新型iPad Pro、MacBook Air、Mac mini…、アップルの狙いはプラットフォームシフトか? | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

新型iPad Pro、MacBook Air、Mac mini…、アップルの狙いはプラットフォームシフトか?

2018.12.16 SUN

新型iPad Pro、MacBook Air、Mac mini…、アップルの狙いはプラットフォームシフトか?
2018年11月14日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)
この秋2回目となったアップルのスペシャルイベント「There's more in the making.」が終わって2週間余りが経過し、実際の製品を手にした人も増えているのではないかと思う。かくいう筆者も、愛用してきたMacBook(Ealry 2015モデル)と初代iPad Proの後釜として、新型MacBook AirとiPad Pro(11インチモデル)を購入し、仕事用の機材を一新したところである。個人の環境では、MacBook系は画面サイズが大きく、iPad Proは逆に小さくなったことになる。

9月のイベントの際にも書いたが、発表内容がリーク情報とほぼ一致という状況は何とかして欲しいものの、改善される保証はなく、これはもはや目をつぶるしかない事柄なのかもしれない。
▷ より明確化した「数」から「質」へのシフト
まず今回の発表で注目したいのは、MacBook AirとiPad Proの新型が同時に披露されたことと、内容的な充実もさることながらMac miniのベースモデルが一気に数万円レベルで値上げされ、最上位の構成では46万円を超えるほどになった点である。上位構成モデルがそれなりの価格になるのは、他の2つの新製品も同様の傾向にあり、iPad ProにはLightningに代えてUSB-Cが採用された。

また、製品発表とは別に、アップルは今後、四半期ごとの決算報告においてiPhone、iPad、Macの出荷数を公表しない方針を明らかにした。これらが意味するのは、アップルは市場に伸び代のあるApple Watchを除く既存の製品ラインに対して、「数」より「質」(と高利益率)の戦略をこれまで以上に推し進めるという決意である。その視点に立ち、ティム・クックになったつもりで、今回のラインアップを振り返ってみると、以下のような思惑が見えてくる。
▷ 買い替えを機に促すプラットフォームシフト

1兆ドルを越す時価総額と多額の現金を保有するアップルは、「待つことのできる企業」である。ユーザーから見れば、MacBook AirやMac miniが前回のアップデートから長期にわたって放置されてきたに近い状況には頭をひねるが、その資金力や技術力をもってすれば、それなりのモデルチェンジは簡単にできたはずだ。であるにもかかわらず、してこなかったのは、アップルがその時々で売りたい製品にフォーカスする強い意志を持っているからにほかならない。そして、そのようにして開発リソースを集中させ、売り上げのサイクルを作り出すことが同社のような超巨大企業を存続させていく上で重要であると心得ている。

ティム・クックは、少なくとも次の画期的な新プラットフォーム(ARグラス?)が出るまで、既存製品の市場が飽和状態に向かっていることなど百も承知である。そのようなときに、確実な売り上げを立てるには、現ユーザーの買い替えを促すことが確実かつ手っ取り早い。ベストセラーでロングセラーのMacBook Airならば、買い替えの時期に差し掛かったユーザーの潜在数が相当なものとなっていることは容易に想像がつく。さらに、Airライクになった初期のMacBookユーザーも、キーボードの不調(筆者の場合には、左のシフトキー)やバッテリーのへたりが出てきており、Retina化されたMacBook Airは十分買い替え対象になりうる。

唯一、障害となりそうなのが、新型には11インチモデルがない(エントリーモデルとして販売が継続される旧型からも外された)点だが、ここに今回のラインアップの深謀遠慮があると考える。それは、MacBook AirユーザーのiPad Proへのスイッチだ。

もちろん、筆者も(そして、アップルも)MacBook AirユーザーのすべてがiPad Proにスイッチするとは考えていない(個人的に両方を所有したり買い換えるのは、職業柄ゆえの特殊な例である)。むしろ、新型MacBook Airへの買い替えを選ぶユーザーが普通だろう。ただし、それは自分に必要なアプリケーションがmacOSのプラットフォームにしかない場合だ。そういう、ある意味でコアなユーザーは、当然ながら再びMacBook Airの一択となる。

しかし、改めて考えてみると、Macの中では比較的ライトユースで利用されていると考えられるMacBook Airの場合、Macアプリでなくては不可能なタスクは、それほど多くないと推測される。特に、メールやSNS、写真管理、iWork系アプリ(Pages、Numbers、Keynote)が中心の使われ方であれば、iPad Proへの置き換えは、ほとんどシームレスに行えるはずだ。

しかも、今後、Photoshopの完全版のように、iPad Pro向けにデスクトップPCアプリがリリースされる可能性はかなり高まってきている(アップルが、macOSとiOS用アプリのコア部分を共通化しつつあることを思い出して欲しい)。

そうした目で見るとiPad Proは、11インチも用意され、新型MacBook Airよりも安価で、しかも、特にグラフィック処理においてはMacBook Pro並みの性能を持っている。試しに、iPad Proの11インチWi-Fiモデルに256GBのストレージ(128GBは用意されない)とSmart Keyboard Folioを付けると、13インチモデルしか選べない新型MacBook Air(128GB)とほぼ同等の価格となる。

どうだろう? iPad Proは、旧MacBook Airからの買い替え候補としても魅力的に映らないだろうか。通常、ここまで競合しそうなプラットフォームの新型を同時に発表することは、特にアップルではありえない話といえる。しかし、一旦、新型MacBook Airを新規購入したり買い換えたユーザーは、短くても2~3年は使い続け、次の買い換えのことは考えなくなってしまう。前述のようなコアなMacユーザーは別として、ライトユーザーやこれから大画面のモバイルデバイスへのデビューを控えた新規ユーザーにiPad Proを訴求するには、このタイミングがベストだったのだ。
▷ USB-CはiPhoneにはやってこない?
そのためもあって、iPad ProはI/OポートをLightningからUSB-Cに切り替え、市場に増えつつあるノートコンピュータ用の周辺機器などをそのまま使えるようにする必要があった。しかし、iPhoneについてもそのようにする可能性は低いと筆者見ている。というのは、アップルはiPhoneの市場シェアを背景に、Lightning接続のサードパーティ製周辺機器からもそれなりのライセンス収益を得ていることが1つ。そして、USB-CはLightningと比べてコネクタ関連のフットプリントが大きくなり、内部設計でコンマ1ミリも無駄にしたくないiPhoneとは相容れないところがあるためだ。

また、USB-Cの採用に踏み切るなら、先のiPhone XS/XS Max/XRの時点でそうしていてもおかしくない(iPad Pro発表時のインパクトは薄れるが……)。EU圏ではスマートフォンを含むモバイルデバイスのチャージャーを統一する方向だが、ワイヤレス充電でQi規格がデファクトスタンダードとなった今、そうした採択は形骸化しつつあるともいえ、無理にマイクロUSBやUSB-Cにしなくても、アダプタの同梱などで対処する抜け道はある。iPhoneの進化の流れから考えると、Lightningを捨ててUSB-Cにするくらいならば、いっそポート類を一切廃して、完全ワイヤレスの環境を目指すほうが潔いだろう。
▷ Mac miniが向かうプロ機材への道
最後に、Mac miniの位置付けの変化も、「数」より「質」(と利益)の考えに沿ったものだ。Mac miniの本来の位置付けは、音楽プレーヤーのiPodの大ヒットを背景に注目度が高まったMacプラットフォームへの移行をWindowsユーザーに促すためのエントリー製品であった。

しかし、もはやアップルとしてはWindowsユーザーの転向をそこまで徹底して考える必要はなくなり、Mac miniの役割も単に最も安価で省スペースなマシンとなっていた。

それでも、Mac miniを使い続けているユーザーには、それなりの明確な理由が存在するはずで、その買い換え需要にも無視できない程度の規模があると考えられる。新型の価格帯は確かにこれまでよりも高くなったが、特にベースモデルは仕様的にもかなり買い得感があり、買い替えを考えるようなユーザーであれば、十分納得できる範囲内だ。

さらに、オプションの10ギガビット Ethernetを装備すれば数千台規模のクラスターを構築してコストパフォーマンスの高い並列処理を行うことも可能なため、ニッチなプロユースながら大量の台数を一括販売できるポテンシャルも秘めている。一般ユーザーは手を出しにくいかもしれないが、デザイン指向の強いユーザーならば、ミニマリスト的構成で必要十分な性能を持つワークステーションに仕立てることもできるので、iMacよりも自由度の高いシステムを作りたい向きにも適したマシンでもある。

見方によっては、かつて故スティーブ・ジョブズの肝いりで開発したものの、位置付けが曖昧でビジネス的には失敗に終わったPower Mac G4 Cubeの完成形がようやく登場したようにも感じられ、彼を崇拝するティム・クックの心の中にも、どこかそれを作り上げる使命感的なものがあったかもしれない。

いずれにしてもアップルは、Macプラットフォームのターゲットをプロ指向のユーザーや開発者向けにシフトするとともに、iPad Proを万人向けのプラットフォームに仕立てる方向に大きく舵を切った。アップルは、今後登場が予想される新型Mac Proではさらに高みを目指すと共に、iPad Pro向けのアプリケーションの充実に邁進していくことになるだろう。
[筆者プロフィール]
大谷 和利(おおたに かずとし) ●テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)、『インテル中興の祖 アンディ・グローブの世界』(共著、同文館出版)。
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