• はてなブックマーク
  • RSS
  • Line

大谷和利のテクノロジーコラム

2021.10.04 Mon

考えるカメラとしてのiPhone 13

さらに進化したiPhoneのカメラ機能と新型iPad miniに関する考察

TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

Apple恒例の9月のスペシャルイベントでは、M1 Macの上位機種こそ出なかったものの、iPad Pro/AirとAirPads以外のモバイル系主要製品がすべてモデルチェンジされた。主役はやはりiPhone 13シリーズだったが、上位のiPad Pro/Air系のデザインや中身を縮小化する形でのフルモデルチェンジとなったiPad miniもダークホース的な魅力を放っている。今回は、この2つの新製品について考察してみる。

カメラという存在を変えつつあるApple

スマートフォンは、今後もより高性能でインテリジェントな存在となるべく、その発展の歩みを止めることはないだろう。しかし、一方では、現在のスマートフォンの原型である初代iPhoneの誕生から十余年を経て成熟した製品カテゴリーとなっていることも事実だ。

その証拠に、ユーザーによっては3、4世代前のiPhoneでも痛痒を感じずに日常使いしており、Apple自身が基本的にiPhone 8ベースのiPhone SE 2を現行モデルとして提供し続けているのも、それで極端な時代遅れとはならずにデジタルライフスタイルを楽しめると考えているからだろう。

Apple製品の寿命は、そのように長めだが、それによって新製品が売れなくなるのもビジネス上は困る。最新のiOS 15がiPhone 6s以降のモデルを対象としているのは、もちろん、ユーザーにとってありがたい方針だが、穿った見方をすれば、これは「誘い水」なのだ。つまり、旧モデルの顧客を最新OSで繋ぎ止めると同時に、新しいOSを快適に動かし、古いハードではサポートされない機能の恩恵を受けるには、iPhone自体の買い替えが必要であることを、実際に体験して感じてもらう役割も担っているといえよう。

そして、近年のAppleが、成熟したiPhoneに改めて「欲しい」と思わせる魅力を付加するために力を入れているのがカメラ機能の充実である。最近も、某テレビ番組の撮影でiPhone 12が活躍し、場面によってはプロ機材を超える発色や画質で貢献している旨のツイートが現場の関係者から比較イメージ付きで発せられたが、ほどなくして削除された。これは、すでにiPhoneのカメラ性能が、プロ機材メーカーも警戒するほどのレベルになってきていることの証だろう。

相対的に高まったiPhone 13「非」Proモデルの魅力

今回発表されたiPhone 13シリーズでは、そのカメラ機能がさらに向上した。全体的な画質アップなどは当然だが、特に目立つのは、ビデオ撮影中にシーン内容をリアルタイムで分析し、フォーカスを自動的かつ連続的に変更したり、撮影後でも手動で任意に調整できる「シネマティックモード」と、被写体が極端に近づくと自動で切り替わるマクロ撮影モード(静止画、動画)、そして、低圧縮率で色の再現性にも優れた放送画質のApple ProResコーデックへの対応である。

iPhone 13の「シネマティックモード」

このうち、Apple ProResは、iPhone 13 Pro/Pro Maxのみのサポートだが、現時点ではまだ実装されておらず、後日に追加予定とされている。また、ファイルサイズが大きくなる(4K HDR 10-BitのProResで6GB/分)ことから、128GBモデルでは利用できない。

注目したいのは、シネマティックモードとマクロ撮影がすべてのiPhone 13モデルで利用できる点だ。あえてこの部分ではPro/Pro Maxと非Proモデルとの差別化を図らなかったことにより、相対的に標準モデルの魅力が高まったといえる。

逆に、ProResを利用しないまでも、Pro/Pro Maxでは、従来の光学2.5倍から同3倍へと倍率が上がった望遠カメラが強みとなる。また、Pro/Pro Maxのみに採用された120Hzのリフレッシュレートを持つSuper Retina XDRディスプレイは、実際に目の当たりにすると、その鮮やかさやヌルヌルと動くスクロールのスムーズさが印象的であり、スマートフォンの画質比較を行なっているDisplayMateによるテストでも最高グレードであるA+の評価を得た。この2点に大きな意味を感じるならば、iPhone 13 Pro/Pro Maxを選ぶ価値は十分にある。

有用なマクロに求められるオフ設定

シネマティックモード(1080p、30fps)は、デジタル技術で写真のあり方を革新するコンピューティング・フォトグラフィーを推進しているAppleにとっては、コンピューティング・ビデオグラフィーともいえる技術だ。AIが擬似的に映像内に被写界深度の浅い状態を作り出したうえで、シーン内の人物配置や顔の向きなどを分析し、注目すべき被写体に自動的にフォーカスしてくれる。

たとえば動きの激しいシーンなど、状況によってはうまく機能できない場合もある点は、原理上、致し方ないとして、映画的な映像表現を手軽に実現できるようになったことは、やはり素晴らしい。

また、マクロ撮影は超広角カメラでの機能だが、たとえば広角カメラを使用中であっても、被写体に10~15センチ程度まで近づくと自動的に超広角カメラに切り替わり、最短2cmまで寄った撮影が可能となる。その威力は絶大で、たとえば100円玉を撮影したところ、通常撮影では硬貨をのせた手のひらごと撮るあたりで精一杯だが、マクロだと表面の傷まで克明に描写された。

iPhone 12 Pro Maxでの撮影
iPhone 13マクロでの撮影

ところが、動画の場合には撮影中に「カメラをロック」設定でマクロへの切り替えを防げるが、写真撮影ではオフにできないため、意図とは違う撮影結果になる可能性がある。この点は要改善だが、難しい処理ではないため、iOSの次のマイナーアップデート時にでも解決されるものと思われる。

これからもiPhoneの撮影機能は、その場の情景をユーザーに先んじて解析し、撮りたいと思う写真やビデオに仕上げてくれる、考えるカメラとして発展していくことになるだろう。

アラン・ケイの言葉を思い出した新型iPad mini

スペシャルイベントの主役は、iPhone 13シリーズだったが、それに匹敵する存在感を示したのが、フルモデルチェンジを遂げたiPad miniだった。

上位のiPad Pro/Air譲りのフラットエッジデザインに、iPad Air(A14 Bionic)を上回る性能を持つA15 Bionicを搭載した新型iPad miniに触れて思い出したのは、アラン・ケイが故スティーブ・ジョブズの問に答えた、ある言葉だ。ケイは、初代Macintoshを「初めて批評するに値するコンピュータ」と評したコンピュータ科学者であり、ジョブズは初代iPhoneも「批評できるレベルの製品か」を知りたがった。するとケイは、彼が構想した理想の情報デバイスであるDynabookを念頭に「ディスプレイサイズが最低でも8x5インチ(約205x128ミリ)になれば世界を支配できる」と答えたのである。

これまでiPad miniは、筐体サイズではそれに近いところもあったが、ベゼル幅がそれなりに広く、ディスプレイサイズは、そこから二回り程度小さかった。しかし、ナローベゼル化された新型iPad miniは、筐体サイズ(195.4×134.8ミリ)とスクリーンサイズがほぼ同じとなり、その値はケイが挙げた数字にかなり近いものとなった。

Apple Pencil 2にも対応した新型iPad miniは、iPadOS 15のクイックメモ機能との組み合わせで新世代の電子手帳のように利用可能で、クリエーターであれば、出先でのアイデアスケッチや、デザインのネタを集めて整理するためのツールとしても活用できるだろう。大きなiPadとは異なる機動性と、iPhoneとは違う機能性を備えるに至ったiPad miniは、確かに現時点で最もケイのDynabookに近いデバイスなのかもしれない。

大谷 和利(おおたに かずとし)
テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。
読込中...

Follow us!

SNSで最新情報をCheck!

Photoshop、Ilustratorなどのアプリの
使いこなし技や、HTML、CSSの入門から応用まで!
現役デザイナーはもちろん、デザイナーを目指す人、
デザインをしなくてはならない人にも役に立つ
最新情報をいち早くお届け!

  • Instagram