今、ものづくりの業界では伝統工芸のリプロダクトが盛り上がりを見せています。新しい感性でデザインされた工芸品は、暮らしを豊かに彩ってくれる。幾何学模様の組子が美しい家具ブランド「boku」もそのひとつ。480年以上の歴史を誇る家具の一大産地、福岡県大川市の家具製造業者「丸庄」による初の自社ブランドです。ブランドマネージャーの島崎智成さんに話を伺いました。
「古くから婚礼ダンスなどの箱物家具で栄えてきた大川市ですが、時代とともに需要が減少し、たくさんの家具工場が消えていった。オンライン消費が加速する中でも家具販売店頼みの状態から抜け出せずにいて。我々にやれること、やりたいこと。オーダー家具、高品質……そして出した答えが『boku』だった。家具産地の大川でBtoCを行い、地方創生、次世代育成を同時に解決したい」とブランドマネージャーの島崎智成さん。
目指したのは「ヴァナキュラー・モダン」。直訳すると「土着型モダン」で、いわゆるモダン、和モダンと異なる”その土地固有の歴史文化を現代のライフスタイルにフィットさせたモノづくり”がコンセプトに。
製品化でこだわったのが、大川家具のアイデンティティである「箱物家具」と特殊な木工技術「大川組子」。伝統の箱物でありながら、今の人々の暮らしにあわせ、脚部を細く軽いデザインに。木材は、固くて加工が難しい一方、節目、木目が魅力的で、ナチュラルな風合いがコンセプトに合う北米原産のヒッコリーを選んでいます。大川組子の文様は、和の要素がありつつ、どんなテイストにも馴染む「枡つなぎ」に。“良縁”や”ますます発展”という意味が込められているのも、長く愛着を持って使える家具にぴったりです。
また、大きかったのが若手クリエイターの存在。若い職人の育成、若者にも魅力を感じてもらうため、デザイナーに家具づくりがメインではない東京出身の若手をあえて起用しているのだそう。
「彼らは凝り固まった固定概念を容易く壊してきた。突拍子もない発想がとにかくおもしろい。プロダクトデザイナーだけじゃなく、若手のグラフィックデザイナーにも監修で入ってもらっている。コンセプトに『空間をデザインする』というのもあり、組子の配置、バランスなど視覚的なところでグラフィックの視点を取り入れたかった」(島崎さん)
そんな「boku」らしいプロダクトをいくつか紹介します。
■Side Board 180
ブランドの顔となるプロダクト。すっきりした形状のボックスに、大胆にあしらった大川組子。プッシュオープン式で、余計な装飾のない組子が主役の洗練されたデザイン。扉の中のイエローはグラフィックの観点から、シック過ぎない明るさをプラス。組子部分はガラス張りで飾り棚にも。内部に照明を入れることで、幻想的な空間を演出できる。
■Lounge Chair 2P
肘掛けの下に大川組子をあしらった2人掛けソファ。ヒッコリー材のフレームに、エッジに丸みを持たせた滑らかな肌触りが心地いい。クッション部分の羽毛は柔らかさがありつつ、しっかりしたコシも残す掛け心地。ソファづくりのノウハウが生きた力作です。
■Pendant Light L、Pendant Light S
大川組子を再構築することで生まれた独特の形状の照明。周囲に映し出される文様の陰影もさることながら、本体自体が金属のような光沢を放つのもおもしろい。「組子を詰め込んだ板状のもの」という発想からの脱却。若手デザイナーの感覚あってこそのプロダクトです。
■Ornament L、Ornament S
照明と同じデザインで、内部にガラス瓶などを入れることで、花器としても使用できるオーナメント。伝統の組子柄と草花の美しい情景が部屋を彩る。
「全国には、我々のように困っている産地がたくさんある。もっと目を向けてほしいし、ヴァナキュラー・モダンがビジネスモデルの起爆剤になればうれしい」(島崎さん)
若手と職人、地方と都市……。「つながるモノづくり」こそ、新しいものづくりの基盤となるかもしれません。
公式サイト:https://boku-japan.com/
Instagram:https://www.instagram.com/boku.japan/
2022.10.21 Fri