老舗工房から見えてくる「帆布」の魅力
~ 犬印鞄制作所の帆布鞄 ~

2020年3月23日
●取材・構成:編集部 ●文:大澤裕司 ●撮影:下山剛志[ALFA STUDIO]
今回紹介する犬印鞄製作所(以下、犬印鞄)は、主に帆布を使ったバッグ作りを行っている。多種多様なカバンを作るほか、小物類も制作。アイテム数は100を超える。
代表の細川俊二さんは、帆布の魅力として「天然素材ならではの温かみ」と「使い込んでいくうちに経年変化が進み自分だけのものになるところ」を挙げる。特長である丈夫さは、長年使っても自立するほどの強度を維持。使っていくうちに自然な退色が進み、独特の色合いに変化していくところも魅力的なところである。
こうした素材本来が持つ魅力で、ラフな感じに仕上げても格好よく決まるのも帆布製品の特長。カチッとしたイメージになりやすい革製品とは違った魅力があり、愛用者も多い。それでは、犬印鞄が作る製品の魅力を、現物に触れて確かめてみることにしよう。

東京・浅草にある犬印鞄製作所の工房兼店舗で制作・販売されている製品

カバン以外にも文庫本カバーやマルチケース、キーケース、などの小物を多数制作している

犬印鞄のネームタグ
犬印鞄で一番の売れ筋が、アイテム数が最も多いトートバッグ。角形のほか、バケツ形のバケツトート、ショルダーバッグとしても使える2ウェイトートなどもラインナップしている。
サイズは、近所に出かける際に小物類を入れておける小型サイズをはじめ、通勤通学時に使える大型サイズまで用意。実用的なものにするため、すべてひねり金具やファスナーで開口部を閉じられるようになっている。ファション性と実用性を兼ね備えた口元が折れるタイプもある。

左がベージュの「2ウェイバケツトート(中)」、右が黒の「バケツトート(SS)」
ブリーフケースやショルダーバッグといったトートバッグ以外の定番アイテムも用意し、サイズも多数揃えている。これらはトートバッグよりも、通勤通学のような用途に使われることが多いためか、トートバッグと比べると中のポケット類が多い印象がある。
特に犬印鞄らしさを発揮しているのが、ブリーフケースに使われている前面フラップ。2個のひねり金具を開くと、フラップがすべて前面に倒れ、小物類を収納するポケットが現れる。フラップの裏側にもポケットがある。大小さまざまなポケットがあり、収納力が高い。

「犬印純綿帆布 2ウェイブリーフケース(B4)」。正面に見える2つのひねり金具を外し、フラップを倒すと……

中からポケットが出現。フラップの裏側にもポケットがあることが確認できる
犬印鞄では、ネーム、ペン差し、金具をブラックで統一した特別仕様「黒犬印」も制作・販売している。トートバッグやブリーフケース、ショルダーバッグ、リュックを展開しているが、ネーム、ペン差し、金具をブラックで統一するだけで、ぐっと落ち着いて大人っぽく見える。

「黒犬印」のネームタグ

「黒犬印」の「トートバッグ(中)」(左)と「トートバッグ(SS)」(右)

「犬印純綿帆布 自転車用フロントバッグ」。上面の透明なケースは地図を入れるマップケースである

「犬印純綿帆布 自転車サドルバッグ」

自転車鞄のネームタグは他の製品とデザインが違い、犬ではなく自転車が描かれている
帆布も、細川さんが商標を引き継いでから作った。現在、犬印鞄で使っている帆布は、「犬印純綿6号帆布」と呼ばれている独自のもの。帆布は1号から11号まであり、号数が小さいほどタテ糸・ヨコ糸1本あたりの撚り数が多く、生地が厚手になる。生地に凹凸が生まれ格好いい見た目になるが、その分重くなってしまう。このような理由から、犬印鞄では軽さと丈夫さ、見た目のバランスがよい6号帆布を作ることにした。
細川さんには、理想の帆布があった。それは、自身が好きだという「L.L.Bean」のトートバッグに使われているようなもの。バケツ代わりに水も汲めるほど撥水性が高く、何もしなくても自立するほど固い。
「犬印純綿6号帆布」はこの理想を叶えた帆布だ。最大の特長は超撥水加工。一般的な帆布は水が染み込まないようロウ引きして防水加工が施されているが、「犬印純綿6号帆布」は帆布に樹脂を浸透させている。弾いた水が玉になるほどの強力な撥水性があり、樹脂が中まで浸透しているので、簡単に防水性能が落ちることがない。
また、固く仕上げるために、一般的な帆布より糊を強力に効かせている。製造業者にもこだわりがあり、滋賀県高島市で織られた生地を大阪で染色し、糊付けと樹脂撥水加工を行って完成となる。

「犬印純綿6号帆布」は固く丈夫で、弾いた水が玉になるほどの強力な撥水性がある
使っている金具類にも、細かなこだわりがある。普通なら規格品をそのまま使うところ一手間加え、独自の刻印を入れたものを使いオリジナリティを出している。リベットの刻印など、よく見ないとわからないほどだか、細かい金具類でも独自性を追求するところは犬印鞄のモノづくりのこだわりだ。

ひねり金具に施されている「犬印」の刻印

小さなリベットにも、周囲に「inujirushi♡kaban♡」の刻印が

ファスナーの引き手には「浅草 犬印鞄」の刻印が

刺繍の例。写真のような欧文スクリプト体のほか、欧文ブロック体、和文(漢字/ひらがな/カタカナ)で入れることが可能。色も黒をはじめ全部で10色用意

左から「犬印純綿帆布 リュック」「【黒犬印】ボディバッグ」「犬印純綿帆布 スポーツバッグ」

左から「犬印純綿帆布 2ウェイコンビトート(A4)」「インナーバッグ(小)」「酒袋」。「酒袋」は一升瓶が2本入ることから名付けられた、シンプルなデザインの道具袋のこと。2ウェイコンビトートは数量限定品

受注生産の「犬印純綿帆布 書類袋(小)」(手前)と「犬印純綿帆布 図面袋(大)」

犬迷彩柄がプリントされたショルダーバッグ。迷彩に紛れ随所に犬のシルエットが隠れている

ストーンウォッシュ帆布を使った散歩鞄。新品でも「犬印純綿6号帆布」と比べるとこなれた雰囲気で、色もやや薄くなっている

茶色の革製ネームタグがつけられているのが、麻帆布でできたカバン。2ウェイバケツトートや1〜2泊の出張や旅行に最適なオーバーナイトブリーフケースなどがある

新素材「X-Pac」を使った2ウェイリュック

「HELLO KITTY」をあしらったトートバッグ。左の市松模様のトートバッグは日本らしいデザインで、海外からの観光客にも人気が出そうだ

こちらは「ドラえもん」をあしらったトートバッグ。登場キャラクターを全部描ききっていなくても、誰であるかがすぐわかるデザインは秀逸
「リピーターは犬印鞄の製品をいくつも持っているので、時代に媚びたものを作ると『そんなもの作ったの?』と思われかねない」と話す細川さん。飄々とした感じの細川さんだが、「自分が作りたいもの」「自分が使いたいもの」ができた時に作るという姿勢は、昔気質の職人のように思えるほど。使い込んでいくうちになじんでくるが、いつまでも自立するほど丈夫で固い犬印鞄のバッグと相通じるところがある。

「犬印鞄製作所」代表の細川俊二さん

東京・浅草にある犬印鞄製作所の工房
http://www.inujirushikaban.jp/
1953年から帆布カバン作りを開始。1970年代に自転車鞄で名を馳せる。現在は自転車鞄のほかトートバッグやブリーフケースなどさまざまなアイテムを制作。東京・浅草に工房兼店舗、合羽橋道具街と上野に店舗を構える。