
本記事では、「大観・春草・玉堂・龍子 ―日本画のパイオニア―」展の絵画から、この4人の日本画家たちが追い求めた理想や、新たな表現へのチャレンジ、独自のスタイルを確立していった過程などを紐解きながら、その魅力や見どころを紹介していく。
2019年9月13日
(取材・文/編集部)
輪郭線がないため全体的にぼんやりとした印象だが、不思議なほど奥行きや空気感、その場の湿度までが感じられ、どこか異国風の趣もある作品である。画題として用いらているのは東洋のモチーフなのだが、「光」を色彩の濃淡で表現する点においては西洋風の技法ともいえる。描線が少ないことに加えて、このあたりの色彩表現が独特の雰囲気を作り出しているのだろう。

菱田春草 『釣帰』 1901(明治34)年 絹本・彩色 山種美術館所蔵
「朦朧体」作品は日本では酷評されたが、アメリカ・ヨーロッパの展覧会では好評を得て高値がついた
美術館の方の話では、この二つ並んだ牧童は同展の隠れスポットなのだとか。至近距離まで近寄って見られるので二人の牧童、そして背景の描き方の違いをじっくりと観察してみてほしい。

【朦朧体の作品】菱田春草『初夏(牧童)』(部分) 1906(明治39)年 絹本・彩色 山種美術館所蔵

【朦朧体から離れた時期の作品】菱田春草『月下牧童』(部分) 1910(明治43)年 絹本・彩色 山種美術館所蔵

『月四題』菱田春草 明治42~43年頃 絹本・墨画淡彩 山種美術館所蔵
満月を外隈(外側をぼかし、対象を白く浮き立たせる技法)で表した作品。水墨を主体に月と四季の草花を組み合わせる表現は江戸琳派にも先例がある

横山大観『楚水の巻』 1910(明治43)年 紙本・墨画 山種美術館所蔵
山河の風景だけでなく、時間帯による空気感の違いや湿度が墨一色で表現されている
大観の模索はまだまだ続く。大正期の作品は一気に華やかさを増す。大正5年に描かれた『作右衛門の家』では、南画を思わせるタッチに、大和絵風の鮮やかな色彩が用いられ、貴重な岩絵の具を用いるなど画材への挑戦も見られる。この作品に使われている技法は「絹本裏箔」といって、絹の裏側に金箔を貼って、絹目の間からキラキラと輝く効果を生かしたものだ。この作品では、絹本裏箔によって木立の奥の仄の明るさを表現することに成功している。

横山大観『佐久衛門の家』 1916(大正5)年 絹本裏箔・彩色 山種美術館

右:横山大観『喜撰山(きせんやま)』 1919(大正8)年 紙本・彩色 山種美術館

横山大観『蓬莱山』 1939(昭和14)年頃 絹本・彩色 山種美術館所蔵

横山大観『霊峰不二』 1937(昭和12)年 絹本・彩色 山種美術館所蔵

本展にも富士を描いた作品が4点展示されている。最晩年(84歳)に描かれたこちらの『心神(横山大観 昭和27年 絹本・墨画淡彩 山種美術館所蔵)』は来館者なら撮影OKだ。
▷ ダイナミックで独創的、でも繊細な川端龍子の世界
特に龍子は異色の経歴を持つ画家で、はじめは洋画家としてキャリアをスタートさせている。並行して新聞や雑誌の挿絵も手掛け、1913年に洋画修行のため渡米するも、帰国してまもなく日本画に転向。しばらくは日本美術院展(院展)での活動を続けていたが、その作品が“会場芸術”との批判を受けることとなり、自ら絵画団体「青龍社」を創立して、独自の道を歩むことになる。
龍子の作品は、大画面に力強い筆致で描かれたダイナミックなものが目立つが、本展ではその繊細な一面も覗き見ることができるので、小品も良く鑑賞してみてほしい。まずは、大胆な筆致と躍動感あふれる大画面で異彩を放つ「鳴門」から。龍子が院展を脱退し、自らの青龍社で初めて開催した「第一回青龍展」に出品されたものだ。六曲一双の大屏風に、群青の大渦で埋め尽くされた鳴門の海が描かれており、自由な創作への想いが爆発したかのような作品である。

川端龍子『鳴門』 1929(昭和4)年 絹本・彩色 山種美術館所蔵

川端龍子『華曲』 1928(昭和3)年 紙本・彩色 山種美術館所蔵

川端龍子『月光』 1933(昭和8)年 絹本・彩色 山種美術館所蔵
次の一枚『渓山秋趣』 は、京都で学んだ円山・四条派の柔らかい岩の描き方から、狩野派由来の河北系山水画のような画風へと、新しい表現へ挑んでいた頃の作品。玉堂は、橋本雅邦との出会いをきっかけに、それまで一定の地位を築いていた京都画壇から東京へと活動の場を移している。当時、画壇を京都から東京に移すというのは決して簡単なことではなく、ここに玉堂の探求心の強さが伺える。

川合玉堂『渓山秋趣』 1906(明治39)年 絹本・彩色 山種美術館所蔵
ノスタルジーを誘う画題や色彩だけでなく、こういった近代的な目線も、現代の私たちが強く共感を感じる要素の一つではないだろうか。

川合玉堂『春風春水』 1940(昭和15)年 絹本・彩色 山種美術館所蔵

川合玉堂『早乙女』 1945(昭和20)年 絹本・彩色 山種美術館所蔵
「梅」を龍子が、「松」を大観が、「竹」を玉堂が担当した第一回松竹梅展と、「梅」を大観が、「松」を玉堂が、「竹」を龍子が担当したの第三回松竹梅展の作品が見られるが、ここでも3人の画家の特徴ははっきりと表れている。晩年に描かれた松竹梅展の作品は、いずれ劣らぬ日本画のパイオニアたちが生涯をかけて探求した世界観の集大成とも言えるだろう。
「日本画は難しい」「古典の知識がないとわからない」と感じている人がいたら、ぜひ今回の展示を見て欲しい。画家たちの自由さ、力強さ、独創的な世界観にきっと驚きを感じるはずだ。
●第三回松竹梅展(昭和32年)の出品作品

大観晩年の作品は堂々たる風格。少ない描線とさりげない仕掛け(二羽の鳥)で雄大な世界を表現する。暗香浮動とは真っ暗な中でわずかに漂う梅の香りのこと
『松竹梅のうち 梅(暗香浮動)』 横山大観 1957(昭和32)年 絹本・彩色 山種美術館所蔵

玉堂が描くのはやはり身近な自然とそこに生きる人々。身近なモチーフとさりげない描写が共感を誘い、大胆な構図が臨場感を生み出している
『松竹梅のうち 松(老松)』 川合玉堂 1957(昭和32)年 絹本・彩色 山種美術館所蔵

「竹」という画題に対して竹林ではなく筍という独特のセンス。竹取物語を暗示する閃光とタイトルにも独創的なひねりと着眼点は健在だ
『松竹梅のうち 竹(物語)』川端龍子 1957(昭和32)年 絹本・彩色 山種美術館所蔵
大観・春草・玉堂・龍子 ―日本画のパイオニア―
http://www.yamatane-museum.jp/exh/2019/pioneer.html
会期:2019年8月31日(土)~10月27日(日)
開館時間:10:00~17:00(入館は16時30分まで)
休館日:月曜日
※但し、9/16(月)、9/23(月)、10/14(月)は開館、
9/17(火)、9/24(火)、10/15(火)は休館
場所:山種美術館
問い合せ先:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料:一般 1,200円、大学・高校生 900円、中学生以下無料




