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リテール戦略の第4段階としての「アップル新宿」、アップルが「直営店」にこだわる理由とは?

2018.7.19 THU

リテール戦略の第4段階としての「アップル新宿」
アップルが「直営店」にこだわる理由とは?
2018年07月04日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)
先日、ようやくアップルストア新宿(正式名称は「アップル新宿」なので、以下、それに倣うこととする)に直接足を運ぶ機会があり、アップルの新リテール戦略テーマの「タウンスクエア」を日本で初めて採り入れた店舗を実感することができた。今回は、これまでのアップルストアの変遷を振り返りながら、今後の日本におけるアップルストアの在り方を考えてみたい。

▷ 第1段階:家電量販店からの脱皮
そもそも、アップルに復帰したスティーブ・ジョブズが、アナリストたちの冷たい視線を浴びながら、アメリカで最初のアップルストアの実店舗をオープンしたのは、2001年のこと。直営店展開の背景には、それまでの販売店網、特に家電量販店チェーンにおけるアップル製品の扱いが最悪だったという事実がある。

そうしたショップのスタッフは、販売報奨金を出すメーカーの製品を薦める傾向にあり、客がせっかくMacintoshを買い求めに訪れても、言葉巧みに誘導してWindowsマシンを売りつけるようなことが平気で行われていたのだ。

一方で冷たい視線の原因は、その少し前に、Windows PCの直営店舗展開で名を馳せたゲートウェイが衰退し、コンピュータ販売はオンラインによる直販か、スケールメリットのある家電量販店に任せるに限るとの風潮が大勢を占めていたためであった。つまり、今さらアップルが直営店展開に乗り出しても、莫大な初期費用と固定費がかかるだけで成功は覚束ないと決めつけ、時代遅れの戦略と見なされたのだ。

かつてジョブズは、魅力的な製品を作りさえすれば、消費者は無条件で購入してくれると考えていた。しかし、ネクストの失敗などを経てアップルに復帰した後は、優れた製品作りは当然として、広告から販売まで一貫して優れたユーザー体験を作り出さなければ、これからのビジネスの飛躍は望めないと考えるようになったのである。

アップルのリテールストア展開は、まさにその要となる存在であり、値引きやポイント付加などがなくとも「アップルストアで買う」こと自体に意義を感じる消費者を育てる結果となった。

▷ 第2段階:コンタクトポイントの増強
今では、マイクロソフトなども、直営のショールーム兼ストア展開に力を入れるようになっているが、それは、まさにアップルストアの成功によって、トータルなユーザー体験こそがブランド構築に欠かせない要素となり、忠誠度の高いユーザーを作り上げることを目の当たりにしたためと考えられる。

インターネットが普及して、ネットを通じたブランド訴求がかなりのレベルで可能となった現在でも、実際のハードウェア製品やアクセサリの使い心地や質感などは、実物に触れて試さない限りわからない。そのためには、製品を、そのメーカーが考える理想の環境下で見たり試用できる場所が必要となる。つまり、消費者とブランドとのコンタクトポイント(接点)がネット上のものだけでは不十分で、リアルに街やショッピングモール内を歩いているときに、立ち寄って実機を確認できることが重要なのだ。

かつてのアップルの場合、特に新製品については、年に2回、アメリカ西海岸と東海岸で交互に開かれていたMacWORLD Expoという展示会が、その役目を担っていた。同Expoは、それなりの動員数を誇ったものの、2010年ごろには、その数回分に相当する集客を、アップルストアが1週間で達成してしまうほどになり、あえて商業的な展示会に多額の出展料を支払って参加する意味も薄れていく。

アップルの製品発表イベントやWWDCのキーノートをネットで観たり知った消費者が、世界各地のアップルストアに足を運んで自分の目と手で確認する。そのような流れが確立していったのだ。

▷ 第3段階:クレーム対応の強化
そして、とりあえず主要な先進国を中心にアップルストアを展開した後、アップルは日本を含めて、それらの国のユーザーがより多くの店舗を望む声を尻目に、中国やスペインのリテールネットワークを充実させていくことになる。

その理由は、統計上、消費者のクレームの発生率が高い国を重点的に直接サポートすることが求められたためであり、そういう場所での対応を小売店や量販店任せにすると、そのツケがアップルに回ってくることになると考えたからであった。

このため、日本でも、特に東京や大阪のような都市では、市場規模的にもう1店舗ずつ増えても良さそうな環境にはあったものの、前者3店舗(銀座、渋谷、表参道)、後者1店舗(心斎橋)という状況がしばらく続いていた。

そこに登場したのが、元バーバリーのCEOで、これからのハイブランドの小売店のあり方に明確なイメージを持つアンジェラ・アーレンツである。アップルのリテール部門のトップとなった彼女は、自分たちには、行列の長さで人気をアピールするような旧式なマーケティングは不要とばかりに、アップルストアの改革を進めていく。

▷ 第4段階:コミュニティへの融合
考えてみれば、クレーム対応のために特定の国でアップルストアを増やすというのは、理には叶っているものの、決して前向きな事業展開とはいえない。既存ユーザーの満足度は上がるかもしれないが、新規ユーザーの獲得にはつながりにくいためだ。

アーレンツは、アップルストアを、製品直販の窓口である前に、人々が集うコミュニティスペースであると捉え、欧米でよく見かける町中の集会スペース兼憩いの場である「タウン・スクエア」化していく構想を打ち出した。

最も象徴的にそれを具現化したのが、シカゴのフラッグシップ店「Apple Michigan Avenue」である。「Apple Michigan Avenue」は、広場から河岸に向けて広がる大屋根と、それを支えるガラスの壁が壮観であると同時に、思わず中に入ってみたくなるようなオープンさを醸し出している。
Apple Michigan Avenue(イリノイ州シカゴ)

Apple Michigan Avenue(イリノイ州シカゴ)

これと比較すれば、マルイ本館ビルの1階に位置するアップル新宿は、スケール感や趣がだいぶ異なるが、元々、実際のタウンスクエアも町ごとに違う表情を持ち、それが個性となっていくものだ。したがって、タウンスクエア型のアップルストアも異なっていて当たり前といえ、全体としての統一感は保ちながら、独自のディテールを持たせることで、その土地に合った存在感が盛り込まれているといえよう。

これまでのアップルストアは、シルバーのメタル調のファサードが特徴だったが、タウンスクエア型ではガラスが主役となっており、店内が外界の延長であるかのような連続感を持たせている。実際のところ、ガラスの多用は今に始まったわけではなく、古くはニューヨーク五番街のフラッグシップストアやアップル表参道などで、数年前から見られていた。タウンスクエア型のアップルストアでは、そこに曲面の要素(アップル新宿の場合には、エントランス)を入れることで、より親しみやすい印象を持たせている。

また、日本のアップルストアは、どれもそれぞれの街のメインストリートと呼べる通りに面しているが、アップル新宿は、その中でも特に表を歩く人々の動線に沿って広がる横長の店内が特徴であり、表参道とは異なって高さ方向に制約があることが、かえってパノラマ感につながっている。連続的に変化する店内の様子を横目にアップル新宿の前を通りかかると、特に買うものがなくても、ちょっと中に入ってみようかと思わせ、そこに誘い込むように湾曲したガラスの中央エントランスが現れるという空間演出は、なかなかよくできている。
改装中のアップル渋谷や、噂されるアップル京都も、どのような設えとなるのか楽しみだが、アップル新宿には、その雛形としての役割もありそうだ。アップル京都も市内中心部の路面店となることが確実で、さほど冒険的な構造は期待できない。しかし、ゆくゆくは、たとえば、三条~四条あたりの地上レベルと鴨川の河岸を結ぶようなダイナミックな造形の妙も見せて欲しいところだ(土地柄、場所の確保が難しそうだが…)。

折しも、ソニーも銀座のソニービルを大規模リニューアルし、まず、1階から地下部分にかけて公園機能を持つ銀座ソニーパークをこの8月にオープンして、その後、竣工する地上部分にもパブリックな概念を通底させていく予定という。これからの先端企業のリテールの戦いは、こうしたパブリックさをどこまで具現化していけるかにかかっていると考えてよいだろう。
[筆者プロフィール]
大谷 和利(おおたに かずとし) ●テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。
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