今回は『虹いろ図書館のへびおとこ(5分シリーズ+)/櫻井とりお』の使用フォントをご紹介。本記事はデザイン構成において重要な「フォント」の選定プロセスや加工方法を、貴重なプロの実例から紐解いてデザイン制作に役立てる連載です。
生き物のような筆致の文字で有機的な印象に
いじめがきっかけで学校に行けなくなった小学六年生の少女が、自分の居場所を探してたどり着いた古い図書館で、たくさんの本に出会い成長していく姿を描いた小説のブックカバー。第1回氷室冴子青春文学賞大賞を受賞。
作中で主人公が「本との出会いの素晴らしさ」を感じるのと同じく、読者にとって宝物のような本になってほしいという思いを込め「長く愛されてきた海外の名作児童文学」の雰囲気を目指して制作された。児童文学ではあるが大人でも懐かしさを感じながら楽しめる内容のため、装飾的なイラストや有機的なタイトル文字など、大人でも思わず手にとってしまうようなノスタルジックさが演出されている。
Font.01「オリジナル」
隷書体ベースの文字で有機的な印象に
メインタイトルの文字は、生き物のような筆致が味わい深い「イワタ隷書体 M」(イワタ)の骨格をベースにつくり起こされたオリジナルのもの。上図はその制作の過程。海外の名作児童文学のような雰囲気を出すため、アール・ヌーヴォー様式の装飾的かつ有機的なイメージで制作された。文字のエレメントには、タイトルの「へびおとこ」から連想した蛇の舌のようなモチーフが加えられ、より印象深くなるように仕上げられている。
Font.02「筑紫アンティークSゴ B」
タイトルに合わせ懐かしく有機的な書体に
作者名部分の文字は、筆の動きが感じられる古風なゴシック体「筑紫アンティークSゴ B」(フォントワークス)。メインタイトルに合わせ、ノスタルジックかつ有機的な雰囲気を併せ持つ書体がセレクトされた。全体のバランスを考えて少しだけ文字を太らせ、角を落として柔らかな表情になるよう調整されている。
Font.03「Bodega Serif Black」
心持ちカッチリした書体でタイトル周りにメリハリを
メインタイトルと著者名の英語表記部分は、全体のイメージに合わせてノスタルジックな香りのするセリフ体「Bodega Serif Black」(Greg Thompson)に。タイトルや作者名が有機的な書体ということもあり、メリハリをつけるため少しカッチリした書体が選択されている。
2019.12.12 Thu2021.09.03 Fri