今回は、2014年に女王の裁可を得て行われた遺産条項の改訂と、当コレクションのための美術館の改修工事(2015年~2020年)という二つの出来事が重なり、計80点の作品中76点が奇跡の初来日を果たすこととなった。
企画展「印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション」は、福岡会場(2018年10月12日~12月9日)、愛媛会場(2018年12月19日~2019年3月24日)と巡回し、現在は東京会場Bunkamura ザ・ミュージアム(2019年4月27日~6月30日)で開催中。東京会場会期終了後は静岡会場(2019年8月7日~10月20日)、広島会場(2019年11月2日~2020年1月26日)へ巡回される。
2019年5月15日
(取材・文/編集部)
印象派絵画の特徴の一つに、現実的な風景と光を描くために戸外制作を行う「外光主義」という考え方があるが、ドガはこの考え方とは無縁であり、人物の配置や画面構成に強いこだわりを見せる画家だった。作品もスケッチや写真をアトリエで合成するという方法で作られており、重層的で考え抜かれた構図は他に類を見ないものである。
次に、踊り子の手の動きに促されるように画面右の群像へ。ここでは休憩中の踊り子や年配の女性が描かれており、静と動、明と暗の対比が表現されている。さらに、画面左側に目をやると、螺旋階段の上から降りてくる人物の足先や、壁際で順番待ちをする踊り子たちといった、この空間を構成する人たちの全体像が見えてくる。そして気が付くと、いつのまにか絵画の中に誘い込まれているのである。壁際の踊り子のうち何人かは、次に中央の空間へと飛び出していくのだろう。
右奥に描かれた唯一の男性像は、ダンサーで振り付け師のジュール・ペロー(1810-1892)だ。この絵をX線写真で調べたところによると、この男性は、もともと描かれていた柱を塗りつぶして描き足されたようである。ダンサーたちを指導しているのか、見定めに来ているのか、この有名なバレエ監督を描き加えることで、画面はよりストーリー性のあるものへと変化している。
他にも、ゴッホ、セザンヌ、ルノワール、マネ、クールベ、ブーダン、ピサロ、ミレー、シスレー、ル・シダネルなど、贅沢なラインナップで我々の眼を楽しませてくれる展示会だ。
展示の順路半ばに、バレルが収集した静物画と、ケルヴィングローヴ美術博物館の所蔵する静物画が向かい合わせに展示されている箇所があり、この顕著な「色調の好み」が見て取れる。実業家であるバレルは、華やかな色彩よりも落ち着いた色彩を、着飾った社交界の女性たちよりも、労働者や農民、家畜と言ったモチーフを好んだようである。
油彩画だけでなく、素描のコレクションにも注目したい。黒一色でザックリと描かれたスケッチだが、この背中を向けた男性の雰囲気、どこか見覚えがないだろうか。このスケッチの作者は「種をまく人」「落ち穂拾い」「晩鐘」などで知られるジャン=フランソワ・ミレー。素早いタッチながら、作業に没頭する農夫の姿がリアルに捉えられている。海運王とまで呼ばれた大実業家のコレクションでありながら、このような習作が含まれている点もバレルの鋭い審美眼を思わせる点である。
近代西洋絵画の中では、別格であるゴッホ(オランダ)を除くと、フランス画壇以外の画家はあまり知られていないが、水彩画の技法が目覚ましい発展を遂げたのは実は英国であり、ウィリアム・バレルもこれらの作品を好んで買い集めたようである。
ジョゼフ・クロホールは、フランスの印象派などの影響を受けて、戸外制作で光を捉えようとした画家だ。鳥や馬などの動物の描写が高く評価されており、本展でも陽光のもとで自由奔放にふるまう動物達を生き生きと描いた作品が展示されている。このように、動きやすい対称を素早く捉えるには、油彩画よりも軽やかな水彩画の技法は、とても適していることが実感できる。
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/19_burrell/
期間(東京会場):2019年4月27日(土)~6月30日(日)
※5月21日(火)6月4日(火)は休館
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
※毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
場所:Bunkamura ザ・ミュージアム
問い合せ先:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料:一般 1,500円、大学・高校生 1,000円、中学・小学生 700円