
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)
また、先頃、Googleに買収されたフィットネストラッカーのFitbitのユーザーから、プライバシー保護の点で懸念を持ち、Apple Watchへの乗り換えを検討する声が上がったように、Androidデバイスの利用者の中にも、iPhoneへの移行を考えながら価格面で躊躇している人たちがいて不思議ではない。そして、このような潜在層の背中を押すためのエントリーモデルを投入することは、Appleにとって理にかなっている。つまり、かつてのiPhone SEに相当する新製品の登場が期待されるわけだ。
すでに様々な噂や予想記事が公開されているように、iPhone SE2(仮称)にあたるモデルの存在は確実視されており、発売時期も2020年の春でほぼ間違いないだろう。というのは、来秋となるはずのiPhone 12/12 Proの発表と同時期では消費者の興味を分散させてしまう恐れがあることが、理由の1つ。また、iPhone 12/12 Proが5G対応を果たすなら、4G止まりの公算が強いiPhone SE2は、それ以前に十分な時間差を設けて発表することが求められるためだ。

既存の設計を活かしながら新たな機能性を盛り込むとすれば、ワイヤレス充電も可能なiPhone 8をベースとしつつもCPUに最新のA13 Bionicを採用し、メインカメラはシングルレンズのままだが、ニューラルエンジンを利用してポートレート撮影やボケの表現を実現するのが現実的だ。
その上で、iPhone 8 PlusベースのiPhone SE2 Max(仮称)的な大画面&2レンズメインカメラ付きモデルがリリースされる可能性も十分ありうるだろう。そうすれば、iPhone SE2ラインとiPhone 11ラインの価格帯分布をより均一化することが可能となるからである。

iPhone 8
問題は、それが何かだが、現在のApple製品名の末尾に付けられている文字は、たいてい、Apple IIや初期のMacintoshの頃に案出されたものの流用だ。たとえば、PlusにはApple II PlusやMacintosh Plus、SEにはMacintosh SEのような前例がある。
iPhone SEから時間的に間が空き、デザイン的にも異なる製品をiPhone SE2と呼ぶのはどうかとの観点から、過去のMacのリストを見ていくと、Macintosh IIsiが目に留まった。このモデルは、1990年に登場した3つの廉価版Macのうちの1機種に付けられた名前だ。
たとえばiPhone SIとした場合、iPhone SEとの関連性も感じられ、iPhone 12が出た後も、古さを感じさせずに長期間の販売が可能となる。あるいは、iPhone XRとミックスして、iPhone SRでも良いかもしれない。
このあたりは、Appleのマーケティング担当者のさじ加減ひとつで変わる部分なので、あまり追求しても仕方がないが、少なくとも数字は使わず、レギュラーモデルよりも寿命の長いネーミングにする点だけは、iPhone SEから受け継ぐのではないだろうか。

大谷 和利(おおたに かずとし) ●テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)、『インテル中興の祖 アンディ・グローブの世界』(共著、同文館出版)。