「ファイル」や「テプラ」で知られる文房具メーカー「キングジム」から、2017年4月にデビューしたブランド「HITOTOKI」。多彩なジャンルの作家やアーティストと繋がりながら作る紙モノ文具は、日々をおもしろく、ハッピーにしてくれるはず。
日常をちょっと幸せにしてくれる紙モノの文房具たち
今回ご紹介する「HITOTOKI」は、「ファイル」や「テプラ」で知られる文房具メーカー「キングジム」から、2017年に生まれたブランド。デザイナーの上田歩輝さんがアートディレクターとして参画し、多彩なジャンルの作家やアーティストと繋がりながら日常をおもしくするステーショナリーを作っている。水彩の柔らかな色合いと手描きイラストが特徴のマスキングテープや、作家の個性が光るフィルムシールなど、文具好きの心をくすぐるアイテムばかり。
ひと手間かけることのおもしろさを伝えたい
文房具メーカー「キングジム」より「HITOTOKI」開発メンバーの望月真希子さんと、アートディレクターの上田歩輝さんにお話を伺いました。
──「HITOTOKI」が誕生したきっかけを教えてください。
望月 2017年にブランドを立ち上げたんですが、その1年位前から女性をターゲットにした商品が増えてきて社内外で一括りに“女子文具”といわれてたんです。分かりやすかったんですが、一方的にターゲットを縛っているような言葉に違和感があって。そもそも女子だけに向けて作っているわけではなかったので、それをきっかけにブランド化をする運びとなりました。「人と時をつないでいけるような時間を提供していきたい」という思いから、ブランド名を「ヒトトキ(HITOTOKI)」に。構想を詰めていくにあたり、チームで話し合い、以下のようなステートメントをまとめました。
HITOTOKIのステートメント
いい日と。
「いい人生」は、人ごとみたいだけれど。
「いい日」なら、つくれそうな気がする。
見なれたものに、ひとてま加える。
何気ないものに、ひとこと添える。
それは、日々を、もっと好きになる工夫。
かけがえのない時間を、ふやしてゆく工夫。
いい日をつくろう。自分らしく。こつこつと。
そう。いい人生なんて、
いい日の積み重ね、なんだから。
──ターゲットはどのような層でしょうか?
望月 一言で言うと、“暮らしの中の“ひととき”をたのしみたい人”です。ブランドが持つ独自の世界観をしっかりと理解した上で楽しんでいる方々に好きになってもらえたら嬉しいです。あとは、手帳に文字だけじゃなくシールでデコレーションしたいとか、手紙に何か添えたいとか、ひと手間かけるのが好きで、その時間を楽しみたいと思っている人も対象です。
──「キングジム」との違い、共通項はありますか?
望月 「キングジム」は「テプラ」に代表される事務用品が主でして、雑貨系の文具を出しても、そのイメージから抜けきらないのが課題でした。それをなくす希望を持って立ち上げたのが「HITOTOKI」です。“デザインにこだわる文房具ブランド”としてしっかり棲み分けをしつつ、“キングジムらしさ”という部分では開発型の企業としての指標を崩さずにいこうと思います。他社の真似をしないとか、新しさがあるとか。ただかわいいものでなく、今までにない機能をつけた、かつ洗練されているもの。そういう部分は大事にしたいです。
見ているだけでポジティブな気持ちになれる
──デザインする上で心がけていることはありますか?
上田 “何気ないものにもひと手間を加える”“もっと好きになる工夫”といったことを常に心掛けています。また、個人的には、見ているだけでポジティブになれたり、置いておくだけで気分がよくなるものを作りたいと思っています。見た目がいいと欲しくなるし、それで使いやすかったり、新しい提案があればさらに楽しい気持ちになれる。見た目はきっかけであり、きかっけ作りとしてデザインがあると思っています。
──印象深いデザインはなんでしょう……?
上田 商品ではないですが、僕はブランドのロゴに思い入れがあります。ネーミングの由来である“人と時”というのをヒントに、人の漢字と日々の陽の光が入ってくるようなモチーフの六角形の光の形みたいなものを掛け合わせ、かつ時間を表す時というのにかけて時計の形にしました。書体も1秒の傾きの角度になっていて、実は見えにくいところでもこだわっています。
望月 私はブランドの顔であるマスキングテープ「KITTA」のパッケージロゴが印象深いです。企画が持ち上がった際に上田さんと相談し、シリーズの顔としてみんなに知ってもらえるようなパッケージロゴを作ることにしました。マスキングテープの素材が“和紙”なのでイラストを“鷲”にして、その鷲が「KITTA」の頭文字“K”のポーズをとっている形にし、さらにキングジムのキングの部分から王冠に繋げて。
上田 キングジムの創業時のロゴが鷲だったのでそれも継承しました。
望月 上田さんのこういった遊び心が素晴らしいデザインに繋がっているのだと思います。
作家のオリジナリティがひらめきの源に
──クリエイターさんとのコラボレーションが多い理由を教えてください。
上田 今の時代、使えればいいというものが多くなり、昔のように職人が手がける本物が減っている気がしています。だから、紙質を上げるなどモノ自体にお金をかけるのはコスト的に厳しいですが、デザインだけでも本物の作り手さんに頼んで提供したいと考えました。
「KITTA」は、布のテキストデザイナー、刺繍作家、陶芸作家、チョークアーティストなど様々なジャンルの方に参画してもらっています。作家さんが作るものはオリジナリティーがあって、見ているだけでインスピレーションが湧いてくるのが魅力です。手軽に貼ったり剥がしたりできる大きめのフィルムシール「おおきめシール」も作家性を楽しめる商品です。こちらも手描きイラストが中心で、手帳などに貼ると文字と馴染んで、まるで自分が絵を描いたかのようにいい雰囲気に仕上がります。
──作家の作品を商品化する上で心掛けていることはありますか?
上田 イラストの世界観が素敵だと思った作家様にご依頼していますが、できるだけその作家さんの世界観を生かした製品にできるよう心がけています。作家さんのイラストが出揃ってから私も残りのイラストを描いていますが、完成したシリーズ全体を確認しながら、足りない色などを自分の絵で補うようにしています。
望月さん:上田さんが調整役になってくださっています。もともとWebデザイナーとして弊社と繋がりがあった上田さんが作家活動もしているという噂を聞きつけ、作品を見せていただいたらすごく素敵で。こういうデザイナーさんとお仕事したいという気持ちになり組ませていただいたんですが、この出会いがなければ今の「HITOTOKI」はなかったです。
イメージビジュアルは、小物も含めた世界観で惹きつける
──宣伝用のビジュアルも素敵ですね。スタイリストさんを交えての撮影ですか?
望月 いえ、小物集めもすべて自分たちでスタイリングしています。ですが、私たちの力量というより、信頼しているカメラマンさんがいて、その方のセンスによるところが大きいと思います。あとは、Instagramのみ商品の使い方などをより具体的に伝える場として活用してたりもするので、それ専用の撮影のためにスタイリストさんが入ることもあります。
──公式サイトのTOPページに出てくるタグ使い(#)も今っぽくてかわいいですね。こだわりを教えてください。
上田 サイトのTOPページってあまり更新されなかったりするので、常に流動性があるものにしたかったのと、逆引き的に、写真のイメージから欲しい商品を知るような仕組みをトップページで表せたらいいなと思って作りました。Instagramと完全に連動しているので、見た目の新鮮さを保っているように感じてもらえてたら嬉しいです。
外の世界と緩やかに繋がり、充実した暮らしを提案
──キリンビバレッジの「生姜とハーブのぬくもり麦茶“moogy”」とコラボされていますね。どのような経緯でコラボレーションしたのでしょうか?
望月 もう4年ほど前になりますが、上田さんから「moogy」のことを聞いて先方主催のイベントに参加したんです。そこで耳にしたコンセプトや開発担当者の思いが非常に近しいと感じ、コンタクトを取り始めたのがきっかけでした。互いのイベントに顔出しあったりして、だんだん意気投合し、ついに今回「KITTA」をきっかけに、デザインしたものを同時リリースするという念願のコラボがかないました。
──「HITOTOKI」や「moogy」もそうだと思いますが、幸せになれるようなライフスタイル系のブランドやアイテムが増えていますね。この流れをどう思いますか?
上田 そういう流れがあると今知りました(笑)。インスタなどの文化が広がっているので、充実している自分を載せたいというのもあるんじゃないでしょうか。
望月 その風潮がパッケージにも現れてきているかもしれないですね。プライベートの時間を丁寧にこだわって生活する人が増え、どのカテゴリにおいても選べる幅が広がっていると感じます。どうせ選ぶなら、気持ちよく使えたり、嬉しくなるようなものを選びたい。そういう観点で商品を買ったり、モノ作りをする人が増えているのかもしれません。
──それでは最後に今後の展望を教えてください。
望月 今までは流行りを意識したものが多かったんですが、今後は長く使ってもらえるベーシックなものも開発したいと考えています。あとは、ユーザーと直接交流が図れるワークショップやイベントに参加したり、ブランドさんとのコラボも引き続きやりたい。知らなかった方々に見てもらえるきっかけができるし、文房具業界にとらわれず、色んな業種の方とご一緒できる機会があればぜひという気持ちです。
2020.05.13 Wed