
薄紙印刷技術の特許を持つ「岩岡印刷工業株式会社」と、デザイン事務所「SAFARI inc.」のコラボによって生まれたブランド「PALEVEIL(ペールベール)」。さりげなく数字を施したグラフィックがアートのような存在感を放つ、薄紙のノートにひと目惚れ!
柔らかな風合いが美しい、薄紙のステーショナリー

今回ご紹介する「PALEVEIL」は、薄紙印刷技術の特許を持つ「岩岡印刷工業株式会社」と、グラフィックデザイン全般を幅広く手がけるデザイン事務所「SAFARI inc.(サファリ)」のコラボレーションによって生まれたブランド。薄紙ならではの質感を活かしたデザイン性の高いステーショナリーを制作している。“日めくり”をテーマに、12までの数字のさまざまなグラフィックを施したノートやメモパッドなどセンスの良さが光るプロダクトが揃う。
ダイナミックかつ精巧な薄紙印刷に魅せられて

「PALEVEIL」のプロデュースとデザインを手掛ける、気鋭のデザイン事務所「サファリ」のアートディレクター、古川 智基さんにお話を伺いました。
──「PALEVEIL」が誕生したきっかけを教えてください。
古川 「岩岡印刷工業」さんが自社のブランド力アップを図るためにデザイナーを探していて、共通の知人からご紹介いただいたのが始まりです。その際、薄紙への印刷をしていると聞いて見学に伺ったんです。そうしたら、大きな輪転機が何台も回り、そこを薄紙が超高速で印刷されているのに圧倒されて……。薄紙印刷の特許を持たれているとか、詳しく聞くほど難しい技術を持っていると知って感動しました。しばらくして、社長さんとお話させていただく中で、すごくチャレンジしたいという雰囲気を感じて。僕らもデザイン事務所として何か商品開発するのを面白い試みだと思っていたので、薄紙を使ったモノづくりについて話をぶつけてみようと思ったのがきっかけです。
──なにかプロダクトのイメージがあったのでしょうか?
古川 最初に思い描いていたのはパーテーションです。よくオフィスなんかにある、分厚く、ゴツくて、ひとつ一つを遮断しすぎている感じが僕は好きじゃなくて。豆腐屋さんとかに行くと、のれんで隣との空間を遮っている。空間全体を分断することなく、緩やかな遮りでプライベートを保つ……みたいなものを薄紙で作れたら面白いかなと。試作もしたのですが、大きいのでどう流通させるか、売り場の確保やカテゴライズも難しい。そういう諸問題もあり、一度白紙に戻そうと。

改めて掘り下げていき、岩岡印刷工業さんとしては「薄紙をもっと日常の中に広めていきたいというのが根っこにあるよね」と。じゃあ、より広げやすいアイテムは?となったときに、ノートってみなさん使うじゃないですか。パーテーションより明らかに分母が多い(笑)。まずそこで、薄紙のよさを知ってもらおうというのが落とし所でした。あとは、岩岡印刷工業さんが、ノート作りに必要な薄紙印刷、加工製本、ロジスティックまでやれる体制を持っていた。薄紙は湿度変化などに非常に敏感なため、同じ場所で加工製本できる事が理想的だったんです。
──条件が合致したのですね。では、コンセプトはどのように?
古川 とにかく、薄紙が持っている良さをどれだけ引き出せるか。そこだけでした。単純に綴じるだけでは意味がなく、面白さだったり、新鮮さだったりを持ち込みたいというのは常々あって。着地したのが、薄紙であるがゆえの“めくり心地”。あのしゃりしゃりした手触りやふわっとしためくり心地は、ほかでは絶対に出せない。それを感じさせたいということは、めくってもらいたいよねという話になって。毎日めくって欲しいという思いを込めて“日めくり”ノートがいいんじゃないかと。
──ブランド名も印象的です。どのように決まったのですか?
古川 薄いや淡いを意味する「PALE」と、素材感として透けて優しい印象のある「VEIL」を合わせて、透ける感じや軽やかさを表現しました。薄紙自体が感覚に訴えるものなので。音も、視覚的な薄さも、持った時の質感や量感もそう。“めくる”っていう行為とともに五感で楽しんでもらいたいです。
めくる行為を誘発する“数字”の仕掛けとは?


──全12冊並べると目を引きますね。表紙の色味は何か意識されましたか?
古川 一応12カ月なので、それとなく季節感は意識しました。あと、12冊を並べたときに個性を発揮するような見栄えにしたかった。

──デザインされている数字のフォントがさまざまで、統一感がないのが面白いですね。
古川 カラーリングと一緒で、目で楽しませたかったというのがあります。12カ月、どこでお客さんが楽しむかってあるじゃないですか。自分のラッキーナンバーが4だからって人もいれば、8月生まれだから8、今が11月だから11を選ぶとか。色が好きっていうのもあれば、フォントが好きとか、選択肢を増やしたかった。それもまた、薄紙をめくるワクワクに繋がるので。
──下敷き一体型なのもユニークです。デザイン的にもかっこいいし、機能的にも非常にありがたい。
古川 ここに関しては僕らがデザインした感じがあまりなくて。最初は下敷きを入れていなかったのですが、書いてみたらやっぱり必要だよねとか、束見本を作ってみたら弱いねとか。じゃあ、下敷きを一体にして強度も高めようと。薄紙だったからこうなった。必然性があった感じです。
岩岡印刷工業、職人による丁寧な仕事の賜物

──開発で苦労したことを教えてください。
古川 ノートに白紙を入れるべきかは最後まで悩みました。でも、めくる喜びを考えると何か印刷したいねと。ここの調整が本当に難しくて、濃すぎると邪魔だし、薄すぎても見えない。「WEEKLY NOTE」(メイン画像の中央参照)も入れると13冊。全部のトーンをできるだけ合わせたくて、仕上がりとか濃度感とか、本当に岩岡印刷工業さんの腕の見せどころでした。
製本も、岩岡印刷工業さんが薄紙ノートというものに初チャレンジだったので試行錯誤でした。例えば、製本の時に背中を天のりで固めるのですが、その含有水分量が多すぎると紙が波打っちゃうし、かといって固すぎると製本後に中が抜けてしまったり……。のりの効果を十分発揮しつつ、水分が製品に影響を与えないバランスが難しかった。
あとは、このブランドのためにオリジナルの紙を作ってくれた製紙メーカーさんには感謝しきれません。書き味、めくり感、透明度ですとか、細かいリクエストに非常に積極的に取り組んでくださった。製紙メーカーさんも社を上げてのチャレンジだったと聞いています。
──第2弾として登場した「Memo Pad & Memo Pad mini」ですが、こちらはどのような意図で作られたのでしょうか?
古川 A5のノートでご好評いただいて、次はサイズ展開をしたいねと。でも、そのままリサイズするのでは面白くないから、同じものではないけど「同じシリーズ」っていうものを作りたくて、片手で持てるものっていう案もあり、じゃあ「Memo Pad」にしようと。ノートを踏襲するデザインと、ビジネスマンにも薄紙を使って欲しかったのでシックな黒も追加しました。

実は、このメモパッド、天のりの加工がすごく難しかった。自然に剥がれてもダメで、かつ剥がれにくくてもダメと、ノート以上に大変で……。自分のところの商品じゃなかったらお断りしたいくらいとおっしゃっていました(笑)。
時を積み重ねる。唯一無二のステーショナリーブランド
──購入者にはどのように使ってもらいたいですか?
古川 や、本当に自由でよくて。そうですね……。カバンに入れていても存在を忘れるくらい軽いんで。知り合いの旅好きの子は、旅行するたびに「DAILY NOTE」を1冊持って行ってくれます。日記を書いたり、チケットを貼ったり。今回は“4”にしてみようかとか、そういう楽しみ方をしてもらっていて。あとはアイデアメモや塗り絵に使ったり……。片面しか使わない人もいれば、下敷きのある面をメインに、裏は走り書きしていたり。僕も使ってみて感じたのですが、このノートって前に書いたことをちょっと感じるんです。普通、2日前に書いたことってめくらないと絶対感じないじゃないですか。けど、このノートって前に書いたことが少し見えている(笑)。僕らアイデアを書くことが多いので思考が分断されないというか。先のページを書いたら未来も感じることができる。邪魔っていう人もいるかもしれないけど、自分が考えた時間軸が可視化されているのが面白いなと感じます。
──最後に今後の予定を教えていただけますか?
古川 具体的には決まってないですが、一昨年、ポケットカードカレンダーを作りました。薄紙に柄を入れ、下の台紙にも柄を入れて、ふたつが透けて完成というもの。ひとつのカレンダーと柄としてかわいく完成されていく。カレンダーの機能が終わったら、薄紙をとって、柄だけでポストカードとしても使えますよ、と。掛けていると風にひらひら揺れるのがいい感じで。カレンダーは色々と作っているので、機会があればまた作りたいですね。
2020.06.30 Tue