今回は書籍『成金商家物語 ~ツンデレおじさんは美人な年下女性をイヤイヤ娶る~/江本マシメサ』の使用フォントをご紹介。本記事はデザイン構成において重要な「フォント」の選定プロセスや加工方法を、貴重なプロの実例から紐解いてデザイン制作に役立てる連載です。
絵柄とギャップのあるデコラティブな文字で作品世界を印象深く表現
容姿凶悪で何かと悪い噂のつきまとう宝石商のアルフォンソと、彼のもとに嫁いできた美女メルセデスの関係を描いたファンタジーラブコメ『成金商家物語 ~ツンデレおじさんは美人な年下女性をイヤイヤ娶る~/江本マシメサ』の表紙カバー。
元騎士という異色の肩書を持つクールな美人妻がいかつい顔の中年男性をお姫様抱っこしているという強烈なインパクトのイラストや、「暑苦しさ」と「可愛らしさ」のギャップを意識した少女漫画風のデコラティブなタイトル文字などで、作品のユニークな世界観が印象的に表現されている。
Font.01「DFPロマン輝白抜W9」
デコラティブな書体で装画に負けないインパクトを
メインタイトルの文字は、大正時代の伝統的な明朝体をベースにヨーロッパ風の装飾を取り入れた「DFPロマン輝白抜W9」(ダイナコムウェア)に。当初は作品の舞台を意識して海外翻訳文学を想起させる異国感のある書体が検討されたが、馴染み過ぎて面白みに欠けてしまうと判断。
そこで装画が持つインパクトや、タイトルの「成金」、「商家」などの言葉が持つ語感を生かすことを重視し、あえてビジュアルに馴染まない装飾過剰でいささかキッチュな印象を持つ書体が選ばれた。おじさんが主人公なのに少女漫画のタイトルに見える違和感を演出するのも狙い。
なお、同書体のバリエーションとして通常の黒塗り書体「DFPロマン輝W9」(ダイナコムウェア)もあるが、タイトルの文字サイズで使用すると印象が強くなり過ぎてしまうため、装画と組み合わせた際の抜け感やバランスのよさを留意して白抜き書体が選択されている。
Font.02「筑紫アンティークLゴ B」
表情豊かな筆致のゴシック体を選択
サブタイトルの文字は、金属活字や写植文字の伝統を受け継ぎながらも現代的な新しさのある「筑紫アンティークLゴ B」(フォントワークス)に。「ツンデレおじさん」を表すような強いゴシック体のなかでも、筆致がたおやかで抑揚があり、語りかけるようなニュアンスを出せるため選択された。あえて詰め詰めに組んで「暑苦しさ」のようなものを強調する工夫もされている。
Font.03「Rockwell Regular」
おじさんのイメージで正統派のスラブセリフ体を選択
欧文の著者名やタイトルの文字は、縦画と横画の太さが同じで可読性の高いスラブセリフ体「Rockwell Regular」(Monotype)に。主人公の「おじさん」が持つ強さやゴツさ、暑苦しさなどを表現するため、力強く正統的な書体が選択された。和文にファンシー系の書体を選んでいるため、あえてトラディショナルな書体でアクセントをつけるのも狙い。
2021.07.21 Wed2021.09.27 Mon