今回はコミックス『夜と海 2巻/郷本』の使用フォントをご紹介。本記事はデザイン構成において重要な「フォント」の選定プロセスや加工方法を、貴重なプロの実例から紐解いてデザイン制作に役立てる連載です。
少女たちの揺れ動く心象風景を繊細かつ幻想的に
美しく近寄りがたい雰囲気の転校生・夜野月子と、天真爛漫で泳ぐことが大好きな内海彩。二人の不器用な少女たちの日常を描いたコミックスの表紙カバー。作中できめ細かに描写される、水の中で泡のように揺れる少女たちの心象風景が、色相の変化する背景の円形モチーフや繊細なメインイラスト、脆さを感じさせるタイトルロゴなどで表現されている。
Font.01「太ゴB101」
安定感のある文字を加工し繊細で湿度を持った印象に
メインタイトルの文字は、安定感のある骨格を持つオーソドックスなゴシック体「太ゴB101」(モリサワ)がベース。画線と画線の交差部分に墨だまりを作りつつ文字を細め、部分的に泡状の虫食いをあしらうことで、少女たちの心象風景でもある「水中」の不安定さや繊細さ、作品の持つ湿度などが表現されている。
Font.02「太ゴB101」
タイトルロゴに合わせたゴシック体で統一感を
作者名「郷本」部分の文字は、メインタイトルとの相性や連動性を意識して「太ゴB101」(モリサワ)が選択された。タイトルロゴとのバランスを取るため、若干細く加工して使用されている。
Font.03「Mason Sans Regular」
ビジュアルに合わせて幻想的な雰囲気の書体に
タイトルの英字表記「YORU TO UMI」部分は幻想的でエキセントリックな雰囲気の「Mason Sans Regular」(Emigre)が選択された。少女たちの心象風景と実体がクロスオーバーするような画作りのメインビジュアルや、繊細かつ不安定な印象のタイトルロゴとの相性を考慮し、標準の字体ではなく異体字が適用されている。
2019.08.29 Thu2021.09.04 Sat