新MacBook Pro 13インチ
プロの狙い目は最新アーキテクチャの上位モデル

TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)
それは、前回のiPhone SEの記事でも触れたように、サブスクリプションサービスからの安定した利益が得られることと、世界経済の停滞を予期したものではなかったが、タイムリーかつブランド力を落とさずに廉価版iPhone(=SE)を市場投入できたことによるところが大きい。
その流れに乗って発表された新型MacBook Proは、噂されていた14インチではなく13インチモデルのまま、基本デザインも変更せずに登場した。この筐体と仕様構成には、やはりこの時期ならではの深謀遠慮が感じられる。そのあたりの分析も含めて、プロユースに適した仕様がどれかを考えてみたい。
結論からいえば、おそらく14インチモデルのプロトタイプは存在し、今回のタイミングで発表することを考慮していた可能性も十分あったと考える。
というのは、エントリーモデルのMacBook Airもスクリーンサイズが13インチのみとなり、最新モデルではRetinaディスプレイも環境光に応じて色合いが自動調整されるTrueTone仕様(ただし、MacBook ProやiPad Proのような広色域P3対応ではなく、sRGB対応)に変更され、以前と比べてMacBook Proの13インチモデルとの差が詰まってきていたことが1つ。
加えて、iPad ProもiPad OSのアップデートやフローティングスタイルのMagic Keyboadの登場によって、よりMacBook系に近い操作が可能となったため、こちらの12.9インチモデルも含めると、ほぼ同じ画面サイズの製品が3種類存在する状態が生じていたことも指摘しておきたい。

新型MacBook Pro(13インチ)とiPad Pro(12.9インチ)
その意味では、MacBook Proの上位モデルがかつての15インチではなく16インチとなっている今、13インチモデルを14インチに格上げし、それより小さなスクリーンサイズは、MacBook AirとiPad Proに任せたほうが、販売戦略上も有利と思われる。
それも、準備期間などを考慮すると、ここ1、2ヶ月の間の話ではなく、遅くとも今年の頭にはそうする決定が下されていたと考えられよう。たとえば、台湾は昨年12月末の時点でWHOに対して、武漢における非定型肺炎の発生を知らせる文書を送っており、幅広いネットワークを持つAppleがそれに類した情報を握っていた可能性は十分ある。
その上で、Appleが重要視したのは、13インチモデルの枠内で、iPhoneにおけるSE的な買いやすい仕様と、MacBook Proに相応しいハイパフォーマンス仕様をカバーすることだった。
具体的には、新MacBook Pro 13インチモデルの下位仕様(1.4GHzクアッドコアIntel Core i5プロセッサ、8GB 2,133MHz LPDDR3メモリ、256GBストレージ)は、MacBook Airの上位モデル(1.1GHzクアッドコアCore i5プロセッサ、8GB 3,733MHz LPDDR4Xメモリ、512GBストレージ)と同一価格(税別134,800円)であり、ストレージを512GBにアップしても2万円高で済む。
一方で、上位仕様(2.0GHzクアッドコアIntel Core i5プロセッサ、16GB 3,733MHz LPDDR4Xメモリ、512GBストレージ)は税別188,800円(1Tストレージでは、同208,800円)となるが、格段に高速なプロセッサとメモリ、そして、4基のThunderbolt 3ポート(下位仕様では2基)が手に入る。
新MacBook Pro 13インチの下位モデルの仕様は、基本的に従来モデルをほぼそのまま踏襲している。異なるのは、不評だったバタフライキーボードをシザー式のMagic Keyboardに置き換え、さらにEscキーをTouch Barから独立した物理キーに割り当てて使い勝手が向上した点にある。
もちろん、価格が抑えられたことで魅力が増したこの下位モデルは、第8世代(開発コードネーム:Coffee Lake)とはいえTDPが15Wのプロセッサを搭載しており、同じ4コアでもTDPが10Wの第10世代プロセッサを搭載するMacBook Airの1.5倍以上(マルチコア利用時)のパフォーマンスを発揮できる。そのため、たとえば昨今のテレワーク用に少し高性能なノートMacが欲しいといったニーズには最適の1台といえる。
しかし、プロのクリエーターが選ぶとすれば、最新アーキテクチャを採用し、高度なビデオ編集や3Dレンダリングなどの高付加な処理を余裕を持ってこなせる上位モデルを選択すべきである。この場合、第10世代プロセッサの中でも、TDPが28Wのものを採用して余裕ある熱対策が採られている。そのため、下位モデルとの比較でシングルコア使用時でも約1.3倍、マルチコア使用時では1.4倍弱のパフォーマンスを発揮できる。
この上位機種で採用されているIce Lakeプロセッサは、特に純正のコンピュータグラフィックスAPIであるMetalへの最適化が進んでおり、GPUの負荷が高い処理では下位モデルの1.5倍程度のパフォーマンスを発揮するため、一説にはIntelがAppleの要望に応じてカスタマイズした専用品ともいわれている。
Thunderbolt 3ポートが4基あることも含めて、これらのパフォーマンス差を考えるならば、プロの選択肢は上位モデル一択といってよい。価格差も十分納得できるものであり、内容を考えれば安いとさえいえるかもしれない。
今後の新13インチモデルの売れ行きやウイルス動向の影響は受けるだろうが、14インチモデルも近い将来(今秋~来春)には登場することが予想される。その場合、内部空間の余裕を活かし、現在はプロセッサ統合型のGPUを独立させて、さらなる高性能化を図ることも考えられよう。今回の13インチモデルも十分に魅力的だが、急ぎでなければ、それまで待つのも1つの選択肢といえる。
逆に、若干でも大型化する14インチモデルは可搬性の点では13インチに劣ることになる。したがって、持ち運ぶ機会が多いユーザーであれば、十分な買い得感のある今回の上位モデルを前向きに選択するという判断もできるだろう。

大谷 和利(おおたに かずとし) ●テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)、『インテル中興の祖 アンディ・グローブの世界』(共著、同文館出版)。