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大谷和利のテクノロジーコラム

2021.07.28 Wed

数ある音楽サブスクの中で「Apple Music」を選ぶ理由

TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

世の中はいつの間にか、購入するより購読するサブスクリプションスタイルの製品・サービス利用が人気となっている。欧米では、オモチャからライブイベント、健康サプリ、果ては瞑想用コンテンツまで、実に様々なサブスクサービスが揃っているほどだが、世界的に見て最もポピュラーで身近なのは、やはり音楽配信に関するものだろう。今回は、筆者のケースを引き合いに出しつつ、Apple Musicを選ぶ理由を掘りさげてみたい。

なぜ今、サブスクリプションなのか?

まず、最初に、この分野で世界最大手のSpotifyをはじめ、YouTubeを擁するGoogle、Amazon、AppleなどのIT業界の巨人からLINEや楽天にいたるまで、様々な企業が、音楽のサブスクリプションサービスを行う理由を考えてみよう。それは、もちろんビッグデータと無関係ではない。

前提として、音楽ほど時代の気分というか、個人の、そしてその総体として社会全体の気持ちのありようを映し出してくれるものはない、ということがある。そのうえで、アナログにせよデジタルにせよ、楽曲やアルバムごとに対価を支払うシステムでは購入の決定に慎重にならざるをえないが、定額制の場合には、少しでも興味を持った曲があれば、すぐにでも聴いてみようという気になる。

確かに、慎重に選ばれた楽曲やアルバムには、購入者の嗜好がより色濃く反映されるだろう。しかし、ビッグデータとして世の中のトレンド動向などの分析に利用するには、リスナーが少しでも興味を持った楽曲をリアルタイムで把握できるほうが好都合なのである。加えて、何らかのキャンペーンや社会現象、アーティスト動向といった周辺要因が、リスニング傾向にどのような影響を及ぼすかを知るにも、実際に楽曲を聴くまでの障壁が少ないほどよい。

消費者目線でのサブスクリプションは、限られた予算でコンテンツなどを最大限に利用できるメリットがある。その一方で企業にとってのサブスクリプションは、消費者の興味とその変化をいち早く把握し、よりパーソナライズしたサービスを提供したり、関心を持ちそうな商品やコンテンツを開発するための情報収集ツールとしても機能しているのだ。

都市別のトップ25やデイリートップ100がわかるのも、ダウンロードやオフライン再生分を含めて、ネット接続時にサーバー側で再生状況を把握できるサブスクリプションサービスならではの機能だ
都市別のトップ25やデイリートップ100がわかるのも、ダウンロードやオフライン再生分を含めて、ネット接続時にサーバー側で再生状況を把握できるサブスクリプションサービスならではの機能だ

当然気になる、聴きたい楽曲の有無

今のところ、大手の音楽配信サブスクリプションの料金体系は、月額980円でほぼ横並びの状況にある。年間プランやファミリープランなどの利用で、さらに安くなるケースはあっても、通信キャリアによる学生プランなどを除けば、料金プランがサービス選択に及ぼす影響は小さいと感じる。

また、Spotifyには広告モデルによって全曲無料でシャッフル再生できるプラン、Racten Musicには月額500円で月20時間まで再生できるライトプラン、AWAには広告なしで月20時間まで全曲ハイライト再生(フル再生ではない)できる無料プランなども用意されているが、好きな音楽を制約なしに聴くという意味では、標準的な有償プランを選ぶべきといえる。

逆に、いかに限られた予算で最大限に楽しめるといわれようが、音楽配信サービスである限り、その選択基準は「聴きたい楽曲が揃っているかどうか?」という点に尽きるだろう。たとえば、Apple MusicやAmazon Music Unlimited、Rakuten Musicは7500万曲以上、LINE MUSICやAWAにいたっては8000万曲以上の楽曲数を誇っている(Spotifyは5000万曲以上とやや少ない)が、どんなに曲数が多くても、ない曲は存在するからだ。

一例として、解散後も根強いファンを持つTHE BLUE HEARTSなどは、邦楽に強いRec Music(旧レコチョクBest。楽曲数非公開)の独占配信となっている。そのため、彼らの楽曲を聴きたいのであれば、Apple Musicを含めて、その他の音楽配信サービスは最初から対象外となる(ちなみに、The Blue Heartsというアメリカのカントリーロックバンドの楽曲は、Apple Musicなどでも配信されている)。

同様に、いわゆるアニソンがリスニングの主体ならば、その分野を専門とするANiUTa(楽曲数10万曲以上)というサービスがあり、K-POPをはじめとするアジア圏の楽曲の場合にはKKBox(同7000万曲以上)が充実しているなど、嗜好によっては自ずから選択肢が決まってくるのは致し方ない。

だが、筆者も含めて一般的なカジュアルリスナーにとって、Apple Musicのラインアップはかなりの楽曲をカバーしており、日常的な視聴にはまず問題ないレベルといってよい。さらに、サブスクリプションサービスには解禁されていない曲でも、iTunes Storeで購入できる場合があり、両者を組み合わせることで、デジタル配信されている楽曲であれば、ほぼ不満なく揃えられるのではないだろうか。

楽曲購入はAmazon MusicやLINE MUSICでも可能だが、サブスクリプションのみのサービスでは、ライブラリに登録した楽曲でも、サービス自体を解約したりアーティスト側で配信停止された場合には聴くことができなくなるため、購入オプションがあることは保険の意味でも安心できる要素だ。

ロスレス&空間オーディオへの対応

Appleは、先ごろ、Apple Musicにおいてロスレスオーディオと空間オーディオへの対応を進めていくことを表明し、日々、対応楽曲が増えている。簡単にいえば、ロスレスオーディオは、CDクオリティ(44.1kHz/16bit)から48kHz/24bitの高音質な楽曲データを意味し、空間オーディオはドルビーアトモス技術によって周囲のあらゆる方向から音が聞こえるような臨場感をもたらす。ただし、現在のワイヤレスイヤフォン/ヘッドフォンではロスレス再生はできず、空間オーディオの再生には、H1チップまたはW1チップを搭載したAirPodsかBeatsのヘッドフォン、または最新のiPhone、iPad、Macの内蔵スピーカーが必須となる点には要注意だ。

しかも、Apple Musicではこれらの高品位オーディオが追加料金なしで提供されるため、先に、高ビットレートオーディオや空間オーディオを料金プランの高いAmazon Music HDとして提供していたAmazonも、Amazon Music Unlimitedからの無償アップグレードへと方針転換せざるを得なくなった。Spotifyもこれに追従すると見られるが、現時点で月額980円レベルでこれらの高品位オーディオを利用できるのはApple MusicとAmazon Music HDのみとなる。

Apple Musicは、ロスレスオーディオや空間オーディオを追加料金なしに提供する最初の音楽サブスクリプションサービスとなった
Apple Musicは、ロスレスオーディオや空間オーディオを追加料金なしに提供する最初の音楽サブスクリプションサービスとなった

手持ちのCDライブラリもシームレス再生

Apple Musicは、元々、現在もサービス提供されているiTune Store(開始当初はiTunes Music Store)から派生し、その大元にはユーザーが自ら合法的にリッピングしたCDミュージックを管理・再生するためのiTunesアプリが存在した。そのためApple Musicは、iCloudミュージックライブラリを利用することで、CDからリッピングされた楽曲も、iTune Storeストアからの購入楽曲やApple Musicからのストリーミング/ダウンロード楽曲とシームレスに再生できるようになっている。

実は筆者にとっては、この点もApple Musicの大きな魅力であり、かつてリッピングした楽曲もiCloudミュージックライブラリとApple Musicを連動させて聴けることが重要だ。他のサービスではそもそも手持ちの楽曲の取り込みができないか、できたとしても設定や管理が面倒だったりするため、筆者と似たような利用法を考えるならば、やはりApple Musicが適しているといえるのである。

楽曲の配信停止や自動置き換えにはストレスも

もちろん、Apple Musicも完璧ではなく、プレイリストに登録しておいた曲がいつの間にか配信停止となっていたり、同名の曲があると、勝手に旧録音が新録音に置き換えられてしまうことや、原語バージョンの歌が日本語バージョンのものと入れ替わっていたこともあった。

楽曲の配信停止はAppleのせいではないが、後の2点は明らかに、親切のつもりが余計なお世話になっている。せめて置き換える前にユーザーの確認を得るなどの配慮があってしかるべきと思うので、これからの改善に期待したい。

UIやプライバシーの観点からもApple Music一択

最近のAppleのマルチプラットフォーム戦略に基づいて、Apple MusicもWindowsやAndroidで利用できるようになっているが、特にAppleユーザーにとってはUIが普段から使い慣れているものの延長にあって直感的に利用できることや、ラジオセクションのプロによる選曲センスの良さなども選択の理由となるはずだ。

個人的には、Apple Musicの場合には、冒頭で触れたビッグデータの扱いでもプライバシーを重んじ、解析データを外部に販売したり、楽曲リコメンドなどの内部処理以外の目的で利用していない点が大きく、MacやiPhone、iPadはもちろん、Apple WatchからApple TV、HomePodまでシームレスに連携できるところも気に入っている。

プロによる選曲をDJ感覚でライブ配信しているApple Musicのラジオセクションはセンスの良さで定評があり、いつでもどこでも「音楽の今」を感じることができる
プロによる選曲をDJ感覚でライブ配信しているApple Musicのラジオセクションはセンスの良さで定評があり、いつでもどこでも「音楽の今」を感じることができる
マルチプラットフォームで利用でき、Apple TV上でも歌詞付きで再生可能なApple Musicは、自宅での簡易カラオケ的な使い方も考えられる
マルチプラットフォームで利用でき、Apple TV上でも歌詞付きで再生可能なApple Musicは、自宅での簡易カラオケ的な使い方も考えられる

ということで、筆者としてはApple Music一択なのだが、どのサービスも、無料のお試し期間が用意されているため、まだ迷っているという人は、それぞれの楽曲や使い勝手を比較してから決めることもできる。ただし、一度プレイリストを作ると、なかなかそのサービスから離れられなくなるので、その点には注意が必要だ。

大谷 和利(おおたに かずとし)
テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。
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