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大谷和利のテクノロジーコラム

2021.05.31 Mon

Instagramの対極に位置する、使い捨てカメラ風の写真SNS「Dispo」はどこが面白い?

TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

 

クリエーターも参考にできるカジュアルな写真共有サービスとしては、Instagramが知られている。もちろんプロ向けには別の選択肢も存在するが、共通するのは、撮影機材が自由に選択でき、アップロード前の画像のレタッチや加工も可能な点だ。しかし、それとは正反対の制約を売り物としているアプリ&サービスがある。それが、Dispo。今回は、現時点では無料でiPhoneのみに提供されているDispoの魅力を掘り下げ、併せてクリエーターならではの使い方を考えてみる。

「Dispo」はデジタル時代のレンズ付きフィルム

デジタル写真のメリットとは何だろうか? すぐに思い浮かぶ答えとしては、即時性や加工・編集のしやすさなどがある。ファインダー代わりの画面を見ながら行う撮影のしやすさを挙げる人もいるだろう。しかし、Dispoは、そうしたメリットを真っ向から否定するアプリだ。

Disposable Camera(使い捨てカメラ)から命名されたDispoという名前の通り、画面デザインはレンズ付きフィルムをイメージしている。そして、翌朝の午前9時にならないと撮影結果を確認できない。正確には、当日でも午前9時までに撮影されていれば、その日の朝に確認できるのだが、基本的には撮影当日にフィルムを現像に出して、翌朝一番で受け取るような感覚だ。

ファインダー代りの撮影イメージの表示エリアはかなり小さく、被写体の見当をつける程度(しかし、慣れれば構図を決めて撮ることも可能)。ズーム機能はあるが、たとえiPhone 12 Pro Maxを使っていても、デジタルズームとして処理され、手振れ補正は一切行われない(ただし、後述するように、これを積極的な効果として利用することもできる)。

さらに、iPhoneの写真アルバムに対する撮影データの書き出し機能はあるものの、アプリ内ではトリミングも加工機能もなく、開発者が用意しているイメージシェアリングサービスへのアップロードは、Dispoアプリからのみ可能となっている。

「盛らない」写真、素の写真のみのシェア

このように書き出してみると、欠点だらけのカメラアプリのように感じられるかもしれないが、実際にはこれが面白いのである。なぜなら、撮ったままの写真をフルフレームで共有するしかないことで、いわゆる「盛った」写真は排除される。このため、写真の腕や国籍とは無関係に、本当に写真を撮ることが好きなユーザーたちが集まっているという印象を受ける(そうでない人は、自然にフェードアウトしていく)。

同じ理由から、企業などがプロモーションの場として利用したりするにも適さないので、商業主義に染まることもない。その一方で、瞬時には撮影結果を確認できないため、気軽なスナップでも撮る際に構図を吟味することになり、場合によって同じ被写体を何枚か撮るうちに意外な視点を見つけられたりする。つまり、ある意味で、デジタル写真の便利さに慣れた頭を一度リセットして写真の基本に戻り、制約の中で表現と向き合えるアプリともいえるのだ。

しかも、露出やフォーカスはDispoアプリが自動的に処理するので、被写体を見つけて構図を考えることにのみ集中できる。また、ブレや露出不足を逆手にとり、それらを効果的に活かした作品を撮ろうとするユーザーもいる。そして、ちょうど車種限定で行われる自動車のワンメイクレースに似て、機材(カメラ)の差が作品の質に影響することがなく、誰もが等しい条件下で写真を投稿できるのもDispoならではの特徴であり、適正露出でフォーカスのきている写真だけが写真ではないことを、改めて認識させてくれるアプリでもあるわけだ。

 「ロール」のテーマ設定に沿った撮影と鑑賞が楽しい

Dispoは、特に設定をしないで撮影すると、アプリ内(実際にはクラウド上)のライブラリに写真が保存されていく。しかし、その真骨頂は自分でテーマを決めて作ってシェアしたり、他のユーザーから招待されて参加する「ロール」(この名称は、フィルムロールからきている)と呼ばれるサブライブラリにある。特定のロールを選択して撮影すると、撮影結果はメインのライブラリに加えて、見かけ上、そのロール内にも保存されるようになるのだ。

利用し始めた当初は、ロールへの招待がなかなか来ないが、最初にリコメンドされたユーザーをフォローしたり、そのユーザーのロール内の写真に「いいね」していると、徐々に似た興味を持つユーザーから誘われるようになる。

Dispoのサブライブラリ「ロール」
自分でテーマを決めて新規「ロール」を作ることも

ロールのテーマは、ある種の「お題」であると考えても良い。たとえば、「Potential album covers」は、音楽アルバムのカバーになりそうなイメージ、「Ivy lovers:蔦萌え」は、蔦の美しさや生命力を感じさせるもの。「台灣美食 Delicious food in Taiwan」は、台湾の庶民グルメのオンパレードといった具合で内容は千差万別、かつ日ごとに世界中で増殖している。自分の1日の撮影枚数が多ければ、とりあえず自分のライブラリに保存しておき、あとから個別に共有するロールを選択して保存することもできる。

サービス面でのSNS的機能は「いいね」に相当するハートマークと字数制限のあるコメント欄のみで、写真そのものにタイトルや説明を付加することはできない。それが、一層、写真中心であることを際立たせており、コミュニケーション自体に時間や意識を取られずに済む。

投稿数が増えれば、ロールごとのユーザーランキングである「leaderboard」に名を連ねたり、「いいね」にあたるハートマークやコメントをもらったり、逆に付けたりしていくと最上級を意味する「superlative」にランクインしたりできるが、実際のところ、それをあまり気にしているユーザーは居ないように感じる。テーマを設けて写真を撮り、また、同じテーマで他のユーザーの視点で撮られた写真が集まって鑑賞できることが楽しいからだ。

スコアボードでは、「leaderboard」に名を連ねたり、 最上級を意味する「superlative」にランクインすることも
スコアボードでは、「leaderboard」に名を連ねたり、
最上級を意味する「superlative」にランクインすることも

クリエーターにとってのDispoのメリットとは?

筆者自身の作例として、「Refrection」(反射)、「Architectura」(ラテン語の建築)、「Human Beings」(人間)といったロールのための撮影イメージ(Dispoのオリジナル保存解像度は1440 x 2660ピクセル)を掲載したが、それではクリエーターにとってのDispoのメリットとは何だろうか?

[作例]

もちろん、用途によってはそのまま作品作りにも利用でき、Webメディアなどでは直接掲載することも可能と思うが、個人的には、これは発想を柔軟にし、異なるものの見方を鍛える上で有効なツールではないかと考えている。

かつて、知人と小さなCGの会社を運営していたときに、あるビルの一室をフリーランスの広告プランナーとシェアしていたことがあった。オートバイ好きの彼は通勤もバイクだったのだが、あるときを境に、それが地下鉄通勤に切り替わった。理由を訊いたところ、バイクでは景色が飛び去っていくだけで、アイデアにつながる視覚情報が十分得られないことに気づいたのだという。徒歩と地下鉄を使うことで、意識して街中や商店街、トレンドスポットなどを動き回るようになり、それを自然な情報収集につなげられたとのことだった。

もちろん、クリエイターであれば、そうした情報収集の重要性を日常的に意識しているはずだが、無目的に街を徘徊することはなかなか難しい。しかし、Dispoのロールは、そこにテーマを与えてくれ、筆者自身、今までは存在していても目に入らなかったものが見えるようになってきた。すると、歩き慣れて勝手知ったるはずの自宅の近隣にも、意外な場所や店、あるいは光景の発見が相次ぎ、それらを探索してDispoで撮影することが、気分転換や発想の活性化に役立つことを実感している。

また、フォロワーが増えれば、自分のプロジェクトに役立ちそうなテーマを設定したロールを作って招待することで、世界中からインスピレーションを与えてくれるイメージを集めることもできる。

さらにもう1つのメリットは、Dispoで共有された写真には撮影時のタイムスタンプが付き、しかも自らDispoで撮影したイメージしかアップロードできない仕組みのおかげで、誰のオリジナル作品であるかが公の場で記録されていくことになる点だ。

広告やステルスマーケティングなどに煩わされることなく写真の面白さを堪能でき、新たな発想を促す刺激にもなる。それがDispoなのである。

大谷 和利(おおたに かずとし)
テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。
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