今回はSF小説の金字塔、書籍『スノウ・クラッシュ〔新版〕/ニール・スティーヴンスン(著)、日暮雅通(訳)』(早川書房)で使用されたタイトルフォントを紹介。
*本記事はデザイン構成において重要な「フォント」の選定プロセスや加工方法を、プロの実例から紐解いてデザイン制作に役立てる連載です。
直線的かつ規則的な文字で“何か”が伝播していくイメージに
仮想空間およびそのサービスを意味する「メタバース(作中での表記はメタヴァース)」という造語を生み出し、シリコンバレーの起業家たちにも大きな影響を与えたSF小説の金字塔『スノウ・クラッシュ〔新版〕/ニール・スティーヴンスン(著)、日暮雅通(訳)』。仮想空間と現実世界の両方にばら撒かれた謎のウイルス「スノウ・クラッシュ」をめぐる陰謀と、それに巻き込まれていくピザ配達人・ヒロの姿が描かれている。長らく待ち望まれていた復刊に際してカバーデザインもリニューアルされた。
表紙カバーでは、仮想空間やウイルスをモチーフにした作品の世界観が、直線的かつ規則的なタイトルロゴやイラストなどで象徴的に表現されている。デザインを担当した早川書房デザイン室によると「最初はメタバースに寄せたデザインを考えていましたが、編集からのリクエストもあってSFに寄りすぎない方向でデザインすることになりました。タイトルの『スノウ・クラッシュ』はウイルスの名前で、その“何か”が伝播していくようなイメージは『メタバース』にも通じるものがあるかなと考え、そういったイメージで作っています」とのこと。
Font.01「ギガG M」
イラストに合わせて規則的にカクカクしている文字に
メインタイトルの文字は、八角形を基本形状としてデザインされた「ギガG M」(視覚デザイン研究所)がベースに。規則的にカクカクしている印象的なフォルムがイラストにマッチしていたため選択された。
右図は、その加工工程。早川書房デザイン室によれば「平体をかけたりイラストの斜角に合わせて変形したりして微調整しながら、最終的に直線でトレースし直して仕上げています」とのことだ。
Font.02「ヒラギノ角ゴシック W7」
可読性を考慮してオーソドックスなゴシック体を選択
著者名「ニール・スティーヴンスン」部分の文字は、現代的な明るさを持ちながらオーソドックスな印象もあるゴシック体「ヒラギノ角ゴシック W7」(SCREENグラフィックソリューションズ)に。可読性を考慮して、字面がやや大きめで読みやすい角ゴシック体が選択された。
Font.03「ギガG M」
タイトルロゴに合わせて直線的な文字を
タイトルや著者名の欧文部分は、メインタイトルと同じく直線的なフォルムのデザイン書体「ギガG M」(視覚デザイン研究所)がベースに。カクカクしたフォルムがイラストにマッチしていたため選択された。早川書房デザイン室によれば「メインタイトルと同様の印象になるよう、同じ書体をベースに変形して使用しています」とのこと。
Font.04「ヒラギノ角ゴシック W6」
著者名と同じ書体で読みやすくベーシックに
巻数の「上」や「下」の文字は、可読性を考慮して、著者名と同じベーシックな角ゴシック体「ヒラギノ角ゴシック」(SCREENグラフィックソリューションズ)が選択された。著者名部分の文字とのバランスを考慮して、ウェイトはそれより若干細い「W6」が採用されている。
制作者プロフィール
- 早川書房デザイン室
- 早川書房デザイン室。早川書房で装幀を担当。
2022.02.10 Thu