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【ライフスタイル連載・デザインのある生活】第8回「煎茶堂東京」カジュアルに楽しめて暮らしを豊かにする、新しい日本茶のスタイル

2020.11.24 TUE

【ライフスタイル連載・デザインのある生活】
第8回「煎茶堂東京」カジュアルに楽しめて暮らしを豊かにする。“新しい日本茶”のスタイルを発信
デザインも中身も素敵なもの。そんなモノがいつも身近にあれば、日々の生活に潤いを与えてくれそうな予感……。そこで、編集部とライターが気になっているライフスタイル系のブランドを紹介していきます。第8回目は、シングルオリジン煎茶専門店の「煎茶堂東京」。モダンでスタイリッシュなデザインの店舗や商品を通して、日本茶の新しい楽しみ方を発信しているブランドです。

●構成・文:吉永美代

▼オンラインショップと実店舗、カフェ、サブスクと多角的に
青栁智士さんと谷本幹人さんによるデザインユニット「LUCY ALTER DESIGN(ルーシーオルターデザイン)」が手がける「煎茶堂東京」。全国からえりすぐった単一品種・単一農園の煎茶を販売する専門店で、銀座の実店舗とオンラインショップを展開しています。2017年に三軒茶屋にオープンした世界初のハンドドリップ日本茶カフェ「東京茶寮」を運営し、2019年には日本茶のサブスク「TOKYO TEA JOURNAL」もスタート。従来の日本茶のイメージを刷新する試みを続々と打ち出し、ここ数年の“モダンな日本茶”のムーブメントを牽引する存在となっています。
▼ペットボトルと茶道の中間に、“新しい日本茶カルチャー”を
「LUCY ALTER DESIGN」取締役・クリエイティブディレクターの谷本幹人さんにお話を伺いました。

──おふたりが会社を立ち上げられた経緯から教えていただけますか?

谷本さん:青柳がとある上場企業で役員をしており、私がそこに新卒として入社して事業開発を担当していました。そこで意気投合し、子会社として「LUCY ALTER DESIGN」を立ち上げ、2017年にスピンオフして独立しました。

──2015年にデザイン賞を受賞した詰め替えできるティッシュボックス「SHIKAKU」、クラウドファンディングで目標金額の600%を集めた段ボールの1人映画館「SOLO THEATER」など、ユニークな商品も生み出していますね。

谷本さん:今でこそD2Cが一般的になっていますが、2015年頃は、小売に変化が起こりそうな、かすかな匂い程度のものでした。3Dプリンタの普及やクラウドファウンディングなどでモノづくりへの参入障壁が下がり、スピーディーな商品開発が可能になってきていると私たちも感じていたので、まずはプロダクトデザインの商習慣をひととおり検証してものづくりの知見を集めようと「SHIKAKU」や「SOLO THEATER」を作ったのです。

──そのあとで、なぜ日本茶を手がけることになったのでしょう?

谷本さん:当時は“丁寧な暮らし”が浸透し、サードウェーブコーヒーが注目されている時期でした。我々もコーヒーは好きでしたが、日本にルーツに持つ者として、日本的なものに貢献したいという想いもありました。

一方、当時の日本茶はというと、簡易的なペットボトルと格式高い茶道の両極端しかないような状況に思えました。その中間部分に我々はポテンシャルを感じたのです。抹茶に比べ煎茶は海外での知名度は低いですが、健康志向が高まる中でノンアルコール、ノンシュガーの煎茶が注目される可能性は高い。また“丁寧な暮らし”を志向する人には、精神を覚醒させるコーヒーとは対照的な、心を沈静させる煎茶が好まれるのではないか。そう考えて、日本茶に注目し始めたのです。

──ビジネスとしての可能性を感じられたと……。

谷本さん:理論上は確かにそうです。さらにそこに火を付けるような、衝撃的な出会いがありました。それが「はるもえぎ」です。産地を訪れて初めて飲んだシングルオリジン茶ですが、その衝撃は今も忘れられません。驚くほどの甘みと濃厚な風味、栗のようなほくほく感もあって……。生産地で、後継者不足や耕作放棄地など製茶業界に横たわる問題を目の当たりにした後だけに、その味わいの鮮烈さが際立って感じられました。こんなに素晴らしいお茶なのだから、市場でもこのまま販売されるのだと思っていたら「ほかのお茶とブレンドして販売する」と聞いて驚きました……。

──確かにスーパーなどでは品種名ではなく「玉露」とか「静岡茶」などの名前がおなじみですね。

谷本さん:一般的に、農家が作った茶葉はブレンドして商品化されているのです。お茶は毎年味が変わるので、ブレンドによってある一定の味わいを保つことができるという利点はあります。しかし生産者がどんなに上質なお茶を作っても、ブレンドされてしまうと誰にどんなふうに飲まれているかわからなくなります。

そこで私たちは生産者や産地を明確にしたシングルオリジンのお茶を販売しようと考えました。お客様は、それぞれの個性や生産者、産地のストーリーを楽しめるし、生産者にも自分のお茶に対する評価が伝わり、より良いお茶を作ろうというモチベーションにもつながります。
▼コーヒーやワインと同じように、お茶品種ごとの多様な個性を楽しむ
──2017年1月、最初に立ち上げられたのが「東京茶寮」ですね。

谷本さん:オンラインショップ展開も予定はしていましたが、実店舗で体験して良いと思ったものをオンラインで購入できる形が理想的だと考えていたので、シングルオリジンの煎茶を実体験できる店舗として「東京茶寮」をオープンしました。

──煎茶をハンドドリップするという斬新な手法が注目を集めました。

谷本さん:日本では、お茶は無料というイメージが強いので、店に足を運んでお金を出していただくためには、お茶単体ではなく “特別な体験”が必須でした。また、日本茶に対する、おしゃれではない、小難しいイメージを払拭したかったのです。そこで「バリスタがハンドドリップで煎茶を淹れる」という手法をとりました。バリスタの所作を通して、コーヒーのような親しみやすさを抱いてもらえるのでは、と考えたのです。
──その後、2017年11月に、銀座の実店舗とオンラインショップの「煎茶堂東京」をオープンされました。あらためて「煎茶堂東京」のコンセプトについて教えてください。

谷本さん:日本全国のシングルオリジンの煎茶を取り揃え、新しい日本茶のスタイルを提案すること。ペットボトルと茶道の間にある、カジュアルに楽しめて、暮らしを豊かにするお茶のカルチャーを作ることを目指しています。

──茶葉はどのように選んでいるのでしょうか?

谷本さん:絶対条件は、実際に飲んで「おいしい」と感じたもの。テイスティングは私たち2人だけではなく、コーヒーのバリスタやワインのソムリエなど、飲料のプロにも参加していただいています。

“味わいの多様性”も意識しています。日本茶の世界には、色や香り、形状などに伝統的な品質評価基準があるのですが、私たちはその評価に当てはまらないものもセレクトしています。従来の日本茶業界では「欠点臭」とされる品種の個性的な香りも、面白いと感じられる可能性があります。食生活が多様化した現代、ペアリングする食べ物も増えているので、お茶の味わいを狭める必要はないと考えています。

──ドライフルーツの羊羹など、ペアリングフードの提案もされていますね。

谷本さん:日本茶のおともといえば和菓子やお煎餅ですが、それだけではないペアリングも知っていただきたくて。チョコレートやドライフルーツにも日本茶はとても合いますし、洋菓子やチーズと相性のいい日本茶もあります。公式サイトでそういった提案も行っています。

──初めて茶葉を選ぶときには、どのように選べばいいですか?

谷本さん:理想的には実際に飲み比べて選んでいただくのがいちばんなのですが、それができない場合にも選んでいただきやすいよう、「品種名」「缶の色」「産地」「生産者」「茶の色」「香り」「味わい」など、さまざまなフックを用意しています。名前が気に入った、缶の色がきれいだから、好きな土地のお茶だから、など肩肘張らずに選んで、出会いを楽しんでいただきたいですね。
▼削ぎ落としたミニマルなデザインで、日本的な美を伝えていく
──デザインも煎茶堂東京さんの魅力ですね。デザインコンセプトについて教えてください。

谷本さん:ミニマリズムの徹底です。「LUCY ALTER(ルーシーオルター)」を逆さに読むと、龍安寺のつくばいにも刻まれている「足るを知る」という言葉になるのですが、私たちは、龍安寺の石庭のような、簡素であるがゆえに豊かな情景を感じさせる引き算の美学こそ日本の美的スタイルだと考えています。お茶の缶も、ミニマルな世界観のデザインにすることで、色をカラフルにしたときにも日本っぽさが漂い、海外の人にも受け入れやすくしています。

──缶のカラーバリエーションが豊富ですが、どのように色を選んでいるのですか?

谷本さん:味わいや産地、焙煎度などそれぞれの茶葉の情報を、数値化して色彩に変換するという独自のアルゴリズムを組んでいます。

従来の日本茶は、味わいを表現する言語が「甘み」「旨味」「渋味」などに限られ、それぞれの違いを伝えることが難しいと感じていました。お茶の製法も、科学的な数値よりも職人の感覚に頼る部分が大きいのです。そんなお茶の世界にアカデミックな理解を持ち込もうとこのアルゴリズムのカラーリングを開発しました。
──「透明急須」などの茶道具も独自に開発して販売していますね。

谷本さん:お茶のカルチャーを提案するには、茶葉だけではなくお茶の道具や行動もアップデートする必要があります。現代はフローリングでの生活が主体になっているのに、急須は畳の世界のまま進化していない。そこで現代の生活に合った急須を作ろうと、約1年をかけて開発し、「煎茶堂東京」のオープンと同時に発表したのが「透明急須」です。

哺乳瓶などに使われる耐熱樹脂を特許技術により極厚に成型し、「割れない」「熱くない」「かさばらない」を実現。取手をなくすことで省スペースになり、利き手によらず使えるユニバーサルな設計になっています。世界的なデザイン賞「Red Dot Award:Product Design 2018」も受賞しました。

「透明急須」には、お茶離れの要因にもなっている「お茶の正しい淹れ方がわからない」という課題を解決するために、おいしいお茶が淹れられるレシピを明確な数値で伝える目的もありました。この急須は容量120ccに作られているので、ここに4gの茶葉を入れて70℃のお湯を注ぎ、蓋を閉めずに 1分20秒待てば、誰でも店で飲むのと同じおいしいお茶が淹れられるようになっています。
──イラストレーターの長場雄さんとのコラボも素敵です。どういう経緯でコラボに至ったのでしょうか?

谷本さん:もとはといえば私が長場さんのファンなんです!モノクロのシンプルな線で描かれたイラストは、軽妙洒脱なのにインパクトがあり、肩肘張らない今っぽさを象徴するイラストレーターさんだと思っていました。お茶という古き良きものの魅力を現代的なアプローチで伝えるために、利休を描いたイメージビジュアルを長場さんに描いていただこうとオファーしたのが始まりです。

長場さんご自身もコーヒーより日本茶党だそうで、とても熱心に取り組んでくださって。千利休がお茶をハンドドリップするキービジュアルをはじめ、「東京茶寮」で行ったインスタレーションや「煎茶堂東京」の包装紙のデザインなど、どれも楽しいコラボレーションになりました。
▼日本茶の生産が継続するよう、知識あるお茶好きを増やしたい
──2019年5月から、月額500円で月替り茶葉2種類とそのお茶のストーリーを紹介する情報誌が届くお茶のサブスク「TOKYO TEA JOURNAL」もスタートしました。これはどういう目的で始められたのでしょうか?

谷本さん:私たちは、生産を行う事業者ではなく、各地の生産者を束ねるバンドのような存在です。お茶生産者の想いや姿勢、生産の場や製法、茶葉に関する情報を整理して、お客様にわかりやすい形で届けることで、お茶の世界に貢献したい。そのために2年以上をかけて、生産地の取材をずっと続けてきました。そうしてリリースしたのが「TOKYO TEA JOURNAL」です。

お茶の消費が持続し、お茶生産者の生活が安定するには、ブレンド茶では不十分だと考えています。ワインやコーヒーのように、消費者側に「この年のこの産地の茶が良い」といった知識が育たないと、いいお茶は残っていきません。そういうお茶の知識を持つ人を多く育てようと、生産地情報はもちろん、器やお茶の淹れ方、料理など、お茶にまつわる暮らし全般にわたって紙の情報誌と映像コンテンツで情報発信しています。継続率も高く、新規に購読してくださる方も増えています。

──コロナ禍の影響はいかがでしたか?

谷本さん:おうち時間に投資する方が増えたようで、オンラインショップの問い合わせが増えました。旅行もままならない時期ですが、煎茶のテロワールについても情報発信しているので、茶葉を通して産地の気候風土が感じられ、旅行にも似た発見や充足感を感じていただけているようです。また実店舗で行っていた定期イベントができない自粛期間中には、Zoomを利用したトークイベント「オンライン大茶会」も開催し、ご好評をいただいています。

──それでは最後に、今後はどのような展開を考えていますか?

谷本さん:「TOKYO TEA JOURNAL」は、月に一度お客様に情報や私たちの想いを伝えられる貴重な機会と捉えているので、今後さらに特集内容も充実させたいですね。ゆくゆくはお茶好きが集まる一大コミュニティに育てていきたいです。
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