地図の最大手「ゼンリン」が手がける文房具ブランド「mati mati」。表参道、吉祥寺、丸の内……と、見慣れた街の地図がプロダクトになると、とても新鮮でかっこいい!コンセプトワークからデザイン制作までを手がけたのは、クリエイティブユニットのyurulikuです。
日常的なのにかっこいい。“地図”を落とし込んだ文房具
住宅地図の最大手「ゼンリン」が地図データの可能性をもっと広げたいという思いからはじめた「mati mati」シリーズ。誰しもに身近な「地図」と「文房具」を掛け合わせた、なんとも萌えるプロダクトを生み出しました。こちらのコンセプトワークからデザイン制作までを手がけたのは、独自性のある文具を発信しているクリエイティブユニット「yuruliku(ユルリク)」。当初は4エリアの構想だったのが、金沢、福岡、那覇……と15エリアに拡大。クリアファイル、ノートパッド、マスキングテープなど、おしゃれで使い勝手のいいアイテムがそろいます。
ゆるり、ゆっくりと。愛着が持てるモノづくり
開発ストーリーについて、デザイナーの池上幸志さんとオオネダキヌエさんに話を聞きました。
──文具レーベル「yuruliku(ユルリク)」の成り立ちについて教えてください。
池上 2005年から活動を始めて15年目になります。もともと2人とも企業のインハウスデザイナーを長くやっていて、「会社でできない活動をしたい」と思うようになったのがきっかけです。2人とも文具が好きでしたが、オリジナルで作るのは色々とハードルが高かったので、自分たちなりの切り口で文具をテーマにしたプロダクトを作ってきました。
──オリジナルのアイテムに関しては、どのようなコンセプトがありますか?
池上 「文具を新しい切り口で作りたい」というのがスタートになっているので、ユーモアやデザインの愛着が持てるもの。個性的であるとか、そういうところで愛着につなげたいと思っています。長く使っていただきたいので素材を選ぶときも、自分たちで必ずテストをする。全部のクリエイティブ作業を2人で考え、意見を交わしながら作っています。
オオネダ どちらかが反対したら、その時点でストップ。作成しないようにしています。
──すごい信頼関係ですね!
オオネダさん:ケンカが絶えませんけど(笑)。
池上 定期的に新しいものを作っているので一貫性があったり、なかったり……。文房具業界は、機能や困りごとを追求するところがありますが、それを寂しく思っている人たちがいると思うので、こぼれた隙間みたいなところを行うのが自分たちの存在意義だと思っています。
──クライアントさんがいるアイテムに関しては、どのように制作されているのでしょうか?
池上 クライアントワークについては、最初の時点で漠然とした希望があるので、それを聞いて、どうやったら最大限で答えられるかを考えます。大体の場合、うちにお声がけいただく時点で「ユルリクっぽい柔軟なアイディアで作ってほしい」という要望がほとんどなので、その辺りは意識し、あまり常識にとらわれないで考えるようにしています。
心が躍る!地図がハイセンスなプロダクトに変身!
──「mati mati」はどのように発足したプロジェクトですか?
池上 ゼンリンさんの社内で女性社員による商品企画のプロジェクトがあり、2015年に担当の方から、地図を使って文具を作りたいという相談があったんです。そこで、うちの方からたたき台になるような企画書を考えて一緒に作り上げていったという流れです。
──コンセプト、ターゲットについて教えてください
池上 ゼンリンさんの方で決まっていたこととして、「地図という硬いイメージのものを柔らかいイメージにして、ゼンリンのことをあまり知らない若い女性にも届くような商品を作りたい」という目的があったので、それを踏まえて、アイデアをブラッシュアップしました。最初は4エリアという、ゼンリンさんとしては実験的なプロジェクトだったのですが、反響がかなり大きかったので、最終的に15エリアまで広がりました。
削る美学。複雑な地図を落ち着いたテキスタイルに
──デザインするにあたり心掛けたことはありますか?
池上 地図のイメージを柔らかくするのに、デザインとして“柄”にしたいと考えて……。柄としてみることで、ちょっと柔らかいイメージになり、地図に親しみのない人にも届きやすいかなと。このほかにも、さまざまなデザインの組み立てを提案し、ブラッシュアップしていった感じです。テーマやエリアは、ゼンリンさんで決めてもらい、吉祥寺なら“猫”、表参道なら“ファッション”というようにして、それにあうカラーリングを我々が提案し、またゼンリンさんで……とキャッチボールをしながら進めていったんです。
──デザインする上で苦労したことはなんですか?
池上 デザインに落とし込む段階で、正確な地図をどう“柄”のように変換するかが難しかったですね。もともとの地図がすごい情報量なので、どこを強くし、どこを弱めるかという取捨選択をし、落ち着いたトーンになるよう、線の太さなどで調整しました。本来、地図はいじることができないのですが、小さいプロジェクトからのスタートだったということもあり、実験的なスタンスで多少の色変えなど許容していただけたのはありがたかったですね。
──エリアごとにカラーが異なりますが、こちらはどのように……?
オオネダ 最初は4エリアのつもりだったので、そこまで意識せずにバランス重視で選んでいたのですが、どんどんエリアが増えて、あとの方は大変になってきました(笑)。ゼンリンさんからも、この街はこういう色にしたいとか意見をいただきながら。実際、ここまで増えるっていうのは想像してなかったと思います。
──特に思い入れのあるもの、お気に入りのものを教えてください。
池上 街でいうと、表参道ですね。テーマがファッションということで、それをデザインに落とし込むときにどう表現にすればいいか、結構苦戦した思いがある。いまだに表参道を見ると、がんばったなという気持ちになります(笑)。商品でいうと、ノートパッドですね。2色セットにしたいという要望があって、じゃあナイトカラーとデイカラーにしましょうと提案したのはいいものの、昼間の街のイメージと夜の街のイメージとふたつの調和が取れるように、なおかつテーマカラーにあうようにという色出しが大変でした。
オオネダ でも、もともと地図が好きで集めるほどだったので、まさか仕事で地図に関われるとは思っていなくて、いい経験をさせてもらったという気持ちはあります。
“身近”なところから幸せが広がっていくモノづくり
──今後、なにか新しい展開を考えていますか?
池上 オリジナルの文房具は、半年にひとつくらいのペースで今後も作っていきます。新型コロナウイルスの影響もあり、「自分がどういうものにお金を出して文具を買いたいか」っていう気持ちの変化もあったので、個人の気持ちをベースに作るものを考えていこうかなという感じです。また、クライアントさんとのお仕事は、自分たちで想像してなかったようなことが起こったりするので、今後もやっていきたいです。
オオネダ とにかく長く続けていくことをユルリクの目標にしているので、今のスタンスで続けていくにはどうしたらいいかを考えています。漠然とですが、人を幸せにする仕事ができたらいいなと。例えば鉛筆1本でも、そのときの気持ちにピッタリくると幸せを感じるので、そういうちょっとした幸せを人に与えられるようなモノづくりをしたいです。
私たちは2人という小さいスケールで仕事をしているので、まずは極近い人を幸せにしたいというのがあります。もちろんたくさんの人に届くに越したことはないのですが、その第一歩として近くの人から広がっていくのが理想です。
2020.09.23 Wed