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官能の画家・クリムトの全貌を見る二つの美術展、その特徴と見どころ

2019.11.13 WED

官能の画家・クリムトの全貌を見る二つの美術展、その特徴と見どころ
2018年はグスタフ・クリムトの没後100年、2019年は日本―オーストリア友好150周年ということで、クリムトの名を冠する企画展が2カ所で開催されている。いずれも趣向を凝らした企画で観客を楽しませているが、会期も近く、同じ東京で開催されているこの二つの企画展、どちらを見に行くべきかと悩んでいる人も多いのではないだろうか。そこで今回は、美術好きの読者のみなさまの展覧会選びの一助となるよう、二つの企画展の特徴と見どころ、目玉作品などを紹介してみたい。


「クリムト展 ウィーンと日本 1900」
東京都美術館 会期:2019年4月23日(火)~7月10日(水)
※7月23日(火)より、愛知の豊田市美術館でも開催

「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」
国立新美術館 会期:2019年4月24日(水)~8月5日(月)
※8月27日(火)より、大阪の国立国際美術館でも開催

2019年5月29日
(取材・文/編集部)
クリムトってどんな画家?
まずは、世紀末ウィーンを代表する画家グスタフ・クリムトについて少しおさらいしておきたい。官能の画家と言われるクリムトは、14歳から工芸美術学校で絵画を学び、在学中から劇場装飾を手がけるなど若くして頭角を現した。しかし、次第に保守的なアカデミーに不満を抱くようになり、進歩的な芸術家の一団とともに「ウィーン分離派」を結成。初代会長を務め、グループの中核的存在となる。

常に探求を止めないその姿勢は権威筋からの批判を浴びることも多く、ウィーン大学の天井画を製作する仕事では、その赤裸々な表現が数々の議論を巻き起こし、完成を断念するといった出来事もあった。

私生活では多くのモデルと愛人関係を持ち、少なくとも14人の子供がいたという。しかし、こういったスキャンダルから連想する色男とは程遠く、いつももじゃもじゃ頭にガバッとしたスモックを着ているような人物である。分離派メンバーの同志たちと撮った記念写真でも、周りがタキシードとシルクハットで決める中、一人トレードマークの青いスモック姿だ。もっとも、スモックの中は裸だったようなので、洒落っ気がないというよりも、これもクリムトの特異性の一端だったのかもしれない。
右:ウィーン分離派メンバー 左奥で椅子に座っている人物がグスタフ・クリムト 「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」出典作品(東京展のみ)

右:ウィーン分離派メンバー
左奥で椅子に座っている人物がグスタフ・クリムト
「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」出典作品(東京展のみ)

作品は、若く美しい女性を官能的に描いたものが有名だ。甘美でありながら、破滅の予感を秘めているような作品が多く、女性たちが纏うのは世紀末の退廃的なエロスである。生涯追い求めた「生命の円環」というテーマの中で、男女の愛や官能への思索を深めていったのは事実であろうが、クリムト自身の放埒な私生活(とその結果)が、これらの作風に大いに影響していたのは間違いないだろう。絵画と同時に、クリムト自身の人生も透けて見えてしまう、そんな画家である。

それではまず、東京都美術館で開催されている「クリムト展 ウィーンと日本 1900」から見ていこう。
クリムトを肌で感じたいなら「クリムト展 ウィーンと日本 1900」
「クリムト展 ウィーンと日本 1900」は、クリムトの人生や画業、その変遷に焦点をあてた企画展だ。展示は作品を時系列に沿って紹介する形で進む。多くの有名画家に見られる傾向だが、若い頃のクリムトの絵画は実に端正でアカデミック。天才的な写実力に驚愕させられる。

クリムトの代名詞となった「黄金様式」の時代の作品はもちろん、タイポグラフィが現代的なウィーン分離派展のポスター、壁画「ベートーヴェン・フリーズ」の再現、ウィーン大学の天井画制作のための習作など、クリムトが手掛けた総合芸術の世界が展開されている。

「17歳のエミーリエ・フレーゲの肖像」「ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)」「ユディトⅠ」などでは、絵画だけでなく、額もセットでデザインされており、より世界観を楽しめる演出だ。額装の中には、金細工師だったクリムトの実の弟ゲオルク・クリムトが手掛けたものもあったようである。

親友のフランツ・マッチュや、クリムトに大きな影響を与えたハンス・マルカトらの作品も展示されているが、どれもクリムトとの関係性という視点で紹介されている。
グスタフ・クリムト『ベートーヴェン・フリーズ』(原寸大複製) 1984年(オリジナルは1901-02年) ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館 所蔵

グスタフ・クリムト『ベートーヴェン・フリーズ』(原寸大複製)
1984年(オリジナルは1901-02年) ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館 所蔵

ウィーンの工芸美術学校の課題として描かれた、グスタフ・クリムトとフランツ・マッチュの作品の比較展示 左:グスタフ・クリムト『レース襟をつけた少女の肖像』1880年個人蔵 右:フランツ・マッチュ『レース襟をつけた少女の肖像』1880年個人蔵

ウィーンの工芸美術学校の課題として描かれた、グスタフ・クリムトとフランツ・マッチュの作品の比較展示
左:グスタフ・クリムト『レース襟をつけた少女の肖像』1880年個人蔵
右:フランツ・マッチュ『レース襟をつけた少女の肖像』1880年個人蔵

19世紀後半は、ジャポニスムがヨーロッパ全土の一大潮流となった時代でもあり、クリムトの日本美術コレクションや書簡といった個人的な遺産も展示されている。クリムト作品の平面的な背景や、日本の文様のようなパターン、金箔を使った装飾などは、たしかに日本の琳派の作品と共通するものが感じられる。

そして後半に行くにつれ、モチーフは華やかな女性たちから、人間の生と死という深淵なテーマを色濃く反映したものへと移行していく。40歳以降に描かれた「赤子」「女の三世代」「家族」などでは、煽情的な女性たちとはまた違った部分で、見るものを不安にさせる寓意的な作品が続いている。クリムト作品の何とも言えない不安と危うさ、絵画の奥底から漂ってくるひんやりとした空気のようなものが、体感できる美術展である。
グスタフ・クリムト『女の三世代』1905年 ローマ国立近代美術館所蔵

グスタフ・クリムト『女の三世代』1905年 ローマ国立近代美術館所蔵


世紀末芸術を堪能するなら「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」

「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」の展示作品はとにかく幅広く、クリムト作品をその時代背景や画家たちとの関連性、当時の生活様式などから理解するといった趣向だ。

同展は、マリア・テレジア(1717-1780年)と幼いヨーゼフ2世が描かれた巨大な絵画からスタートする。1862年に生まれたクリムトが画壇で活躍した時代を中心に、神聖ローマ帝国の時代から、クリムト以降に台頭してきたエゴン・シーレ、オスカー・ココシュカといった表現主義の画家たちの作品までを見ていくわけだから、扱う時代は優に100年を超えている。

また、絵画だけでなく、当時の家具や食器、宝飾品にドレスまでが展示されており、正直な所、観覧者にとって1日で消化するには無理があると言えるほど、バラエティに富み、数も膨大である。展示作品数は約400点(大阪会場では約300点)というから、一般的な美術展の優に2~3倍の作品数と言えるだろう。

登場するアーティスト(画家・建築家・音楽家など)の数も膨大なので個々の紹介は控えるが、この企画展で実感できるのはウィーン芸術界の潮流の変化だ。社会の革新を目指す啓蒙思想がビーダーマイアーの概念を生み出し、ウィーンのモダニズム文化の萌芽となって、19世紀末の絢爛豪華な芸術活動へと発展していく。作品を見ていても、クリムトが活躍した1900年前後を境に、絵画が古典的で写実主義的な作品から、より大胆で個性的な画家の作品へと大きく変化しているのがわかる。

※ビーダーマイアー:日常生活に実用的な美を見出す、19世紀前半の市民文化の形態の総称
左:マルティン・ファン・メイテンス『マリア・テレジア(額の装飾画:幼いヨーゼフ2世)』1744年 ウィーン・ミュージアム所蔵 右:ハインリヒ・フリードリヒ・フューガー『鎧姿の皇帝ヨーゼフ2世』1787-88年頃 ウィーン・ミュージアム所蔵

左:マルティン・ファン・メイテンス『マリア・テレジア(額の装飾画:幼いヨーゼフ2世)』1744年 ウィーン・ミュージアム所蔵
右:ハインリヒ・フリードリヒ・フューガー『鎧姿の皇帝ヨーゼフ2世』1787-88年頃 ウィーン・ミュージアム所蔵

展示風景

展示風景

記事の冒頭で“展示の見どころを紹介”と書いてしまったが、この展覧会の見方は、人それぞれになるだろうと思われる。絵画好きであれば、豊富に紹介されている画家たちの筆致をじっくりと眺めるであろうし、歴史好きであれば、ウィーン会議やウィーン万博、美術作品の中に現れるフリーメイソンや都市近代化の影響といった視点からたくさんの発見があるだろう。建築や、インテリア、ファッション、音楽という視点も当然存在する。

会場に着いたら、まずはざっと全体を見渡し、もう一度最初に戻って「自分なりの視点」で、世紀末ウィーンの世界にトリップしてみてはどうだろうか。


クリムト展 ウィーンと日本 1900(東京会場)
https://klimt2019.jp
会期:2019年4月23日(火)~7月10日(水)
休室日:5月20日(月)、27日(月)、6月3日(月)、17日(月)、7月1日(月)
開室時間:9:30~17:30(金曜日は16:00まで)※入室は閉室の30分前まで
場所:東京都美術館 企画展示室
問い合せ先:03-5777-8600(ハローダイヤル)
観覧料:一般 1,600円、大学生・専門学校生 1,300円、高校生 800円、65歳以上 1,000円
クリムト展 ウィーンと日本 1900(豊田会場)
https://klimt2019.jp
会期:2019年7月23日(火)~10月14日(月)
休館日:月曜日(ただし8月12日、9月16日、9月23日、10月14日は開館)
開室時間:10:00~17:30 ※入室は閉室の30分前まで
場所:豊田市美術館
問い合せ先:0565-34-6748(6/1まで)、0565-34-6610(6/1より)
観覧料:一般 1,600円、大学生 1,300円、高校生以下無料
ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道(東京会場)
https://artexhibition.jp/wienmodern2019/
期間:2019年4月24日(水)~8月5日(月)
開館時間:10:00~18:00(入場は閉館の30分前まで)
 ※毎週金・土曜日は、5・6月は20:00、7・8月は21:00まで。
休館日:毎週火曜日
場所:国立新美術館 企画展示室1E
問い合せ先:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料:一般 1,600円、大学生 1,200円、高校生 800円、中学生以下無料
ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道(大阪会場)
https://artexhibition.jp/wienmodern2019/
期間:2019年8月27日(火)~12月8日(日)
開館時間:10:00〜17:00(入場は閉館の30分前まで)
 ※8、9月中の金曜・土曜日は21:00まで開館、10~12月中の金曜・土曜日は20:00まで開館。
休館日:毎週月曜日
 ※ただし、9月16日、23日、10月14日、11月4日は開館し、翌日休館。
場所:国立国際美術館
問い合せ先:06-6447-4680
入館料:一般 1,600円、大学生 1,200円、高校生 800円、中学生以下無料
読者プレゼント情報
「クリムト展 ウィーンと日本 1900(東京会場)」および、「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道(東京会場)」の展覧チケットを、抽選で各5組10名様にプレゼントいたします。応募期間は6月11日(火)まで。応募方法は専用ページよりご確認ください。

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