画や商品
・サービスの改善で回答するのが基本形




Q2→
ユーザーとの対話は商品・サービス提供に限定した対話ではないか?
コンテンツ提供サイトでも必要だろうか?


A2←
コンテンツの分野でもユーザーとの共創がヒットを生んでいる。また、クロスメディアとして新しいビジネスをつくり上げている。

「ケータイ小説」の成功事例に学ぶ!
著者(吉田)は先日、「ケータイ小説がウケる理由」という書籍を上梓した。ケータイ小説のヒットの仕組みをひもとくと、そこにケータイメディア活用のヒントが見えてくるという内容だ。

その中でも特に重要なポイントが、ケータイを介した著者と読者のコミュニケーションだ。人気のケータイ小説は、著者からの一方的なコンテンツ提供ではなく、読者との対話によって生まれたという経緯をもつ。

ケータイ小説はユーザー参加コンテンツ
作品が映画化されたこともあり、話題に上る機会の多いケータイ小説。「恋空」や「赤い糸」など書籍化された作品が昨年度のベストセラー上位を独占した。その過激な内容ばかりが注目されがちだが、ケータイ小説はそもそもケータイ端末からサイトの参加ユーザーによって書かれ、ケータイ端末で読まれているケータイコンテンツだ【7】。電子書籍と決定的に違うのは、ユーザーによってケータイで執筆されているという点である。

【7】ケータイ小説はケータイ端末からサイトの参加ユーザーによって書かれ、読者であるユーザーにケータイ端末で読まれている
【7】ケータイ小説はケータイ端末からサイトの参加ユーザーによって書かれ、読者であるユーザーにケータイ端末で読まれている


「恋空」はその代表作といえる作品だ。作品へアクセスした人数は前後編合わせ延べ約3,900万人。書籍化した本の販売数はシリーズ全体で409万部にも上る。これだけでもものすごい数字だが、ケータイ小説のヒット作品はこれだけではない。人気作品は現在も続々と書籍化されている。数十万部のベストセラーとなっている作品はひとつやふたつではないのだ。

この作品群を生み出しているのは、月間33億ページビューを超えるケータイの無料ホームページ作成サービス『魔法のiらんど』である。その人気サービスのひとつ「だれでもケータイで小説を執筆・配信できる機能-BOOK機能」がケータイ小説提供のプラットフォームだ。このサービスを利用するユーザーの作品数は100万タイトルを超えるという。100万人のケータイ小説家がいるというわけだ。

中心になるユーザー層は、ケータイも書籍も女子中高生。人気作品は「コレ読んでみて、泣けるから」と、ケータイメールによる圧倒的な口コミ力で伝染される。人気作品は女子中高生ならだれもが知っているというくらいの勢いだ。ケータイ小説は、ケータイの特性を生かしたユーザー参加型コンテンツの成功事例なのだ。

ケータイ小説書籍はユーザーと共創してできあがった商品
ここで注目してほしいのは、コンテンツとしてのケータイ小説と書籍の関係だ。単なるユーザー参加コンテンツの形にとどまらず、書籍という副産物を生み出している。

ケータイ小説はまずケータイ端末で発表され、ケータイ端末を介して閲覧するユーザーたちによって作品が支持される。その中で、特に人気の高い作品が書籍化されベストセラーとなっているのだ。

自伝的なストーリーをたどたどしく書き始めた作者に共感する読者が口コミで集まり始め、作品が完結するまでの間、読者たちは応援したり励ましたりしながら、作品づくりに参加していく。できあがった作品は、読者にとっても「自分の作品」になる。もちろん作者側も読者の反応や意見を参考にしながらストーリーを展開させていく。共感する読者が増えていくことで、おそるおそる発信し始めた自身の言葉に、次第に自信を持ちつつ作品を書き上げる。そして作者と読者が共創してつくり上げた作品となる。そういった経緯でできた作品、さらに書籍化したケータイ小説本は「共創された商品」なのである。

書籍化された作品は、配信時に読んでいたユーザーたちが記念に買うケースが多いという。ユーザーたちは自分たちの商品を手に入れ、さらに「自分の作品」である作品の良さを第三者に伝えていく。

ケータイに埋もれたユーザー中心のマーケティングのヒントを掘り出そう
興味深いのは、ケータイ小説のブームが「本離れしている」といわれていたティーン層を確実に本屋さんに動員したという点だ。ケータイ小説発信の書籍がベストセラーになったことで、マーケティングの方法次第で若年層にも書籍が売れる可能性を示したのだ。これを裏返せば、従来の書籍プロモーションの手法がこの層に対してすでに無力化していたことを皮肉にも証明してしまったといえる。

このモデルに学び、ケータイを介したユーザーとの新しいコミュニケーションやマーケティング方法を見つけ出せる可能性があるのではないだろうか。

「もう若い人は見向きもしない」といわれるようなブランドや商材、コンテンツを、ケータイをテコにし、ユーザーとの対話をジャンプ台にしてリフレッシュさせることはできないだろうか?

ケータイWebは、ユーザー中心のマーケティングの手法やチャネルを見つける鍵でもある。まだだれも知らない次世代のマーケティング方法がそこから生まれるかもしれない。

余談になるが、とある企業の社長は人気ケータイSNSに参加し、自分がこれからしかけようとしている商材について、ほかのSNS参加者がどのように感じるかを直接聞いているという。自分の日記ページに課題となる事柄を書いたあとに、SNS参加者のページを次々と訪問して「足跡」をつけて回るのだそうだ。このようなアクションをするだけで日記にコメントが残り、簡単なユーザー調査が完了するのだという(PCのSNSでは考えられないケータイ独特の饒舌さがここでも活用されている)。

自社ケータイサイトを持たなくても、ユーザー参加型のケータイサイトを通じてユーザーとの対話を実現することだって可能なのだ。このようなユーザー調査手法も、「ケータイが生んだ」新しい可能性のひとつだ。あなたはケータイの中から、どんなマーケティングの可能性を見つけ出すだろうか?


Mobile Marketing Hacks
・ケータイ小説のヒットのケースに学ぶ
・ユーザーが主体になるサービスこそケータイの本領を発揮する




Mobile Marketing Hacks
ケータイSNSの日記と足跡の機能を使ってユーザー調査を実施する




本記事は『Web STRATEGY』2008年5-6 vol.15からの転載です


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