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モノづくり探訪記

2021.05.24 Mon

【第十二回】廃材でつくる文房具「木軸ボールペン」の魅力 ~ 使い込むほどに味わいを増す白谷工房の寄木細工~

箱根の伝統工芸としても知られる「寄木細工」。その技法を独学で学び、木造家屋の解体などで出る廃材を再利用して、多彩なモダンアイテムを作りだしているのが、鳥取県日南町の「白谷(しろいたに)工房」だ。年月を重ねた古材ならではの味わいから生まれる、手に馴染むような使い心地と佇まい……。今回のモノづくり探訪記ではおよそ20種類もの廃材を利用して作る白谷工房の文房具と小物類を紹介したい。 

2021年5月24日 
●取材・構成:編集部 ●文:石黒直樹 ●撮影:下山剛志[ALFA STUDIO]

自分だけの一品モノを育てられる木軸ペン&名刺入れ

寄木細工にはいくつかの工法があるが、白谷工房は木材を組み合わせて作ったブロックを削り、磨いて仕上げるスタイル。まずは熟練の技が生み出す作品を製造工程とともに紹介しよう。

● 寄木のボールペン/シャープペン

  

木ならではの風合いと手触り、そして異なる木材が織りなす模様の美しさを日常使いで楽しめるのが、寄木を木軸として仕上げたペンの数々だ。 

モアビ、クリ、ナラ、サクラなど、様々な廃材からていねいに切り出された木片を圧着し、中心に穴を開けてギミックを内蔵するための真鍮パイプを仕込む。そして使う人の手に馴染み、筆記具としてもしっかりしたホールド感と書き心地が得られるように、手作業による削りと磨きで滑らかな曲線の木軸に仕上げていく。 

注目点はやはり寄木ならではのユニークな模様。寄木のブロックを円柱状に削っていくことで、三角形のパーツからキノコのような模様が現れたりと面白い変化を見せることもある。

木片ブロックを組み合わせて圧着

<span style="color: #666699;">木片ブロックを組み合わせて圧着した素材。木軸ペンはこれを手に馴染む円柱形に丁寧に削りながら仕上げていく</span>
木片ブロックを組み合わせて圧着した素材。木軸ペンはこれを手に馴染む円柱形に丁寧に削りながら仕上げていく
<span style="color: #666699;">円柱状に削り上げることで、三角形の底辺と頂点が曲線を描きながらくっついて、まるでキノコのような模様に。こういった模様も白谷工房の寄木細工の面白さだ</span>
円柱状に削り上げることで、三角形の底辺と頂点が曲線を描きながらくっついて、まるでキノコのような模様に。こういった模様も白谷工房の寄木細工の面白さだ

工房では代表の中村さんを含め3人のスタッフが製品作りに取り組んでいる。基本デザインは中村さんが担当するが、実際の製作は三人三様。使う木の組み合わせは一つ一つ異なるとのこと。自分だけの一品モノとなる贅沢感も楽しめる。 

気になるペンとしての使い勝手は、全長14.2×直径1.1㎝と持ちやすいサイズ感。中村さんが「自分が使いやすいものを」という基準で設計しているので、日本人向きの使いやすい太さになっている。 

ボールペンのリフィルはヨーロッパタイプ[G2]に対応。G2型リフィルは海外ブランドはもちろん、日本でもなじみの深いプラチナ万年筆や三菱鉛筆からも販売されているので、好きな色やインクのリフィルと交換して使うことも可能だ。カスタマイズしながら使い込んでいけば、木軸の経年変化の味わいも楽しめるので、一生モノのペンとなるだろう。

<span style="color: #666699;">模様を選ぶのが楽しい寄木細工のボールペン</span>
模様を選ぶのが楽しい寄木細工のボールペン
<span style="color: #666699;">同じデザインでも一本ずつ木の組み合わせが異なるので、手に入れたペンは自分だけの一点モノだ</span>
同じデザインでも一本ずつ木の組み合わせが異なるので、手に入れたペンは自分だけの一点モノだ
<span style="color: #666699;">白谷工房で販売している、黒インク/太さ0.7mmのリフィルのほかにも、ヨーロッパ[G2]型のリフィルが利用可能。国内外のメーカーから様々なリフィルが出ているので、好みの色・太さ・インクに交換して使うのもアリだ</span>
白谷工房で販売している、黒インク/太さ0.7mmのリフィルのほかにも、ヨーロッパ[G2]型のリフィルが利用可能。国内外のメーカーから様々なリフィルが出ているので、好みの色・太さ・インクに交換して使うのもアリだ

● 寄木細工の名刺入れ

  

寄木細工の製作でもっとも重要なのが「精度」。パーツ切り出しの段階から1/100mmの精密さが求められ、少しでも狂うと貼り合わせた時に模様の歪みが生まれてしまう。そんな精度の妙をもっとも楽しめるアイテムが、この名刺入れだ。 

シンプルな真鍮の釘を軸として開閉するフタ部分は、ユルすぎずキツすぎない絶妙な加工で吸い込まれるようにパチンと閉まる。外装を彩る寄木も数種類の木が落ち着きあるカラフルさを演出し、分かれている本体とフタの紋様も綺麗に繋がっている。そして手に持った時に優しくしっくりくる角の丸みは中村さんによるフリーハンド仕上げだ。

<span style="color: #666699;">精度の高い作りと中村氏自らの手仕上げによるフォルムの美しさが魅力の名刺入れ。パチンと気持ち良くハマるロック部分や真鍮の釘で組んだヒンジなど、細部の精度の高さが気持ちの良い使い心地を生み出している</span>
精度の高い作りと中村氏自らの手仕上げによるフォルムの美しさが魅力の名刺入れ。パチンと気持ち良くハマるロック部分や真鍮の釘で組んだヒンジなど、細部の精度の高さが気持ちの良い使い心地を生み出している

開閉部分の強度・ケース横の丸み・フタの縁部分の仕上げ、そして気持ち良くパチンと閉まる構造など、高い精度の求められる部分が多いため、名刺入れの作成はすべて中村さんが手がけている。木の堅さによって削る際の力加減も変わってくるので、すべては中村さんの手の感覚頼みなのだ。 

ペンや名刺入れ、そしてすべてのアイテムはミツロウと植物由来のオイルをブレンドした100%自然素材のワックス仕上げで、落ち着きのあるツヤと輝きをまとっている。ツヤが薄れてきたり傷が目立つようになったら、オリーブオイルや椿油などの植物性油を塗り込んで、乾いた布で拭き取れば復活するとのことなので、手入れをしながら使い込んだ風合いを育てていくのも、白谷工房のアイテムを使う楽しみの一つだ。

年月の積み重ねから生まれる味わいが廃材の魅力

これほど見事な寄木細工のアイテムを作りだしている中村さんだが、前職は大工。寄木細工は独学で学んでいる。この道に進むきっかけとなったのは、仕事現場でいつも目にしていた廃材の姿だったという。 

長年に渡って家を支え続けてきた木材が、家の建て替えなどで取り壊されて廃材として大量に処分されていく……。大工仕事でそんな光景を見続けてきた中村さんは、何とか再利用することはできないかと試行錯誤。その過程で寄木細工のことを知り、2013年に廃材を利用した寄木細工づくりをスタートさせた。 

最近はSDGs(持続可能な開発目標)の一環として「持続可能な生産消費形態の確保」が叫ばれているが、SDGsが国連で採択されたのが2015年。白谷工房はそれから2年以上先行する形で「廃材の再生」による持続型社会の実現に取り組んでいたわけだ。

<span style="color: #666699;">寄木細工に使う木材を切り出したもの。各ブロックは1/100ミリ単位の精密なカットが施されている</span>
寄木細工に使う木材を切り出したもの。各ブロックは1/100ミリ単位の精密なカットが施されている

廃材を利用するメリットはリサイクル的な側面だけではない。長年使い込まれてきたことで十分に乾燥しているので木質が安定し強度もアップしている。さらに日本の文化が育ててきた豊富な木材が、それぞれの質感や経年変化の味わいを生み、寄木細工アイテムに唯一無二の表情を与えてくれるのだ。 

寄木細工の中でも、白谷工房の製品は最初に一片9mm~18mmほどのパーツを切り出して組み合わせていくスタイル。手間も技術も必要になる工法だが、これには破損部分のある木材も無駄にせず生かしたいという中村さんの思いが込められている。

<span style="color: #666699;">寄木のSDGsバッジ/持続可能な社会を実現するというSDGsのトレードマークであるカラーホイールを、白谷工房で使っている17種類の木材で再現。SDGsの主旨に賛同するという工房の意思表明でもあるアイテムだ</span>
寄木のSDGsバッジ/持続可能な社会を実現するというSDGsのトレードマークであるカラーホイールを、白谷工房で使っている17種類の木材で再現。SDGsの主旨に賛同するという工房の意思表明でもあるアイテムだ

白谷工房には「廃材の再利用」というコンセプトに共感する顧客が多く、虫食い穴なども作品の表情として生かしているが、希望すれば傷のない製品を送ってくれるとのこと。

木のある暮らしを永遠に残していきたい

2013年に中村さん1人から始まった白谷工房は、後に友人2人が加わり3人体制に。テレビドラマでアイテムが使われたことから地元でも知られるようになり、住宅建材以外にも様々な廃材が持ち込まれるようになった。 

仏壇などに使われている黒檀やトチノキ、家具職人からは端材となったウォールナット、さらに地元で伐採されたウルシの木や、現在はワシントン条約で管理されているため入手困難なブビンガーなど、レアな素材も扱うことに。最近では、地元鳥取の遺跡の近くから掘り起こされたジンダイケヤキも加わり、その珍しい色合いを活用した新作アイテムを作成中とのこと。

<span style="color: #666699;">長年地中に埋まっていたことで、人の手では再現できないような味のある色合いになるジンダイケヤキ。最新作のピアスは、そんなジンダイケヤキを使って落ち着きあるデザインへと仕上げている<span>
長年地中に埋まっていたことで、人の手では再現できないような味のある色合いになるジンダイケヤキ。最新作のピアスは、そんなジンダイケヤキを使って落ち着きあるデザインへと仕上げている

アイテムをデザインする時は、常にどんな木材を利用するかを考えながら取り組み、そのために様々な木材のことを日々勉強しているという中村さん。そんな切磋琢磨と試行錯誤の繰り返しは、この事業を始める動機となった「木を大事にしたい」という考えを今も忘れず抱き続けているという証だ。 

ペンや名刺入れだけでなく、ピアス、ネクタイピン、バレッタ、ヘアゴムなどアクセサリー類も充実している白谷工房の寄木細工。色々なファッションにも合わせやすく値段も手頃なので、友達にちょっとしたプレゼントを贈りたいという時にもピッタリである。

<span style="color: #666699;">文房具からアクセサリーまで多種多彩なアイテムが揃っている白谷工房。木のぬくもりと手仕事の丁寧さが伝わってくる自信作揃いだ</span>
文房具からアクセサリーまで多種多彩なアイテムが揃っている白谷工房。木のぬくもりと手仕事の丁寧さが伝わってくる自信作揃いだ

「白谷工房」 
https://shiroitani-koubou.com/ 
「長い時間をかけて成長した木を大事にしたい」という想いから、2013年より様々な廃材を使った寄木細工のアクセサリー・文房具・生活雑貨などをハンドメイドで製作。2016年には廃園となった保育園校舎を工房にして、友人達を含めた3人でアイテムの製作に勤しんでおり、丁寧な仕上げと経年変化の表情を活かしたアイテムで注目を集めている。

 

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