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物語のある、ニューフェイスな文房具

2020.10.19 Mon

13番目の物語

発想をメモしたい!スケッチブック感覚で使える、マルマンのルーズリーフ「PIET」

取材・文:沼田佳乃 撮影:YUKO CHIBA

スケッチブックでおなじみの「マルマン」からデビューした、ルーズリーフブランド「PIET」。常識を覆す仕様や多彩な紙のラインナップにわくわくと心くすぐられます。「薔薇の庭」「トマト」など、バインダーに付けられネーミングも素敵。

スケッチブック感覚で。新発想のルーズリーフブランド

スケッチブックで知られる日本の文具メーカー「マルマン」から、今までの常識を覆す新発想のルーズリーフブランド「PIET(ピエト)」が誕生。縦型が当たり前だったルーズリーフファイルを横型に刷新したA4Eサイズ、手軽に持ち運べるA5サイズ、2種のバインダーが登場しています。バインダーに付けられた「薔薇の庭」(画像)、「トマト」「カプセル」といった、ネーミングもユニーク。また、画用紙やクロッキー紙、筆記用紙など、ペーパー類も豊富に揃い、スケッチブック感覚で使えるのがとっても素敵!

ルーズリーフ×クリエイティブで新しい価値を

「今、なぜルーズリーフなのか……?」という疑問、新ブランドの開発ストーリーについて、アートディレクターの平野篤史さんとマルマンマーケティンググループの遠藤恒夫さんに話を聞きました。

──なぜ、ルーズリーフが主役のブランドを作るに至ったのでしょうか?

遠藤 マルマンはスケッチブックが有名なので、そちらに目を奪われがちですが、実はルーズリーフやバインダーも昭和47年くらいから扱っています。ルーズリーフは主に学生さんが使っているのですが、私たちの調査によると、残念ながら社会人になるとほとんどの方が離れていってしまう。

ですが、社会人もノートを使う時代、カスタマイズ・編集ができ、必要なものだけ取り外せるルーズリーフは必ずニーズがあるだろうと考えたんです。みなさん、大抵使い方はわかっている。値段の相場も知っているはず。それでも使わないのは「学生さんのメインアイテム」というイメージからでしょうか……。そういう面から脱却すべく、2016年、平野さんと一緒に既存のルーズリーフを大人寄りのシンプルなパッケージにリデザインしました。そして、さらに多くの方々に使っていただけるよう、機能・価値を加えたもののひとつが「PIET」です。

あえて限定しない。色からの抽象的な連想に着目

──ブランド名は抽象画家のピエト・モンドリアンが由来だそうですが、どのような意図からでしょうか?

平野 もともと同ブランドのためにデザインしていたのが、今よりもずっとシンプルな色の組み合わせの表紙だったんです。というのも、僕が、平安時代に作られた「かさね色目」という日本の配色美みたいなものにずっと興味があって。日本人が繊細な感性を持ってネーミングしてきたものをずっと商品化したいと思っていた。

そこで、「色を重ねることで違うイメージに転換でき、使う人がそこからイメージできるようないいネーミング」はないかと考えていたときに、抽象画のピエト・モンドリアンが頭に浮かびました。ピエトは、単色を組み合わせた作品に《ブロードウェイ・ブギ・ウギ》という独創的なネーミングを付けていますよね。その絵を見ただけだと、タイトルのようなイメージは浮かばない。でも、名前を知ると不思議と《ブロードウェイ・ブギ・ウギ》だと思えてくる。そういう色からの抽象的なネーミング。モンドリアンは直接的すぎるけれど、「PIET」なら響きもいいし、コンセプトにも合うので提案させていただきました。

常識を覆し、ルーズリーフに新しさや付加価値をプラス

──商品開発においてこだわった点を教えてください。

平野 今あるフォーマットを崩さない中で、今までになかったものをいかに追求していくか。例えば、バインダーのリングの色は透明や無色のものが一般的ですが、それを不透明の白とか、蛍光ピンクとか、そういうことを日本の文房具メーカーが実際にやるっていうのがおもしろいんじゃないかと。あとは、社会人の中でもクリエイター寄りの人に使ってもらいたいと思ってスタートしているので、デザインもイメージを押し付けないよう、控えめに。その中でのイメージの共有というか、どういう風に受け取ってもらってもかまわないという感じのアテンションを作ることを心がけました。そこはピエトの絵画に結実するというか、使う人がイメージを持って勝手に使ってくれればOK。そこからいかようにも発展していけるのがいいのかなと。

──ルーズリーフはフォーマットがあるので革新性を持たせるのに苦労されたのでは?

平野 リングという制約がありますからね。でも、そこはおもしろさかなと。マルマンさんの持っている商材とリングという制約の中で、どのぐらい新しいものを作っていくか。実は、もともとA4の縦型で作っていたバインダーを途中で横型にしたのですが、これが転換期になった。アイデアをより引き出すような新しい価値を生み出しつつ、A4を横にするとA5とリングの穴の数が共通なのでA5用に開発していたアクセサリーもシェアできる。その融合性みたいなものが非常におもしろいコネクションだと感じて。制約があることが、逆にひとつの広がりを作ってくれたような気がしますね。

遠藤さん:横にするのは凄くおもしろいアイデアでしたよね。そういう発想自体が今までなかった。A4なら縦型で30の穴があることが常識だったので、そんなこと覆そうとは思いも寄らなかった。そこまでに行き着く何かを壊したところが「PIET」のいちばん大きなポイントだと思っています。

──横型にしたのはどういう発想から思い付いたのでしょうか?

平野 「かさね色目」発想から、大人向けのバインダーが一旦仕上がっていて、知り合いのミュージアムショップやセレクトショップの人たちからもいい評価をもらっていたんです。でも、僕自身、これじゃあ表面を変えただけだという迷いもあって……。フォーマットからはみ出すわけにはいかないけれど、もう少し今までにない新しい軸が必要じゃないかと感じていました。それで、当時、ある美術館に行った帰りの電車の中で「横がいいんじゃないか」とふと思い付いて。僕の中ではすごくしっくりきて、マルマンさんの持っている商材に横のルーズリーフはもちろんないし、世の中にもなかったので、そこをマルマンさんがおもしろく思ってくれたらOKなんじゃないかと。

「PIET」をもう少しクリエイティブ寄りにするのであれば、昔の画家たちが絵を横に描いていたり、僕自身も横の方が描きやすかったりして、感覚的に似たものを感じました。ブランドが向かうべき方向性とも合致する。マルマンさんに相談したら、皆さん共感してくれて、その日のうちに決まった記憶があります。

──「PIET」が向かうべき方向性とはどんなものですか?

遠藤 ただ記録するだけじゃない、楽しさを提供するとか何か生み出すとか。ノートは書くことに価値があるのですが、「PIET」は“使うことに価値がある”ものにしたかった。そうすることで、我々の持つバインダーやルーズリーフがこれまでと全く違う価値を提供できる。縦を横にしただけで、そういうインスピレーションみたいなものが湧きましたね。このときの会議に出た人間はみんなそう感じたと思います。ストンと腹に落ちたから、それまで平野さんが提案する無理難題に渋っていましたが、そのあとは全面協力した覚えがあります(笑)。

マルマンが「PIET」を作って発売するのが、ちょっと変わったデザインというだけならあまり意味がない。これなら使い方が全然違ってくるんじゃないかと。まさかバインダーに三角定規とか分度器が入っているなんていうのは誰も思わないですよね(笑)。どうやって使えばいいのかというよりも、感じたままに好きに使ってほしい。そういうものが入っているギャップをおもしろがってくれればいいなと思っています。

“アナログな思考”が育んていくクリエイティビティ

──それでは最後に。デジタルな世の中ですが、紙でものを作っていく重要性とは……?

遠藤 私は、アナログが100%デジタルにはならないし、アナログのまま生き続けるものも多くあるだろうと思っています。そのアナログの部分でマルマンが貢献できればいいと思っている。最たるものが画用紙。私どものスケッチブックは非常にご愛好いただいていて、それに変わるデジタルのものがあるかというとない。

なぜ、みんな紙の上に描きたいと思うのか。筆を紙に浸した時の感触だとか、鉛筆で画用紙をこすったときの引っ掛かりが気持ちいいとか、色鉛筆で塗りつぶしていく快感だとか。鉛筆の匂いだったり、紙の匂いだったり、アナログではデジタルで感じられないようなものが五感で感じられる。便利さにはかなわないけれど、そういう人間らしさというか、時間を豊かに過ごすことを提供できるのはアナログの方だと思う。アナログの代表が紙みたいなものので、紙文化を提供し続けていくのがマルマンの役目だと思っています。

平野 僕は、実となるものを所有することがクリエイションを作ることだと思っています。作りっぱなしとか、見っぱなしだと蓄積していかない。本屋で見たものをスクラップするとか、美術館で観たものが所有していくものになっていくと思うのです。そういう意味で、ノートに記したものは自分自身を作っていくものではないかと……。残っていくことが重要で、それがシンプルなノートでも、「PIET」のようなものを使ってもいい。実としてクリエイションが生まれていくからこそ、日本自体もクリエイションの国として育っていくと思う。マルマンさんがしていることは、“所有するものを残していく人”を育てていけるのではないかと思っています。

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