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【文房具連載】第2回 PLANTIS「やまま文具」/物語のある、ニューフェイスな文房具・雑貨

2020.5.25 MON

物語のある、ニューフェイスな文房具/第2回 PLANTIS「やまま文具」情緒的な色使い、機能的で美しいかたち、初めて出会う文房具
見た目がおしゃれだから、使い勝手がよさそうだから。普段何気なく買っている文房具や雑貨だけれど、それらのアイテムに秘められた“物語”を知ることができたら、もっと選ぶのが楽しくなって、もっと愛着がわくはず。そこで、素敵なストーリーのある新顔ステーショナリーをご紹介。第2回目は、2019年に誕生した「やまま文具」。唯一無二の色使い、機能的で美しいフォルム、今までに見たことのない、心潤すやさしい文房具にときめいて。

●取材:編集部、沼田佳乃 ●文:沼田佳乃 ●撮影:YUKO CHIBA

▼もくじ
▽はじめに
▽誰も見たこともないような文房具
▽持っていると嬉しい気分になれる
▽日本らしい情緒的で柔和な色使い
▽おわりに

▼はじめに/初めて出会う、美しくて、かわいくて、実用的な文具たち
四辺すべての色が異なる「四方色付けメモ」

四辺すべての色が異なる「四方色付けメモ」

今回ご紹介する「やまま文具」は、デザイン事務所であり工場でもある「PLANTIS(プランティス)」から、2019年に生まれたブランド。東京を中心に日本での製造にこだわり、企画、デザイン、製造、営業に至るまで、代表である山口圭二郎さんが携わっている。持ち運びにも便利でやさしい色使いのふせんや、四辺すべてが違うカラーのメモ帳など、美しくて実用的なアイテムばかり。
▼「やまま文具」について/誰も見たこともないような商品をつくること
イタリア製の美しい紙を使った「金銀銅のふせん紙」

イタリア製の美しい紙を使った「金銀銅のふせん紙」

金色の糸で綴じた「ミシン綴じノート」

金色の糸で綴じた「ミシン綴じノート」

昨年開催された展覧会「クリムト展 ウィーンと日本1900」のグッズ「金の付箋紙」

昨年開催された展覧会「クリムト展 ウィーンと日本1900」のグッズ「金の付箋紙」

デザイン事務所「PLANTIS」の代表であり、「やまま文具」のデザイナー、山口圭二郎さんにお話を伺いました。

コンセプトとターゲットを教えてください

山口さん:コンセプトやターゲットは、最初から決めないようにしているんです。文房具は中学生や高校生も持つわけで、テイストは大人寄りですが、そこにターゲットを絞っているわけではありません。同様にプロセス自体も探りながら進めています。もちろん前提として、日本製、東京製であることや、商品が実用的であることは大切にしています。その上で、誰も見たこともないような商品をつくりたいんです。

といっても、一点物をつくりたいわけではない。「まるで一点物のようなデザインや仕様の文房具をいかに量産するか」ということを常に考えてデザインしています。文房具というさまざまな国や年齢の人が使う歴史もある分野において、きっとまだデザイナーとして新たに出来ることがあるし、より良くすることができると信じています。ほかのメーカーやデザイナーがやっていないことの中で、より良いデザインや商品はどのようなものなのか、デザイナーとして何ができるのかを提案することが自分の役割だと思っています。
やまま文具という名前にはどんな思いが込められていますか?

山口さん:とにかく分かりやすく〇〇文具とか〇〇製作所とかにしようと思いました。近所の小さな工場のほとんどは、名前+業種にしています。そのような名称は古く感じるかもしれませんが、何をつくっているか誰にでもすぐ伝わるという良さがある。あとは、自分の名前を入れることで責任感が生まれると思いました。だから山口文具でも山口製作所でもよかったのですが、それだとさすがにありきたりすぎるので、ひっかかりのある固有名詞になるようにしました。
▼制作過程・アイテムについて/持っているだけで嬉しい気分になれるもの
文房具を制作していく過程を教えてください。どのような思いつきから生まれるのでしょうか?

山口さん:生まれる背景はそれぞれ違います。例えばクリップの場合は文房具業界で売れなくなっているカテゴリのひとつなんです。紙の使用が少なくなっているのもあるし、クリップは安価でたくさん入っていたりするので、あまり買い足すものでもない。それでいて、プロダクトとしても完成度が高いので、新たなことをする余地も少ないのです。品質においても100円均一の商品も文具専門店の商品も大きな差はありません。それらの理由から他の文房具のカテゴリに比べて新しい商品が生まれにくいのです。

しかしデザイナーとしては、皆がやらないところにきっとまだ何かできることがあると。そして金属のクリップに足りない部分を考え、僕自身、金属の触った感じが苦手なので、それを変えられたらいいなと。金属の代わりに紙製も考えられますが、紙製のクリップは比較的昔からあり、自分もつくったことはあるので、日本の竹でできないかと調べ始めたのがきっかけでした。四国の竹を使い、薄くしたものを4層に重ねて、その間に和紙を挟むというつくり方で強度を上げています。ヒノキや松、桜なども試作しましたが、強度や生産性を考えると竹が最も適していました。形状も非常に苦労しました。

機能性がありながら、見た目も美しい。両立することは難しくありませんか?

山口さん:機能は文房具にとって非常に重要な要素ですが、人や自分が文房具に求めるのは機能のみではないと思っています。そこはバランスだと思います。基本的には、どの商品も、どうやってつくるかという技術的なところから始まります。うちの商品はそもそもつくるのが難しいんです。例えば、外注に出して同じものができるかっていうと、まず無理でしょう。

製造方法から考えていて、材料や技術、機械やコストによる制約も多くあります。制約が多いと、今度は必然的なことが出来てくる。自分で考えなくても出てきてしまう部分が多いのです。最終的に、そこに少しだけ情緒的な要素を入れているんです。だから、実際に表層的なデザインをしている時間は本当に少なくて、1日くらいでやることが多いです。技術的なことや製造方法を考えることもデザインの一部として考えれば3年から4年かかっているとも言えます。
竹でつくられた「バンブークリップ」

竹でつくられた「バンブークリップ」

箱には商品名とロゴを型押し

箱には商品名とロゴを型押し

本当に絶妙なバランスだと思います。持っているだけで嬉しい気分になる文房具ですね

山口さん:文房具自体の要素にまさにそれがあると思ってます。僕自身も中学1年生くらいになったときに、姉がとてもおしゃれなノートを持っていたんです。それまで見たことがないようなノートで、すごく欲しくてもらった記憶があって。大事でなかなか書けなかったけど、嬉しくて大切に持っていました。今までの自分の生活の中では出会ったことがなくて衝撃的でした。一体どこからやってきたものなのだろうと思ったんですね。存在感としてはそうなったら嬉しいです。

Made in Japanもこだわりのひとつですか?

山口さん:すべて日本製です。原材料もなるべく国産にしたいと思っています。付箋の金銀銅の紙はイタリア、ファイルの革はアメリカが原産ですが、それ以外の原材料はすべて国産のものを使っています。でも、それは当たり前のことかなと思います。自分がいる場所というのが大きい。近所に工場もたくさんあるし、遠くに行く必要がない。自転車で行ける距離でほとんど探しています。
荒川区の元金属加工場を会社にした理由も、職人の町が近かったから?

山口さん:はい。僕が機械を購入した職人さんに、条件としてまず場所を探してくれと言われて。その頃デザインしたものを荒川区の町工場でつくることが非常に多かったんですね。それもあって、わざわざ都心で事務所を構えるのではなく、どうせならものづくりの現場まで自転車ですぐ行けるような近いところがいいと。あと機械を入れられるところ、ということで、元工場を探しました。

営業からデザイン、製造まで、すべて1人で行うのは大変ではありませんか?

山口さん:近所の町工場にも協力してもらってる部分もありますし、社内の仕事もすべて1人だけで行なっているわけではありませんが、すべての工程を1人でやることは、実はすごく効率がいいと思っていて。もちろん超大量生産で似たようなものをつくる時代というのは、分業によって効率が上がる。

でも、差別化が求められたり、オリジナルを求めて商品をつくるときに、分業化は必ずしも効率がいいとは思いません。僕はお金のこと、製造のこと、営業、デザインを1人でやることによって、価格を少し安くしなければいけないとなったら、材質を変える、数量、紙質は……と、すぐに決めたり変更ができます。時間的なロスがない上に、つくりながら仕様変更をしたり、デザイン自体も変えながらより良いものを作ることができるんです。
▼色使いについて/どこか日本らしさも感じる、情緒的で柔和なカラーリング
今までのふせんではあまりなかった色使いの「やさしい色のふせん紙」

今までのふせんではあまりなかった色使いの「やさしい色のふせん紙」

色使いも印象的です。どこか日本っぽい雰囲気も感じるのですが意識されていますか?

山口さん:デザインする上でほとんどの要素は必然的に出てくるんですが、色はすごく難しい。難しいんですが、色使いなどはあえて自分の感性を反映させないといけないと思っていて、なんとか自分で決めるようにしています。心掛けているのは、文房具を参考にしないことでしょうか。ある程度試作ができたところで売り場に並べてみたりはしますが、制作初期は文房具売り場にもいかないようにしています。

デザインは必然性があると信じているんですが、それだけではなく、デザイナーの情緒的な部分を入れてもいいのではないかと思っていて。コンマ単位でデザインの根拠や論理をベースにしつつ、色などは情緒的な部分も拠りどころになる。そういう部分で日本人らしさが表れていたらそれはいいなとは思いますね。

情緒的な部分とはどういうことでしょうか

山口さん:論理性を無視して、自分がいいと思っていること。日本人である自分が、今まで培ってきた技術や経験をもとにデザインすれば、ほかと似たようなものにならないはずです。デザインの理論や根拠はとても大切なことなのですが、それだけでは自分がデザインする意味がないのではないかと思います。そもそも自分がデザインする意味なんて必要ないのかもしれないですが。買う人にとって、つくった人の背景とか、デザイナーが誰であるとかは関係ないと思っていますが、何かしら個人的なものが表れてしまうのはいいのではないかと今は思っています。
▼おわりに/"話さなくても伝わる商品”であることが最大の営業戦略
2019年のカタログ

2019年のカタログ

展開するにあたっての営業戦略などありますか?

山口さん:「話さなくても伝わる商品をつくること」でしょうか。自分はうまく説明するのが得意ではない。でもそれはデメリットにならないと気づいたんです。話さなくても伝わるものを作ればいいし、そもそも小売のバイヤーは上手い説明を求めているわけではない。正直にありのままを伝えることが相手にいちばん届く。演出的なことはまったく必要ないと思っています。

昔は、営業という仕事は、世間話や営業トークのようなことをしなくてはいけないというイメージがあったけど、ただ商品をそのまま伝えるだけでよかったんです。今は営業をしないでどこまでできるかというやり方をしています。自分からは営業の電話をしたりせず受けるのみ。お披露目の場も展示会だけ。そこに時間を使うよりはデザインや製造することに使いたい。商品が店に並べば、それが宣伝になるので、PRなどの宣伝も一度も自らやったことはありません。勝手に連絡が来るのを待つというのが、最も効率的な営業戦略だと思っています。

センスのある素敵なショップで取り扱われていますね。魅力的な文房具なので、売りたくなる人の気持ちがわかります

山口さん:世の中にどう反応してもらえるのかは出すまで予想できないこと。実際、これらを出すまで、誰にも見せずにやってきたので、感度が高いお店というか、そういうところのバイヤーには僕の方が驚かせられるんです。僕はデザインも文房具もずっとやってきたから、これらが今までにないものだとわかっている。でも、文房具の成り立ちや、技術的なことを知らないはずなのに、良いと思ってもらえるというのは、反対にその人たちが本当にすごいと思う。知識なんて関係なくテンションを上げられる存在感というか、そういうものになれば嬉しいです。

海外でも展開もされていますよね。反応どうですか?

山口さん:海外も反応はすごく良いです。海外の店舗と直接やり取りするのは大変なので、ヨーロッパだけは信用できるディストリビューターと独占契約しています。スペインの方なのですが、本当に文房具が好きなのが伝わり、信用できるので、価格的なことも流通も全部お任せしている。今はヨーロッパが多いですが、アメリカやアジアからもたくさん声をかけてもらってるので、今後展開したい。いいディストリビューターとの出会いがあれば、どんどん任せてやってもらいたいです。

ほかにつくっていきたいものはありますか?

山口さん:継続して試作しているものはいっぱいありますが、次はノートとか。ノートは製本技術が関係してくるのですごく難しい。どのやり方がいいか、工夫できないか、ずっと試作しています。もう少しで出せると思います。
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