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デザインの現場から届ける実践的な手法と思考プロセス

2026.06.25 Thu

アプリ開発でイメージのズレを防ぐサウンドデザインの進め方

サウンドデザインのプロセスを学ぶ
〜合意を積み重ねながら音を仕上げる実践ガイド〜

Text by 北田 雅

サウンドデザインは、ビジュアルと異なり言語化が難しく、何か違うけど具体的にどう作り上げていけば良いのか、分からなくなりやすい領域です。そのため、迷わずクオリティの向上に集中するには、何を決め、どう合意を積み重ねるかが重要です。

本記事では、私が所属しているフェンリルで制作した、スマートフォンアプリと物理カードが連動する「ホリデーカード」プロジェクトを例に、「サウンドデザインの決め方」を紹介します。

企画から実装までの各フェーズにおいて、依頼者(ディレクター・UIデザイナー)とサウンドデザイナーが「何を決め、どう合意したか」のワークフローを、双方の目線から解説します。

サウンドデザインの流れ:音響設計の全ワークフロー

UIサウンドの制作は、大きく「企画」「制作」「実装・仕上げ」の3フェーズで進みます。

企画フェーズでは、コンセプトが固まった段階で、依頼者がサウンドデザイナーへの依頼準備を始めます。ビジュアルの世界観や各シーンで体験してほしいことをまとめて共有します。

制作フェーズでは、サウンドデザイナーが音のアイデアを作り、依頼者とのレビューを通じて音楽の方向性の合意を得ます。聴いて・確認して・修正してを繰り返しながら、少しずつ成果物を育てていきます。

実装・仕上げフェーズでは、実装された環境でサウンドデザイナーと依頼者が一緒に聴いて確認し、ミキシングします。単体では良かった音も複数重なると印象が変わるため、実装後もレビューを重ねて仕上げます。

企画フェーズ:イメージのズレを防ぐ!最初の要件定義と伝え方

まずは、依頼者側で検討しているコンテンツのコンセプトが固まってきた頃を目安に、サウンドデザイナーへの制作依頼を始めましょう。

依頼時に伝えておきたいのは、コンテンツの世界観・ビジュアルのトンマナ、インタラクションするコンテンツの内容などです。特に伝えるべきは「そのシーンでユーザーにどんな体験をしてほしいか・感情を持ってほしいか」。感情や体験の強度に関わる情報は、音の方向性を決める重要な手掛かりになります。

ホリデーカードでは「冬の情景で聞く音」が、音の方向性を絞り込むのに役立つ条件になっています。スレイベル(ジングルベル)を入れたり、氷の効果音を使ったりして、BGMも冬っぽい選曲になっていきます。


依頼者側は、イメージに近い効果音やBGMのサンプルを集めておくと、求めている音のイメージの解像度を高めることができます。最適な音を一から探すのは至難の業なので、過去に体験したゲームや映像作品の「あのシーンの雰囲気」という形でサウンドデザイナーに伝えるだけでも、制作物の認識合わせの助けになります。ストックオーディオサービスで近い音源をピックアップするのもおすすめです。制作の時間がなければ、購入して時間短縮につなげることも可能ですよ。

制作フェーズ①:制限を外して広げる、音のアイデアを発散

ここからは主にサウンドデザイナー目線のお話になります。 ざっくりと必要な音のイメージを依頼者から聞いたら、アイデアを広げて最適な音を選択できるように、それに近い音の事例やコンテンツを探して、アイデアを出します。

例えば、「火の音」と一言に言っても、マッチの音、爆発音、花火、焚き火の燃える音、ガスバーナーの音、ゲームの炎属性魔法、そもそも炎でもなんでもない楽器の音色・・・など、あらゆる「火の音」が存在します。この中から、依頼者のイメージに近い「火の音」を選ぶには、依頼者にアイデアを聴いてもらって、反応をうかがう必要があります。

BGM・効果音を含めた音の構成を決める際に有効なのが、参考作品の構成要素を分析することです。ゲーム、映像作品、インスタレーション作品などの特に参考になる部分が、どのタイミングで、どんな種類の音が鳴っているか、BGMと効果音はどのように組み合わさっているかを洗い出して、構成の参考にしましょう。

ここで作ったリストが、ウェブデザインで言うワイヤーフレームのような、必要な構成要素の全貌がわかる資料になります。このリストを参考にすることで、世に存在するコンテンツと同等の音空間の密度に仕上げられると思います。必要そうでない音があれば、整理してしまって問題ありません。

制作フェーズ②:少しずつ音の方向性を収束する

アイデアが集まってきたら、依頼者にもアイデアを聴いてもらいながら検討を進めます。

方向性を絞り込むには、それぞれの案が大きく異なるように複数選び出して、依頼者に提案してみましょう。「AよりBに近い方向で」という具体的な会話が生まれて決めやすくなります。デザイン案の展開でも、よくこのような伝え方をすると思いますが、音のレビューにおいても有効です。ちなみに、アイデア出しの段階では、作らずにリサーチで見つけてきた音のレビューをしてもらえば、レビューのための制作物を減らせるかもしれません。

コンテンツに似つかわしい音かどうかを評価するには、プロトタイプ的にコンテンツに合わせて音を鳴らしてみると良いでしょう。この時点で開発者に協力してもらって、音のデータを実装環境に取り込んで検証するのも有効です。ホリデーカードでも、音単体だとイメージしづらいので、実装環境に取り込み複数案を聞き比べて判断しました。

実装前には、エンジニアと再生の形式(ワンショット・ループ・フェードイン/アウト)や、アセットファイルの形式(mp3・wavなど)をすり合わせておきましょう。再生の形式については、展開に沿って音楽を合わせる体験の場合、口頭での説明に合わせて指示書を用意するのが好ましいかと思います。

検討を進めていくと、新しい音を複数の方向性で確認したくなり、追加の制作物が発生することがよくあります。発散した時点で、採用の可能性がなさそうな案はドロップして、可能性のある追加の制作物に残りの時間を使うのも良いかと思います。

このように、少しずつFIX部分を増やしつつ、追加の制作もこなして完成度を高めていきます。

実装フェーズ:画面と音をシンクロ、確認しながら仕上げる

音の聞こえ方は、デバイスや環境によって大きく変わります。PCのスピーカー、イヤホン、スマートフォン内蔵スピーカーでは音量バランスや音の出方が異なるため、レビュー時には複数の環境で確認しましょう。 

ホリデーカードの場合、デバイスはスマートフォンであり、端末のスピーカーが上下に配置されているのが一般的です。本体スピーカーで聞くとパンニング(※)した音は上下方向から聞こえますが、イヤホンで聞くと左右のパンニングとなります。また、ユーザーがミュートにすることも考えられます。
※パンニング・・・音楽制作(DTM)や音響において、複数の楽器やボーカルなどの音を左右のスピーカーに配置し、ステレオ空間をデザインする作業

このように、特定の視聴環境に限らずに、可能性のある利用方法は全て考慮が必要です。これを念頭に置いて、デザインをする必要があります。

また、スマートフォンで音声を再生する場合、使用年数の長い端末ではビビリが発生し、ユーザーに不快感を招く可能性があります。ホリデーカードでは少し変わった操作性のアプリが多く、カードを重ねたときの音の影響が未知な点もあり、実機確認は丹念に行っています。

ミキシングも大事なポイントです。サウンドデザイナーは、簡単でも良いのでミキシングへの理解をしておくと、想定通りの音空間を再現しやすくなります。結構難しいですが、ぜひ勉強することをおすすめします。

まとめ

サウンドデザインの制作は、依頼者とサウンドデザイナーが一緒に答えを探していく共同作業、と言えるのかもしれません。依頼者は「聴いた人に体験してほしいこと」を言葉にし、サウンドデザイナーはそれを音に変換して検証します。

このキャッチボールを丁寧に重ねていくことで、お互いのリソースを、品質の向上に使うことができるのかなと思います。本記事で紹介したワークフローが、サウンドデザインに取り組む際の手掛かりになれば幸いです。

北田 雅
フェンリル株式会社 デザイン部所属 デザイナー
2019年フェンリル入社。UIデザイナーとして、ウェブ業務システムからモバイルアプリまで幅広いプロダクトのUIデザイン・インタラクションデザインに従事。プライベートでの音楽創作のスキルを生かし、フェンリル製作のオリジナルアプリでBGM制作を担当するなど、領域を限定せず多角的にアウトプットを続けている。

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