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「遊びの流儀 遊楽図の系譜」展、多彩な屛風の中に描かれた人々の“遊び”を辿る

2019.7.17 WED

「遊びの流儀 遊楽図の系譜」展、多彩な屛風の中に描かれた人々の“遊び”を辿る
サントリー美術館で、人々の遊び心をかき立てた様々な楽しみごとを古美術品とともに辿る「遊びの流儀 遊楽図の系譜」がスタートした。平安末期の有名な一節に「遊びをせんとや生まれけむ(後白河院編纂「梁塵秘抄」より)」とあるように、「遊び」は人々にとって普遍的な行為であり、常に暮らしと共にあるものであった。

本展では、古くから美術のテーマとなった「遊び」に着目し、双六やカルタ、舞踏やファッションなど、絵画に表された情緒豊かな遊びの風景を紐解いていく。

2019年7月12日
(取材・文/編集部)
双六、かるた、貝合(かいあわせ)、情緒豊かな昔の遊び道具
古今東西、今も昔も“遊び”は人々に欠かせないものであり、娯楽や気晴らしは生活の端々で行われてきた。時代が変われば道具も変わり、遊びの形態も変化する。昔の人はどんな遊びをしていたのだろう……。同展ではまず、絵画にも多く描かれてきた「遊びの道具」を見ていく。

● 禁令が出されるほど人々が熱中した「盤双六」

会場入り口付近に展示されているのは、時代劇などでよく見る「双六」だ。双六は飛鳥時代に日本に伝わり、身分階層を超えて大流行した。その人気は、熱中する人が続出してたびたび禁令が出されたほどで、この双六盤は古代から近代にいたるまで、長く遊楽の場を彩ってきている。
<span style="color: #808080;">左:『草花蒔絵双六盤』 江戸時代(十九世紀) 京都国立博物館所蔵(通期展示) 右:『徒然草絵巻』海北友雪 二十巻のうち第九巻 江戸時代(十七世紀) サントリー美術館(通期展示・場面替えあり)</span>

左:『草花蒔絵双六盤』 江戸時代(十九世紀) 京都国立博物館所蔵(通期展示)
右:『徒然草絵巻』海北友雪 二十巻のうち第九巻 江戸時代(十七世紀) サントリー美術館(通期展示・場面替えあり)

現代の“すごろく”とは異なるこのゲーム盤は、西洋のバックギャモン※1とルーツを等しくするゲームが中国から日本に伝わったものである。サイコロを振り、出目に従ってゲームを進めていくのは現代と同じだが、100%運に頼るのではなく、何種類かのルールが存在する戦略性のあるゲームだった。これを「盤双六」と呼ぶのに対して、現代と同じ形式の双六は「絵双六」と呼ばれている。

※1 バックギャモン:世界最古のボードゲームの一つ。盤上に配置された駒をどちらが先に全てゴールさせられるかを競う。

● 意外とリアル! 現代へとつづく「絵双六」

「絵双六」は、幕末から近代にかけて急速に普及したもので、本展でもいくつかの絵双六が展示されている。定番の東海道五十三次をテーマにした「東海道五十三駅双六」や、子守りや稽古をしながら結婚を目指す「男女振分婚礼双六」、大名になって出世を目指す「御大名出世双六」など、題材にもなかなかリアリティがある。
左:『男女振分婚礼双六』五湖亭貞影 江戸時代(十九世紀) 国立歴史民俗博物館所蔵 (展示期間/6月26日~7月22日) 右:『東海道五十三駅双六』江戸時代(1863年) 国立歴史民俗博物館所蔵 (展示期間/6月26日~7月22日)

左:『男女振分婚礼双六』五湖亭貞影 江戸時代(十九世紀) 国立歴史民俗博物館所蔵 (展示期間/6月26日~7月22日)
右:『東海道五十三駅双六』江戸時代(1863年) 国立歴史民俗博物館所蔵 (展示期間/6月26日~7月22日)

● 婚礼調度にもなった雅な道具「合貝(あわせがい)」

こちらは貝合(かいあわせ)の道具。二枚貝の内側を金地で塗り、その中に花鳥や王朝人物などがペアで描かれている。貝合は平安時代に流行した物合の一種で、裏返した貝殻を、その形や色、文様をもとに予想して取って遊んだようだ。合貝は夫婦和合の象徴ともされており、近世には婚礼調度として作られることも多かった。これは平安ではなく江戸時代の品である。貝殻だけでなく、貝桶全体にも装飾が施されており絢爛豪華な様が目を惹く。
『貝桶・合貝』 江戸時代(十八~十九世紀) サントリー美術館所蔵 (通期展示)

『貝桶・合貝』 江戸時代(十八~十九世紀) サントリー美術館所蔵 (通期展示)

● 多様性に満ちた江戸の「かるた」

江戸時代の絵画には「かるた」も盛んに登場する。「かるた」というと日本の文化というイメージがあるが、実は南蛮文化を起源とするもので、最初はデザインも遊び方もトランプに近いものだったようだ。

江戸時代に入ると、読札と取札で構成される「百人一首かるた」、2枚一組の「絵合わせかるた」、現代のスタンダード「いろはかるた」などが考案されて人々に広まっていく。

次の項で紹介する「遊楽図」をよく見ると、かるたの模様までしっかりと描かれているものも多いので、人々が「かるた」を使って、どんなゲームをしているのか想像してみるのも楽しいだろう。
左:『金地うんすんかるた』 江戸時代(十七世紀) 滴翠美術館 (通期展示) 右:『天正かるた』 江戸時代(十七世紀) 個人蔵 (通期展示)

左:『金地うんすんかるた』 江戸時代(十七世紀) 滴翠美術館 (通期展示)
右:『天正かるた』 江戸時代(十七世紀) 個人蔵 (通期展示)

『野菜青物尽絵合かるた』 江戸時代(十九世紀) 滴翠美術館 (通期展示)

『野菜青物尽絵合かるた』 江戸時代(十九世紀) 滴翠美術館 (通期展示)

見るものを引き込む精密描写! 「遊楽図」の世界
さて、次はこれらの“遊び”を、本展の主役である絵画の中に見ていきたい。大屛風の側に置かれたパネルには“遊び”が描かれている箇所がクローズアップされているので、これをヒントに探していくとよいだろう。ただし、本展の屛風の絵はものすごく細かいので根気が必要だ。

「遊楽図屛風(相応寺屛風)」(徳川美術館)は、国の重要文化財にも指定されている八曲一双の大屛風だ。両隻にわたって、野外でも邸内でも人々がありとあらゆる遊楽に打ち興じ、太平の世を満喫する様が描かれている。

右隻には、右に花見の宴や水浴びの様子、中央に茶屋と猿回し、饂飩屋、矢場、左には能の興行と役者の控え室が描かれている。左隻は豪壮な妓楼を舞台に、邸外の舟遊びや輪舞、蹴鞠。邸内では楊弓(遊戯用の小弓)、カルタ、双六、酒宴、喫茶、喫煙、読書、化粧、さらに別棟の蒸し風呂と並ぶ。

美術館側の計らいで、屛風が通常よりガラス面に近い位置に置かれているようなので、近づいてじっくりと探してみてほしい。もっとも一定の人物を探さなくても、ほぼ全員が“遊んで”いるので、目につく人物を次々と眺めていくだけでも面白い。お目当ての人物を探し当てる前に絵画の世界に引き込まれてしまうかもしれない。
大屛風の側に置かれたパネル「遊楽図屛風(相応寺屛風)」 左上:カルタ遊び 右上:うどん屋 左下:蹴鞠 右下:双六遊び

大屛風の側に置かれたパネル「遊楽図屛風(相応寺屛風)」
左上:カルタ遊び 右上:うどん屋 左下:蹴鞠 右下:双六遊び

『遊楽図屛風(相応寺屛風)』 江戸時代(十七世紀) 徳川美術館 (展示期間/6月26日~7月15日)

『遊楽図屛風(相応寺屛風)』 江戸時代(十七世紀) 徳川美術館 (展示期間/6月26日~7月15日)

● 舞台に合わせて変化する、さまざまな「遊び」の風景

「正月風俗図屛風」(サントリー美術館)には、手毬や羽根突き、貝合。「妓楼遊楽図屛風」(国立歴史民俗博物館)には、琴や三味線、喫煙、舞踊など、作品によって異なる世界観が表現されているのも興味深い。「婦女遊楽図屛風」(サントリー美術館)などは、登場人物のほとんどが女性で、親しげに抱き合ったり、美しい着物を広げたり、髪を結い合ったりと、女性だけの自由奔放な世界が展開されている。

これらは「邸内遊楽図」とよばれる、屋敷内を舞台とした遊楽図だが、市中の賑わいや野外の遊楽を描いた作品も多く存在する。桃山時代には満開の桜の下で着飾り、輪舞に興じる開放的な遊楽図が流行した。江戸時代に入ると都市ならではの賑わいを描いた作品が多く登場している。

こちらは野外遊楽図の一つ、京都・四条河原を描いた「祇園祭礼図屛風」。祇園際礼の山鉾巡行のにぎわいを描いたもので、「刻み煙草」「鮒寿司」「甜瓜(まくわうり)」「ところてん」といった外食の様子が各所に見受けられる。先ほどの作品以上に人が密集しているが、人々の着衣の描写なども繊細を極め、夏に行われる祇園祭礼のうだるような暑さと、心浮き立つ雰囲気が巧みに表現されている。
『祇園祭礼図屛風』 江戸時代(十七世紀) サントリー美術館所蔵 (展示期間/6月26日~7月22日)

『祇園祭礼図屛風』 江戸時代(十七世紀) サントリー美術館所蔵 (展示期間/6月26日~7月22日)

屛風の側に置かれたパネル「祇園祭礼図屛風」 左上:刻み煙草 右上:鮒寿司 左下:甜瓜(まくわうり)右下:ところてん

屛風の側に置かれたパネル「祇園祭礼図屛風」
左上:刻み煙草 右上:鮒寿司 左下:甜瓜(まくわうり)右下:ところてん

人物を探すよりもさらに細かくなるが、人々の着衣や持ち物に書かれた小さな「文字」の意味を探っていくのも面白い。たとえば、花見の酒樽には「南都諸白」※2 の文字が判別できる。「南都諸白」とは奈良産の高級清酒の名だ。秤に書かれた「天下一」の文字は、京都の秤師・神善四郎の手によることを示すもの。この秤を帯にさした坊主もいる。

丸印に鎌と「ぬ」の文字を組み合わせた文様は「かまわぬ」の判じ物で、江戸時代の町人の間で流行った図柄である。自分の生き方にかまってくれるなという気概が込められた文様なのだが、この文様を大きく背に書いた小袖を着た人物※4 も見つけることができる。目を凝らさなければ気付かない程の小さな文字だが、これらは絵画の世界に現実感を付加するとともに、鑑賞者を楽しませる仕掛けでもあったようだ。
探してみてネ!
※2 奈良産の高級清酒「南都諸白」の酒樽
  →「遊楽図屛風(相応寺屛風)」右隻右上
※3 「天下一」の秤を帯に挿した坊主
  →「遊楽図屛風(相応寺屛風)」右隻中央
※4 「かまわぬ」の文様の小袖を来た人物
  →「四条河原遊楽図屛風」右寄りの位置
本展では他にも、中国の遊楽図ともいえる「琴棋書画図」(琴、囲碁、書、絵画の四つの技芸を描いたもの)。一年の営みを描いた「十二ヶ月風俗図」。遊楽図の要素のいずれかが突出する形で発展した「舞踊図屛風」「誰が袖図屛風」「文使い図屛風」など、多くの絵画が展示されている。

眺めるほどに発見があり、何度見ても見飽きない緻密絵画の世界。ただ鑑賞するだけでなく、自分自身も“楽しみごと探し”に興じることができる、楽しい趣向の展覧会である。
サントリー芸術財団50周年 遊びの流儀 遊楽図の系譜
https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2019_3/
会期:2019年6月26日(水)~8月18日(日)
   ※会期中展示替えあり
開館時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
     ※7月14日(日)、8月11日(日・祝)は20時まで開館
     ※いずれも入館は閉館の30分前まで
休館日:火曜日
    ※8月13日は18時まで開館
場所:サントリー美術館
問い合せ先:03-3479-8600
入館料:一般 1,300円、大学・高校生 1,000円、中学生以下無料
次回は、小学校の教科書でおなじみの絵本「スイミー」の作者レオ・レオーニの生涯を、作品とともに紹介する「みんなのレオ・レオーニ展」です。そちらもご期待ください。
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