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大谷和利のテクノロジーコラム

2019.07.25 Thu

前作から大きく形を変えた新型Mac Pro、そこに秘められたAppleの意図とは?

TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

WWDC 2019で発表され、大いに注目された新型Mac Proは、秋の発売開始を前に様々な反響を呼んでいる。確かに高価ではあるが、性能を考えれば十分にリーズナブルというのが大方の捉え方だが、実際に最も関心を寄せ、真っ先に利用を考えているのは8K時代に入った映像制作者たちのようだ。その理由と、さらに先を見たAppleの意図を考えてみる。

デザイナー/ジョナサン・アイブの置き土産「新型Mac Pro」

WWDC 2019の時点では公にされておらず、のちに明らかとなってAppleファンや業界をザワつかせたのが、四半世紀以上もAppleの製品デザインを支えてきたジョナサン・アイブが年内いっぱいで退社する件だった。

実際には、秋にもニューモデルの発表は控えているが、それがiPhoneにせよiPad Proにせよ、他のMac製品にせよ、筐体がキープコンセプトのデザインとなることは容易に想像がつく。その意味で、新型Mac Proは、アイブがインハウスで根本的に新しいデザインに挑戦した最後の製品になるといえるだろう。

コンパクトな外観の代わりに内部拡張性をあきらめた前モデルの反省に立って、最大限の拡張性と冷却効率を追求した新型は、立体的なステンレスのフレームと鍛造&切削加工アルミの外装を組み合わせた構造を持ち、これがアイブの到達したサステイナブルなコンピュータの姿であることを物語っている。

また、すでにラティス(格子)パターンとして有名になった筐体前後の吸排気グリルは、かつてのPower Mac G5~初代Mac Proのレーザー加工された前後全面グリルと同様に高効率の冷却を意識したものだが、球状の空洞の3D配列を切削加工によって実現することで、高い開口率と剛性を両立させた点が新しい。

しかし、このラティスパターン、実は2000年に発表されたPower Mac G4 Cube向けに考えられたものだと、アイブ自身がティム・クックに語っている。切削加工による製造ではないG4 Cubeでは、最終的に採用されなかったものの、発想自体は約20年前にあったことは驚きだ。

カーマニアで、アストンマーティンやベントレーが好みだと公言しているアイブゆえ、高性能なMacの吸排気口を、それらの車のラジエーターグリルと同じように立体的でシンボリックなものに仕立てたかったのでは、と個人的には思っている。

新型Mac Proのデザインが指し示すAppleの未来

さて、新型Mac Proの内部に目を向けると、それが現時点で考えられる最高クラスのスペックになっている(あるいは、オプションでそのようにできる)ことは、すでに広く知られるところだろう。

ただし、唯一の弱点ともいえるのが、近年のAppleの方針に従って、3D CGクリエーターから絶大な支持を受けるNvidia製のグラフィックスカードをサポートせず、最新のmac OS自体も完全非対応となっている点である。

Nvidia自体は、Mac Proの標準仕様あるいは純正オプションとして自社製カードが採用されないまでも、対応ドライバをリリースして後付けできるようにしたり、独自のGPU向け汎用並列コンピューティングプラットフォーム/プログラミングモデルであるCUDAをmac OS向けにリリースする用意があるものの、Appleがそれを拒んでいるために対応できない状況が続いている。

この背景には、Appleが低オーバーヘッドで高効率な自社製グラフィックスAPIであるMetalを推進し、サードパーティにも採用を促しているのに対し、Nvidiaがそれを受け入れていないという事情が存在する。

このため、Nvidia製グラフィックスカードやCUDAに依存するアプリが多い3D CGやVFX分野のアーティストやデザイナーは、いくら基本性能が高くても新型Mac Proを敬遠する傾向が見られ、Metal + AMD系グラフィックスカードで十分な性能が得られるFinal Cut Pro Xといったアプリを利用する映像制作者などは逆に高い関心を示している。

AppleにもNvidiaにも、自社のビジネスロードマップを維持する上で譲れない部分があり、ハード面でこの問題が解決する目処は立っていない。おそらくAppleとしては魅力的なマシンを市場に投入することで、3D CGやVFX分野のアプリの間でもMetalを普及させ、最終的には開発中と思われる自社製GPUのエコシステムへとつなげていきたい意向なのだろう。新型Mac Proは、そのための布石としての役割も負っているのである。

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