はっとして、ときめいて、感性を磨くアートな一日。ひとりマイペースに楽しめば、より深くアートの世界に浸れて、もっと心が揺さぶられるはず。「わたしを磨く、美術館」では、アートをこよなく愛し、アイドル活動をしながらアート評なども発信する和田彩花さんが美術館を訪れ、“ひとり美術館”を楽しみます。
今回訪れたのは、「東京都庭園美術館」。目黒駅と白金台駅の中間くらいにありますが、都市の喧騒をまったく感じさせない、緑豊かな庭園とアール・デコ様式の旧朝香宮邸が美しい美術館です。
- 東京都庭園美術館で過ごすアートな一日
アール・デコ様式の建物が美しい、東京都庭園美術館へ - 東京都庭園美術館でチェックしたい、ラリックのレリーフやラパンの香水塔など
旧朝香宮邸を彩る、モダンで華やかな装飾品に見入って - 東京都庭園美術館で「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」鑑賞 本館編
“奇想”のアート作品と出会う!驚きに満ちた展覧会 - 東京都庭園美術館で「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」鑑賞 本館編続き
エルザ・スキャパレッリの刺激的なドレスも鑑賞 - 東京都庭園美術館でチェックしたい、第一階段、二階広間
花模様のあしらいがエレガントな階段を上がって…… - 東京都庭園美術館で「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」鑑賞 本館編続き
シュルレアリスムと裁縫の関係性を読み解いていく - 東京都庭園美術館で「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」鑑賞 本館編続き
和田さんがアジェの写真に意外性を感じた理由は? - 東京都庭園美術館で「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」鑑賞 新館編
きらめくガラス壁を抜けて、ホワイトキューブの新館へ
東京都庭園美術館で過ごすアートな一日
アール・デコ様式の建物が美しい、東京都庭園美術館へ
東京都庭園美術館は、1933年に竣工したアール・デコ様式の旧朝香宮邸を活用し、外観も内装も生かした美術館として1983年に開館しました。
1910~30年代に欧米を中心に大流行した、フランス生まれの装飾芸術「アール・デコ」。1923~1925年をパリで過ごした朝香宮ご夫妻もそのとりこに。帰国後しばらくして建てることになった新居を「アール・デコ様式にしよう」と、当時フランスで活躍した装飾美術家アンリ・ラパンに主要の部屋の内装デザインを依頼します。
建物全体の設計を手がけたのは、宮内省内匠寮の建築家・権藤要吉。フランスのラパンから届いたデザイン画に加え、自身の設計・デザインにもアール・デコの要素を盛り込んで、日本の建築美と融合。国内の一流の職人たちを集め、約2年かけて旧朝香宮邸を築きました。
過去にも東京都庭園美術館に訪れたことがあると言う和田さん。「まず建物が素敵ですよね。邸宅だったこともあり、ふと気が付くと窓から自然光が差し込み、キラキラしているイメージ。それから、いつもユニークな視点の展覧会を開催されているなぁと。空間を生かした展示も美しく、毎回異なる視点でアート鑑賞できる。今日の企画展も楽しみです」
東京都庭園美術館でチェックしたい、ラリックのレリーフやラパンの香水塔など
旧朝香宮邸を彩る、モダンで華やかな装飾品に見入って
東京都庭園美術館の本館・旧朝香宮邸。正面玄関を入ると、目の前に女神像のようなガラスレリーフの扉が現れます。ラパンと並ぶアール・デコの中心人物、ガラス工芸家ルネ・ラリックが、この邸宅のために制作した作品です。
「当初、ラリックは女性の裸像をデザインしたそうですが、宮家からの申し出でドレスをまとった姿に変更したそうです」と教えてくれたのは、学芸員の板谷敏弘さん。ほかにも、アール・デコについて、いろいろと解説してくれました。
和田さんが興味津々だったのが、その成り立ち。
19世紀末から20世紀初めに流行したアール・ヌーヴォーは、装飾品などを職人たちが手作り。そのため、庶民には手が届かない高価なものばかり。
一方、1910年代に始まったアール・デコは、近代産業が発展した当時の最新技術で、機能性もデザイン性も重視した装飾品を工場で生産。ガラスやスチールなど新しく安価な原料を型に流し込んで効率的に量産することで、装飾品を庶民に広めたいと考えました。
「ラリックは香水瓶や花瓶が有名ですが、アール・デコにガラスの作品が多いのはそういう理由だったんですね。大量生産というとあまりいいイメージがないかもしれませんが、“装飾品を庶民の暮らしに”という思いは心に響きますね」と和田さん。
アール・デコのデザインの特徴は同じモチーフの連続、反復、シンメトリー。そして近代産業を象徴する歯車を連想させる幾何学模様。
「ラパンの香水塔はシンメトリー、ラリックのシャンデリアは同じデザインの連続。よく見ると、壁や通気口、柱の装飾などもアール・デコ様式。特徴をインプットしておくと、内装をすみずみまで楽しめます」
東京都庭園美術館で「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」鑑賞 本館編
“奇想”のアート作品と出会う!驚きに満ちた展覧会
アール・デコ様式の空間で、装飾芸術を中心に個性的な展覧会を行ってきた東京都庭園美術館。今回、和田さんが鑑賞したのは、2022年4月10日まで開催中の「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」。
20世紀最大の芸術運動シュルレアリスム。本展では、「奇想」をキーワードに、この芸術運動がモードと現代美術に与えた影響や結び付きをひも解きます。さらにシュルレアリスム以前の時代にも同じような視点で世の中をとらえていた、関連性を感じさせる作品もピックアップ。
展覧会は9つの章で構成され、ドレス、ジュエリー、靴といったファッション関連の作品から、絵画、ポスター、写真、浮世絵にいたるまで、あらゆる分野の作品を展示。表現スタイルや使う素材も実にさまざまです。
例えば、第1章の「有機物の偏愛」では、タマムシの羽を用いたカラーの甲冑やライチョウの足のブローチなどを、第3章「髪(ヘアー)へと向かう、狂気の愛」では、家族や恋人同士が愛の証として身に着けていたという、金具以外はすべて髪の毛で作られた19世紀中頃のアクセサリーなどを展示。思いがけないものが次々と現れて、まさに「奇想」な体験ができる展覧会となっています。
東京都庭園美術館で「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」鑑賞 本館編続き
エルザ・スキャパレッリの刺激的なドレスも鑑賞
和田さんが印象に残ったセクションのひとつが、第4章「エルザ・スキャパレッリ」。
エルザ・スキャパレッリは、ココ・シャネルと同時代にパリで活躍し、よきライバルでもあったファッションデザイナー。ダリ、コクトーらとも交流があり、シュルレアリスムとファッションを語るに欠かせない、奇想のデザイナーと言える人物です。
「1927年のデビュー作はネクタイやリボンの柄を編み込んだ、だまし絵のようなセーター。当時そのアイデアに、みんなびっくりしたそうです。彼女の名前は、今となってはシャネルほど知られていませんが、時代の流れに乗ってエキセントリックなデザインを次々と生み出したからこそ、時代にもシュルレアリストにも受け入れられたのでしょう」と、本展担当の学芸員・神保京子さん。
今回、彼女のショッキングピンクのドレスが展示されていますが、この色彩を“ショッキングピンク”と名付けたのがスキャパレッリでした。
「スキャパレッリはこの展覧会で初めて知りました。作品から発せられるパワーがものすごくて衝撃的な出会いでした。“ショッキングピンク”の名付け親なのにも驚き。スキャパレッリのことは、多くの人に知ってほしいですね」と和田さん。
この章では、スキャパレッリがデザインしたドレスやアクセサリーのほか、ハリウッド女優メイ・ウエストの等身大トルソーをモチーフにした香水瓶「Shocking」も公開。スキャパレッリの代表作です。
東京都庭園美術館でチェックしたい、第一階段、二階広間
花模様のあしらいがエレガントな階段を上がって……
大客間や大食堂などアンリ・ラパンが内装をデザインした1階から、階段で朝香宮家の居住空間だった2階へ。
「階段の壁は木材に見えますが、木目のような表情をもつ大理石。手すりに幾何学模様を思わせるブロンズが連続して組み込まれ、階段ひとつ取っても見応えがありますね」と和田さん。以前、階段には赤いじゅうたんが敷かれていたそうですが、竣工時の資料を調べていたら“あずき色”だったことが分かり、2014年のリニューアルの際にあずき色に取り換えたそう。
2階は、ラパンが内装を手がけた殿下の居室と書斎以外の空間を、宮内省内匠寮の中で権藤要吉が中心となって設計・デザイン。日本の建築美とアール・デコ様式の融合が、より色濃く感じられます。
「通気口やラジエーターカバーは部屋ごとにデザインが異なり、允子妃殿下が手がけたものも。注目です」
東京都庭園美術館で「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」鑑賞 本館編続き
シュルレアリスムと裁縫の関係性を読み解いていく
第6章「シュルレアリスムとモード」では、3つのテーマに分けて、モード的な要素を取り入れたシュルレアリスム作品を紹介。
その相関関係を強く感じるのが、6-2章「裁縫とシュルレアリスム」です。シュルレアリスムの作品にたびたび裁縫道具が登場。なかでもマン・レイは、ミシンやアイロンを多用しました。
「解剖台の上のミシンと蝙蝠傘の偶然の出会いのように美しい」は、ロートレアモンの詩の一節を視覚化した作品。解剖台という非日常的な空間に、傘とミシンというまったく異なる機能のものを組み合わせた、奇想の風景が表現されています。
「シュルレアリスムは単に不思議な世界という感覚で見ていましたが、それが今日変わりました。このマン・レイ作品の解剖台、ミシン、傘の組み合わせには文脈も物語性も感じられません。でも、ストーリー付けされたものを提示されることが多い現代では、それが逆に新鮮で。気楽でいいなって」
そんな和田さんの言葉に「そうなんです。ストーリー性がないのはシュルレアリスムの特徴でもあります。6-2章には、眼だけ、手だけが出てくる作品がありますが、なぜそこにあるのかという物語性や関連性はありません。そこにあるものの強烈な存在感を重要視しています」と学芸員の神保さんは答えます。
東京都庭園美術館で「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」鑑賞 本館編続き
和田さんがアジェの写真に意外性を感じた理由は?
6-3章「物言わぬマネキンたち」で和田さんが意外性を感じたのが、19世紀末~20世紀初頭にかけてパリで活躍した写真家ジャン・ウジェーヌ・オーギュスト・アジェの作品でした。
「アジェはパリの街を撮る写真家という漠然としたイメージで、シュルレアリスムとの結び付きを考えたことはありませんでした。今まで、おしゃれなパリの風景という見方しかしてなかったのが、もったいなかったですね」と和田さん。
ジャン・ウジェーヌ・オーギュスト・アジェ「紳士服店、ゴブラン通り」1925年 ゼラチン・シルバー・プリント 東京都写真美術館
アジェは街中のマネキンや、ふとした瞬間に出会った光景など、幻想でも物語でもなく、ひたすら現実と向き合って、パリの街をリアルに撮影し続けました。彼自身はシュルレアリスムを意識していませんでしたが、シュルレアリストに影響を与えた写真家だったと、神保さんは解説します。
「シュルレアリストは、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の硬直した時代をどう生き延び、芸術をどう表現して、精神を解放していくかを模索し続けました。ときには命がけとも思えるジョークや知的な遊戯で、いかにサバイヴするか。だからこそ彼らは、現実と向き合うことを重要視していたと思うんです。そういう意味でも、アジェの写真は、シュルレアリスムの根本であるなと。あっと驚くものが写り込み、意図しない世界が挿入されるていることもありますから。超現実ですよね」
「お話を伺って、シュルレアリストは、ひたすら現実と向き合ってたんだなぁと強く感じました。現実逃避しないところが頼もしい。今は嫌なことがあると、現実逃避という言葉そのものが、簡単にストレスのはけ口なったりします。過酷な時代を生き抜いた先人たちの力を今こそみなさんに感じてほしいですね」と和田さん。
東京都庭園美術館で「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」鑑賞 新館編
きらめくガラス壁を抜けて、ホワイトキューブの新館へ
世界的な現代美術家・杉本博司をアドバイザーに迎え、2014年に新設された新館。本館の旧朝香宮邸とは趣ががらりと異なるホワイトキューブの空間。本館と新館をつなぐガラス壁の渡り廊下は、陽光が射し込む角度によってハートや蝶々の形をした影が現れ、ガラスと光のマジックを感じさせます。
こちらの新館では、展覧会の最後を飾る第9章「ハイブリッドとモード─インスピレーションの奇想」を展開。動物や昆虫をモチーフとした靴、本物の馬の毛を使ったジョッパーズパンツ、フィルターメガネをかけて鑑賞する発光する絹糸で仕立てたドレスなど、現代に受け継がれる「奇想のモード」が集結しています。
なかでも、アーティスト舘鼻則孝の作品群は圧倒的な存在感。花魁の高下駄から着想を得て創作され、レディー・ガガが着用したことで世界的に脚光を浴びた「ヒールレスシューズ」の初期作から新作までがそろうほか、岡本太郎へのオマージュを込めた立体作品、平面作品なども。舘鼻ワールドが広がります。
「モードをテーマにした展覧会は、洋服やブランド、デザイナーを知る機会にもなりますが、今回は異なるジャンルのものと重ね合わせて見られたことで、感性が刺激されまくりでした。みなさんもこの特別な体験を、ぜひ楽しんでください」と和田さん。
アート鑑賞の後は、新館に併設されたミュージアムショップやカフェで、その余韻に浸るもよし。現在、庭園は新型コロナウィルスの影響で休園ですが、再開したらおさんぽを楽しむのもおすすめ。一日をたっぷり満喫できます。桜の季節の頃、もし庭園が再開していたら……最高に気持ちのいい休日が過ごせるはずです。
DATA
東京都庭園美術館
| 住所 | 東京都港区白金台5-21-9 |
| 問い合わせ先 | 050-5541-8600 (ハローダイヤル) |
| 開館時間 | 10:00~18:00 (最終入館17:30まで) |
| 休館日 | 月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)、年末年始 |
| 観覧料 | 展覧会により異なる |
| アクセス | JR山手線ほか「目黒駅」より徒歩7分、 都営三田線・東京メトロ南北線「白金台駅」より徒歩6分 |
| 公式サイト | https://www.teien-art-museum.ne.jp/ |
奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム
| 会期 | ~2022年4月10日(日) |
| 料金 | 1,400円 ※日時指定制 https://www.teien-art-museum.ne.jp/ticket/ |
| 公式サイト | https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/220115-0410_ModeSurreal.html |
2022.02.22 Tue