アップルが作るARグラス ~先端企業買収から垣間見えた2019年ビジョン~ | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

アップルが作るARグラス ~先端企業買収から垣間見えた2019年ビジョン~

2018.12.16 SUN

アップルが作るARグラス ~先端企業買収から垣間見えた2019年ビジョン~

2018年09月05日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)
筆者は、このコラムで今年のWWDCに言及した際に、アップルがAR戦略を着実に進めつつある一方で、ARKitの進化にハードウェアが追いついていない点に触れた。具体的には、もはやiPhoneやiPadのようなハンドヘルドデバイスは、AR空間における複数ユーザーのコラボレーション作業や、グループ対象のFaceTimeの表示を行うには適さなくなってきた、ということである。

そして、早ければ来年のWWDCの時点で、純正のARグラスのプロトタイプを披露するのではないかとも書いた。そのくらいのスピード感が、これからのアップルのビジネスを減速させないためには必要だと思えるからだ。
▷ アップルが求める高い基準

周知の通りアップルは、Mac、iPhone、iPad、そしてApple Watchのすべてがそうだったように、初代モデルのコンセプトやインプリメンテーションが、そのカテゴリーの原型となりうるほどに煮詰められた状態にならない限り、発表しない企業である。しかも、一般的な消費者が日常的に使用できることが前提なので、仕様や形状への要求も自ずと高くなる。

ARグラスを例にとれば、現在、市場に出ている、いわゆるVRゴーグルのように巨大で、前に突き出し、大仰なヘッドバンドで固定する必要があるデザインでは、マニアやゲーマーはともかく、一般には普及しない。当然ながらARグラスは普段から装着し、外出するときにも外さないことが前提となるため、過度に注目を集めるような外観はそぐわない。一見、普通の腕時計としても通用するApple Watchのように、主張しすぎないが存在感を備えたものであることが必要だ。

そのためには、回路の小型化や低消費電力化を筆頭にクリアすべき様々な課題が存在するが、最も重要なARイメージの表示機構について、決定版と思える技術をアップルが取得したことが明らかとなった。その技術を開発したのは、コロラド州にあるエイコニア・ホログラフィックスであり、アップルはこのスタートアップ企業を買収することで、技術と研究者の双方を確保したものと思われる。
 
▷ 既存技術の限界を突破するテクノロジー

エイコニアは、元々、ホログラムを応用したストレージ技術を開発していたが、より有望な市場へとビジネスをシフトし、ARディスプレイの供給メーカーとなる道を選んだ。

ホロミラーと呼ばれる同社の技術は、その名が示唆するようにホログラフィーを応用した反射光学系を用いるものだが、パイロット生産を行うにも巨額の資金が必要で、少し前から、量産に向けたパートナーを探していた。そこに、業界リサーチに優れたアップルが目をつけ、非公表の金額によって買収されたのである。

巷では、レーザーを利用した網膜投影型のディスプレイなどがAR分野で有望視されているが、瞳孔を通して網膜にイメージを投影する都合上、眼球が動くと画像が途切れたり、視野角の広さと解像度がトレードオフの関係にあったりする。このような弱点があっては、アップルが望む自然な使用感は得にくいといえる。

これに対して、ホロミラーは、既存技術の限界を超える以下のような特性を実現できるとされる技術だ。すなわち、1)フルカラー表示、2)高い回路駆動効率(=低消費電力)、3)ARで重視される高い透明度、4)広い視野(現時点で60度を予定し、さらに拡大予定)、5)そして、製品化にあたって重要となる低コストでの生産、といった要素をすべて備えているのがホロミラーなのである。
 
AkoniaのWebサイト(2018年9月現在)

AkoniaのWebサイト(2018年9月現在)

これは、ちょうど、ガラスメーカーのコーニングが、のちにゴリラガラスとなる強化ガラスを試作したはよいが、明確な用途と量産に向けた資金のアテが見つけられずにいたときに、アップルが投資して実用化に漕ぎ着けたエピソードと似ている。

ゴリラガラスのときには、資金提供と初期の独占利用のみだったため、その後、ゴリラガラスは他者を含めて様々なスマートフォンやタブレットでも利用されるようになった。しかし、エイコニアに関しては買収という形が採られているので、ホロミラー技術を使えるのはアップルのみになると考えるのが妥当だ。

量産に向けては、まだ解決すべき問題もあるものと思うが、アップルがARこそ同社の未来と考えるなら、必ずやり遂げてエポックメイキングな製品に仕上げてくるだろう。それは、当初はiPhoneと共に利用するコンパニオン製品として登場し、やがてはApple Watch series 3のように、単体でも利用できる製品へと発展していくものと予想される。いずれにしても、エイコニアの買収が明らかとなったことで、アップルのARグラス計画は一段と現実味を帯びてきたのである。
[筆者プロフィール]
大谷 和利(おおたに かずとし) ●テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。
twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS

こんな記事も読まれています

この連載のすべての記事

MdN 最新刊

MdN BOOKS|デザインの本

週間アクセスランキング

12.3-12.9