今回はコミックス『恋質屋/光橋あづみ(原作)、芝田わん(作画)』のフォントをご紹介。本記事はデザイン構成において重要な「フォント」の選定プロセスや加工方法を、貴重なプロの実例から紐解いてデザイン制作に役立てる連載です。
作品世界に合わせクラシカルでミステリアスな印象の文字に
とある高校を舞台に、モノではなく“感情”を質草に金を貸す不思議な質屋と、その質屋を利用する生徒たちのさまざまな物語を描いた漫画『恋質屋/光橋あづみ(原作)、芝田わん(作画)』。“お金を貸す”という生々しいやりとりを扱いながらも、重苦しくない軽やかな読み口でエンターテインメント性のある作品に仕上げられている。
表紙カバーでは、その作品のミステリアスな世界観やレトロモダンな雰囲気が、硬質さと軽やかさが同居した美しいメインイラストや、個性的かつエレガントなタイトルロゴ、セピアを基調とした配色などで表現されている。
Font.01「オリジナル」
ゆったりとした印象とシャープさを兼ね備えた文字に
タイトルロゴは、作品の世界観に合わせてシンプルで明るい印象の「漢字タイポス48」(タイプバンク)に長体をかけたものをベースに新しく作り起こされた。下図はその制作工程。タイトルのレトロモダンな語感を表現するためところどころに大きなカーブを作ってゆったりとした印象を持たせたり、ライトサスペンス風な作品内容を想起させるためシアーやエッジの鋭角的な処理、ランダムな斜線のヌキなどでシャープなイメージを持たせるなどの工夫が施されている。
Font.02「Edwardian Script ITC」
タイトルロゴに合わせて優雅な雰囲気の欧文書体に
透け感のある英字表記「Koi Shichi Ya」部分の文字は、流麗なスクリプト体「Edwardian Script ITC」(ITC)に。タイトルの持つクラシカルなイメージを強調するため、優雅な雰囲気を持つ書体が選択された。
Font.03「筑紫Cオールド明朝 E」
クセのある書体で生々しい感情を表現
タイトルの読みがな部分は、流れるような運筆が印象的な「筑紫Cオールド明朝」(フォントワークス)に。「恋質屋」という言葉が持つ和の雰囲気や、作中の生々しい感情をイメージさせるため、個性的で味わいのあるオールドスタイルの明朝体がチョイスされた。白抜き文字にしたときの可読性を意識してウェイトは「E」が選択されている。
Font.04「筑紫Aオールド明朝 M」
レトロモダンでシャープなタイトルロゴと調和する書体に
英文のキャッチコピー部分は、表情豊かで美しいオールドスタイルの明朝体「筑紫Aオールド明朝 M」(フォントワークス)の従属欧文に。その「Garamond」系のデザインが、レトロモダンな雰囲気とシャープさを併せ持つタイトルロゴとバランスよく調和するため選択された。
2021.04.16 Fri2021.09.03 Fri