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物語のある、ニューフェイスな文房具

2020.03.10 Tue

4番目の物語

もったいないをカッコイイに変える革製ノート。イリモノデザイン製作所「裏紙ノート」

取材・文:沼田佳乃 撮影:YUKO CHIBA

京都造形芸術大学の非常勤講師であり、「イリモノデザイン製作所」を立ち上げた岡本
さんが作る「裏紙ノート」。裏紙を使うことが「カッコイイ」と思える、アップサイクル
を意識した素晴らしい文具です。このノートを思いついたきっかけは……?

裏紙を使いたくなる、シンプルで洗練された革製ノート

京都造形芸術大学の非常勤講師でもあり、「イリモノデザイン製作所」を立ち上げた岡本さんが手掛ける「裏紙ノート」。アップサイクルを意識した文具で、普段処分してしまう、こっそり使うような裏紙をかっこよく使用できるのがポイント。革製のカバーに挟むだけで、自分だけのアイデアノートに。使えば使うほど革が馴染むので、愛着も持って使い続けることができるはず。

尊敬する恩師からインスピレーションを受けて

「イリモノデザイン製作所」を立ち上げ、商品の設計も自ら行う岡本さんにお話を伺いました。

──裏紙ノートを思いついたきっかけを教えてください。

岡本 私が学生として京都造形芸術大学に在籍していたころの話です。尊敬する先生が、普段から裏紙をきれいに切って揃えたものをクリップで留めて使っていたんです。その姿と絵を描いているときのギャップが非常にいい感じで、「裏紙を使うって実はカッコイイ。もったいないという行為を、貧乏クサいじゃなくて、カッコイイと思えるもの。そういうものを作りたい」と思ったのがきっかけです。

──非常に削ぎ落とされたデザインですよね。こちらにも理由がありますか?

岡本 もともと私自身、シンプルなものが好きというのもありますが、「裏紙ノート」に関しては、はたして装飾って必要なのかなと。当たり前のように裏紙を使うべきだし、使ってもらわないと意味がないので、むしろデザインとしては何の邪魔にもならないようなものにしたいと思ったんです。それは、使い勝手にも言えて、紙に穴を開けて使ったりするものは世の中にあるのですが、私は面倒臭がりで手間がかかることは続かない。だったら挟むだけでいいものを……ということで、このデザインに落ち着きました。

レザー製だから、長く使えて愛着が湧く

──革製というのもいいですね。素材にレザーを選んだ理由は……?

岡本 長く使っていただけるのがいちばんのポイントです。たとえばプラスチックだと、実用性はいいけれど使っていくにつれ、味が出るというよりは経年“劣化”してしまいます。その点、革は使っていくうちに馴染んで柔らかくなっていく。経年“変化"ですね。例えばヌメ革は、日焼けをしてだんだん茶色くなっていくのですが、使っていくよさや楽しみを感じられます。「裏紙ノート」を使うことって、捨てられてしまうものも大事に扱うっていう、その人のライフスタイルの表れだと思うんです。アイデア商品になってしまうのが嫌で、長く使っていただかないと意味がない。長く使うための工夫のひとつとして革を使いました。

──裏紙ノートはどのように制作しているのでしょうか。

岡本 当初は、革を購入し、自分でカットして作っていました。周りの人に使ってもらい、喜んでもらえるようになってからは、型抜きや表面加工などを大阪の加工業者さんにお願いしています。私には革の知識がなかったので、顔が見える距離で教えてもらいながらやりたくて、その業者さんにお願いすることにしました。

──試作段階でこだわったところも教えてください。

岡本 意外かもしれませんがゴムですね。強さや太さによって使い勝手が微妙に変わるんです。革に設けたゴムの下の切り込みも行き着くのに時間がかかりました。デザインとしてシンプルを追求して単純な穴だけの加工にしたかったのですが、切り込みがあると簡単にゴムを外せるので交換してもらうこともできます。今は、希望があればゴムの追加購入の対応をさせてもらっていますが、後々はメンテナンスキットを出して自分で交換してもらえる形にしたいです。

──色もシンプルですね。ラインナップはどのように決めたのでしょうか?

岡本 最初はヌメ革1色でしたが、どうしても日焼けのムラができたり、汚れが気になったりする方もいらして、ネイビーとブラウンを追加しました。人気なのは圧倒的にネイビーですね。ネイビーは性別やシーン問わず使えるからでしょうか。その後、A3サイズの紙も使えるものが欲しいというお声をいただいて、A5サイズ相当の裏紙ノートLも販売を開始しました。

人との距離が近い“布”も使ってみたい

──今後の展開はどのように考えていますか?

岡本 もう少しシリーズを増やしたいですね。ペンを付けられないという声が多くて、このテイストにあうペンホルダーだったり、もしくは本体にペンが付けられる……とか、そういうものを考えていきたいです。ほかの商品の内容ともリンクするのですが、使っていただく方の価値観をちょっとでも変えられたらいいなと思っています。「裏紙を使うのがカッコイイ」というアイテムにしたいので、たとえばペンホルダーひとつにしてもそういう視点で考えたいです。

──サイトからレフィルもダウンロードできますね。あれもご自分で?

岡本 はい。裏紙を使ってもらうのが理想ですが、一枚革とゴムだけというこのシンプルさなので、使い方は使う人の自由です。“好きに使える”ということを伝えたくて、レフィルを作りました。あとは、この形状のため、1ページ、2ページと書いても外すとバラバラになってしまいます。なので逆にアイデアメモに向いているかなとも思います。今後の展開で、書いたアイデアメモをストックできるものも作りたいですね。ただのアイデアとして書いたけど、残しておきたいページをストックしておくファイルです。温めている最中で、まだ何もできていないですが(笑)。

──販売ルートのこだわりはありますか?

岡本 特にこだわりはありません。今置いていただいているのは、大阪心斎橋の文具屋さん「フラナガン」と、金沢のギャラリー「Gallery Silencio」、あとはインターネットでの販売ですね。もともとニッチなものなのでそんなに売れないだろうと思っていましたが、思いの外、口コミとメディアさんの反響が大きくて、最近嬉しい悲鳴で……。外箱が実はまだ手作りで追いついておらず、やっと外注できることになりそうです。在庫切れでよくお問い合わせをいただいてご迷惑をおかけする始末なのですが、ようやく在庫切れも収まるかなと思います。

──裏紙ノートで、今後使ってみたい素材はありますか?

岡本 実現できるかはわからないですが、テキスタイルを使ってみたいですね。母校でもある京都造形芸術大学で、学生さんとも活動しているんですが、学科の中には染織テキスタイルコースなどもあり、染め方とか特性の話とかを聞いていると非常に面白い。もともとエンジニアだったのでプラスチック系は得意なのですが、やはりどうしても経年劣化みたいなところがネックです。劣化ではなく愛着が湧く素材を……と考えると、自然と革や布になっていく。その方が人との距離が近い気がして愛着が湧くのかなと思っています。

材料、環境……。今の時代に避けられないこと

アクセサリーブランド「DuckRe:ng」
アクセサリーブランド「DuckRe:ng」

──今後の展開が楽しみです!経歴についてですが、デザイン製作所を立ち上げる前に一度大学に入り直されていますね。理由をお聞きしていいですか?

岡本 大学卒業後、メーカーで工業製品を作っていましたが、そこはデザイナーがいなくて私が外観も含めて作っていました。どうせならカッコイイものを作りたいと独学で調べていくと、どうやらデザインとはカッコイイだけじゃないみたいだな……、というところに辿り着いて。じゃあ、きちんと学んでみようと京都造形芸術大学の通信教育部で改めて勉強を始めました。

私が目指したかったプロダクトデザインがなかったので、いちばん近い空間演出デザインコースというのを選択したのですが、これが結果的に良かったと思っています。空間演出デザインコースというのは独特で、空間を“人と人との間”という見方をしますが、ものを考えるだけじゃなく、もっと上段のことを考えながら見ていくというデザインの考え方が身に付きました。領域を決めない。その場、その空間にどういうことが必要なのか、どういうことをすれば人はもっと幸せになれるのか。そんなことを考えるようになりました。

──単純にハイセンスなプロダクトを作るというのも違う?

岡本 モノを作るということはしたいのですが、今の時代、必需品以外のものが必要なのかなというのが、常に感じている私の中の疑問としてあります。ただ、やっぱり私にはモノを作りたいという欲求もあります。どうせ作るのなら、使う人の価値観が変わったり環境がよりよくなったり、この時代にこそ必要なものが作りたいと考えています。

──事務所を立ち上げたのは在学中に?

岡本 卒業とほぼ同時です。卒業制作を本気でがんばろうと取り組んだ結果、学長賞という賞をいただけました。自分のデザインが何かしら人に認めてもらえたのかなという自信につながりました。並行してデザイン事務所を応募したり、話を聞いたりしていたんですが、自分が望むスタイルとは違うなと。自分や気の合う仲間と理想の暮らしができたらいいなというところで、事務所を立ち上げた。それで、もともと自分ですることが好きで、デザインを考える時にも自分でどこまでできるだろうかとまず考えるクセがあります。そういう考えでデザインをしていった結果、プロダクトとしての「裏紙ノート」に行き着いた。自分1人で最初から最後までできて、それでご飯を食べることができて、暮らしが回っていくなら幸せだなと。

──事務所のコンセプトに掲げている、「見過ごしてしまっている魅力をすくい上げて、あらたに見えるかたちにする」という取り組みは、なにをきっかけに思いついたのですか?

岡本 大学で芸術を学びましたが、芸術って人によって定義が異なると私は思っています。そして、私の中では芸術とは“魅力探し”という一面があるのかなと考えています。日々その人らしい目線でいいところを探し、それをすくい上げる……。そういう視点で日常を暮らすと、そんなことを考えてなかったときと比べて、とても幸せに過ごせている気がしています。気付いていないだけで、魅力っていうものはいっぱいあるんだなと。そういうことを幸い私は気が付けたのかなと。もちろん押し付けるつもりはないのですが、ほかの皆さんにも感じていただける手助けができるといいなというのが、私のしたい仕事のコンセプトです。

──裏紙ノートというのはその考えが具現化されたものなんですね。裏紙ノートの後に作られたアクセサリーブランドの「DuckRe:ng」も“アップサイクル”を意識されていますね。

岡本 今の時代、モノ作りをする上で、社会のこと、環境のことは避けては通れないと思っています。この「DuckRe:ng」というアクセサリーも、見過ごしてしまっているものとアップサイクルを上手く混ぜられないかなと考えてできたものですね。

──ガラスを再加工しての商品化はなかなか大変そうですね。

岡本 はい。手間暇は相当かかっています(笑)。ただ、私が作るものに関してはそこまで大量生産のものではなくてもいいから、きっかけになればいいなと思っていて。家の近くに琵琶湖があるんですが、そこで拾ったガラスで作っています。そしてそれは捨てられていた瓶だったりするものなんです。そういうものって、ただのゴミとして嫌われるだけで見向きもされないじゃないですか。だけど、こうしてアクセサリーとして形を変えると喜んでもらえるものになる。そういう考えを伝えたいと思っています。要はきっかけ作りというか、これを作ることで琵琶湖のゴミがなくなるとかそういう話じゃなく、価値観をちょっとでも変えていけるといいなと思っています。

──こちらの制作も全部ご自分で?

岡本 金属部分は無理なんですが、それ以外は自分でしています。ガラスを砕き、バーナーでガラスを溶かしてパーツを作り、仕上げまでやっています。ただ、こちらのアクセサリーブランドの活動は、私1人ではなく、1年ほど前から共感してくれる人を仲間から募って、みんなで琵琶湖に行って、拾って、作って、マルシェに出して……、そういう活動の形態をとっています。拡大はしていきたいですが、今は知っていただく段階かなと。それで需要が増えてくれば、もっと効率的に作っていく方法も探していこうかなと思っています。

地元・滋賀で自分の好きな仕事の進め方をしながら暮らす

──最後に、活動拠点のこだわりはありますか?

岡本 デザイン活動は主に地元の滋賀でしています。地元に愛着があるので。都会には仕事があって羨ましいなというのはありますが(笑)。都会に行く意味を考えたときに、「地元で自分の好きな仕事の進め方をしながら暮らせる」のが私にとっては理想かなと思っています。あとは今、京都造形芸術大学でも仕事をさせてもらっているので、時間的には京都で活動していることが多いですね。清水寺の近くで、まちづくりのようなこともお手伝いしています。活動の内容や場所が、ご縁で繋がっていければうれしいです。

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