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モノづくり探訪記

2022.04.22 Fri

【第二十七回】つややかな光沢を楽しむセクシーな革財布 ~「GANZO」が贈る2種のコードバン~

●取材・文:横山由希路 ●構成:編集部 ●撮影:下山剛志[ALFA STUDIO]

「発売初日にSNSに公開したら、4色中3色が即日完売してしまったんです」。そう話すのは、素材・製法に妥協を許さないシックな皮革製品で知られる「GANZO」のプレス・松本菜摘さん。多くの人が目にしただけで欲しくなったその商品は、1999年の「GANZO」立ち上げ時から大切に扱うコードバンの新作財布だ。コードバンとは、一般的にランドセルなどに用いられるつややかな馬革のこと。今回のモノづくり探訪記は、素材を知り尽くした「GANZO」が贈るコードバンの魅力に迫る。

コードバンとは何か

コードバンは、ポーランド産農耕馬の臀部からしか取れない皮革だ。馬の臀部から取れる皮の中でも、「コードバン層」と呼ばれる部分はごくわずかで、厚さは1〜2ミリほど。繊維密度がギュッと詰まっている場所である。しかもすべての馬に「コードバン層」があるわけではない。そのような希少性の高い皮革の繊維を、傷つけることなく削り出すのは至難の業。その削り出しの難しさゆえか、コードバンは「革のダイヤモンド」と評されることもある。

特性は、ズバリ質感と耐久性。「GANZO」はブランド開始時から「10年以上使える」をモットーに商品を作り上げており、コードバンの財布もそのうちの一つ。長く愛用することにより、使う人の手に馴染んで、よりつややかな光沢感を楽しめる。

●海外産と国産のコードバンの違い

製革業者であるタンナーや皮革の仕上げによって、コードバンの質感も変わる。仕上げにもオイルや染料、顔料などいくつもの方法があるが、「GANZO」で使われる皮革はどのような工程を経ているのだろうか。「GANZO」が扱う2種類のコードバンを紹介しよう。

左が「ホーウィン社」のコードバン。右が国産のアニリンコードバン

1つはアメリカ「ホーウィン社」のコードバン。染料で丸ごと革を染める「丸染め」が行われている。また革の裏側まで充分にオイルを行き渡らせる仕上げが施されており、軍関係やワーク系でよく用いられるため、耐久性にも優れている。マットなツヤ感が特徴だ。

もう1つが、国産のアニリンコードバン。アニリンという染料を用い、革の片側だけを繊細に染め上げる「丘染め」を施す。さらにオイルで表面を丁寧に仕上げているため、立体的で透明感のあるツヤが美しい。また皮革自体にハリがあることでも知られている。

一番上が国産コードバン。その下が「ホーウィン社」のコードバン

断面が白くて染まっていない一番上のものが、国産アニリンコードバン。その下にあるものが「ホーウィン社」のコードバンだ。

左が「ホーウィン社」のコードバン、右が国産コードバン

手間のかかる「丘染め」でしっかりと染め上げられた国産コードバンは、どこか懐かしい日本的な着色がなされている。

澄んだ透明感が特徴の「国産アニリンコードバン」

国産アニリンコードバンは、ヨーロッパ原皮のコードバンを国内の老舗タンナーが丁寧になめし、グレージングのトップランナーによる「アニリン染め」という手法で染められている。

具体的には、水性染料で革の片側だけを染める「丘染め」の手法だ。染めの工程に手間をかけているため、まるで人の皮膚の血管が見えるように、革すべての表面の模様が透き通って見える。月日を経て革の色が抜けても、革本来の張りが持続し、美しい透明感のあるきれいなツヤを見せてくれる。

「GANZO」の国産コードバンシリーズは、外装に使用するコードバンの自然な光沢をより引き立たせるため、内装に別の革を用いてコントラストを出している。それでは国産アニリンコードバンの代表的な商品を紹介しよう。

コードバン×牛ヌメ革のコントラストが美しい
「CORDOVAN(コードバン)」シリーズ

カラーは左上から時計回りにブラック、ダークグリーン、ダークブラウン、ヘーゼル、ネイビー

鉄紺やビリジアンなど、和を感じさせる深みのある色使いが特徴の国産コードバン×牛ヌメ革の「CORDOVAN(コードバン)」シリーズ。内装の牛ヌメ革は目がギュッと詰まった国産のものを使用している。

革が何パーツも重なり段差になるところも、ミシンのステッチをすべて跨いで入っているのが見えるだろうか。ステッチ跡から革が割けることのないよう、「GANZO」の細かく行き届いたステッチワークが冴える。

ステッチワーク、コバ仕上げ、捻引き。三位一体となった職人技が光る
牛ヌメ革の色が引き立つよう、赤茶色のチャコでコバ処理がされている

また、断面のコバ処理も素晴らしい。赤茶色のチャコを塗り、布海苔を塗り、また磨きをかける。これを愚直に3回繰り返す。「切り目本磨き」で仕上げられたコバ処理は、「GANZO」職人の細部にわたる美意識が光る。

小銭が蛇腹の部分に溜まらないように、下から上まで大胆に一枚のヌメ革でくるむ形にしている

●内装にも馬の革を採用した「CORDOVAN AUTHENTIC(コードバンオーセンティック)」

国産コードバンを使用したシリーズは他にも、内装にホースハイドを使用した「CORDOVAN AUTHENTIC(コードバンオーセンティック)」がある。

「CORDOVAN AUTHENTIC(コードバンオーセンティック)」シリーズ

内装にも馬の革であるホースハイドを施したこの商品は、コードバンと色のコントラストが際立った「CORDOVAN(コードバン)」シリーズとはまた違ったクラシカルな佇まいを見せる。

薄くて、軽量でコンパクト。馬の胴体部分を使うホースハイドは、柔らかい手触りで衣類などにも使われる皮革だ。外装の国産アニリンコードバン同様、内装で使用するホースハイドも国内で丁寧にタンニンなめしを施した、味のある「GANZO」オリジナルレシピである。

「CORDOVAN AUTHENTIC(コードバンオーセンティック)」の外装は、敢えてブラックはなし。ブラウン、ダークブラウン、ネイビー、オリーブの4色展開で、革それぞれが持つ風合いを感じやすい透け感のある発色で染めがなされている。

‎世界中に知られる名タンナーが手がける「シェルコードバン」

「シェルコードバン」は、アメリカ・イリノイ州シカゴにある老舗タンナー「ホーウィン社」の登録商標だ。「ホーウィン社」のコードバンだけが、「シェルコードバン」を名乗ることができる。

この会社の歴史は古く、前身となる「イシドール・ホーウィン会社」が作られたのは1905年。今でも20年以上の熟練の職人によって支えられており、100年以上の歴史を誇る。現在では北米で唯一、最高級コードバンを作るタンナーとなった。

「シェルコードバン」の特徴は、何といっても美しさと耐久性。「ホーウィン社」が皮革に加えるなめしやオイル仕上げが効果を生み、「シェルコードバン」の耐久性は維持されてきた。正しく手入れを続ければ、革が持つ本来の光沢が失われることなく、経年変化を楽しむことができる。

「GANZO」では通年、この「シェルコードバン」を贅沢に使用した「SHELL CORDOVAN 2(シェルコードバン2)」というシリーズを展開しているが、今回は最新の店舗限定アイテムを紹介しよう。

‎‎銘革「シェルコードバン」で作る店舗限定アイテム

「GANZO」の直営店には、オープンキッチンのような店内工房があり、日々職人が常駐する。毎日お客様の生の声を聞いてきた彼らによる「職人考案オリジナルウォレット」は、2018年から「GANZO」で人気を博してきた。その2022年度版がこの4月より、表参道本店を含む全国4店舗で期間限定で受注を開始した。

●〈GANZO 本店限定〉 1 mile wallet (ワンマイルウォレット)

“ワンマイル”とは、アパレル用語「ワンマイルウエア」を引き合いに出した言葉。部屋着でもなく、フォーマル着でもない“中間のコーディネート”のことを指す。本店常駐の職人である小平陽介さんによると、「小銭入れ以上、札入れ未満の財布」の意味をこめて命名したのだそう。

また店舗にいると、小平さんは「もう少し小さいお財布はないの?」とお客様から聞かれることが多かったという。時代的にキャッシュレス化が進んでいるせいだ。

「シェルコードバン」で作られた1 mile wallet

「シェルコードバン」による美しい照り。柔らかく光を反射しているのが見えるだろうか。まさに今回のテーマ「スタイリッシュなミニ財布」を体現している。手前には、クレジットカードも名刺も収納可能なカードポケットも。職人泣かせの緩やかなカーブを描く上品なカットのおかげで、カードもより抜きやすくなっている。

また美しくカーブを描くカット部分には、捻引きという熱処理が施されている。

捻引きの様子

捻引きは高級な革製品によく使われている手法。革の縁に上からアイロンをかけるように熱処理することで、革の断面を強固にし、見た目がグッと引き締まるのだ。

縦7.0cm×横10.2cm×厚さ1.8cmと非常にコンパクトな「シェルコードバン」の1 mile wallet

「シェルコードバン」で作られた1 mile walletは、立ち上がるマチの姿が紳士的でカッコいい。マチがしっかりしている分、小銭がこぼれにくいのも特徴だ。小銭入れの裏には、お札が入る隠しポケットも。お札は隠しポケットと、取り外し可能な板状のマネークリップの 2パターンで収納ができる。マネークリップでお札を挟み、そのままポケットに入れてもOK。人によって様々な使い方ができるのも1 mile walletのいいところだ。

なお表参道本店で販売するのは「シェルコードバン」(左下)以外に、ひし形の型押しが特徴の「ロシアンカーフ」(中央)と上品な風合いの型押しレザー「ユタカーフ」(右上)も

現在「GANZO」には、直営店が4店舗ある。1つは表参道の本店。そして、六本木店、銀座店、大阪店。本店以外の3店舗にも職人が常駐し、「シェルコードバン」を扱った限定アイテムをそれぞれ発表している。

左上から時計回りに、銀座店「Farfalla(ファルファッラ)」、大阪店「Single hook wallet(シングルホックウォレット)」「Double hook wallet(ダブルホックウォレット)」、六本木店「Compact flap wallet(コンパクトフラップウォレット)」、銀座店「Maggiolino(マジョリーノ)」。いずれも4月より受注生産販売を開始している。

本店以外で扱う限定アイテム全種

お客様と視線の合う位置に職人がいるからこそ実現した、職人考案の店舗限定アイテム。GANZO本店には、ブランド立ち上げ当時から通われるお客様も数多くいる。創業当時の伝統を守りつつ、「GANZO」は新しい素材やアイテムにもチャレンジし続けてきた。最近はコードバンのみならず、フランス・DU PUY社のシュリンクカーフを使ったり、シーンレスのカバンやサスティナブルを意識したアイテムも製作したりしているので、一度、新作を見に店舗をのぞいてみては?

【コラム】コードバンのお手入れについて

コードバンのお手入れは意外に簡単だ。基本はブラッシング、ワックス、磨きの3セット。これで革を育てながら、経年変化も楽しめる。

まずブラッシングをして汚れを取る。次に各革に適したワックスを柔らかい布に米粒3粒程度伸ばし、コードバンに優しく塗布。コードバンのベタつきが収まるまで自然に放置した後、再度ブラッシングだ。縫い目に入ったワックスを取り除いたら、付属のネル生地で優しく磨き上げて終了だ。

GANZO店舗では、アフターケアサービスも行っているので、迷ったら相談してみるのも良いだろう。

 

「GANZO(ガンゾ)」
時の経過と共に、持つ人の個性と一体となり人間の肌のようなエイジングを重ねる唯一無二の革製品ブランド。素材選びからなめし、革の裁断・漉き・縫製、磨きの全工程において妥協することない最高級ラインは、日本の文化と技を知り尽くした職人の魂が息づいている。 Webサイト:https://www.ganzo.ne.jp/
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