筆は使ううちに、その人の手に馴染んでくる?使い手に合わせて変化を遂げる天然毛筆の魅力/第1回 東京鳩居堂 銀座本店 〜筆編〜 (前編) | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

筆は使ううちに、その人の手に馴染んでくる?使い手に合わせて変化を遂げる天然毛筆の魅力/第1回 東京鳩居堂 銀座本店 〜筆編〜 (前編)

2018.7.19 THU

似て非なる画材、この差って何?
あべちゃんのサブカル画材屋 紀行


使い手に合わせて変化を遂げる天然毛筆の魅力とは
第一回/東京鳩居堂 銀座本店 〜筆編〜 (前編)

お香と書道用品を中心に販売する東京鳩居堂 銀座本店 2階

お香と書道用品を中心に販売する東京鳩居堂 銀座本店 2階

都内近郊に点在する画材の専門店をめぐる新連載。大型店ではカバーしきれないマニアックな商品と知識を求め、イラストレーター兼ライターの筆者が専門店に潜入する企画がスタートします。第一回目に訪れたのは、銀座に古くから店を構える「東京鳩居堂 銀座本店」。2階の書道用品売り場で書道用の「筆」に注目します。画材であり文房具でもある筆の世界は、知っているようで知らない魅力が溢れていました。それでは、早速、魅惑の世界をレポートします!
(取材・文・イラスト:阿部愛美)

薬の調合と販売からスタートした香と書道用品の専門店・鳩居堂
日頃から、多くの外国人観光客や常連客で溢れかえる「東京鳩居堂 銀座本店」。お香や和小物、和紙、金封を購入した事がある人も多いのではないだろうか。1663年に京都で創業した鳩居堂は、薬を扱う薬種商として商売をスタート。薬と原料が共通することから、後にお香の製造がはじまったという。さらにその後、薬種の仕入先である中国より書画用文具を輸入して販売するようになり、お香と書画用品の専門店として現在まで多くの顧客に愛されている老舗だ。
和紙製品や手紙用品が置かれた1階の売れ筋は、シルクスクリーン印刷のはがき。 季節を少し先取りした絵柄でご挨拶するのが粋なのだとか

和紙製品や手紙用品が置かれた1階の売れ筋は、シルクスクリーン印刷のはがき。
季節を少し先取りした絵柄でご挨拶するのが粋なのだとか

華やかで美しい和紙がフロアに彩りを添えている

華やかで美しい和紙がフロアに彩りを添えている

店舗の外壁には石のレリーフが。 こちらは京都での創業年

店舗の外壁には石のレリーフが。
こちらは京都での創業年

東京支店(当時)の創業年

東京支店(当時)の創業年

1階フロアから続く階段を上がると、ふわ〜っと漂ってくるのはお香の香り。お香と書道用品が販売されている2階に足を踏み入れると、落ち着いた空気が流れていた。陳列された書道用品は一見するとどれも同じように見えるが、実際には素材や質によって何十倍もの価格差があるようだ。筆者には価値の違いこそ分からないが、硯に彫られた美しい彫刻や文鎮の装飾を楽しみながら見ていると、フロアの一番奥に突き当たった。壁に備え付けられた棚には筆がずらりと並んでいる。

「ここにある筆はほぼすべて鳩居堂製です。主に京都の工房で作っているんですよ」と、教えてくれたのは、東京鳩居堂で接客販売をする大橋裕太さん。

絵画用の平筆や面相筆と違い、書道用の筆は見た目がほとんど同じように見えるのだが一体どのように選ぶのだろう。
一部中国製の「唐筆(とうひつ)」を除いてすべて鳩居堂製。中には画筆も

一部中国製の「唐筆(とうひつ)」を除いてすべて鳩居堂製。中には画筆も

個性豊かな天然毛筆の選び方
「筆を選ぶ際のポイントは大きく3つあります。用途・大きさ・固さです」と、大橋さん。

「用途とは、『漢字』と『かな』どちらを書くかで分けることができます。 かなは細い線で書きますので、一般的に固い筆が向いていると言われていますね。漢字は書く人の好みによっても変わりますので、幅広い種類の筆が使われます」とのこと。

今でこそ日本語の表記は漢字・ひらがな・カタカナ・アルファベットが混在しているが、元々は漢字とかなのみの世界。そのため、このように2つに分けられているという。 大きさと固さはどうだろう。

「大きさは文字の大きさに比例すると考えてください。固さについても、 固い筆を使うことで固い線が表現できます。この『固さ』に直接関係してくるのが毛の種類です。鳩居堂では、柔らかい順に羊(山羊の毛のこと)、イタチ 、狸、馬を使った筆をメインに取り扱っています。なかでも羊の毛は高級品で、柔らかく墨の含みが良いのが特徴です」。(大橋さん)
一般的に穂先の大きさによって右から大筆、中筆、小筆と呼ばれる。工房ごとに号数で定義することもあるが、筆業界で規格化されているわけではない

一般的に穂先の大きさによって右から大筆、中筆、小筆と呼ばれる。工房ごとに号数で定義することもあるが、筆業界で規格化されているわけではない

右)内側に柔毛 、外側に剛毛を使用したもの。全体的に硬い書き心地でありながら墨の含みが良い 左)内側に剛毛、外側に柔毛を使ったもの。柔らかすぎず書きやすいのだとか

右)内側に柔毛 、外側に剛毛を使用したもの。全体的に硬い書き心地でありながら墨の含みが良い
左)内側に剛毛、外側に柔毛を使ったもの。柔らかすぎず書きやすいのだとか

一般的な水彩画筆であれば、水の含みが良いのはコリンスキー(イタチ)やテンなどの毛と言われているが、羊はそれよりもふわふわしていて柔らかく、技術がないとコントロールが難しそうだ。絵を描く時は何本もの筆を使い分けるが、書道は基本的に1本のみ。どんな文字をどのくらいの大きさで、何文字書くのかといった詳細をあらかじめ決めておくことが作品づくりの要となりそうだ。

筆選びでがらりと変わる繊細な表現
百聞は一見に如かず。実際に筆を使って書いてもらおう。
大橋さんは幼い頃から書道を習いはじめたそうだが、本格的に書道の道に進み始めたのは高校から。学校の先生に誘われて書道部に入部したことがきっかけとなり、大学では文学部の書道専攻へ。今では鳩居堂に勤めながら、書道教室にも通っているという。
小筆の「放光(ほうこう)」

小筆の「放光(ほうこう)」

さて、大橋さんが手にとったのは細い文字を書くための小筆。早速墨を磨(す)り始め、筆の先に墨をつける。紙に筆を滑らせる指先は、とめはねはらいの動作ごとににじみや書き心地を楽しんでいるようにみえた。丁寧に「鳩居堂」の3文字を書き終えると、別の小筆を使って同じ文字を書く。

筆と水の量の違いだけでも、仕上がりには明らかな差がある。文字の大きさや線の強弱、かすれ具合に違いが見てとれる。

筆はもちろん、どんな紙や墨、硯を使うかによっても結果は全く変わるという。さまざまな組み合わせを試みた結果をストックしておくことで、表現したいことに合わせて道具を選ぶそうだ。
墨を硯の陸(おか/平らな部分)でくるくると10回ほど磨る。少ないように思うが、使う分だけでいいのだそう

墨を硯の陸(おか/平らな部分)でくるくると10回ほど磨る。少ないように思うが、使う分だけでいいのだそう

右)切っ先が鋭いいたちの毛を使用した「放光(ほうこう)」。 左)玉(※)、馬、羊の毛を使用した柔らかい書き心地の「衣手(ころもで)」。残念ながら現在は欠品中 ※玉……猫の毛のこと

右)切っ先が鋭いいたちの毛を使用した「放光(ほうこう)」。
左)玉(※)、馬、羊の毛を使用した柔らかい書き心地の「衣手(ころもで)」。残念ながら現在は欠品中

※玉……猫の毛のこと

後編では、自分に適した筆の選び方を紹介する。初心者はまず、基準となる1本を使ってみることから始めてみよう。
●東京鳩居堂 銀座本店
1663年に京都で創業したお香、書画用品、はがき、便箋、金封、和紙製品の専門店。1880年に東京・銀座に出店し、現在にいたる。今回取材した書道用品はお香と一緒に店舗2階で販売しており、1階は、オリジナルのはがきや和紙のほか和小物を中心に取り揃え、昔からの常連や、外国人観光客でいつも賑わっている。

住所/東京都中央区銀座5-7-4
営業時間/10:00~19:00 (平日・土曜)、11:00~19:00(日曜・祝日)
TEL/03-3571-4429
URL:http://www.kyukyodo.co.jp/
2018/03/20
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