
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)
その症状とは、タッチスクリーンがまったく反応しなくなるというもの。ネットで調べてみると、以前から低温時にそのような状態になることが少なからず報告されていたようだが、筆者の事例は昨今の異常気象の最中。気温は30度を超えるような状態であり、そうした過去のケースには当てはまらない。
ところが、ある日、iPhone Xをカーナビとして利用していたときに反応しなくなり、上記のようなスリープ→再認証後のスワイプアップもできなくなった。サイドボタンと音量ボタンを併用したリスタートや、電源オフ後の再投入を行っても症状は回復せず、タッチやスワイプを一切受け付けない。一方で、Face IDの認証成功を示す錠前アイコンのアニメーションは表示されるので、内部的な処理は正常に行われているようだ。
つまり、タッチスクリーンというハード側の問題によって、意識はあるが動けない金縛りのような状態に陥ったわけで、こうなるとジーニアスバーに駆け込むしかない。
筆者の場合、容量の関係でiCloudを利用したフルバックアップは行わず、iCloud Driveへの主要ファイルの同期とMacのiTunesを使ったバックアップを併用している。iPhone Xの場合、iCloudバックアップであればタッチ操作が不可能でも自動でバックグラウンド処理されるまで待てば良いが、Macとの物理接続によるバックアップではお手上げになる弱点があるということだ。
特に、iOS 11.4.1以降では、無許可の操作を防ぐUSB制限モードによって、iPhoneをPCにUSB接続したときに1時間以上ロックが解除されなければ外部からの読み取りができなくなるため、うっかりその状態でMacに繋ぎっぱなしにすると、永久に文鎮化する恐れが出てくる。今後、iOSデバイスは、すべてFace ID+スワイプアップによるロック解除が標準化される公算が強いため、タッチスクリーンに不具合が生じた場合には、特に注意が必要だ。
とりあえず、少し前のバックアップを利用することにして、修理に赴くことにした。
そこで、以前にキーボード関連の不具合が生じた際に表参道ストアで利用した当日受付に頼ることにした。当日受付は、実際にストアまで出向く必要があるため、地元以外では利用しにくいが、アップルストアのある都市に出張した際などに生じた不具合を短時間で解決したい場合などにも使える方法だ。
表参道ストアは比較的空いているため、朝一番に飛び込んで15分ほどで対応してもらえたが、心斎橋ストアでは到着時に、開店直後にもかかわらず、すでに店内を半周するほどの列ができており、見てもらえるのは午後5時前後とのことだった。実際には、その10分ほど前にメッセージが届くことになっており、その時点ですぐに駆けつけられなければ、返信して多少遅らせることができる。
ということは、やはりこうした症例があることをアップル自体も把握しており、クレームがあり次第、対応する体制ができているのだろう。それでも修理には最低でも数日かかることを覚悟していたが、驚くことに、その日のうちに受け取れるという。つまり、交換すべきスクリーンの在庫があり、インストアで部品交換してくれるという最速の対応だ。
幸いなことに、データが消去されることもなく修理が完了したので、バックアップから復帰する手間も省け、nano-SIMを戻すだけで元の状態に生還させることができた。
今回のケースは、最もスムーズにことが運んだ場合ということになるかもしれないが、タッチスクリーン自体の不具合は決して褒められないとしても、その後の対応は大いに満足できるものだった。もちろん、製品を完璧に仕上げることが大前提ではあるが、アフターケアに関してアップルは十分な対策を講じているといってよいだろう。
ただし、交換されたタッチスクリーン部分の保証期間に関して担当者に質問したところ、iPhone X本体の「購入日から1年」が、そのまま適用されるとのことだった。通常、今回のようなケースでは、修理部分に関して「交換日から1年」が適用されて然るべきだ。アップルには、この点のみ再考を促したいと思う。

大谷 和利(おおたに かずとし) ●テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。