アンティークのように育つ「safuji」のやさしい革財布
~ 霧のかかった本革とミニマムデザインの魅力 ~

2020年3月6日
●取材・構成:編集部 ●文:大澤裕司・編集部 ●撮影:下山剛志[ALFA STUDIO]

「ミニ財布」

上から「こさいふL」「こさいふM」「こさいふ」

「ミニ長財布」ホックタイプ

「ミニ長財布」外ボタンタイプ
新しいものは、まるで和紙のような軽やかな風合いだ。そして経年変化が進んで艶が出てきた製品には、アンティークの木製家具を思わせる深い味わいがある。
持ってみると思ったより小ぶりで、しっくりと手に馴染む。指に触れる装飾パーツがほとんどなく、容易に握り込めるのも一因だろう。

持ってみると想像以上にコンパクトで、手の小さい人でも使いやすそうだ

財布以外にもトートバッグやサコッシュなどバッグ類が作られている
まず注目したいのが、「ミニ長財布」や「こさいふL」の留め具に使われている、やや大ぶりで高さのあるホック。ここで使われている金具は金工職人による手作りで、わざと荒削りに仕上げてもらっているもの。よく見るとひとつひとつ形が違うのがわかる。財布全体からみるとごく小さなパーツだが、このようなディティールに沢藤さんのこだわりが詰まっている。

金工職人が作る特注のホック。製品のデザインがシンプルなので、小さくても存在感があり印象に残りやすい
この真鍮ホックを決める時にも、製品とのバランスを考えて一般的なサイズより一回り小さなものへと付け替えたそうだ。

平面的な留め具を採用した「ミニ折り財布」

最初に試した真鍮ホック(右)と実際に採用した真鍮ホック(左)。一回り小さくなることでナチュラルな印象に仕上がっていることが分かる
safujiの製品は表にほとんど縫い目がないが、わずか数針のステッチを本体の縫製とは異なる糸を使って手縫いで入れている。使っているのは、蝋引きされた太めの糸。そのまま使うと太すぎるので、必要に応じて割いたり、手で捩じりを加えて使っているそうだ。

safujiの製品は表にほとんど縫い目がない。わずかな手縫いのステッチが、ホックなどと同じくアクセントの役割を果たしている

手縫いで使用している蝋引きの糸。必要に応じて割いたり、捩じりを加えて強度を高めて使っている

このように縫うことで、1万円札がすき間なくピッタリ収められるギリギリサイズの財布になり、全体のフォルムにも甘すぎない程よいやわらかさが出る

safujiの製品に使われている革。バダラッシカルロ社の「プエブロ」。カラーはネイビーである
●1万円札がピッタリ収まる「ミニ長財布」
通常の長財布は幅が19センチメートルなのに対し17センチメートルと短いことから名付けられた「ミニ長財布」。1万円札がすき間なくピッタリ収まるサイズ感だ。一覧性にも優れており、開くとすぐに紙幣と小銭がいくらあるかがわかる。

「ミニ長財布」の内側。ホックを一つ外して広げるだけで、小銭から紙幣までが一気に見渡せる。理想の厚みを出すための縫製が、財布のサイズをギリギリまで小さくすることにもつながっている
沢藤さん曰く、「自称『世界最小の財布』」なのが「キー付きミニ財布」。外観はキーケースにしか見えないが、紙幣、小銭、カード類が収納できるようになっている。2つ折りにした紙幣を、小銭入れの背後から滑り込ませるように入れる収納方法がユニークだ。

「キー付きミニ財布」。500円硬貨を並べるといかに小さいかがわかるだろう。下が通常タイプで、上が後述する納富バージョン

紙幣は2つ折りにして小銭入れの背後から滑り込ませるように収納する
「キー付きミニ財布」より収納力が高く、「ミニ長財布」よりコンパクトなのが「こさいふ」シリーズ。基本サイズの「こさいふ」のほか、最大サイズの「こさいふL」、両者の中間サイズになる「こさいふM」の3タイプがラインナップされている。

小さいながら収納力の高い「こさいふ」シリーズ。上から「こさいふL」「こさいふM」「こさいふ」
小さいだけでなく薄いのが魅力の二つ折り財布。safujiで作っているマネークリップがベースになっている。開くと1万円札がピッタリ収まる17センチメートルで、「ミニ長財布」を2つ折りにしたようなサイズ感だ。カード類を収納するポケットは2つあり数枚ずつを縦に収納できる。

小さいだけでなく薄いのが特長の「ミニ折り財布」
自らの考えやアイデアを突き詰めていくのはもちろんだが、沢藤さんは顧
顧客の声を元に作った代表的な製品が「こさいふM」だ。「こさいふ」シリーズは紙幣を2つ折りにして収納する前提で作っていたが、折らずにそのまましまっている顧客がいたことがヒントになって「こさいふM」を開発した。
紙幣を折らなくてもしまいやすいように幅を少し拡げ、フラップの裏側を縫わずにフリーにして、伸ばした紙幣を挟み込めるようにした。細かい改良だが、同じ「こさいふ」シリーズの中でも使いやすいほうを選べるのは、顧客としてはうれしいだろう。

「こさいふ」(左)と「こさいふM」(右)
通常モデルと納富バージョンの違いはベルト。通常モデルはベルトをタテに一巻きしてホックで留めるので、背面に収納するカード類もベルトで固定されるが、カードだけ取り出したい時もベルトを外さなければならない。これに対して納富バージョンは、カード類を簡単に取り出せるようベルトの長さを大幅に短縮。カードポケットを通常モデルより深くして保持力を高め、下からカードを押し出せる窓を設けた。
沢藤さんは、このような利用者の意見を「それまでの自分にはなかった新しい考え方を学べる機会」だと考え、積極的に取り入れている。

「キー付きミニ財布」の通常タイプと納富バージョンとの最大の違いは背面にある。通常タイプはカードもベルトでしっかりと固定するのに対して、納富バージョンは取り出しの手軽さを優先させている
「今後はいま作っている製品をブラッシュアップしていきたい」と沢藤さん。今ある製品を、より研ぎ澄ましていくことを志向しているようだ。沢藤さんのインタビューからは、製品と真剣に向き合うモノづくりの奥深さがひしひしと伝わってきた。

safujiの沢藤勉さん

http://safuji.com/
2010年に革職人の沢藤勉・加奈子さん夫婦が立ち上げた革製品ブランド。東京の三鷹に住居兼工房を構えるほか、2014年に地元のクリエイターと共同で、JR中央線の東小金井駅の高架下にアトリエ兼ショップ「atelier tempo」を開いた。