作業が捗る!クリエイティブワークが楽になる作業効率化「Tips」
値上げでユーザー離れ&Webデザイン領域から撤退の噂も...
Adobeの次なる戦略の考察とクリエイターの時代の変化に負けない作業環境の構築を考える
今後予測されるAdobeの企業動向
Adobeという企業の全体像を過去から現在まで広く把握したところで、今後予測される動向について分析していきましょう。
▶Webデザイン領域は他企業とのパートナシップで
前述のように、AdobeはXDの開発に投資する予定はないと宣言しており、今後Figmaの競合となるツールを開発・提供する可能性は低いと考えられます。また、広報担当者はWebデザイン領域に関しては、他の企業との提携を検討することに前向きであるとも述べており、今後の動向を注視していく必要があります。
Figmaの買収が失敗に終わったことは、Adobeにとって非常に大きな損失だったことは確かですが、他の企業との提携を結ぶことが結果的に吉と出る可能性も十分に考えられます。プロユースのWebデザインツールとして、一強状態となっているFigmaですが、ノーコードツールやAI機能を搭載したツールが徐々に台頭してきています。また、Webデザインという業務もコモディティ化しつつあり、デザイナーだけが専有する作業領域ではなくなってきています。こうした観点から、様々なノーコード・AIツールと提携することで、Figma包囲網を作り上げていく可能性も十分に考えられるのです。これまでの企業の歩みを踏まえるならば、そうした提携先企業の中から優良なツールを買収するといった流れもありうるでしょう。
こうした他の企業のツールとの連携強化の動きは、すでに始まっており、日本国内でもWixとAdobe Expressの連携に関するZoomウェビナーなどが開催されています。
参照記事:Webサイトのビジュアルを思い通りにカスタマイズ!WixとAdobe Expressの連携機能を活用しよう(Adobe公式)
▶ノーコードツールやAI機能への取り込み
FigmaやXDのような、ワイヤーフレーム・プロトタイピング・UI/UXデザインを行うツールの開発は事実上ストップしているAdobeですが、それをもってWebデザイン領域すべてから撤退するということは考えにくいでしょう。Webデザイン用のアセットやフレームワークを簡単に出力できるようにするなどDreamweaverやPhotoshopなど既存のソフトの機能を強化する方向性も十分にありえます。また、Figma買収後にAdobeはAIと自社株買いに約60億ドル(約877億円)を投資したとも報道されており、AI機能の開発は今後ますます強化されていくと予想されます。
現在、生成AIはクリエイターの権利や尊厳を大きく侵害するものとして、社会問題化しています。こうした状況はAdobeも十分に把握していると思われますので、クリエイターに寄り添ったAI機能とは何かを模索していると期待したいところです。
長年プロユースのクリエイティブツールの王者として君臨し続けてきたAdobeですが、一方でAdobeという企業の成長は、特殊な技能を習得しなければ携われることができなかったクリエイティブワークを、コンピューターを用いることでより多くの人に開放してきた歴史であるとも言えます。ノーコードツールやAI機能を取り入れることで、より多くの人がクリエイターになれる可能性を広げていくこともAdobeの企業ポリシーと相反するところではないと思われます。
参照記事:Adobe Has $6 Billion for AI and Buybacks After Figma Deal Collapses(Bloomberg)
参照記事:PDFがさらに便利になる。AcrobatにAIアシスト機能が追加(GIZMODO)
▶EUの規制による影響から逃れられない
Adobeの本社は、現在アイルランドに置かれています。これは、アイルランドの法人税率が12.5%と非常に低く(アメリカ合衆国は21%・日本は23.2%)、主に税金対策によるコスト削減が目的であると考えられます。
本社がアイルランドにあることは、Adobeにとって必ずしも良いことばかりではありません。なぜならば、一般データ保護規則(GDPR)やデジタルサービス法(DSA)といったEUにおける規制の影響を受けやすい環境にあると言えるからです。もちろん、本社所在地に関係なく、EU圏内で経済活動を展開していればEUの規制は避けられないのですが、規制の影響を受ける程度は異なります。
Figmaの買収が決裂したのも、EU当局が独占禁止法違反の防止として、AdobeにXDの売却を提案し、それを拒否したために起こった結果でした。クリエイターにとって大きな懸念事項であるAdobeのサービス内における生成AI機能の扱いについても、AdobeはEUの規制に準拠する形で、生成AI機能を提供する必要があります。今後のAdobeの動向を予測する上で、EU当局の動きが重要な鍵となってくるでしょう。
これらの考察や事業の全体像を見ても分かるとおり、Webサイトの制作・運営・管理・分析をサポートする事業が他にも数多く存在することから、何らかの形でWebデザイン領域の事業も保持するのではないでしょうか。ただし、それはFigmaが提供するWebデザインソリューションの一歩先の未来を見据えたものになると予測されます。
2024.02.29 Thu