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着物の収納にとどまらない、竹製のつづらが秘める可能性 最終回 岩井つづら店 〜つづら編〜(後編)

2019.7.17 WED

似て非なる画材、この差って何?
あべちゃんのサブカル画材屋 紀行


着物の収納にとどまらない、竹製のつづらが秘める可能性
最終回/岩井つづら店 〜つづら編〜(後編)

時代を経て変化する、つづらの役割

「岩井つづら店」軒先ののれんには、つづらの命ともいえる竹に加えて、かわいいスズメが描かれている。昔ばなし「舌切りすずめ」にも登場する、ふた付きの籠・つづらの歴史は古く、縄文時代から運搬などに利用されていた。元来つづらとは、つる性の植物・ツヅラフジを編んで作られる裸の籠を指し、小さなものは弁当箱として使われていたという。

竹の籠に和紙を貼り柿渋と漆で仕上げる、現在のつづらが発明されたのは元禄時代。葛籠屋甚兵衛(つづらや・かんべえ)という江戸の商人が、婚礼の道具として生み出したことをきっかけに、庶民にも親しみやすいものになっていた。つづらの一種には行李(こうり)があり、こちらは、柳や籐、竹などを箱の形に編んだもの。昔の家の押入れには、大抵何個かの行李があったという。
つづらの最盛期は明治時代から大正時代にかけての頃で、呉服の町として名高い日本橋にはつづらの職人も多く、つづら屋の組合もあったほど。今では、日本全国で、たった4件を残すのみとなり、東京では「岩井つづら店」が唯一となった。

「着物を着る人が少なくなって、需要が減少したのでしょうね」と、良一さん。「それに、つづらに使う竹籠を作る職人が少なくなってしまった。竹のザルや花籠のような工芸品を作る職人はいても、四角い籠を作る人がなかなかいない。しなる竹の性質上、角を出すのは難しいのだと思います」
店や職人の数こそ少なくなったものの、優れた機能と美しさに魅了された人々によって、つづらは今でも愛用されつづけている。また、「若い人にもつづらに興味を持って欲しい」と、昨年から始めた紋入れワークショップは、毎回即定員オーバーとなるほど大人気。筆者が店を訪れた日にも、つづらを引き取りに来る人や、購入を検討している人が多く訪れ、店の外からは外国人観光客が興味深そうに店内を眺めていた。
紋入れのワークショップでは、つづらと同じ工程でつくられた桐箱の小物入れを使用。 こちらは「岩井つづら店」のスズメが描かれている

紋入れのワークショップでは、つづらと同じ工程でつくられた桐箱の小物入れを使用。
こちらは「岩井つづら店」のスズメが描かれている

紋入れに使われている型紙。各家の家紋だけでなく、オリジナルの図柄も

紋入れに使われている型紙。各家の家紋だけでなく、オリジナルの図柄も

直して長く使っていきたい、一生ものの道具
どんなものにも、必ず寿命はやってくる。けれど、優れた素材と、卓越した技術で丁寧に作られたものは、長く使えるところが魅力的だ。つづらもまた、修理することで100年は持つといわれている。店内には、竹で編まれた「けんどん」(タンスのこと)が。木の枠を使い、竹で編んだけんどんは、柿渋と漆を使ってつづらと同じような工程で作られている。とても70年ものだと思えない美しさで、修理をしながらこれまで使ってきたのだとか。

店の外では、まさに依頼があって修理中のつつづらが水瓶に浸してあった。修理する時には水につけて和紙を剥がし、裸の籠に戻してから作り直すという。

「昔は、和紙ではなく新聞紙やクズ紙で作られたつづらが多くありました。そうしたものは修理もひと苦労で、水につけても綺麗に剥がれてくれません。雑紙を使ったものは、和紙と比べると強度がかなり落ちますし、中身の保管状態にも影響するようなものでした」と、恵三さん。
修理の前に和紙や漆を剥がすため、水瓶に浸けられていた

修理の前に和紙や漆を剥がすため、水瓶に浸けられていた

「あまり古いものや傷んでいるものは、新しく購入した方がいい場合もある」としながらも、依頼のあるものはかなり傷んでいるものがほとんどだとか。それでも、新規購入ではなく修理を希望するのは、つづらに思い入れが詰まっているから。祖父母から受け継いだものや大切な時にもらったものなど、その想いはさまざまだ。

つづらが傷む原因は、角をぶつけて割ってしまったり、底が擦り減ったというものが多いそうだが、扱う上でどんなことに気をつけたら良いだろう。恵三さんは、「日用品ですから、あまり神経質になる必要はありませんよ」としながらも、使用のヒントを教えてくれた。

「一番気をつけて頂きたいのは、直射日光。竹が縮んで、割れる原因になります。エアコンの風が直接当たる場所も避けた方がよいでしょう。普段の手入れは乾拭きで十分です。磨くと少し表面が曇ってきますが、味わいとして楽しんでもらえたら。あまり気張らずに、普段使いしてくれたら嬉しいですね」

 “一生ものの日用品” として、活用されてきたつづら。人々の生活スタイルは大きく変化しているけれど、アイディア次第で活用法は広大無辺。よい道具や画材を手に入れた時や気に入る作品が作れた時には、ぜひつづらを活用してみてはいかが。
作業場には、修理して使っているという、けんどん(写真左手奥)が、大切に使われていた

作業場には、修理して使っているという、けんどん(写真左手奥)が、大切に使われていた


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連載は、今回で最終回となります。お読み頂き、誠にありがとうございました!(筆者・あべちゃん)

連載は、今回で最終回となります。お読み頂き、誠にありがとうございました!(筆者・あべちゃん)

●岩井つづら店
文久年間創業のつづら店。初代・信四郎さんが、駕籠屋を本業とするかたわら、つづらの製造を開始。現在では、「岩井つづら店」として、6代目の岩井良一さんが技術を継承している。
昨年から始めたという、紋入れの体験ができるワークショップは毎回大人気。すぐに定員オーバーとなるため、気になる方は事前にメールで問い合わせを。次回は2019年秋を予定している。

住所/東京都中央区日本橋人形町2-10-1
アクセス/都営浅草線・日比谷線「人形町駅」A1出口より徒歩1分
営業時間/9:00~17:00
定休日/無休
TEL/03-3668-6058
メール/info@tsudura.com
URL:https://tsudura.com/
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